従業員が休業する際、「社会保険料は会社が負担し続けるべきなのか?」と悩む経営者や人事担当者は少なくありません。給与が支払われない休業中でも、社会保険料は発生するケースがあり、対応を誤ると思わぬリスクに発展することもあるでしょう。本記事では、休業中の社会保険料に関する基本的な考え方や、会社として注意すべきポイントについて分かりやすく解説します。
目次
従業員休業中の社会保険料は会社負担になる?
従業員が休業し、給与の支払いがない場合でも、社会保険料の会社負担は原則として必要です。これは、健康保険や厚生年金保険の資格喪失手続きが行われない限り、従業員は被保険者として在籍扱いとなるためです。
給与がゼロであっても「在籍=保険加入中」とみなされ、実際の就業がない期間でも保険料が発生する点に留意しておきましょう。
休業期間中は、会社だけでなく、従業員にも保険料を負担する義務が継続するため、対応を誤ると、会社が従業員負担分まで一方的に支払い続けるなど、費用負担に関するトラブルに発展する可能性があります。
休業中の社会保険料の扱いについては、事前のルール整備と丁寧な説明が不可欠です。
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休業中の社会保険料における会社・従業員の負担割合
社会保険料は、健康保険や厚生年金を中心に会社と従業員が原則として半分ずつ負担する仕組みになっています。
しかし、休業によって給与の支払いがない場合、従業員負担分を給与から天引きすることができないため、会社が一時的に全額を負担する形になるケースも少なくありません。
こうした場合には、従業員との合意のもと「復職後の後払い」や「会社による立替回収」といった対応が検討されますが、これらの対応は事前に就業規則や労使協定でルールを明確にしておくことが不可欠でしょう。
取り決めが曖昧なままだと、後々トラブルに発展する可能性もあるため、慎重な運用が求められます。
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参考:健康保険料の事業主負担(2分の1以上の負担)による経済的利益|国税庁
休業中の社会保険料の会社負担に関する5つのリスク
休業中の社会保険料対応を誤ると、企業側に様々なリスクが生じます。実務で起こりうる代表的な5つのリスクについて解説します。
- 保険料の全額を会社が負担する可能性がある
- 従業員が復帰しない・退職した際の回収不能リスクがある
- 規定の未整備によるトラブルが起きる可能性がある
- 行政指導・監査への対応負担が増す
- 複雑な対応による事務負担が増加する
保険料の全額を会社が負担する可能性がある
休業中に給与が支払われない場合、社会保険料の従業員負担分を給与から差し引くことができず、会社が一時的に全額を立て替える形になることがあるでしょう。
本来は会社・従業員で折半する負担ですが、取り決めがなければ会社側が全額を負担することになり、想定外のコストが発生します。
これが長期化すれば、企業の財務負担はさらに重くなるため、こうした事態を避けるために、事前に立替や後払いのルールを整備しておきましょう。
従業員が復帰しない・退職した際の回収不能リスクがある
会社が立て替えた社会保険料は、基本的に従業員に返済してもらう前提ですが、復職せずに退職してしまう場合、回収が困難になるでしょう。
特に立替に関する同意書や就業規則での規定がなければ、請求の法的根拠が曖昧となり、泣き寝入りせざるを得ないケースもあります。
負担額が数ヵ月にわたるとその損失は無視できません。リスク回避のためには、立替と返済に関する合意を文書で明確に残しておきましょう。
規定の未整備によるトラブルが起きる可能性がある
休業中の社会保険料に関する社内ルールや就業規則が整備されていない場合、対応に一貫性がなくなり、従業員との認識のズレや不公平感が生じることがあります。
「前の人は免除されたのに」、「自分だけ立替払いを求められた」などの声が上がれば、社内トラブルに発展する可能性もあるでしょう。
特に長期休業や複数人が同時に休業する場面では影響が大きくなります。対応の統一と説明責任を果たすためにも、明文化されたルールを整備しておきましょう。
行政指導・監査への対応負担が増す
社会保険料の取り扱いが不適切な場合、年金事務所や労働基準監督署などによる調査や指導の対象となる場合があるでしょう。
