交通費や出張費など、企業の経費を一時的に従業員が立替払いするケースは少なくありません。従業員が立て替えた経費は、後日、経費精算の際に所定の手続きによって精算する必要があります。なお、立て替えた費用は、業務に直接関連する支出であるため、所得税の課税対象にはならないでしょう。今回は、立替経費についての概要や仮払金との違い、課税の有無や負担軽減におすすめの方法などについて解説します。
目次
立替経費とは
立替経費とは、本来は会社の経費であるものの、すぐに決済できないなどの理由で従業員などが一時的に自己負担で支払った場合の経費です。立替を行った場合は、企業によって次のようなパターンで従業員が支払った金額を補填します。
- 給料日とともに振り込まれる
- 2週間に1度振り込まれる
- 都度申請し都度現金で手渡す
立替払いをした従業員は、経費精算書や領収書などの必要書類を企業に提出し、業務上の経費に当たると認められれば、かかった費用が後日企業から払い戻されます。この一連の精算手続きを立替精算、もしくは実費精算と呼びます。
立替経費の精算期限
多くの会社では、月次(1ヵ月)の処理が基本です。月次の中でも「毎月15日」「月末」「翌月初の数日以内」などの期限が会社ごとに設定されています。
原則は、会社規定の期日までに経費精算をしなければなりません。もしその期日に間に合わなかった場合、会社の事業年度の同じ年度内であれば、経費精算が可能です。しかし、年度をまたいでしまった場合、精算が難しくなるかもしれません。
立替経費の勘定科目
会社で負担すべき経費などを個人のお金から立て替えた場合には、「未払金」という勘定科目を使用して未精算額を計上します。
そして、後日精算したときに、その未払金を支払うという処理を行います。法人もしくは個人事業者の従業員が立て替えた場合には、「未払金」勘定を使用して未精算の金額を管理します。
立替経費と立替金の違い
立替経費は、本来は会社が支払うべき費用を従業員が立て替えた経費のことです。それに対して立替金は、従業員や取引先が支払うべき費用を一時的に会社が立て替えて支払った際に発生する勘定科目を指しています。
言葉は似ていますが、会社が立て替えた立替金は経費とはならず、あくまでも資産の勘定科目の扱いです。立替経費と立替金は逆のものと考えておくと分かりやすいでしょう。そして、立替経費は経費扱いになりますが、立替金は経費にならない点に注意しましょう。
立替経費と仮払金の違い
仮払金とは、会社の経費として使用される予定であるものの、その経費の勘定科目や金額がまだ決定していない金銭を会社が支払った場合、それらが確定するまで、一時的に使用する勘定科目です。
会社の経費となることが予想されてはいるものの、何の経費になるのか、また、金額がいくらになるか決まっていないような場合に使用される勘定科目であると言えます。
立替経費は税金がかかる?
立て替えた費用は、業務に直接関連する支出であるため、所得税の課税対象にはなりません。従業員が立て替えた費用は、会社が負担すべきものであり、従業員の個人的な所得とはみなされないためです。
立替経費を給与と一緒に支払う企業もありますが、立替経費は給与とは別の扱いです。よって、立替経費を給料に上乗せして支払う場合でも、源泉徴収したり社会保険料を差し引いたりする必要はありません。
立替経費の精算額を「非課税」と明示し、給与とは別の支払いであると明確に示しましょう。
立替経費が発生する主な場面
立替経費が発生するケースについて具体的に解説します。金額は基本的に少額なケースが多いですが、場合によっては数万円~数10万円など高額になる場合もあるでしょう。
交通費
取引先へ訪問したり、貸会議室へ移動したりする時などに必要となる交通費です。電車やバスなどの運賃やタクシー代、車での移動の場合は、ガソリン代や駐車場代などが当てはまります。従業員の負担が大きく、精算の際にはヒューマンエラーが生じるリスクもあります。
出張費
出張時に必要となる交通費や宿泊費、出張日当などです。出張では航空券や新幹線、ホテルなど様々な費用が発生しますが、出張者が費用を立て替えている場合、出張者に金銭的負担が発生すると同時に、出張者・管理側の双方に負荷のある出張精算業務が発生します。
その他雑費・交際費
業務上必要となる文具や書籍、部品など、また取引先への手土産や会食費などが該当する場合もあります。取引先との接待飲食費などは高額になりがちです。
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立替経費が負担になる理由
業務上必要な出費を立て替え申請する際、なんとなく申請しにくさを感じて上司や経理担当の顔色をうかがう方もいるのではないでしょうか。費用の立て替えには以下のような負担があります。
従業員の負担が大きい
交通費や宿泊費など数万円のまとまった金額や、複数回にわたる立て替えは、従業員の手持ちのお金が減り、生活費の圧迫につながります。小さな不満が積もればいずれ離職の要因になりかねません。
また、経費精算業務には時間がかかり、立て替えた費用が払い戻されるまでの流れが長く、出張が多い社員の負担は大きいでしょう。出張費など金額が大きくなりそうな経費に関しては、仮払い制度を導入するのもおすすめです。
経理担当者の作業量が増える
立替経費の精算は手間がかかるだけでなくミスが起こるリスクが高まるため、経理担当者にとっては負担になるでしょう。また、通常業務に加えて作業が増えるため、業務効率の低下も招きます。
経理担当は小口現金の管理を行う必要があり、担当者には申請の手間がかかります。小口現金とは、企業が日常的な少額の経費を支払うために用意する現金です。精算用の小銭を用意し、入出金のたびに記帳や残高確認を行うのは、業務負担の大きい作業でしょう。
社内ルールによる複雑さ
経費精算では、詳細な項目別のルールに従う必要があります。この複雑な社内ルールに対応しきれずに何度も差戻しが発生し、嫌気がさす可能性があるでしょう。
精算プロセスの煩雑さは、特に忙しい社員にとって申請そのものを敬遠させる原因の1つとなっています。
立替経費の負担軽減におすすめの方法
立て替えた経費の精算に関して、負担軽減におすすめの方法を紹介します。
法人カードの活用
法人カードを利用すれば、従業員の立て替えが不要になるため、立替精算業務そのものが不要です。立て替え金を従業員に振り込む必要もないため、精算ごとにかかる振込手数料などのコスト削減も可能でしょう。
経費の使用状況が一目で分かるため、金額の誤魔化しや、日付の改ざんができなくなり、不正の防止にも繋がります。
関連記事:法人カード審査で個人信用情報はどれだけ影響する?ブラックリスト入りの場合はどうなる?
