減価償却費は、帳簿上の費用でありながら現金の支出を伴わないため、キャッシュフローに大きく影響します。適切に処理しなければ税負担が増すだけでなく、資金繰りの悪化や経営判断の誤りにもつながりかねません。本記事では、キャッシュフローの基本から減価償却の役割、実務上の注意点までをわかりやすく解説します。減価償却費のキャッシュフローに及ぼす影響をしっかり理解して実務に活かしたい方は、ぜひ参考にしてください。
目次
そもそもキャッシュフローとは何か
キャッシュフローとは、企業に出入りする現金の流れ、または企業が自由に使用できる現金です。売上や利益は企業の業績を表す重要な指標ですが、利益が出ていても、手元に現金があるとは限りません。
例えば掛取引で商品やサービスを提供した場合、代金の回収は数ヵ月後になるのが一般的です。このように、売上と現金の回収との間にはタイムラグがあるため、利益だけを見ていても企業の資金繰りの実態は把握できません。
キャッシュフローが重視されるのは、このタイムラグが企業活動に大きな影響を与えるためです。手元資金が不足すれば、たとえ黒字でも、設備投資の実行や人件費の支払い、借入金の返済などが滞るおそれがあります。
企業の財務状況を把握する際には「貸借対照表」「損益計算書」と並んで「キャッシュフロー計算書」が重要視されます。これらの決算書は、今どれだけの現金を保有しているのかを正確に把握できるため、健全な経営を維持するうえで欠かせません。
減価償却費はキャッシュフローにどう影響する?
減価償却費は、キャッシュフロー計算書においては「プラス」で計上されます。その理由は、減価償却費が実際に現金が流出する費用ではないためです。
損益計算書では費用として計上され利益を減らしますが、実際には現金は流出していません。そのためキャッシュフロー計算書では、その分を足し戻すことで、より正確なキャッシュフローを把握するために加算されます。
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減価償却と決算書の関係
続いて、減価償却と3種類の決算書との関係性についてご説明します。
減価償却と貸借対照表の関係
減価償却は、固定資産の帳簿価額に影響を与えるため、貸借対照表との関係が深い項目です。
間接法では、減価償却累計額が「資産の部」の控除項目として表示されます。減価償却累計額は、対象となる資産ごとに分けて表示する方法と、資産の総額として一括表示する方法のいずれも認められています。
この方式のメリットは、貸借対照表上で固定資産の取得価額と減価償却累計額の両方を確認できる点です。帳簿上の固定資産価額は「取得原価-減価償却累計額」で算出されます。
一方、直接法では、貸借対照表に減価償却累計額を個別に表示しません。代わりに、固定資産の取得価額から減価償却費の累計額を直接控除した純額を、資産の部に表示します。
減価償却と損益計算書の関係
減価償却費は、通常、損益計算書上の「販売費及び一般管理費」の中に含まれて表示されます。
ここで表示される金額は、当該事業年度に発生した減価償却費の合計額であり、資産ごとに細かく分けて記載することはありません。事業活動に使用する資産に対して行う減価償却であるため、営業費用の一部として計上されます。
減価償却とキャッシュフロー計算書の関係
キャッシュフロー計算書には、直接法と間接法という2つの作成方法がありますが、実務では間接法が一般的です。
間接法ではキャッシュフロー計算書の「営業活動キャッシュフロー」欄に、税引前当期純利益を起点とした調整項目が加えられます。その際、減価償却費は非現金支出であるため、加算項目として記載されます。
減価償却費は現金の流出がないにもかかわらず損益には影響するため、利益とキャッシュフローの差を埋める重要な調整項目です。また「当期純利益 + 減価償却費」で概算の営業キャッシュフローを算出すると、より分かりやすくなります。
キャッシュフロー計算書を作成する理由
キャッシュフロー計算書は、現金の出入りを明確に示す経営判断の重要な材料となる財務書類です。以下では、そのキャッシュフロー計算書を作成する理由について解説します。
資金ショートを防ぐため
会社経営において、資金繰りの悪化による資金ショートは絶対に避けなければならないリスクです。キャッシュ・フロー計算書を通じて現金の流れが分かれば、手元資金の状況をリアルタイムで確認しやすくなります。
資金不足が見込まれる場合でも、早めに金融機関への融資申し込みや資金計画の見直しといった対応が即座に取れます。その結果、資金ショートを未然に防げるようになるのです。
