不動産投資での法人化を検討したときに、法人化する目安についてご存知でしょうか?法人化は、節税対策などの点でメリットが期待できますが、収入額などの条件によっては、法人化しない方が良いケースもあります。この記事では、不動産投資で法人化を検討する目安とタイミング、法人化によるメリットとデメリットなどについて詳しく解説します。効果的な資産形成のために、ご活用ください。
目次
不動産投資の法人化と個人経営との違い
不動産投資の法人化とは、資産管理会社を設立して不動産投資を行うことです。不動産を保有し資産として運用することで、利益を得ている場合、法人化により節税効果が高まる可能性があります。ここでは、不動産投資の法人化によって変わること、個人と法人の税金の違いについて紹介します。
法人化によって変わること
法人化によってさまざまな点が変わります。まず、これまで個人経営で行っていた不動産投資を、資産管理会社が行います。
経営が法人に代わることで、投資をしている不動産の所有者名義も個人名義から資産管理会社の名義に変え、事業として運営するのです。
また、不動産投資で得た収益についても、これまでは個人で受け取っていましたが、資産管理会社を通じ、役員報酬として受け取ります。
支払う税金の種類
法人化によって、支払う税金の種類が変わります。法人が主に支払う税金の例を、以下に紹介します。
- 法人税
- 法人住民税
- 法人事業税
- 住民税
- 消費税
個人の所得に対して課税される所得税と、法人の収益に対して課税される法人税とでは、税率が異なります。
所得税の税率は所得が高額となるほど税率も高くなる超過累進税率が適用されています。そのため、所得額が高くなるほど、納税額も増えます。一方で、法人税率はほぼ一律です。
不動産投資の法人化によって期待できるメリット
不動産投資の法人化によって期待できるのは、節税効果です。ここでは、不動産投資の法人化が、節税に効果的だと言われている理由について詳しく説明します。
法人税と所得税の税率の違いによる節税効果が得られる
課税所得の額によっては、個人の所得に対して課税される所得税率よりも、法人税率の方が低くなる場合、法人化による節税効果が期待できます。
また、法人化により家族を役員にすることで、役員報酬として経費を計上できるだけでなく、所得の分散で減税につながります。
所得税は、超過累進税率を適用しているため、所得額が多くなるほど税率が上がります。そこで、家族と所得を分けることで、一人当たりにかかる税率を低くできるのです。
ただし、家族を役員にする場合、役員としての勤務実態がなかったり、役員報酬が高額すぎたりすると、脱税を疑われるため注意が必要です。
費用の適用範囲が広がる
法人化によって、費用の適用範囲が広がり、課税所得を減らせます。個人投資家の場合、業務とプライベートで兼用している経費については、厳密に区別しなくてはならず、経費にできるものにも限りがあります。
例えば、個人投資家は自身に支払う給与や退職金を経費にできませんが、法人は役員報酬や役員退職金を経費計上できるのです。さらに、給与所得控除、配偶者控除などの各種控除も適用される可能性が高く、複数の控除の利用で節税に結びつきます。
欠損金を10年間繰り越せる
青色申告をしている法人は、赤字を10年間繰り越せます。個人投資家の場合、赤字の繰り越しが認められているのは3年間です。
不動産投資を行っていると、さまざまな要因が重なって赤字額が増えることもあるでしょう。そのため、3年間では赤字を相殺できないこともあり得ます。
赤字を10年間繰り越しできると、黒字の期間も課税所得と相殺できるため、長期間の節税につながります。
相続税と贈与税対策を実現
将来的に、投資している不動産を家族に相続することを検討しているなら、法人化で相続税対策を実現できる可能性が高いです。
個人で不動産を所有しており、その資産を相続する際には、不動産ごとに相続税や贈与税が発生します。
法人の場合、それぞれの資産ではなく会社の株式に対して相続税や贈与税がかかるため、個人で資産を相続するよりも、相続税や贈与税が安くなることがあります。
