起業・創業する際に避けては通れない資金調達の問題ですが、銀行からの融資以外にも様々な方法があることをご存知でしょうか。大きく分類すると「融資」「個人借り入れ」「補助金・助成金」「出資」という4つの方法があります。事業内容や事業規模によって適している方法が異なるため、それぞれの特徴を把握しておくことが重要です。この記事では、それぞれの資金調達方法に関する基礎知識や、メリット・デメリットなどを詳しく解説していきます。
目次
起業・創業する際の資金調達:「融資」
日本政策金融公庫の公庫融資
日本政策金融公庫は、国民生活金融公庫・農林漁業金融公庫・中小企業金融公庫の3つが統合された公的機関です。企業の成長をサポートすることでGDP(国内総生産)を引き上げるという目的があり、様々な融資制度を実施しています。特に創業支援には力を入れており、起業・創業をする際の資金調達手段としておすすめです。
日本政策金融公庫が実施している融資としては、以下の制度などが挙げられます。
名称 | 融資限度額 | 概要 |
新創業融資制度 | 3,000万円 (運転資金は1,500万円) | 新事業を始める方・事業開始後、税務申告を2期終えていない方が対象。 無担保・無保証人で融資を受けられますが、他の融資制度と併用する必要があります。 |
新規開業資金 | 7,200万円 (運転資金は4,800万円) | 新事業を始める方・事業開始後7年以内の方が対象。 |
女性、若者/シニア 起業家支援資金 | 7,200万円 (運転資金は4,800万円) | 女性(年齢制限なし)、35歳未満または55歳以上の方で、新事業を始める方・事業開始後7年以内の方が対象。 |
このように、制度によっては無担保・無保証人で融資を受けることも可能です。創業期は実績や信用が不足しているため、民間の金融機関から融資を受けるハードルが高くなります。起業・創業する際の資金調達方法として、公的機関の活用も検討してみてください。
銀行からの融資
「資金調達」と聞いて、まず思い浮かぶのが銀行からの融資ではないでしょうか。銀行から直接融資を受けることを「プロパー融資」といい、低金利で借り入れを行うことが可能です。しかし、厳しい審査を通過する必要があるため、実績や信用がない起業時に利用することは困難といえるでしょう。
その代わり、プロパー融資を受けることができた場合には社会的信用度の向上につながります。また、返済実績を作ることで今後の融資にも好影響を与えるでしょう。地方銀行であれば比較的ハードルも下がるため、銀行からの融資を検討している場合は参考にしてみてください。
信用金庫からの融資
信用金庫は、営利よりも地域経済の活性化を目的としている金融機関です。よって、銀行よりも中小企業等が融資を受けやすくなっています。特に地域密着型の事業を行う企業にとって、信用金庫からの融資は有効な資金調達方法といえるでしょう。
ただし、銀行よりも金利が1%程度高めに設定されるケースが多い点に注意が必要です。また、融資限度額も銀行より低いため、希望額によっては資金が不足する可能性もあります。審査機関も銀行より時間を要するため、余裕を持った資金計画を立てるようにしましょう。
信用保証協会による保証付き融資
起業・創業時に銀行や信用金庫から融資を受ける場合、2つのパターンがあります。ひとつは、金融機関から直接借り入れする「プロパー融資」です。しかし、上述のとおりプロパー融資には審査のハードルが高いという問題があります。そこで、多くの場合は信用保証協会と保証委託契約を結ぶことで、銀行や信用金庫からの融資を受けています。
信用保証協会が保証人となることで、もし返済が困難となった場合には債務者に代わって弁済を行います。これによって金融機関は貸し倒れのリスクを回避できるため、起業時でも融資を受けられる可能性が高くなるという仕組みです。
ただし、金融機関に加えて信用保証協会の審査も通過しなければなりません。また、信用保証協会には保証料を支払う必要があります。起業・創業時に利用できる可能性が高い融資ですが、これらの注意点があることも覚えておきましょう。
マル経融資
