会社を設立する際、決算日をいつにしようか迷う方も多いでしょう。法人は任意の日にちに設定できますが、自由に決められるからと言って適当に決めてしまうことはおすすめできません。決算日を決めるにはいくつかのポイントがあります。この記事では、決算日の概要や注意点を解説します。3月・9月・12月決算が多い理由や、避けた方が良い時期についても触れていますので、ぜひ参考にしてください。
目次
決算日とは
会社にとって大事な節目のひとつが『決算日』です。この日をもって、その企業の1年間の財務活動が締めくくられます。ここでは、決算日の概要について見ていきましょう。
決算日とは「事業年度の最終日」のこと
決算日は、企業の「事業年度」の終了日を指します。事業年度とは、企業の会計年度を示す期間です。「4月1日から翌年の3月31日まで」など、通常は1年間で定められます。この場合、決算日は「3月31日」です。
事業年度の最終月、つまり決算期には、企業はその年度の決算書を作成し、株主や税務署に報告する義務があります。決算書には、企業の利益や資産の状況が詳細に記載され、株主総会での議題とされます。
決算は年に2回行うことも可能で、これを「半期決算」と呼びます。半期決算では6か月ごとに収支を確認し、企業の財務状況をより頻繁に評価します。決算作業が増えるものの、年に1回の決算より迅速な経営判断や改善が可能です。
また、決算日を迎えると、企業は法人税や消費税といった税金の納付も行います。納税を行うために、法人を新たに設立したら税務署に法人設立届書を提出する必要があります。法人設立届書には、事業年度の期間を必ず記載しなければなりません。
なお、一旦定款に記載された事業年度を変更する場合は、株主総会の特別決議を経る必要があります。
関連記事:【公認会計士 税理士監修】上場会社の決算スケジュールについて
月の最終日である必要はない
決算日は「月の最終日でなければならない」と考える方が多いかもしれませんが、実はその必要はありません。例えば、「6月20日」や「11月11日」など、365日の中からどの1日を決算日としても良いことになっています。多くの大企業は3月末を採用しているため、子会社などもそれに倣うことが多いですが、必ずしもそうである必要はないのです。
実際、事業年度が1年以内に収まれば、好きな日にちを決算日として設定できます。これは法人税法13条でも認められている事項です。そのため、3月末決算が一般的であるとはいえ、事業の状況や利便性に応じて決定できます。
ただし、事務処理や報告の面での煩雑さを考慮する必要があります。特別な理由がない限り、一般的には月末を選ぶことがおすすめです。
参考:法人税法第十三条(事業年度の意義)|e-Gov法令検索
決算日から2ヵ月以内に納税しなければならない
企業は決算日から2ヵ月以内に法人税や地方法人税、消費税などの申告と納税を行わなければなりません。例えば、決算日が3月31日の場合、その2ヵ月後の5月31日が申告期限です。この期限が土曜日や日曜日、祝日に当たる場合は、翌営業日が期限として設定されます。
もし申告期限を過ぎても申告を行わなかったり、遅れて申告をした場合は、加算税や延滞税が課せられることがあります。したがって、決算日を決める際には、その2ヵ月後までに税金を納めることを念頭におくことが大切です。
個人事業主は決算日が決められている
個人事業主の場合、決算日は一律で12月31日です。事業年度は1月1日から12月31日までと税法によって定められているため、個別には選べません。その年に得たすべての所得について計算し、翌年の2月16日から3月15日までの間に確定申告を行います。
法人とは異なり、個人事業主は決算日を自由に選ぶことはできません。法人は事業年度を任意の期間に設定でき、決算日も月末である必要はありませんが、個人事業主は固定されています。そのため、個人事業主から法人化したケースでは、そのまま12月31日を決算日として引き継ぐ場合も多いです。
決算日は慎重に決めた方が良い
会社の設立日は縁起の良い日などで決めることもありますが、決算日を決める際は戦略的に行う必要があります。タイミングによっては、企業の節税や業務効率に大きな影響を与えるためです。
特に年間を通じて売上が大きく変動する企業では、売上が急増する月を避け、その直前の月を決算月にすると良いでしょう。節税対策を十分に検討する時間が確保でき、多額の法人税支払いを避けられます。また、想定していたよりも売上が少なかった場合、決算まで1年ほどの期間があるため、その間に黒字化戦略を練ることが可能です。
決算日を慎重に決めることで、経理業務の効率化と財務管理の向上が期待できます。不安を感じる場合は、税理士に相談することもおすすめです。
決算日のタイミングについてご不安がある方は「小谷野税理士法人」にお気軽にお問い合わせください。
決算日はいつが多い?