さらに、不動産投資事業を事業承継する際も、個人で引き継ぐより、手続きが簡素化するため、スムーズな事業承継を実現できるでしょう。
また、贈与税の負担軽減も期待できます。個人で不動産投資の利益を得た場合、その利益は個人のものとしてみなされ、家族に分ける場合は、贈与税の課税対象となるのです。
法人化によって家族を役員にすると、役員報酬として利益を分配でき、贈与税もかかりません。
不動産投資で法人化するデメリット
不動産投資における法人化には、デメリットもあります。メリットとデメリットをよく理解し、法人化が最適な選択であるかを考えてみましょう。
法人化の手続きが煩雑
法人化の際に必要な手続きが煩雑で、手間と時間を要します。法人化の際には、以下のように、さまざまな準備や書類が必要です。
- 社名や事業内容の確定
- 定款の作成
- 法人登記
専門的な知識を必要とする手続きもあるため、法人化の手続きを全て自力で行うのは簡単ではありません。必要に応じて、専門家のサポートが必要です。
関連記事:【税理士監修】会社設立の必要書類の準備と提出とは?法務局と税務署での手続き
法人設立や維持にかかる費用負担
法人設立時、維持や運営の費用が発生します。まず、法人設立時には以下の費用がかかります。
- 登記費用
- 定款の認証手数料
- 収入印紙代
おおよそですが、株式会社を設立する際にかかる費用の相場は、20~30万円、合同会社の設立時の費用相場は、10~15万円です。
また、法人の維持、運営費用として以下の負担が生じます。
- 税理士との顧問契約料
- 法人住民税の負担
- 社会保険料の負担
他にも、個人事業主のときには負担しなかった費用が発生することもあります。しかも、法人住民税については、経営が赤字でも均等割の負担義務が生じます。さらに不動産を個人から法人に名義変更するには、登記費用などがかかります。
このように、法人設立と維持のためには、それなりの費用が発生するのです。そのため、法人化によって節税できた額よりも、法人設立や維持のための費用が上回ることがあります。
関連記事:会社設立の費用はどれくらい?かかる主な費用や株式会社・合同会社との違いなどを解説
税制の優遇を受けられない(長期保有物件の売却時)
長期間保有している物件を売却した際、個人よりも法人の方が高い税金を支払う可能性が高いです。
不動産投資では、保有している物件を売却して利益を得ることもあるでしょう。物件を売却して得た利益には、税金がかかります。
所有期間が5年超の物件は長期保有物件とみなされ、その売却益に対して20.315%の税金が課されます。しかも、個人の場合、不動産売却益は他の所得とは別で課税されるのに対して、法人は他の利益と合算した額に課税されます。
詳細を計算しなければ、法人と個人、どちらが税金が低くなるかを判断できないのですが、法人の方が納税額が高くなるケースが多いです。
不動産投資で法人化を検討する目安を解説
不動産投資をしている全ての方が、法人化によってメリットを得られるわけではありません。個人経営のまま不動産投資をした方が、より多くの資産を残せる場合があるからです。そこで、不動産投資において法人化を検討する目安を理解し、適切なタイミングで法人化を検討しましょう。
会社員は課税所得が900万円を超えたら
専業ではなく、副業で不動産投資をしている会社員は、給与などの課税所得が900万円を超えたら、法人化をすることでメリットが期待できると言われています。
【所得税率】
課税所得 | 税率 | 控除額 |
1,000~ 194万9,000円 | 5% | 0円 |
195万 ~ 329万9,000円 | 10% | 97,500円 |
330万 ~ 694万9,000円 | 20% | 42万7,500円 |
695万 ~ 899万9,000円 | 23% | 63万6,000円 |
900万~ 1,799万9,000円 | 33% | 153万6,000円 |
1,800万~ 3,999万9,000円 | 40% | 279万6,000円 |
4,000万円 以上 | 45% | 479万6,000円 |
【法人税率】
