外形標準課税は、企業の規模に応じて事業税が課される制度です。特に「資本金1億円を超えること」が適用基準の1つとされています。近年では、資本金を1億円以下に抑える「減資」により、外形標準課税の対象外となる企業が増加しています。この記事では、制度の概要や改正内容、そして資本金と課税の関係を分かりやすく解説します。外形標準課税の影響を正しく把握し、最適な対応を図りたい方は、ぜひ参考にしてください。
目次
外形標準課税とは?
外形標準課税とは、法人の所得だけでなく、事業の規模を基準に課税する制度です。従来の所得課税では、赤字であれば税負担が生じませんでした。しかし、事業の規模が大きい企業はそれに見合った公共サービスの恩恵を受けているとみなされるようになりました。
このような考えから、黒字・赤字に関係なく一定の税負担を求める仕組みとして導入されたのです。
関連記事:【税理士監修】会社設立時の資本金とは?その意義や設定方法と法的な注意点を解説
外形標準課税の税額計算方法
外形標準課税の計算方法は、以下の3つの税額を合計して算出します。
外形標準課税額 = 所得割 + 付加価値割 + 資本割
以下では、それぞれの税額の概要についてまとめました。
項目 | 内容 | 税率(標準) |
所得割 |
| 1.0% |
付加価値割 |
| 1.26% |
資本割 |
| 0.525% |
税率に関しては、東京都や大阪府の場合を例に挙げて記載してあります。詳細な税率については、お住まいの市区町村の公式ホームページを確認しましょう。
外形標準課税対象法人数・割合の推移
続いて、外形標準課税対象法人数・割合の推移について総務省が発表したデータをまとめたので参考にしてください。
割合の推移
外形標準課税の対象法人数、その割合とも、平成18年度をピークとして減少傾向が継続しています。
また平成18年度と比べて令和2年度は、数では約10,000社の減小、割合では3分の2に減小しました。外形標準課税対象法人も減少しており、特に資本金1億円超10億円未満の減少割合が大きいです。
推移に対する考察
新型コロナウイルスの長期化により企業業績の悪化が続く中、財務体質の改善を目的とした取り組みが広がっています。上場企業による不動産などの資産売却に加え、「減資」も主要な対応策のひとつとして増加傾向にあります。
またこれまで資本金は、企業の規模や信用力を測る指標とされてきました。しかし大手企業による相次ぐ減資により、資本金額の持つ象徴的な意味合いは薄れつつあります。
著名企業が次々と1億円以下に減資したことで減資に対するハードルも下がり、節税目的での減資がより一般化している状況です。
コロナ禍で財務悪化や過剰債務に直面した企業が多い現状を踏まえると、今後も減資は継続的な注目を集める手法となるでしょう。中小企業向け税制優遇の活用とあわせて「中小企業の定義の見直し」も検討すべきタイミングに来ているのかもしれません。
減資等による外形標準課税逃れが深刻化
資本金1億円超の企業が外形標準課税を回避する目的で減資し「疑似中小企業」となる動きが広がっています。2022年度に資本金を1億円以下に減らした企業は、前年度比で約3割増加しました。
こうした動きが続けば、税負担の公平性や都道府県の安定した税収確保に支障をきたす恐れがあります。
外形標準課税は所得にかかわらず資本金等に基づいて課税する仕組みだと解説しました。つまり景気変動の影響を受けにくい利点がある一方で、赤字企業にも課税される負担があるのです。
導入以来、制度の拡大が進む中で回避策としての減資が目立ち始め、抜本的な見直しが必要との指摘もあります。政府内では制度改正に向けた議論も進むものの、企業負担増に慎重な経産省の姿勢もあり、調整は難航するとされていました。
参考:「疑似中小企業」が税逃れ、減資企業3割増 税収減続く|日本経済新聞
令和6年度の法改正による外形標準課税の見直し内容
上記のような背景も踏まえ、令和6年度には外形標準課税の見直しが図られました。外形標準課税の対象が「資本金1億円超の法人」であるという基本要件に変更はありません。
現行の基準は維持された上で「減資」および「100%子法人等」に関する新たな対応策が導入されました。
減資に関する見直し