マル経融資とは、日本政策金融公庫による公的融資制度のひとつです。日本政策金融公庫から融資を受けますが、申請には商工会議所を介す必要がある点が特徴となっています。また、正式には「小規模事業者経営改善資金融資制度」といい、小規模事業者を対象とした融資制度です。
なお、マル経融資の概要は以下のとおりとなっています。
項目 | 概要 |
対象者 | 従業員20人以下の小規模事業者 (1年以上の事業実績が必要) |
借入目的 | 設備資金・運転資金 |
融資限度額 | 2,000万円 |
返済期間 | 設備資金 10年以内 運転資金 7年以内 |
利率 | 1.21% |
担保・保証人 | 不要 |
このように、マル経融資は無担保・無保証人で最大2,000万円までの融資を受けられる、非常に魅力的な制度です。しかし、事業を開始してから1年以上経過していなければ融資を受けることができず、会社を立ち上げる際の資金としては利用できません。
そこでおすすめしたいのが、マル経融資への借り換えです。通常受けられる融資の中では最も低い水準の金利が設定されているため、借り換えを行うことで金利負担を削減することができます。起業時には別の方法で資金調達を行い、1年後にマル経融資へ借り換えるという資金計画を立ててみてはいかがでしょうか。
起業・創業する際の資金調達:「個人借入れ」
銀行の個人ローンからの借入れ
銀行からの融資には、住宅ローンや自動車ローンなど目的が決まっているもの以外に「フリーローン」と呼ばれる目的を問わないローンがあります。こういったローンであれば事業実績などに関わらず、個人の信用度に応じて融資を受けることが可能です。簡単な手続きで、スピーディーに資金調達を行える点は魅力的といえるでしょう。
しかし、個人ローンは利息が非常に高いというデメリットもあります。また、本来は起業時の資金調達を目的とした制度ではないため、できれば他の手段を検討することをおすすめします。
親族・知人からの借入れ
金融機関からの資金調達が難しい場合、親族や知人から資金を借り入れるという方法もあります。必要書類を作成する手間や審査も不要であり、契約条件にも融通が効くでしょう。
その反面、事業がうまくいかず資金を返済できなかった場合には、トラブルに発展する可能性が高くなります。その結果、大切な人との関係性を壊してしまうリスクがあることに注意しなければなりません。また、経営に関する知識が豊富な方でなければ、起業についてのアドバイスを期待することも難しいでしょう。
親族や知人から借り入れる場合には契約書を作成し、トラブルに発展するリスクを極力抑えることが重要です。
起業・創業する際の資金調達:「補助金・助成金」
国や地方自治体が実施している補助金・助成金も、起業時に活用できる資金調達手段のひとつです。様々な制度が実施されており、審査を通過できれば返済不要であることから人気を集めています。その中でも起業時におすすめの制度が「小規模事業者持続化補助金」です。小規模事業者等が行う業務効率化や販路開拓などにかかる経費を補助する制度であり、起業時に必要となる様々な経費が対象となっています。
なお、小規模事業者持続化補助金には6つの類型があり、それぞれの補助内容は以下のとおりとなっています。
類型 | 補助上限額 | 補助率 |
通常枠 | 50万円 | 2/3 |
賃金引上げ枠 | 200万円 | 2/3 ※赤字事業者は3/4 |
卒業枠 | 2/3 | |
後継者支援枠 | ||
創業枠 | ||
インボイス枠 | 100万円 |
このように、小規模事業者持続化補助金は対象要件に応じて細かく分類されています。公募要領にしっかりと目を通し、該当する類型がある場合は積極的に活用していきましょう。
ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金
通称「ものづくり補助金」と呼ばれる制度で、中小企業等が行う革新的サービスの開発や、生産性向上を目的とした取り組みについて支援を受けることができます。「ものづくり」という文言が含まれていますが、制度趣旨に沿っていれば業種に関係なく支援を受けることが可能です。
補助内容は事業規模などによって変動しますが、ものづくり補助金の概要は以下のとおりとなっています。
項目 | 概要 |
