引当金とは、今後出費が発生する可能性があるものに備え、見積金額を計上できる制度です。引当金の種類は①評価性引当金と②負債性引当金に分けられます。引当金のカテゴリで計上するためには複数の条件をクリアしなければなりません。今回は引当金の要件や種類について詳しく解説します。引当金について把握し、適切な計上を行いましょう。
目次
引当金とは
引当金とは、企業会計において将来発生する特定の費用や損失に備えるため、あらかじめ当期の費用として繰り入れて準備しておく見積もり金額です。
引当金を計上する最大の目的は、適正な期間に損益計算を行うためと言われています。計上しなかった場合、将来発生する可能性が高い費用や損失が突然計上され、会社の利益が大きく減り、経営状態が不安定だと判断されてしまいます。
決算では過去と比較して状況を判断するため、あらかじめ見込まれる費用を各年度で計上しておくと各年度の利益変動の影響を抑えられるといったメリットも期待できます。
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引当金の会計処理について
引当金の会計処理には、発生主義が適用されます。企業会計は発生主義が原則であるため、費用が確定した期とその費用を計上する期は一致していなければなりません。
たとえば賞与が決算日をまたぐ場合、翌期に従業員へ支給する賞与額を見積もって、当期に負担する分を引当金として計上します。将来のリスクに備え、発生が予測される費用や損失を合理的に見積もった上での計上が求められます。
引当金の要件
将来支払う予定があれば、引当金として何でも計上できるわけではありません。計上するには以下4つの条件があります。
- 将来の特定の費用又は損失である
- 発生が当期以前の事象に起因している
- 発生の可能性が高い
- 金額を合理的に見積もれる
この要件を満たす場合は、必ず引当金を計上しなければなりません。選択制ではありませんのでご注意ください。ただし、一部の引当金は任意で計上できます。
引当金の種類は大きく2種類
引当金には大きく2種類あり、目的によって「評価性引当金」と「負債性引当金」に分類されています。
- 評価性引当金:将来の損失に備えて資産から控除する引当金
- 負債性引当金:将来の支出に備えて計上する引当金
引当金の多くは負債性に分類され、さらに債務性のあるものとないものに区分されます。種類について以下で詳しく見ていきましょう。
評価性引当金の種類
1つ目の種類について詳しく見ていきましょう。
貸倒引当金
将来的な貸し倒れリスクを予想してあらかじめ帳簿へ記載しておくマイナス資産を指します。
貸倒れとは、貸したお金が返ってこなかったり、商品などの売上代金が支払われなかったりすることで、債権の一部が回収不能になるリスクを見込んで設定されるのが一般的です。
貸倒引当金を損金算入できる法人は、原則として資本金が1億円以下の中小企業です。個人事業主の場合でも、青色申告しているケースは貸倒引当金を設定できます。
投資損失引当金
子会社などへの投資に係る損失に備えて計上する勘定科目です。市場価格のない投資や出資金のうち、実質価額が著しく低下した場合に計上します。
ただし、投資損失引当金を計上した場合は、計上基準を重要な会計方針に記載しなければいけません。また、税務上の損金として算入できない点にも注意が必要です。
負債性引当金の種類
2つ目の種類について解説します。
賞与引当金・役員賞与引当金
決算時点において、将来従業員に支払う賞与に対応する金額として事前に計上する勘定科目です。賞与は評価期間中の労働に対して支払われ、実際に支給される時期は評価期間の翌期になることがあります。つまり、賞与を支払うための準備として賞与引当金が用意されているのです。
賞与引当金は、決算日に近い賞与で計上されるケースが一般的と言われています。
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退職給付引当金
従業員との間に退職金規定や退職金等の支払いに関する合意があり、退職一時金制度を採用している場合に、各期ごとに発生すると認められる退職給付費用の額を計上する勘定科目です。
そもそも退職金制度がない企業では、将来発生する退職金を計算できません。そのため、就業規則に基づいた退職金制度がある企業が対象となります。
修繕引当金・特別修繕引当金
建物や機械などメンテナンスが必要な固定資産の機能を維持するために準備する修繕費用のことです。修繕に備えてあらかじめ準備しておくため、引当金として取り扱われます。
特別修繕引当金は、毎年ではなく数年おきに行われる大規模な設備修繕に備えた引当金で、引当金の一種として負債の部に計上されます。
製品保証引当金
販売した製品に対して一定期間無償で修理する旨の保証契約がある場合に、それに備えて設定される勘定科目です。
収益認識基準では商品保証を「無料保証」と「有償保証」の次の2つに区分し、それぞれ別の会計処理を行います。例えば、元々の保証期間は1年で、追加の費用を払えば保証期間を延長するといったサービスです。
売上割戻引当金
