事業者が外部の個人や法人に対して払った報酬の内容を、国に報告する文書が支払調書です。支払調書の作成や提出に関しては、いくつかの義務が定められています。今回はそれらの義務の違いを解説するとともに、提出が必要となる基準なども説明します。また、提出義務の有無は報酬の種類や支払先の属性によって異なり、間違えるとペナルティの対象になることもあるのでご注意ください。
目次
支払調書の提出義務/作成義務/発行義務/本人交付義務とは
支払調書とは「社外の人に仕事を頼んだ者が、この1年で何を誰に払ったのかを国に知らせる報告書」です。結果として申告漏れなどの防止につながります。
関連記事:【税理士監修】支払調書と源泉徴収票|その違いと使い方を徹底解説!
ここでは4つの義務の違いを説明します。
提出義務 |
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作成義務 |
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発行義務 本人交付義務 |
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以下、それぞれ説明します。
提出義務・作成義務を負うのは「支出した側」
提出義務があれば必然的に作成する義務もあるので、これ以降は両者をまとめて提出義務と呼称します。
提出義務を負うのは法人と「源泉徴収義務者の個人事業主」
提出するのは、法人と「源泉徴収義務者の個人事業主」です。源泉徴収義務者とは、給与などを払う際に所得税を差し引いて国に納める義務を負う者です。法人は基本的に該当しますが、個人事業主は「従業員を雇っている個人」に限定されます。
例えば以下のような事例だと、提出は要りません。
- 個人事業主(従業員なし)が、税理士に確定申告を依頼する
- 個人が私的な調査を弁護士に依頼する
参考:No.2502|国税庁
参考:No.7400|国税庁
一方、義務違反は、1年以下の懲役または50万円以下の罰金の対象です(所得税法第242条)。
提出義務を負う基準は?例えば原稿料や講演料なら年50,000円超
同じ人に対し1年に払った額が一定額を超えると、提出義務を負います。基準は取引の種類によって異なるためご注意ください。
報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書
外部の人に払った1年の合計額が表右側の額を超えたら、提出義務を負います。
主な取引の種類 | 同じ人に対し1年でいくら払ったら提出義務を負うか |
| 50,000円超 |
| 50万円超 |
期限は、金額が確定した日の翌年1月末です。支払者の所轄の税務署へ、書面かe-taxなどで出しましょう。
参考:No.7431|国税庁
不動産に関係する支払調書
不動産の支払調書は3種類あります。下記の出金がある際は、該当の支払調書を出しましょう。
種類と主な出金 | 提出の条件 |
「不動産の使用料等の支払調書」
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「不動産等の譲受けの対価の支払調書」
| 同じ人に対し年100万円超を払っている |
「不動産等の売買又は貸付けのあっせん手数料の支払調書」
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3種類とも、金額が確定した日の翌年1月末が期限です。
参考:No.7441|国税庁
参考:No.7442|国税庁
参考:No.7443|国税庁
配当などその他の支払調書
支払調書には、配当や利子の報告、生命保険金や退職手当金の報告など30種類以上あります。上記で触れていない報告書の詳細は下記の国税庁ホームページをご確認ください。
参考:No.7401|国税庁
支払調書には発行義務や本人交付義務は存在しない
提出義務を負っていても、発行義務や、本人交付義務は負いません。つまり、税務署への提出はマストですが、支払先に渡す必要は無いのです。
例えば、法人AがフリーランスのライターBに原稿料として10万円を支出したら、法人Aは国に対し支払調書の提出がマストです。しかし、ライターBに渡す必要は無いのです。
仮にライターBが「支払調書をください」と法人Aに請求しても、法人Aは渡す必要はありません。
善意で支払先に送る発注者も存在しますが、負担軽減のため送らない選択をする発注者も多くいます。
発注者から支払調書を貰えなかった際の申告方法の詳細は下記の記事をご確認ください。
関連記事:支払調書って確定申告に必要?どこに入力する?書き方も解説
提出の義務化についてよくある質問2つ
ここでは、提出に関する疑問についてお答えします。
電子申告(e-tax等)による提出が義務化されるって本当?
はい、一定の条件を満たす場合は、すでに電子申告(e-Tax等)が義務化されています。
電子申告すべきか否かは、支払調書を含む「法定調書の提出枚数」によって決まります。2年前に出した法定調書が一定数以上だと、その年は電子申告がマストです。なお、2027年からはこの基準がさらに厳しくなります。
具体的には以下の通りです。
2026年12月までに法定調書を出す場合 | 2年前に出した法定調書の数が100枚以上なら電子申告が必要 |
2027年1月以降に法定調書を出す場合 | 2年前に出した法定調書の数が30枚以上なら電子申告が必要 |
例えば2025年1月末に支払調書を40枚出したら、2027年1月末にはe-Taxなどでの提出がマストです。
なお、電子申告とはe-taxや光ディスクによる提出などを指します。
参考:No.7455|国税庁
仮想通貨の利益を報告する支払調書も義務化される?
はい、仮想通貨で得た利益を報告する支払調書は、2021年以降義務化されています。仮想通貨の取引所は国に対し、利用者のマイナンバー付きの支払調書で報告します。
参考:F1-41|国税庁
例えばビットコインの取引があった場合、取引所は利用者の取引履歴や売却額を支払調書で国に報告します。よって、利用者が仮想通貨の利益を申告しなかった場合でも、国は取引所からの情報を元に取引を把握できます。
このように、仮想通貨の利益は国に把握されているため、無申告はすぐにバレてしまうでしょう。税務調査などで無申告が発覚した場合、より多くの税金を支払う追徴課税が発生する可能性があります。
税務調査・追徴課税の詳細は下記の記事をご確認ください。
関連記事:税務調査は何種類ある?それぞれの特徴や税務調査の流れについて解説
関連記事:追徴課税とは?加算税の種類や計算方法、対象期間について解説
なお、仮想通貨の申告や税金対策の詳細は下記の記事をご確認ください。
関連記事:知って得する!仮想通貨の税金対策9選
支払調書の判断が不安な方は税理士にご相談ください
今回は、支払調書に付随する義務についてポイントをお伝えしました。自分が仕事を受けてお金を貰った場合、発注者が自分に支払調書を送る義務はないので注意しなければなりません。支払調書なしでも申告できるよう、日頃から帳簿を付けておきましょう。
一方、外部の人に仕事を頼んでいたら、支払調書の提出が必要かもしれません。基準を確認し、必要な場合は忘れず提出しましょう。
ただし、提出義務の判断は難しい場面もあります。曖昧なまま提出すると、誤った税務処理と指摘されたり、不要な税務調査の対象となったりするリスクがあります。
判断に迷う場合は、税理士にご相談ください。税理士は税務の専門家です。豊富な知識と経験値で、正確な税務申告をサポートします。