接骨院を経営する方にとって、税金と確定申告は避けられない問題の一つです。収入や費用を適切に管理し、正確に申告することで、税務リスクを最小限に抑えることができます。この記事では接骨院を経営する方へ、税金と確定申告について解説します。具体的な計算方法なども紹介しているので、ぜひ今後の参考資料としてお役立てください。
目次
医療費控除とは?
医療費控除は1年のうちに支払った医療費が10万円を超えるまたは年間所得の5%と比較し少なかった金額を対象とした所得控除制度です。
給与所得がある人は年末調整を行い、所得税の過不足を調整します。しかし、医療費控除については年末調整で控除を受けることができません。控除を受けるには、1年間に一定の医療費が生じた分について自身で確定申告を行う必要があります。
医療費控除対象・対象外の施術とは?
接骨院の施術費用は、医師の指示内容によって医療費控除の対象か対象外かが決まる仕組みです。
医療費控除の対象・対象外となる施術は下表の通りです。
医療費控除対象の施術 | 医療費控除対象外の施術 |
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あくまで医療目的の治療であることが控除の条件となります。確定申告の際は医療行為と判断できるか否かを適切に判断したうえで申告することが大切です。
関連記事:【税理士監修】医療費控除とは?申請・計算方法や他の制度との違いを解説
接骨院の税金の基本知識
接骨院を始めるにあたって、税金の基本知識について押さえておくことが大切です。基本的に、接骨院は営利企業に該当しますが、保険診療の対象となる施術を行うため、料金体系はクリニックと類似しています。この点を踏まえ、ここでは所得金額、消費税の計算と減価償却について解説します。
所得金額の計算方法
所得税は事業所得に対して課される税金です。接骨院の場合、収入金額から経費を差し引く計算方法を使い、一度、所得金額を算出します。
その後、課税所得金額に該当する税率を乗じ、控除額を差し引き、所得税を求めます。課税所得金額および税率は以下の通りです。
課税所得金額 | 税率 | 控除額 |
1,000~194万9,000円まで | 5% | 0円 |
195~329万9,000円まで | 10% | 9万7,500円 |
330~694万9,000円まで | 20% | 42万7,500円 |
695~899万9,000円まで | 23% | 63万6,000円 |
900~1799万9,000円まで | 33% | 153万6,000円 |
1800~3999万9,000円まで | 40% | 279万6,000円 |
4000万円以上 | 45% | 479万6,000円 |
所得金額および所得税の算出方法は下表の通りです。
➀収入金額ー経費=所得金額 所得金額ー所得控除=課税所得金額 ➁課税所得金額×課税所得金額に該当する税率ー控除額=所得税 |
例えば、課税所得500万円だった場合は下表のように計算します。
500万円×20%ー42万7,500円=57万2,500円 |
事業所得は、総収入金額から必要経費を差し引いたものが基本です。この差し引かれる経費には、家賃、光熱費、人件費などの運営コストも含みます。
また、必要経費として計上できる範囲が広がる青色申告特別控除なども利用可能です。個人事業主には、基礎控除や扶養控除などが適用されます。これらの控除が事業所得からさらに差し引かれた場合、純粋な課税所得に対して一定の税率が適用されます。
この税率は累進課税制度に基づき、所得が増えるほど税率も高くなる仕組みです。
消費税の計算方法
接骨院の消費税の計算方法は、収入金額の中で保険診療報酬のものは非課税売上に、自由診療報酬は課税売上とします。
保険診療報酬が非課税になるのは、社会政策的配慮と考えられています。
減価償却と設備の購入経費の計算方法
接骨院では、高価な医療機器や設備を購入するほか内装工事を伴う場合が多いです。購入費用や内装工事費は一括で必要経費に計上することができない場合があります。この場合、減価償却という手続きを通じて、数年間にわたって分割して経費として計上します。
なお購入とリースでは減価償却費の計算方法が異なるので注意が必要です。
購入した場合の計算方法
設備等を購入した場合の計算方法は、以下2つあります。
- 定額法:耐用年数相当に値する期間を均等に分けて減価償却費として計上する方法
- 定率法:購入年度から前倒しで減価償却費として計上する方法
減価償却費は、設備等を購入した年度・耐用年数に対して設けられた償却率を購入金額に乗じる必要があります。例えば、令和3年1月に耐用年数8年の設備を100万円で購入したとします。この場合の定額法・定率法による減価償却費は下表の通りです。
年度 | 減価償却費 | |
定額法 | 定率法 | |
令和3年度 | 12万5,000円 | 25万円 |
令和4年度 | 12万5,000円 | 18万7,500円 |
令和5年度 | 12万5,000円 | 14万625円 |
令和6年度 | 12万5,000円 | 10万5,468円 |
令和7年度 | 12万5,000円 | 7万9,101円 |
国税庁では、平成19年4月1日以降の耐用年数8年の設備等について、定額法は「0.125」定率法は「0.250」と定めています。この償却率に取得した金額を乗じることで各年数の減価償却費を求めることができます。
参考:減価償却資産の償却率等表
・定額法 100万円×0.125=125,000円 (定額のため金額も一定) ・定率法 100万円×0.250=25万円 (残額に対して0.250を乗じるため、各年度で減価償却費が異なる) |
なお、定率法の場合は、初年度に25万円を払ったため、残りの75万円に「0.250」の償却率を乗じています。未償却残高、いわゆる購入残額に償却率を乗じることで、その年の減価償却費を求める必要があるので、計算間違いには注意しましょう。
リース契約した場合の計算方法
リース契約によって設備等を購入した場合は、リース期間定額法を用いて減価償却費を算出します。
リース総額ー残価保証額 |
残価保証額は、リースで購入・借りた物の処分価額が、契約上取り決めた保証価額に満たない際に借手が不足額を貸手に支払う金額のことです。また、リース契約では定率法により、前倒しで減価償却費を計上することが認められていないので注意しましょう。
例えば100万円の設備を50ヵ月リース契約した場合は、以下のような計算になります。
100万円×12ヵ月÷リース期間50ヵ月=24万円 |
またリース契約の内容などによっては、支払った時にリース料に計上できることもあります。
青色申告の活用方法
接骨院や整骨院等を問わず、開業する際は青色申告を申請することをおすすめします。青色申告は個人事業主として税務署に申請し、承認を受けることで税制上の優遇措置を利用できる申告方法です。
青色申告によって以下の控除・特例を受けることができます。
名称 | 概要 |
繰越控除 |
※平成30年3月31日以前に開始する年度は9年間 |
30万円未満の少額減価償却資産の特例 |
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青色申告特別控除 |
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ほかにも、家族を従業員として雇用している場合に給与を経費計上できる貸倒引当金の計上が可能といったメリットもあります。
関連記事:減価償却とは?会計や税務の基礎知識と節税のポイントを徹底解説!
