個人事業主やフリーランスとして働く場合、自宅を仕事場として活用することも少なくありません。その際、事業に関わる費用の一部を経費として計上する「家事按分」という仕組みを活用することで、適正な税務処理が可能になります。しかし、持ち家ならではのポイントや、適用範囲、計算方法には注意が必要です。本記事では、持ち家を仕事用に使う場合の家事按分の基本から、適切な経費計上の方法まで、分かりやすく解説します。
目次
持ち家における家事按分の考え方
個人事業主やフリーランスが持ち家を仕事場として利用する場合、自宅にかかる費用の一部を事業経費として計上することが可能です。
これを「家事按分」といい、適正な割合で経費を計上することで節税に繋がりますが、按分率の根拠を明確にし、正しい計算方法を用いなければ、税務調査で否認されるリスクもあるため注意しましょう。
また、持ち家ならではの特徴として、減価償却費や固定資産税、住宅ローンの利息など、賃貸では発生しない経費も家事按分の対象になり得る点が挙げられます。これらの経費を適切に処理することで、正しく節税しながら税務リスクを抑えられるでしょう。
関連記事:家事按分とは?経費にできる割合や目安、計算方法を解説
持ち家における家事按分の対象経費
持ち家を仕事場として使用する場合、家事按分によって一部の費用を経費として計上できますが、事業に使用した割合に基づいて適正に按分し、根拠を明確にしておく必要があります。以下に、主な対象経費と計算のポイントをまとめました。
項目 | 経費にできる範囲 | 計算のポイント |
減価償却費 | 建物の取得価額に耐用年数による償却率を掛け、事業使用割合を掛けた分 | 土地代は経費にならない |
固定資産税 | 年間の税額 × 事業使用割合 | 按分率の根拠が重要 |
火災保険料・地震保険料 | 年間の保険料 × 事業使用割合 | 事業専用のスペースなら全額経費可 |
住宅ローンの利息 | 事業にかかる利息部分のみ経費にできる | 元本部分は経費にならない |
光熱費 (水道・電気・ガス) | 仕事で使用した時間や部屋の面積で按分 | 季節による変動に注意 |
通信費 (インターネット・電話代) | 仕事の利用割合で按分 | 専用回線なら全額経費可 |
修繕費 | 事業スペースに関連する修繕費 | 自宅全体の修繕は按分計算が必要 |
防犯設備 (セキュリティシステム) | 事業用の防犯カメラや警備契約 | 事業部分に関連する費用のみ按分可能 |
事務用品・消耗品費 | 事業で使用する文房具やコピー用紙 | 事業に関係する範囲でのみ計上可 |
家具・什器 | 事業用スペースに設置する机・椅子・棚 | 個人用との明確な区別が必要 |
駐車場代 | 事業用途の駐車場費用 | 自宅の駐車場で事業用に利用する場合、按分計上可能 |
持ち家における家事按分の計算方法
持ち家の家事按分では、事業利用の割合を適切に算出することが重要です。そのためには、「面積比率」と「時間比率」の2つの方法を用いて、実態に即した按分率を決定できます。
関連記事:家事按分を正しく適用!個人事業主が知っておきたい経費計上の方法と注意点
面積比率による按分
面積比率による按分は、自宅内で事業に使用する部屋の面積を、自宅全体の床面積で割ることで算出します。例えば、自宅の総床面積が100㎡で、そのうち20㎡を仕事専用の部屋として使う場合、按分率は 20%(20㎡ ÷ 100㎡) となります。
この方法は、事業スペースが明確に区分されている場合に適用しやすく、計算根拠も明確に示せるというメリットがあります。ただし、リビングやキッチンなどの共用スペースを一部事業で使用する場合は、その部分の按分方法を別途考慮する必要があるでしょう。
時間比率による按分
時間比率による按分は、1日のうち事業のために使用する時間を基準に算出します。例えば、1日24時間のうち仕事に8時間、プライベートに16時間使う場合、按分率は 33.3%(8時間 ÷ 24時間) になります。