区分 | 開始事業年度 | |||||
平成30年4月1日以降 | 平成31年4月1日以降 | 令和4年4月1日以降 | ||||
普通法人 | 資本金一億円 以下の法人 | 課税所得800万円 以下の部分 | 下記以外の法人 | 15% | 15% | 15% |
適用除外事業者 | 19% | 19% | ||||
課税所得800万円 を超える部分 | 23.20% | 23.20% | 23.20% | |||
上記以外の普通法人 | 23.20% | 23.20% | 23.20% |
所得税は超過累進税率が適用されるため、課税所得が900万円を超えると、法人税率の方が低くなるからです。
ただし、副業の不動産投資で赤字経営が続いているなら、急いで法人化することはありません。それは、給与所得と不動産投資の損失を損益通算できるからです。
家賃収入が入っても、必要経費や資産(不動産)の減価償却費によって、収入よりも費用が上回る、つまり赤字となることがあります。
赤字の際は、損益通算をすることで課税所得が減り、法人化するよりも納税額が低くなることもあり得ます。
関連記事:【税理士監修】会社設立する売上目安とは?個人事業主の所得・年商ならいくらから?法人成りのメリット・デメリットも紹介
専業大家は課税所得が330万円を超えたら
専業大家として不動産投資をしているなら、課税所得が330万円を超えたら法人化を検討することで、メリットが期待できます。
個人の課税所得が330万円を超えた場合の所得税率は20%ですが、資本金が1億円以下の法人で年間所得のうち、800万円までは法人税率が低く抑えられるからです。
専業大家の場合も、場合によっては法人化で費用負担が増えることもあります。法人化の手続きやサポートを、司法書士や税理士に依頼する費用、赤字でも支払い義務が生じる法人住民税の支払いなどの出費が嵩むからです。
法人化によって納税額は減るかもしれませんが、その他の出費が増加することがあるのです。
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詳しいシミュレーションで法人化を判断
専業大家も、会社員の副業での不動産投資も、課税所得だけではなく、税金や費用などを詳しく計算したうえで、法人化を判断する方法もあります。課税所得の額だけを見て法人化を実行しても、必ずしも節税になるとは限らないからです。
まずは、個人と法人、それぞれに課せられる税金の種類を把握し、税額を計算してみましょう。
課税所得の額に応じて、個人と法人の税金を計算することで、どちらで不動産投資をした方が、納税額が少なくなるかを判断できるはずです。
また、個人事業主が利用できる青色申告特別控除は、法人化によって適用されません。さらに、法人化によって新たに発生する費用もあるため、それらも考慮し、総合的に判断することが大切です。
主に節税目的での法人化を検討しているなら、個人事業主として不動産投資を続けた場合、法人化した場合の税額をシミュレーションしてみることです。より詳しく的確なアドバイスを求めるなら、税理士に相談してみましょう。
不動産投資を始めるタイミングでの法人化もあり
例えば、これから不動産投資を始めて、多額の家賃収入が期待できる場合など、最初から法人化することで節税につながることがあります。
個人から法人化するよりも、最初から法人化することで不動産名義の変更にかかる費用(不動産取得税や登記費用)を、抑えられるからです。
法人化に適したタイミングは不動産投資家の状況、収入などによって総合的な判断が求められます。専門的なサポートやアドバイスを受けることが、より良いタイミングでの法人化に結びつくため、税理士に相談してみることです。
まとめ | 不動産投資の法人化の目安は総合的な判断が大切
不動産投資の法人化によって、主に節税におけるメリットが期待できます。しかし、法人化によって他の出費が増えることもあるため、課税所得や法人化によって発生する費用なども考慮して、総合的に判断することが求められます。より効果的な資産形成をサポートしてもらうためにも、税理士のアドバイスやサポートを受けてみましょう。