法人は決算日を任意に設定できますが、実際は何月何日に設定している企業が多いのでしょうか?ここでは、国税庁のデータをもとに、決算日を何月にしている企業が多いのか見ていきましょう。
大企業の半数以上は「3月決算」
国税庁によると、令和元年の決算期別の法人数は以下の通りです。
決算月 | 法人数 | 割合 | 1億円未満 | 割合 | 1億円以上 | 割合 |
1月 | 100,172 | 3.6% | 99,610 | 3.7% | 562 | 1.9% |
2月 | 180,631 | 6.6% | 179,400 | 6.6% | 1,231 | 4.2% |
3月 | 502,060 | 18.3% | 486,755 | 17.9% | 15,305 | 52.2% |
4月 | 195,004 | 7.1% | 194,471 | 7.2% | 533 | 1.8% |
5月 | 227,592 | 8.3% | 226,727 | 8.3% | 865 | 3.0% |
6月 | 268,192 | 9.8% | 266,778 | 9.8% | 1,414 | 4.8% |
7月 | 210,109 | 7.7% | 209,522 | 7.7% | 587 | 2.0% |
8月 | 240,760 | 8.8% | 239,973 | 8.8% | 787 | 2.7% |
9月 | 299,291 | 10.9% | 297,410 | 10.9% | 1,881 | 6.4% |
10月 | 134,262 | 4.9% | 133,758 | 4.9% | 504 | 1.7% |
11月 | 102,304 | 3.7% | 101,799 | 3.7% | 505 | 1.7% |
12月 | 285,436 | 10.4% | 280,317 | 10.3% | 5,119 | 17.5% |
(※年1回決算)
全法人の約18%が3月を決算月としており、資本金1億円以上の大企業に至っては52.2%と、半数以上を占めていることが分かりました。なぜこんなに3月を決算月に選ぶ企業が多いのでしょうか。
一つの理由は、日本の官公庁や学校が4月から新年度を迎えるためと考えられます。新しい税制や制度改定が4月から施行されることが多いため、企業にとっても3月決算にすることで、新年度のスタートを合わせやすくなるのです。また、人事異動や新卒採用も4月に集中するため、会計や業務の区切りを3月とすることが理にかなっていると言えます。
このように、3月決算は日本の社会や経済のリズムに適した選択と言えるでしょう。もちろん、企業は自社の状況や業務に応じて自由に選べますが、多くの大企業が3月決算を選んでいるのはこのような背景があるからです。
比較的落ち着いた「9月決算」を採用する会社も多い
全体で二番目に多いのが「9月決算」です。多くの企業にとって、9月は業務のピークと重ならないことが多く、決算業務に集中しやすいと言えます。
例えば、3月決算の場合、4月から新しい年度が始まり、人事異動や新入社員の対応で慌ただしくなります。また、12月決算では年末年始の繁忙期と重なり、多忙な時期に決算業務を行わなければならないことがあります。その点、9月はこうした社内外のイベントと重ならず、比較的余裕を持って決算業務に取り組めるのです。
さらに、9月を決算月とすることで、税理士や監査法人の繁忙期のピークを避けられ、スムーズに決算業務を進められます。こうした理由から、多くの企業が9月決算を選択しているのです。
海外取引がメインの企業は「12月決算」
海外との取引が頻繁にある企業は「12月決算」としていることが多いです。これは、海外企業の多くが12月を決算月としているため、現地の習慣に合わせていると考えられます。
欧米では12月決算を採用している企業がほとんどで、中国やドイツでは法令でどの企業も決算日を12月31日とするよう定められているためです。ちなみに、アップルやマイクロソフトなど、ダウ平均株価に採用されている30社のうち、3月決算を採用している企業は1社もありません。