個人事業主と法人の税金の違い
個人事業主あるいは法人で接骨院を開業する場合、税金の取り扱いに違いがあります。個人事業主の場合は、一般的には以下の税目が課税対象となり、所得金額に比例して税率が高くなります。
- 所得税
- 住民税
- 事業税(社会保険診療報酬にかかる所得を除く)
接骨院の場合の所得税は、「所得金額の計算方法」で紹介した7段階のうち、該当する所得金額の税率で控除額を差し引いた分です。住民税率は一律10%、事業税は3%です。
一方、株式会社等の法人は営利企業と同じで、一般的には以下の税目が課税されます。
- 法人税
- 地方法人税
- 住民税
- 事業税
法人税等の税率は、資本金や市区町村によって異なります。
社会保険の加入義務の違い
個人事業主が接骨院を開業した場合、従業員が5人以下であれば加入する必要はありません。一方、従業員が5人以上の個人事業主および法人の場合は強制加入となっています。
社会保険の加入によっては、従業員の社会保険の半分を企業が負担しなければなりません。また、加入義務の有無によっては人件費も発生します。
所得分散と決算月の設定について
接骨院で得た所得を分散し、所得税率を下げることも可能です。例えば、接骨院の所得が1,000万円の場合、「所得金額の計算方法」の税率をみると33%であることがわかります。しかし、500万円ずつに分散すると所得税率は20%です。
青色事業専従者給与に該当するのは家族が接骨院に専ら従事している場合に限られます。
法人の場合であれば、獲得した所得は会社の所得のほかに、事業主本人および家族の役員報酬に分散可能です。また、個人事業主の青色事業専従者給与と異なるので、専ら受持している必要もありません。
節税を意識した経営をしたいのであれば、個人事業主・法人のどちらが良いかをよく検討することが大切です。
接骨院に該当する経費項目
接骨院の経費には、以下の費目が該当します。
費目 | 概要 |
地代家賃 | 店舗や倉庫の敷地を借りるときに発生する地代や家賃のこと |
水道光熱費 | 店舗で使用する水道、電気、ガス、プロパンガス、灯油等の購入費 |
通信費 | 事業用として使用した電話代、切手代、電報料のこと |
減価償却費 | 施術に必要な器具部品等の償却費 |
広告宣伝費 | 自店の宣伝のために作成した広告(Webホームページ等)に生じた費用 |
事務用消耗品費 | 名刺の作成に生じた費用 |
消耗品費 | 白衣、ユニフォーム、タオルなど、事業に必要な商品の購入に生じた費用 |
経費を正確に把握するためにも領収書やレシート、請求書等を大切に保管しておきましょう。
税理士がおすすめな理由とメリット
税理士に依頼することで、開業前には知り得なかった「税に関する知識」を身につけることが可能です。たとえば、接骨院として開業するにあたって、受けられる助成金や補助金の知識や計上できる経費の範囲などを把握できるでしょう。損することなく、接骨院を開業・運営していくためにも、税理士からの専門的なアドバイスは重要です。
また、豊富な専門知識や経験を持つ特徴から、複雑な税務処理や申告手続きも任せることが可能です。税理士は最新の税法改正や、適用可能な税制優遇措置についても熟知しているので、効果的な節税対策を提案してもらえます。
接骨院を経営するにあたって税理士のサポートはメリットが豊富です。この機会に税理士のサポートを受け、税務リスクの軽減と業務効率化を図ることも検討しましょう。
接骨院の経営には税金管理が不可欠
接骨院の経営にあたっては、細かな税金管理が欠かせません。適切な税金管理によって正確に申告でき、税務リスクの回避や節税効果につなげられます。
開業したものの、確定申告や日常的な経費の管理に不安がある方は、この機会に小谷野税理士法人へご相談ください。税務調査や新しい税制に関する情報提供を行いながら、経営者の税務負担をサポートいたします。