家族を従業員として雇い、青色専従者給与を支払っている個人事業主の中には、将来の退職金について検討している方も多いのではないでしょうか。青色専従者に退職金を支給できるのか、どのような方法で準備すべきかは、意外と知られていません。本記事では、青色申告者が取り入れやすい退職金の備え方について、制度の特徴や活用時の注意点を交えながら解説します。
目次
青色専従者とは
青色専従者とは、青色申告をしている個人事業主が、その事業に専ら従事している家族(親族)に給与を支払うために必要となる制度です。この制度を活用することで、親族への給与を必要経費として計上できるため、所得税の負担を軽減する効果が期待できます。
ただし、誰でも無条件に青色専従者として認められるわけではありません。税務署に届出を行い、以下の要件を満たす必要があります。
- 生計を一にする15歳以上の親族であること
- 事業主と同一の事業に「専ら」従事していること(6ヵ月超)
- 「青色専従者給与に関する届出書」を税務署に提出していること
- 労務提供の実態があり、合理的な給与額であること
関連記事:青色専従者給与は学生(子ども)にも適用される?認められないケースや注意点
青色専従者に退職金は支給できる?
青色専従者に退職金を支給したいと考える個人事業主も多いかもしれませんが、直接支払った退職金は原則として必要経費にできません。
所得税法上、青色専従者への退職金は事業主の経費に含めることが認められておらず、仮に支給しても税務上は否認される可能性があります。そのため、節税を目的として直接退職金を渡すことは避けるべきでしょう。
しかし、共済制度を利用すれば、制度的に認められた形で退職金を準備することが可能です。「小規模企業共済」と「中小企業退職金共済(中退共)」という2つの制度を活用した方法について解説します。
直接退職金を支給する場合は経費にできない
青色専従者に退職金を直接支給したとしても、その支出は必要経費として認められません。結果として、課税所得は減りません。
退職金の準備には、制度を活用した計画的な対応が不可欠です。
小規模企業共済を利用する場合は「共同経営者」として加入
青色専従者が小規模企業共済に加入するには、事業に深く関与している「共同経営者」としての立場が必要です。契約者は青色専従者本人となり、掛金も本人が支払います。
この場合、掛金は専従者本人の所得控除(小規模企業共済等掛金控除)として扱われ、個人事業主の経費にはなりません。ただし、専従者側の税負担軽減には繋がり、将来的には共済から退職金を一括で受け取ることができます。
関連記事:小規模企業共済のメリットと加入ガイド
中小企業退職金共済を利用する場合は「従業員」として加入
もう一つの方法が、中小企業退職金共済(中退共)の活用です。青色専従者を「従業員」として加入させることで、掛金を事業主の必要経費として計上できます。
ただし、専従者以外にも常時雇用している従業員がいる場合、原則としてすべての従業員を中退共に加入させなければなりません。 そのため、実際にはある程度の規模の事業主向けの制度と言えるでしょう。
関連記事:積立型の退職金は経費にできる?制度別で経費の扱いを詳しく解説
青色専従者に退職金を支給するメリット
青色専従者に退職金を用意することは、以下のようなメリットがあります。
節税効果が期待できるのは共済制度を利用した場合
青色専従者に退職金を直接支給しても、所得税法上、個人事業主の必要経費になりませんが、小規模企業共済や中小企業退職金共済といった制度を活用すれば、掛金が専従者本人の所得控除や事業主の経費として扱われるため、節税効果が見込めるでしょう。
掛金額や加入形態によっては、年間数十万円の節税につながるケースもあります。
長年の貢献に対する正当な報酬の準備ができる
青色専従者として事業に従事する家族は、外部の従業員と変わらない役割を担っていることが多くあります。共済制度を活用することで、退職時にまとまった金額を受け取れる仕組みを整備でき、長年の貢献に報いる「正当な報酬」としての退職金を準備できるでしょう。
これは単なる金銭的支援にとどまらず、感謝の気持ちを形にする手段にもなります。
家族の生活安定にも繋がる
共済制度でコツコツと退職金を積み立てておけば、将来的に青色専従者が引退した後の生活資金として活用することができ、老後の不安を軽減できるでしょう。
さらに、制度を通じた準備であれば税務上のリスクも回避できるため、事業主としても安心して支給に備えることができます。事前の計画が、家族と事業の両方の安定に繋がります。
青色専従者に退職金を準備する場合の経費処理
「小規模企業共済」や「中小企業退職金共済(中退共)」といった制度を活用した際の経費処理の違いを解説します。
小規模企業共済を使った場合の経費処理