例えば、資格喪失の手続きを行っていないにもかかわらず保険料を未納にしていた場合や、従業員負担分を給与に反映せず放置していた場合などは、是正を求められる可能性があります。
監査対応には人事・総務部門の時間や手間もかかり、企業イメージにも影響を及ぼすため、日頃から正確な運用を行うよう心掛けましょう。
複雑な対応による事務負担が増加する
休業中の社会保険料対応には、立替えた分の管理、個別の回収スケジュール、社内説明、復職後の清算処理など、多くの煩雑な事務作業が発生します。
特に複数の従業員がそれぞれ異なる休業理由・期間で休む場合、対応の個別化が必要となり、人事労務担当者の負担が大きくなるでしょう。
また、ミスが起きればトラブルや行政指導にも繋がるため、慎重な管理が求められます。対応を簡素化するには、制度の仕組みやフローを事前に整えておくことが肝心です。
休業中の社会保険料対応における5つのポイント
休業中の社会保険料を適切に扱うには、事前準備と明確なルールが重要です。会社として押さえておきたい5つの対応ポイントを紹介します。
- 就業規則・労使協定で事前にルールを定めておく
- 従業員への説明と同意を丁寧に行う
- 立替や本人払いの方法を具体的に決めておく
- 長期の休業の場合は資格喪失も検討する
- 休業の種類ごとに対応を区別しておく
就業規則・労使協定で事前にルールを定めておく
休業中の社会保険料に関する取り扱いは、事前にルールを明文化しておくことが重要です。特に、給与が発生しない期間の保険料負担については、従業員が「なぜ支払うのか」「どのように支払うのか」を理解できるようにしておく必要があります。
就業規則や労使協定などの正式な文書に明記しておけば、運用に一貫性が生まれ、担当者間や部署間での認識のズレも防げるでしょう。
従業員への説明と同意を丁寧に行う
どれだけ社内規程を整えていても、実際に休業する従業員本人への説明と同意が不十分だとトラブルに繋がる可能性があります。
特に、給与が支払われない間の保険料負担については誤解を生みやすく、説明不足により「会社が勝手に決めた」と不信感を持たれてしまうこともあるでしょう。
対応前に個別に丁寧な説明を行い、同意書などで明文化しておくことで、後からの言った・言わないを防ぎ、円滑な運用に繋がります。
立替や本人払いの方法を具体的に決めておく
給与がゼロの休業中は、従業員の社会保険料を会社が一時的に立て替えるか、本人に直接納付してもらうかといった対応が求められます。
この際、「立替の場合は復職後に一括返済」「本人払いの場合は毎月◯日までに振込」など、具体的な方法や期日をあらかじめ取り決めておくことが重要です。明確なルールがあれば、従業員側も安心して休業に入ることができ、会社側も管理がしやすくなるでしょう。
長期の休業の場合は資格喪失も検討する
原則として、従業員が在籍している限り、健康保険や厚生年金の被保険者資格は継続しますが、無給で長期間にわたり休業し、使用関係が実質的に消滅していると判断される場合には、社会保険の資格喪失手続きを検討することも一つの選択肢でしょう。資格喪失が可能となる可能性があります。
資格喪失を行えば保険料の会社負担もなくなりますが、その分、従業員は健康保険の任意継続や国民健康保険への加入、国民年金への切り替えといった対応が必要になります。本人の同意と生活面への配慮も踏まえ、会社・従業員双方にとっての負担軽減策として慎重に判断することが大切です。
休業の種類ごとに対応を区別しておく
休業とひとくちに言っても、私傷病、育児休業、会社都合などその理由は様々です。また、その理由によって社会保険料の取り扱いや免除の有無も異なります。
例えば、育児休業中の場合、一定の条件を満たせば保険料が免除される一方、傷病休業では免除制度はありません。
対応を一律にせず、休業の種類ごとに制度を理解し、適切に使い分けることがトラブル防止とコスト管理に繋がるでしょう。
休業中の社会保険料負担でお悩みの方は専門家に相談を
休業中の社会保険料の取り扱いは、就業規則や休業の理由によって対応が大きく異なり、対応を誤ると従業員とのトラブルや保険料の未回収といったリスクに繋がる恐れがあるでしょう。
こうした事態を防ぐためにも、労務や社会保険制度に精通した専門家に相談することをおすすめします。
小谷野税理士法人は、税務だけでなく労務・社会保険分野にも精通しておりサポートが可能です。従業員休業中の社会保険料負担に不安がある方は、ぜひ小谷野税理士法人にご相談ください。