売上割戻とは、売上高や販売の数量に応じて、相手先に売上の一部を後で現金で返すことです。報奨金、奨励金とも呼ばれています。その時に備えて引当金を設定する勘定科目が、売上割戻引当金です。
売上割戻引当金を設定していなければ当期は処理を何もせずに、翌期にお金を返す段階になって初めて売上から差し引く仕訳になります。
返品調整引当金
企業が商品を販売する際に発生する返品リスクに備えて、あらかじめ設定する勘定科目です。例えば医薬品や出版業界、音楽業界、化粧品なども売れ残ったものは返品が元々想定されています。
返品の際の金額についても契約されていているため、返品調整引当金の設定が可能です。ですが、2018年度の税制改正で返品調整引当金は廃止されています。
完成工事補償引当金
工事の完成引き渡し後に、一定の条件のもとに補修修理を行う契約になっている場合に、支出に備えて計上する勘定科目です。引き渡した目的物に責任を負うという意味では、製品保証引当金と同じようなイメージです。
例えば工事が完成してから一定期間無償修理を補償している契約がある場合は、その発生する費用に備えて発生確率を考慮して引当金を計上します。
工事損失引当金
工事損失の発生可能性が高く、かつその金額を合理的に見積りできる場合において、工事損失から、当該工事契約に関してすでに計上された損益の額を控除した残額について計上される勘定科目のことです。
工事損失引当金の取扱いは、工事進行基準か工事完成基準かにかかわらず、また工事の進捗の程度にかかわらず適用されます。
債務保証損失引当金
債務保証契約によって、将来の損失が発生する可能性が高く、その損失金額の見積が可能な場合に、将来の損失発生見込額に対して計上される勘定科目です。
今後、経営破たんに陥る可能性が高いと認められる場合には、債務保証損失引当金の計上対象となります。
損害補償損失引当金
訴訟事件等によって損害賠償を求められている場合に、損害賠償の支払等の損失に備えて計上される勘定科目のことを言います。
訴訟が進行中であっても敗訴の可能性が高まっており、損害賠償等の金額を合理的に見積りできる段階となったケースで、引当金の要件を満たす場合には、訴訟損失引当金を計上する必要があります。
災害損失引当金
災害によって発生する損失のうち、会計期間末までに支払いが完了していないものを計上する勘定科目です。
災害損失として計上した費用は、原則として災害が起きた事業年度内に処理しなければなりません。しかし、資産の原状回復に時間がかかり、決算日までに修繕費の金額を確定できない事例もあります。
将来的な損失額を具体的に見積りできる場合は「災害損失引当金」の勘定科目を用いることで、同じ事業年度内に損失として計上できます。
ポイント引当金
企業が販売促進の一環として、商品の購入額などの一定割合を利用者に還元する仕組みです。ポイント残高に応じて金品と交換できるような一般的なポイント制度では以下の算式により引当金を計算します。
税務上、ポイント引当金の計上額は原則として損金不算入ですが、一定のものについては損金経理により未払計上が認められています。
よくある質問
よくある質問について、回答と共に紹介します。
引当金と未払金の違いは?
どちらも債務の成立に基づいて費用計上される科目です。引当金は将来発生する費用や損失を事前に計上する勘定科目であるのに対し、未払金はすでに発生した債務のうち支払いが確定しているものの、まだ支払っていない代金を計上する勘定科目を指します。
引当金の金額はどのように決める?
現在の制度上は統一的なルールはありません。具体的な測定方法が定められているわけではなく、計上時点において入手可能な情報に基づいて、最善の見積りを行うことが求められています。
貸倒引当金が負債になるのはなぜ?
貸倒引当金が「将来入金されるはずのお金が入金されない」という状況を表しているためです。
本来であれば手元にあるはずのお金である売掛金や貸付金といった債権より、貸倒引当金を差し引いて、売掛金や貸付金を実際に入金されているかのように修正します。そのため、貸倒引当金がマイナス表示されることになるのです。
貸倒引当金繰入とは?
将来の貸倒れとなる金額を見積ったうえで引当金として計上し、そのうち当期の費用として繰り入れたものであり、決算整理の際などに使用する勘定科目です。貸倒引当金繰入や賞与引当金繰入などが該当します。
引当金を適切に計上しよう
引当金の概要と計上要件、種類について解説しました。引当金を計上すると、適正な期間損益を算出するのに役立ちます。それぞれのルールや制度を把握し、適切に計上する必要があります。
引当金は一定の貸倒引当金を除き、税務上の経費としては認められないため、税金を減らす効果は殆どありません。しかし税務上優遇されていないからという理由で引当金を計上しなくて良いというわけではありませんので、決算書への記載をおすすめします。
決算申告には専門知識が必要であり、手間や時間もかかります。顧問税理士をつけず、自社に対応できる人材がいない場合は、税理士への依頼がおすすめです。引当金についてのお悩みやご相談は、ぜひ一度「小谷野税理士法人」までお気軽にお問い合わせください。