経費精算システムを導入する
経費精算システムを導入すると、申請や経理の業務負担を軽減したり、人件費を削減したりできます。また、不正防止や計算ミスを減らす効果もあるでしょう。
中には立替申請の内容をもとに自動で仕訳を行うと同時にデータを会計システムと連携できる経費精算システムもあり、経理業務の大幅な効率化も可能です。
送金サービスを導入する
送金サービスを導入すれば、企業から従業員への支払いをリアルタイムかつキャッシュレスで行えます。
処理しなくてはならない経費の件数が増えれば増えるほど、経理担当者への負担は大きくなりますが、送金サービスであればオンラインで簡単に送金を行えるため、負担軽減に繋がるでしょう。
複数のキャッシュレス決済手段に対応した送金サービスを導入し、リアルタイムでの送金を可能とすれば、スピーディーに払い戻しが行えます。
外注サービスや税理士に依頼する
経費業務の外注サービスには、経費精算のアウトソーシングや領収書関連の業務代行などがあります。どこまで経費精算業務を委託するかによりますが、すべての業務を委託できれば、経費精算にかかる経理業務を大幅に削減できます。
また、専門家である税理士に依頼すれば、確定申告などの税務申告もまとめて依頼できるメリットがあります。日々の取引をすべて記録して帳簿を作成するまでの業務を依頼したい場合には、税理士事務所が提供する記帳代行サービスを検討すると良いでしょう。
関連記事:税理士に領収書を丸投げしたら費用はいくら?おすすめなケースと業務範囲
立替経費に関する注意点
経費の立て替えに関する注意点について解説します。
不正な申請に注意する
実際は存在していない経費を立て替えたと嘘をついて申請したり、実際の経費よりも多くの費用を申請したりして、差額分を着服するケースがあります。
金額だけでなく領収書の日付や宛名、交通費の場合は適切なルートであるかの細かい部分までチェックが必要です。経理担当者にすべてを任せるのは難しいため、チェック体制の強化など工夫を行いましょう。
経費が高額の場合は対策を
社員から「立替経費が高額で苦しい」との声が聞かれるのであれば、企業は何かしらの対策を取るのが好ましいでしょう。
立て替えは違法でないものの、あまりに高い金額を立て替える場合は従業員の満足度を下げる要因になり、離職のリスクが高まります。
申請期限を設定する
従業員から経理部門への領収書の提出期限と、申請期限を必ず設定しましょう。必要に応じて経費精算の期限に関する賞罰の項目や、期限を守らない場合のルールを設けて期限に拘束力を持たせるのも有効な方法です。
申請期限を設けることで先延ばしを防ぎ、経理担当者の負担を軽減できます。従業員には経費精算のルールをしっかり守り、期日までに経費精算申請をしてもらうよう促しましょう。
よくある質問
経費の立て替えについて、よくある質問を回答とともに紹介します。
立替経費は違法なの?
従業員に命じて経費を立て替えさせることは、違法ではありません。ただし、営業職などは出張へ行く頻度が高く、立て替える費用も高額なため、従業員の負担が大きくなる恐れがあります。企業としても適切な対応が求められるでしょう。
立替経費は年収に含まれる?
基本的には年収に含まれません。ただし、会社によっては交通費ではなく、通勤費や通勤手当といった名目で支給されている場合もあるため、その場合は年収に含まれる可能性もあります。
立替経費の領収書の宛名は?
宛名は、本来支払うべき人の名前または会社名を記載します。会社員の場合は会社名と部署名を省略せず正式名称で記載してもらいましょう。株式会社などの法人の場合は(株)といった省略形にせず、宛名を空欄にしたり「上様」にしたりもNGです。
経費についてのお悩みは専門家に相談がおすすめ
立替経費の概要ややり方、注意点などを解説しました。経費精算は複雑なうえに、ミスが許されない経理部門の重要な業務の1つです。
立て替え払いが多いと、経費精算にかかる業務が増えるだけでなく、従業員の負担も大きくなります。今回紹介した負担軽減におすすめの方法も参考にしてください。
経理業務の負担軽減には専門家への相談もおすすめしています。税理士は税に関する相談の専門家です。経費や節税のことでお悩みがある場合には、税理士への無料相談を利用してみましょう。
税理士に業務を外注することで、事業主やスタッフは煩雑な経理業務から解放されます。業務を効率化させるためにもぜひ一度「小谷野税理士法人」までお気軽にお問い合わせください。