最近、日本の企業でも、国際会計基準(IFRS)の適用やグローバルなビジネス展開を進める中で、3月決算から12月決算に移行するケースが増えています。例えば、花王や東洋ゴム工業などの大企業がこの動きを先導しています。会計の分野においても国際的な統一が進んでいるのです。
グローバルにビジネスを展開している企業以外にも、1月から12月までの暦年に合わせた事業年度を選ぶ企業も多いです。特に小規模な企業が法人化する場合、個人事業主時代の事業年度をそのまま採用することが多く見られます。既存の会計方法を変更することなく、スムーズに運営を継続できるメリットがあるためだと考えられます。
業種ごとにみると決算月はさまざま
業種ごとに決算月にはさまざまな傾向があります。例えば、小売業界では多くの企業が2月を決算月に選んでいます。これは「ニッパチ」と呼ばれる2月と8月が年間を通じて比較的閑散期であるためです。ボーナス商戦の反動で消費行動が落ち着くこの時期に決算を行うことで、業務に集中しやすくなります。
一方、アパレル業界では2月や3月、7月に決算を行う企業が多く見られます。これは、在庫の少ない時期に棚卸しを行いやすくするためです。また、アパレル業界では新商品の発表やシーズンの変わり目に合わせた決算月を選ぶ企業もあります。例えば、夏物や冬物の売上が落ち着く7月や、シーズン終わりの3月が人気の決算月となっています。
このように、各業界の特性や商習慣に応じて決算月が異なります。決算月を選ぶ際には、業界の傾向や自社の業務サイクルを考慮することが重要です。
決算日にしない方が良い時期
決算日をいつにすれば良いか迷っている方は、避けた方が良い時期を参考に決めるのも一つの方法です。一般的に3月決算を採用している企業が多いものの、3月が「会社の設立直後」「繁忙期」にあたる場合は決算日として設定しない方が良いです。もう少し具体的にみていきましょう。
設立日の直後
決算日を設立日の直後に設定するのは、避けた方が良いでしょう。多くの企業にとって設立前後は多忙を極める時期でもあり、各種手続きが集中します。設立後すぐに決算期を迎えると、煩雑な作業が続くことで本業に支障が出る可能性があります。
また、設立初期は売上が安定しないことが多く、決算までの期間が短いと十分な利益が確保できず赤字になるリスクが高まります。法人住民税の均等割分は赤字であっても納税しなければならないため、赤字決算を避けるためにも設立直後に決算日を設定しないようにしましょう。
自社の繁忙期
自社の繁忙期もおすすめできません。決算月は通常業務に加えて多くの会計処理が必要になるため、忙しい時期に重なると会社への負担が大きくなります。例えば、販売のピークや新商品のリリース時期などに決算が重なると、業務効率が低下する可能性が高いです。
繁忙期には想定外の利益や損失が発生することがあり、決算までの時間が十分に確保できないため、適切な対策が難しくなることもあるでしょう。企業ごとに繁忙期は異なるため、自社の年間スケジュールをよく検討し、最適な決算日を選定することが大切です。
税理士や会計士の繁忙期
決算日は自社の業務状況だけでなく、関係する専門家のスケジュールも考慮して設定することが重要です。一般的に、税理士の繁忙期は年次決算や年末調整、個人の確定申告が集中する11月から5月までです。この時期に設定すると、税理士や会計士の手がいっぱいで依頼できない可能性があります。
税理士や会計士の繁忙期を避けることで、余裕をもって自社の決算業務に取り組んでくれるでしょう。「決算にあたって税理士に相談したい」「節税のアドバイスを受けたい」と考える場合は、繁忙期を避けることでより安心して進められます。
決算日のタイミングについてご不安がある方は「小谷野税理士法人」にお気軽にお問い合わせください。
