帳簿や請求書などをデジタルで管理する企業が増えるなか、電子帳簿保存法への対応がますます重要になっています。ただし、その要件を正しく理解していないと、思わぬリスクやペナルティに繋がる可能性もあるので注意しなければなりません。本記事では、電子帳簿保存法の基本的な仕組みを押さえながら、実務で対応すべきポイントをわかりやすく解説します。
目次
電子帳簿保存法とは?
電子帳簿保存法とは、帳簿や決算書、請求書などの国税関係帳簿書類を電子データで保存するためのルールを定めた法律です。かつては紙による保存が原則でしたが、業務のデジタル化が進むなかで、一定の要件を満たすことで電子保存が認められるようになりました。
対象となる書類の種類や保存方法には細かい規定があり、保存要件を満たさない場合は電子保存が認められません。自社の帳簿や書類が該当するかどうか、事前に確認しておくことが重要です。詳細は適用範囲については関連記事をご参照ください。
特に2022年以降の法改正では、「電子取引」に関する保存ルールが大きく変わり、すべての事業者に対応が義務付けられました。対応を怠った場合には、青色申告の承認取り消しや重加算税の適用といったリスクもあるため、早めの対応が求められます。
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電子帳簿保存法の3つの要件
電子帳簿保存法に基づいて電子データを保存するには、「真実性の確保」、「可視性の確保」、「保存媒体・保存期間の要件」という3つの条件を満たす必要があります。
特に電子取引の保存については、法改正によりすべての事業者に対応が義務付けられており、各要件の内容を正しく理解しておくことが重要です。
真実性の確保
保存された電子データの真正性、つまり改ざんされていないことを証明するための要件です。主な方法としては、タイムスタンプの付与や訂正・削除履歴が残るシステムの導入が挙げられるでしょう。
合わせて、運用ルールを明文化した事務処理規程の整備も必要です。いずれも、税務調査において「信頼できる記録である」と判断されるための根拠となります。
関連記事:電子帳簿保存法におけるタイムスタンプ
可視性の確保
保存されたデータがすぐに閲覧・出力できる状態であること、また必要な情報を効率的に検索できることが求められます。具体的には、取引年月日・金額・取引先名などの項目で検索できる機能を備えている必要があります。
PDFや画像ファイル形式のデータも対象となるため、単なる保存だけでなく、検索性や見読性を備えた環境の整備が必要でしょう。
保存媒体・保存期間の要件
保存した電子データは、定められた保存期間(原則7年間)を満たす記録媒体に保管する必要があります。保存先はハードディスク、外部サーバー、クラウドなどが認められますが、長期間の保存に耐える信頼性が求められます。
また、定期的なバックアップの実施や、災害時への備えも重要でしょう。保存環境の整備は、法令順守だけでなくBCP(事業継続計画)対策としても有効です。
電子帳簿保存法の保存方法
電子帳簿保存法では、国税関係帳簿書類を電子的に保存する区分として、電子帳簿等保存・スキャナ保存・電子取引データ保存の3つが認められています。
どの方法も、法令で定められた要件を満たす必要があります。保存形式や対象書類、運用ルールがそれぞれ異なるため、自社の業務に合った保存方法を選定したうえで、適切に対応することが重要です。
電子帳簿等保存
会計ソフトなどで作成した帳簿や決算書を、そのまま電子データで保存する方法です。従来は税務署への事前承認が必要でしたが、現在は不要となり手続きが簡素化されています。
ただし、「真実性」や「可視性」の確保といった要件は満たさなければなりません。仕訳帳や総勘定元帳など、日常的に作成されるデータの保存に適した方式と言えるでしょう。
スキャナ保存
紙で受け取った請求書や領収書をスキャンし、画像データとして保存する方法です。受領者本人が速やかにスキャンを行い、タイムスタンプを付与するなどの要件を守る必要があります。
スキャン後の原本は廃棄可能となるため、書類保管スペースの削減に役立ちますが、誤って保存要件を満たさないまま原本を破棄すると重大なリスクに繋がる点に注意しましょう。
電子取引データ保存
メールやクラウドサービスで授受した電子的な請求書・領収書などは、紙に印刷して保存するだけでは不十分です。電子データのまま、所定の要件を満たす形で保存する義務があります。
2024年1月からは、全事業者に対応が義務化されており、これまで猶予されていた小規模事業者も対象となりました。保存対象を正しく把握し、早めの対応を進めましょう。
電子帳簿保存法に対応するための5つの実務ポイント
電子帳簿保存法に対応するには、法令の理解だけでなく、現場の業務や体制を見直す実務的な対応が欠かせません。以下の5つのポイントを順に確認しておきましょう。