前事業年度に外形標準課税の対象だった法人に関する見直しです。当事業年度に資本金1億円以下でも、資本金と資本剰余金の合計が10億円を超える場合は引き続き外形標準課税の対象とされます。
100%子法人等に関する見直し
資本金と資本剰余金の合計額が50億円を超える法人などの100%子法人等のうち、当該事業年度における資本金が1億円以下かつ資本金と資本剰余金の合計額が2億円を超える場合は対象となります。なお、公布日以降に100%子法人等が親法人等に資本剰余金から配当を行った場合、その配当額も合計額に加算されます。
関連記事:(税制改正特集)外形標準課税
今後の展望
令和6年度税制改正大綱では、電気・ガス供給業に対する外形標準課税について、今後の課税のあり方を引き続き検討する方針が示されています。
これは地方税全体の中での位置づけや、各自治体の税収への影響、業界の事業環境や競争状況の変化などを踏まえた上での対応です。
また、今回の改正に際しては、外形標準課税の対象が中小企業にも広がることへの懸念が多くの関係者から寄せられました。日本商工会議所を含む4団体は、外形標準課税の中小企業への拡大に反対する共同意見書を提出しています。
こうした意見を踏まえて今回の改正では従来の基準を維持しつつ、減資や分社化などの実態に即した追加措置が講じられました。
税制調査会は「今回の改正は疑似中小企業対策であり、中小企業への外形標準課税の適用拡大は予定していない」と明言しています。このことから、少なくとも当面は中小企業への適用拡大は見送られる見通しです。
外形標準課税に関する実務上の留意点
外形標準課税の適用判定においては会計上の「資本金と資本剰余金の合計額」を基準とする点に注意が必要です。例えば自己株式を取得しても、資本金や資本剰余金の額に変動がない限り、外形標準課税の適用判定には影響を与えないでしょう。
また増資や組織再編を行った場合には、資本金および資本剰余金の増加により、外形標準課税の対象となる可能性が生じます。特に資本政策や再編を計画する際は、課税対象への該当有無について慎重に確認しなくてはいけません。
さらに、大企業グループにおいては、子会社が外形標準課税の対象となるケースもあり得ます。グループ全体の税負担への影響を見極めるためにも、親会社・子会社を含む資本構成や課税対象の判定を定期的に見直してください。
外形標準課税に関するよくある質問
最後に、外形標準課税に関するよくある質問をまとめました。
対象となる法人は?
外形標準課税の対象となる法人は、以下の3つの基準のうちいずれかに該当する場合です。
- 従来の基準(事業年度末日における資本金等の額): 事業年度の末日時点で、資本金の額または出資金の額が1億円を超える法人
- 減資への対応による基準: 資本金の額または出資金の額が1億円以下となった場合でも、一定の要件を満たす場合に外形標準課税の対象となる
- 100%子法人等への対応による基準: 親法人との関係において、一定の要件を満たす100%子法人等も外形標準課税の対象となる
外形標準課税の対象となるかどうかは、従来の資本金等の額による基準だけではありません。制度改正により減資やグループ内組織再編といった状況にも対応した基準が適用されるようになります。
対象となる資本金の額はどの時点で判断する?
外形標準課税の対象となるかどうかを判断する際の資本金の額または出資金の額は、事業年度の終了日時点の金額で決まります。
ただし、令和7年4月1日以後に開始する事業年度からは注意が必要です。事業年度終了日時点の資本金等の額が1億円以下でも新たに外形標準課税の対象となる場合があります。
まとめ
資本金によって外形標準課税の対象かどうかが決まり、減資による節税メリットを享受する企業も増えています。
しかし、制度には例外や見直しもあり、安易な減資は信用や財務上のリスクを招くこともあるのでご注意ください。外形標準課税の影響を正しく把握し、最適な対応を図るためにも、制度に精通した税理士へのご相談をおすすめします。
小谷野税理士法人では、外形標準課税における専門的な対応に特化した税理士が在籍しています。もし「外形標準課税改正後の対応に不安がある」という方は、お気軽に一度小谷野税理士法人にご相談ください。