自社の財務状況を客観的に判断するため
キャッシュ・フロー分析は、自社が今どのような状態にあるのかを数字に基づいて客観的に評価するために欠かせない手段です。
例えば設備投資に注力すべきか、それとも本業の収益性改善が急務かなども、現金の流れに着目すれば的確に判断できます。感覚や勘に頼らない、根拠のある意思決定が可能となるでしょう。
金融機関や投資家からの信頼を得るため
キャッシュ・フロー計算書で企業の資金繰りや経営の安定性が可視化されると、金融機関や投資家からの評価が高まりやすくなります。
収支バランスのよい経営や、資金調達のタイミングを逃さない対応力が示されれば、資金調達を円滑に進められます。それだけでなく、融資条件の改善などにも繋がる可能性がある重要な判断材料なのです。
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減価償却をしない・申告漏れのリスク
減価償却は法律上の義務ではないものの、企業会計原則においては「適切に行うべき」とされています。これを怠ると、以下のようなリスクを被る可能性があります。
資金調達に悪影響を与える可能性がある
減価償却を行わないと、金融機関から「利益操作をしているのではないか」と疑われる恐れがあります。費用を適切に計上していないことで、決算書の信頼性が低下し、場合によっては粉飾決算と見なされかねません。
例えば本来は減価償却によって簿価を10にすべき資産を未償却のまま100とすると、資産が実態以上に大きく見えてしまいます。一見すると利益が出ているようでも、実際には返済能力がないと判断され、融資を断られるリスクも高まるかもしれません。
税負担が増える
減価償却を行わないと、その分課税所得が多くなり、結果的に法人税が増加します。減価償却費は本来、資産の価値減少を反映する重要な経費です。これを計上しないと、実態よりも高い利益が算出され、不要な税負担を背負うことになりかねません。
赤字であっても減価償却を行うことは重要です。この場合、欠損金を翌期以降に繰り越す欠損金の繰越控除」を用います。将来の課税所得を相殺するために、減価償却費を適切に計上しましょう。
正確な損益が把握できなくなる
減価償却を行わないと、収益と費用の対応が取れず、損益の実態が見えにくくなります。例えば簿価では100と記載されている固定資産が、実際の市場価値では10程度しかなかったとします。この場合、本当の損失を把握できずに経営判断を誤るリスクがあるのです。
さらに、減価償却を行うと資産の更新や設備投資のタイミングも把握しやすくなります。もしこれを怠ると、将来の事業計画に支障をきたす可能性があり、経営戦略の精度も低下します。
結果としてこうした判断ミスの積み重ねは、企業の競争力や持続的な成長に悪影響を与える要因となりかねません。企業活動の健全性を保つためにも、減価償却の重要性を見直すことが大切です。
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キャッシュフローの実務上の注意点
減価償却費やキャッシュフローは、会計上の処理だけでなく、経営判断にも直結する重要な項目です。以下では、実務でよく見られる注意点について解説します。
キャッシュフロー計算書は定期的に作成・見直しを行う
キャッシュフロー計算書は決算時だけでなく、四半期ごとや月次での作成・見直しが理想的です。資金の流れをリアルタイムで把握していれば、支払予定や投資判断のタイミングを逃さず、資金ショートのリスクも軽減できます。
特に資金繰りに不安がある企業では、キャッシュフローのモニタリングは財務体制強化の第一歩と言えます。
設備投資とキャッシュフローのバランスに注意する
固定資産の購入は一時的に多額のキャッシュアウトを伴います。たとえ減価償却により長期的に費用化できたとしても、支払い自体は一括で行われるケースが多いため、投資判断は慎重に行う必要があります。
導入前には、予想される売上増加やコスト削減効果などを数値で試算し、キャッシュフローへの影響を分析しましょう。
関連記事:減価償却とは?会計や税務の基礎知識と節税のポイントを徹底解説!
まとめ
減価償却費は会計上の費用でありながら現金支出を伴わないため、キャッシュフローに影響を与える重要な項目です。
適切な減価償却は節税や資金繰り改善につながり、経営判断にも直結します。ただし、処理方法や税務との整合性には注意が必要です。
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