この方法は、部屋の面積で明確に分けにくい場合や、同じスペースを仕事とプライベートで共有する場合に有効です。
例えば、ダイニングテーブルで作業する場合、面積比率ではなく使用時間の割合をもとに按分する方が適切でしょう。ただし、平日と休日で使用時間が異なる場合もあるため、年間を通じた平均的な使用割合を算出するのが望ましいです。
面積比率と時間比率の組み合わせ
一般的には、面積比率と時間比率を組み合わせることで、より実態に即した按分が可能です。例えば、以下のようなケースを考えます。
- 事業専用の部屋(20㎡)があるが、1日のうち仕事で使用するのは半日(50%)
- 面積比率は 20%(20㎡ ÷ 100㎡)
- 時間比率は 50%(12時間 ÷ 24時間)
この場合の按分率は、20%(面積比率) × 50%(時間比率)= 10% となります。
このように、複数の要素を考慮することで、実態に即した合理的な経費計上が可能になるでしょう。特に、仕事専用のスペースが確保できない場合や、事業用途の時間が限られる場合には、面積と時間の両方を考慮することで、より適正な按分率を導き出せます。
持ち家に関連する経費(家事按分)の計上方法
持ち家に関連する経費の具体的な計上方法について、仕訳例を交えて解説します。家事使用分に対する仕訳は省略しています。
減価償却費
持ち家の建物を事業用として使用する場合、取得価額を耐用年数に基づいて減価償却し、事業使用割合を掛けて経費計上します。土地の取得費用は減価償却の対象外である点に注意しましょう。
例)年間50万円の減価償却費のうち、20%を事業用として計上
50万円 × 20% = 10万円
借方 | 貸方 | ||
減価償却費 | 10万円 | 建物 | 10万円 |
関連記事:減価償却とは?会計や税務の基礎知識と節税のポイントを徹底解説!
固定資産税
持ち家にかかる固定資産税を経費として計上する場合、事業使用割合に応じた分のみを租税公課として処理します。
例)年間20万円の固定資産税のうち、20%を事業用として計上
20万円 × 20% = 40,000円
借方 | 貸方 | ||
租税公課 | 40,000円 | 現金 | 40,000円 |
火災保険料・地震保険料
持ち家の火災保険や地震保険の支払いがある場合、事業利用部分の割合に応じて経費計上が可能です。
例)年間50,000円の保険料のうち、20%を事業用として計上
50,000円 × 20% = 10,000円
借方 | 貸方 | ||
保険料 | 10,000円 | 普通預金 | 10,000円 |
住宅ローンの利息
住宅ローンの支払いがある場合、元本部分は経費にできませんが、支払利息は事業使用割合に応じて按分し、経費計上が可能です。
例)年間10万円の利息のうち、20%を事業用として計上
10万円 × 20% = 20,000円
借方 | 貸方 | ||
支払利息 | 20,000円 | 普通預金 | 20,000円 |
光熱費・通信費
電気・ガス・水道などの光熱費やインターネット・電話代についても、事業利用割合を基に按分し、経費計上します。
例)月20,000円の光熱費のうち、30%を事業用として計上
20,000円 × 30% = 6,000円
借方 | 貸方 | ||
水道光熱費 | 6,000円 | 普通預金 | 6,000円 |
修繕費
持ち家の修繕が発生した場合、事業用スペースの修繕にかかった費用については、按分または全額経費として計上が可能です。
例)事業用スペースの修繕費10万円のうち、50%を事業用として計上
10万円 × 50% = 50,000円
借方 | 貸方 | ||
修繕費 | 50,000円 | 普通預金 | 50,000円 |
持ち家の経費計上における5つの注意点
持ち家を事業用として利用し、家事按分を適用する際には、以下5つの点に注意しましょう。