- 対象となる帳簿・書類・電子取引の洗い出し
- 保存形式やシステムの確認
- タイムスタンプ付与や規程の整備
- 社内ルールや業務フローの見直し
- 社内研修や啓蒙活動の実施
対象となる帳簿・書類・電子取引の洗い出し
まず最初に行うべきは、電子帳簿保存法の保存対象となる帳簿や書類、電子取引データの洗い出しです。仕訳帳や総勘定元帳のような会計帳簿だけでなく、請求書・領収書・見積書・契約書などの証憑類、さらにメール添付のPDFやクラウド請求なども対象になります。
どの文書がどの保存方法に該当するかを整理することで、法令に適合した運用設計の第一歩が踏み出せます。
保存形式やシステムの確認
次に、自社で現在使用している会計ソフトや書類の保存方法が、電子帳簿保存法の保存要件を満たしているか確認しましょう。例えば、検索機能があるか、訂正削除履歴を残せるか、保存期間を守れる環境かなど、システム面でのチェックが必要です。
要件に満たない場合は、対応可能なクラウドサービスや専用システムの導入を検討することも視野に入れましょう。
タイムスタンプ付与や規程の整備
電子データの信頼性を担保するためには、「いつ作成・受領されたか」、「内容が改ざんされていないか」を証明できる体制が求められます。その手段として、タイムスタンプの付与や、訂正・削除履歴の保存機能を持つシステムの活用が挙げられるでしょう。
また、事務処理の流れを文書化した「事務処理規程」の作成・整備も必要であり、実際の運用ルールと合わせて見直しておくことが大切です。
社内ルールや業務フローの見直し
保存対象の文書が適切に管理されるよう、業務プロセスそのものも見直す必要があります。例えば、請求書を受け取った後すぐにスキャンして保存する流れを整えたり、タイムスタンプの付与やファイル名の付け方を標準化したりといった対応が必要です。
また、どの部門がどのタイミングで何を行うかを明確にし、トラブルが起こらないように業務フロー全体を最適化していきましょう。
社内研修や啓蒙活動の実施
法令対応は経理担当者だけの問題ではなく、営業や総務など他部門にも関わるものです。現場の運用ルールが正しく守られるよう、社内研修や説明会を通じて、電子帳簿保存法の内容や自社の対応ルールについて周知を図りましょう。
加えて、簡潔なマニュアルの作成や、Q&Aの整備、日常業務に即したチェックリストの配布なども、実務への定着に効果的です。
電子帳簿保存法に対応する際の3つの注意点
電子帳簿保存法に対応するうえでは、単にシステムを導入するだけで安心とは限りません。以下3つの注意点を意識せずに運用すると、法令違反やリスクに直結する可能性があります。
- 一部対応で要件を満たさないケースがある
- 罰則や税務調査でのリスク
- 導入コストと運用負荷のバランス
一部対応で要件を満たさないケースがある
電子帳簿保存法の要件は複数の条件で構成されており、「一部だけクリアしている状態」では法令違反となる場合があります。
例えば、電子データは保存しているものの、検索機能が不十分だったり、タイムスタンプが付与されていなかったりすると要件不備とされてしまうでしょう。
形式的に保存できているようでも、実質的な運用が整っていなければ意味がないため、各要件を個別に確認しながら対応を進めることが大切です。
罰則や税務調査でのリスク
電子帳簿保存法の要件を満たしていないまま運用を続けていると、税務調査で問題を指摘されるリスクがあります。
特に電子取引の保存義務に違反した場合、青色申告の承認が取り消される可能性があり、法人・個人問わず大きな税務上のデメリットを受けることになります。
さらに、内容によっては重加算税などの追徴課税が科されるケースもあるため、見落としや誤認識がないよう万全の準備をしておきましょう。
関連記事:税務調査はどこまで調べるのか?知っておきたい対象範囲や注意点・手続きなどを詳しく解説
関連記事:追徴課税とは?加算税の種類や計算方法、対象期間について解説
導入コストと運用負荷のバランスを考える
電子帳簿保存法に対応するためには、システム導入や規程整備、社内研修などに一定のコストと労力がかかります。過剰に複雑な仕組みを導入すると、かえって運用負荷が高まり、現場に定着しにくくなる恐れもあるでしょう。
逆にコストを抑えすぎて、必要な機能や体制を省いてしまうと、要件を満たさずリスクを抱えることになります。自社の業務規模や体制に合ったバランスの取れた設計が重要です。
電子帳簿保存法の対応でお悩みの方は専門家に相談
電子帳簿保存法の対応には、法令の理解と実務対応の両面が必要であり、特に中小企業や個人事業主にとってはハードルが高く感じられるかもしれません。
そのような方は、まず専門家に相談することをおすすめします。小谷野税理士法人は、制度の正確な解釈から、ツール選定・運用支援まで、実務に即したサポートを提供しています。