対象事業者 | 従業員数または資本金の額が一定以下の中小企業等・個人事業主 |
対象経費 | 賃料・器具備品購入費・広告宣伝費・専門家指導費・人件費など |
補助額 | 750万円~3,000万円 |
補助率 | 1/2または2/3 |
小規模事業者持続化補助金に比べて採択のハードルは高くなりますが、補助金額が最大3,000万円と非常に魅力的な補助金になっています。ものづくり補助金を申請する際は、専門家への相談も検討しましょう。
起業・創業する際の資金調達:「出資」
ベンチャーキャピタル(VC)
ベンチャーキャピタル(VC)とは、将来有望な未上場企業に対して出資をする投資会社のことを指します。成長が見込まれる企業に投資を行い、投資先の企業が成長した後に株式や事業を売却することで収益を得ています。また、出資に加えて「ハンズオン」という経営支援も行っており、企業価値を上げるためのサポートを受けることが可能です。
ベンチャーキャピタル(VC)から資金調達を行うメリットとしては、返済不要の資金であることが挙げられます。さらに、ベンチャーキャピタル(VC)の持つ豊富な経営資源・経営ノウハウを活用することによって、事業を円滑に進めることができるでしょう。
その反面、将来的に上場を目指すような有望な企業でなければ、出資を受けることは困難となります。また株式保有率が低下することによって、起業者の議決権数も低下してしまいます。ベンチャーキャピタル(VC)は非常に頼もしい存在ですが、これらの注意点があることも理解しておきましょう。
自己資金
自己資金を資本として差し入れる方法は、起業するうえで最も基本的な資金調達手段です。自己資金を経営に充てることができれば、金利負担や資金調達先とのトラブルが発生するリスクもありません。しかし、高額な創業資金を要する場合に、すべてを自己資金でまかなうことは難しいでしょう。また、事業がうまくいかなかった場合には個人資産を失うリスクもあります。
外部から資金調達をするメリットのほうが大きいこともあるため、慎重に検討することが重要です。
社員持株会
社員持株会とは、従業員の給与から毎月一定額を天引きすることで、自社の株式を購入できる仕組みのことを指します。長期的かつ安定的な資金調達が可能となることに加え、従業員のモチベーション向上にもつながります。また、配当金を出すことによって福利厚生が充実し、優秀な人材の確保につながる場合もあるでしょう。
一方、無配当が続くと従業員のモチベーションが低下し、離職の原因につながるおそれがあります。社員持株会の設置を検討する際は、配当金の支払い基準や自社株の買い取り価額について規約中に明記しておくことが重要です。
エンジェル投資
エンジェル投資とは、創業間もない企業に対して個人投資家(エンジェル投資家)が行う出資のことを指します。エンジェル投資家は出資によって株式を取得し、投資先の企業が成長した後に売却して利益を得ることが目的です。つまり、上述したベンチャーキャピタル(VC)の個人投資家版といえるでしょう。将来有望な企業と認められる必要があるため、エンジェル投資を受けたい方は対策が必須です。
クラウドファンディング
近年、クラウドファンディングによる資金調達が一般的になりつつあります。クラウドファンディングとはインターネットなどを通じて出資を募り、不特定多数の人から少しずつ資金を調達する方法のことを指します。他の資金調達手段にはない「手軽さ」や「拡散性の高さ」、さらに「テストマーケティングとしても有効」という魅力があることから注目を集めています。
ただし、プロジェクトを成功させるには特徴的な商品やサービス、強い共感を呼ぶストーリー性などが求められます。目標金額を達成できない可能性もあるため、他の資金調達手段も事前に検討しておくことが重要です。
起業・創業する際の資金調達の方法に悩んだら、専門家への相談も検討
ここまでご紹介してきたとおり、起業・創業時の資金調達には様々な方法があります。それぞれにメリット・デメリットがあるため、目的や事業内容に応じて慎重に検討することが重要です。また、どの資金調達手段をチョイスすべきかお悩みの場合は、専門家への相談も検討してみてください。起業・創業を検討されている方にとって、本稿が少しでもお役に立てれば幸いです。