決算日を決める際のポイント
決算日を決める際は、以下の4つのポイントにも注意しましょう。特にこれから起業する方は、キャッシュフローや取引先との連携にも関係してくるため、参考にしてください。
売上が見込める日を期首にする
売上が高くなる月を事業年度の初めに設定することで、決算までの期間が長くなり、節税対策をしやすくなります。例えば、7月に売上が多くなる企業の場合、その直前の5月末や6月末を決算日に設定するのが賢明です。期首に売上が見込める月が来ることで、その後の期間で節税対策を行う時間が十分に取れます。
一方、売上がピークを迎える月を決算月に設定してしまうと、予想外の売上があった場合、短期間で節税対策を行う必要が生じ、計画が難しくなります。このため、売上の季節変動が大きい業種では、期首に売上が見込める月を設定することが効果的です。
消費税の免税期間が短くならないように注意する
決算日のタイミング次第では、消費税の免税期間が短くなることがあります。資本金が1,000万円未満の企業は、設立から最初の2事業年度は消費税の納税義務が免除されます。ここで重要なのは、免税期間は「2年間」ではなく「2事業年度」であることです。
例えば、設立日から1年後を決算日とした場合の免税期間は2年間ですが、設立から3か月後に設定すると、1期目が3か月・2期目が1年となり、免税期間が1年3か月に短縮されてしまいます。このため、設立日からできるだけ離れた日を決算日に設定するのが得策です。
ただし、1期目の開始から6か月間の課税売上や給与の支払いが1,000万円を超える場合は、2期目から消費税の納税義務が生じるため、注意が必要です。不安を感じる場合は税理士に相談すると良いでしょう。
消費税納付について、ご不安がある方は「小谷野税理士法人」にお気軽にお問い合わせください。
参考:No.6531 新規開業又は法人の新規設立のとき|国税庁
関連記事:【税理士監修】起業1年目で消費税の還付は受けられる?分かりやすく解説
取引先や親会社の決算日を考慮する
自社の決算日を決める前に、取引先や親会社など、関係各所の決算日を確認しましょう。取引先に合わせることで、業務の連携がスムーズになり、コミュニケーションが円滑に進むケースがあります。
また、親会社やグループ会社がある場合、連結決算を行うために決算期を揃えることが必要です。財務報告や監査の効率が向上し、グループ全体の財務管理がしやすくなるメリットがあります。
決算日は後から変更することも可能
事業が進むにつれて、最初に設定した決算日が不都合になる場合があります。その際は、決算日を後から変更することも可能です。ただし、株主総会で特別決議を行い、定款の変更を承認してもらう必要があります。これは、多くの会社で事業年度が定款に記載されているためです。
決議が通ったら、納税地の税務署や都道府県税事務所、市区町村役場に異動届出書を提出します。この際、定款の写しや株主総会の議事録も添付する必要があります。なお、事業年度の変更は登記事項ではないため、法務局での手続きは不要です。
決算日を変更することで、資金繰りや業務の改善が期待できますが、一方で手続きの手間や短期間での決算業務が発生するデメリットも考慮する必要があります。
関連記事:決算期(月)は変更可能?メリット・デメリットや手続き方法まとめ
自社に最適な決算日を決めよう
決算日は事業年度の区切りとなるため、設立日からの期間や繁忙期、資金繰り、納税スケジュールなど、さまざまな要素を考慮して慎重に決定しましょう。決算日が近づくと業務が忙しくなるため、事前に準備を進めて業務負担を軽減できるような仕組みづくりも重要です。
忙しくなりがちな決算期をトラブルなく乗り切るためには、決算日を決める際に税理士に相談されることをおすすめします。「自社の決算日はいつがベストなのか分からない」「専門家の意見も取り入れたい」という方は、私たち「小谷野税理士法人」が全力でサポートしますので、ぜひお気軽にご相談ください。