青色専従者が「共同経営者」として小規模企業共済に加入するケースでは、掛金の支払いは事業主ではなく専従者本人が行います。そのため、掛金は事業主の経費にはならず、専従者本人の所得控除(小規模企業共済等掛金控除)として扱いましょう。
例:月額30,000円を10年間拠出した場合
- 年間掛金:30,000円 × 12ヶ月 = 36万円
- 10年間掛金を支払った場合:36万円 × 10年 = 360万円
この場合、掛金に関する会計処理や仕訳は不要です。事業主の帳簿に反映させる必要はなく、専従者が年末調整で控除を受ける形となります。
中小企業退職金共済(中退共)を使った場合の経費処理
一方、専従者を「従業員」として中退共に加入させる方法では、掛金は事業主が負担し、必要経費として計上することが可能です。
例:月額20,000円を10年間拠出した場合
- 年間掛金:20,000円 × 12ヶ月 = 24万円
- 10年間掛金を支払った場合:240万円を経費計上可能
会計処理の仕訳例(月額20,000円拠出の場合)
借方 | 貸方 | ||
福利厚生費 | 20,000円 | 普通預金 | 20,000円 |
このように、中退共の掛金は事業主の必要経費として認められ、節税効果が得られる制度です。ただし、加入要件を満たしていなかったり、形式だけの加入とみなされた場合には、認められないケースもあるため、制度の適用条件や実態には注意しましょう。
青色専従者に退職金を支給する際の5つの注意点
青色専従者に退職金を支給する際は、制度の制限や条件を正しく理解することが重要です。誤った方法では税務上のリスクもあるため、事前に知っておくべき5つのポイントを解説します。
- 直接支給は経費にできないため、制度利用が前提
- 小規模企業共済では「共同経営者」として加入が必要
- 中退共を使うには他の従業員も含めた加入が条件
- どちらかの制度しか利用できない
- 制度利用の手続き・契約は早めに行う
直接支給は経費にできないため、制度利用が前提
青色専従者に退職金を直接支給しても、その支出は所得税法上、個人事業主の必要経費には該当しません。たとえ感謝の気持ちで退職金を渡しても、税務署に否認され、経費計上はできず、結果として所得税や住民税の課税対象となります。
そのため、退職金の準備は、税制上認められている共済制度を利用するのが前提となる点に注意しましょう。節税の観点でも、共済への加入と計画的な積立が最も効果的です。
小規模企業共済では「共同経営者」として加入が必要
青色専従者が小規模企業共済に加入する場合、単なる従業員としてではなく「共同経営者」としての立場が必要です。実際に経営に携わっていることが前提となり、形式上の役割では加入が認められない場合があるので注意しましょう。
また、この制度では1つの事業につき、共同経営者として加入できるのは最大2名までという制限があります。加入には要件があるため、実態に即した形で制度を利用する必要があります。
中退共を使うには他の従業員も含めた加入が条件
中小企業退職金共済(中退共)を利用して青色専従者を「従業員」として加入させたい場合には、専従者だけでなく、原則として他の常時雇用する従業員全員を中退共に加入させる必要があります。
この条件を満たさなければ、専従者の加入は認められず、掛金を経費に計上することもできません。つまり、一部の従業員だけを加入させたいという場合には、制度を利用できない点に注意しましょう。
どちらかの制度しか利用できない
小規模企業共済と中退共は、それぞれ別の制度であり、同一人物が両方に加入することはできません。
専従者が「共同経営者」として活動している場合は小規模企業共済、「従業員」として雇用されている場合は中退共といったように、立場に応じてどちらか一方の制度を選択する必要があります。
どちらの制度が適しているかは、事業の実態や従業員構成によって異なるため、事前に慎重に検討しましょう。
制度利用の手続き・契約は早めに行う
共済制度は、加入した時点から掛金の積立が始まる仕組みです。後から加入しても、それ以前の勤務期間に対する退職金の準備はできず、支給できる金額も限定的になります。
また、退職間際に加入しても掛金が少額であれば、十分な退職金を用意できないこともあるでしょう。制度の内容を早めに理解し、必要な書類や契約を計画的に進めることが、安心して退職金を準備するための第一歩となります。
青色専従者の退職金についてお悩みの方は専門家に相談
青色専従者に退職金を支給したいが、税務署に否認されるのが心配、あるいは退職金規程の整備方法がわからないなど不安に思う方は、専門家に相談することをおすすめします。
小谷野税理士法人は、個人事業主の税務に精通した実績豊富な税理士法人です。青色申告や専従者給与、退職金支給に関する税務処理まで丁寧にサポートいたします。青色専従者の退職金について適切に対応したい方は、ぜひ小谷野税理士法人にご相談ください。