- 事業使用割合の明確化
- 白色申告と青色申告の違い
- 住宅ローン控除との兼ね合い
- 証拠書類の保存
- 過度な経費計上のリスク
事業使用割合の明確化
持ち家の経費を按分する際は、事業で使用している割合を合理的に設定することが重要です。按分率は面積比率や時間比率を基準に算出できますが、税務調査時に根拠を説明できるように記録を残しておきましょう。
例えば、仕事部屋の面積が自宅全体の20%で、仕事時間が1日50%の場合、按分率は10%(20%×50%)と計算できます。按分率を設定する際は、合理的な根拠を示せるよう、具体的な数値や資料を用意しておきましょう。
白色申告と青色申告の違い
家事按分は白色申告・青色申告のどちらでも適用可能ですが、青色申告の方が節税効果が高くなります。白色申告の場合、按分率が50%超でなければ、原則として経費に計上できません。
特に、青色申告では最大65万円の特別控除が適用され、事業所得の圧縮が可能です。さらに、複式簿記を導入することで、減価償却や家事按分の根拠を明確に示しやすくなるため、税務調査時のリスク軽減にも繋がるでしょう。
一方、白色申告は手続きが簡単なものの、控除額が少なく、経費計上の説明責任が増えるため、持ち家の家事按分を適用する場合は青色申告の導入をおすすめします。
関連記事:青色申告特別控除の「65万円控除」の条件とは?10万円、55万円の条件と比較
住宅ローン控除との兼ね合い
事業使用割合が50%を超えると、住宅ローン控除が適用されなくなる可能性があるため、慎重に判断しましょう。
税法上、住宅ローン控除は「主に居住用として使用する場合」に適用されるため、事業用途の割合が過半数を超えると「居住用」と認められなくなる可能性があります。
そのため、事業スペースを広く取りたい場合は、住宅ローン控除とのバランスを考慮し、按分率を調整することが重要です。事前に税理士に相談し、最適な経費計上と住宅ローン控除の適用条件を確認しましょう。
関連記事:事務所兼住宅の住宅ローンを経費にしながら控除を受ける裏ワザとは?
証拠書類の保存
税務調査で適正な経費計上を証明するための書類が求められることがあるため、家事按分を適用する際は、証拠となる書類をしっかり保管することが重要です。
保存すべき書類の例は、以下の通りです。
- 光熱費・通信費の請求書や領収書(どの程度の支出があるか示すため)
- 住宅ローンの契約書・返済明細書(利息部分を明確にするため)
- 固定資産税の納税証明書(課税額を示す資料)
- 火災保険・地震保険の契約書・支払明細
- 事業使用部分を明確にするための間取り図(按分率の根拠として活用)
これらの書類を整理し、税務調査の際にすぐ提示できるように準備しておきましょう。
過度な経費計上のリスク
家事按分の適用において、実態にそぐわない過度な経費計上は、税務調査で否認されるリスクがあるため注意しましょう。
例えば、光熱費や通信費の按分率を実際よりも高く設定したり、事業専用スペースがないのに固定資産税や修繕費を多く計上したりすると、税務署の指摘を受ける可能性があります。
按分率は実態に即した数値で設定し、過剰な経費計上を避けることが重要です。不安な場合は、税理士などの専門家に相談し、適切な処理を確認することをおすすめします。
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持ち家の家事按分でお悩みの方は専門家に相談
家事按分を適用することで節税に繋がりますが、按分の根拠や経費計上の方法を間違えると、税務調査で否認されるリスクがあります。
また、住宅ローン控除との兼ね合いなど、専門的な判断が必要なケースもあるため、適切な経費計上を行うためには、税理士に相談するのが安心でしょう。
小谷野税理士法人では、家事按分の適用方法や確定申告のサポートを行っています。正しく節税しながら、適切な申告を行うために、ぜひ一度小谷野税理士法人にご相談ください。