正しい帳簿の付け方について、理解を深めたいと考えている方は多いのではないでしょうか?帳簿とは、法人や個人事業主が事業で発生した取引やお金の流れを記録する書類のことです。決算書や確定申告書類を正しく作成するためには、お金の流れや取引の詳細を日々の経理業務で正しく記録することが重要です。ここでは、帳簿の重要性、帳簿の付け方の基本と注意点について詳しく解説します。正しく経理業務を行うために、活用してみましょう。
目次
正しい帳簿付けが求められる理由
正しい帳簿付けが求められる主な理由は、正確な納税の実現と財務や経営戦略への活用です。すべての事業主にとって、帳簿を作成することは法律で定められた義務です。
日本では、収入から税金を計算し、申告と納税手続きを行う申告納税制度が導入されています。
法人や個人事業主は、所得税や法人税などを適切に計算し、申告しなくてはいけません。日々のお金の流れや取引を記した帳簿をもとに、一年間の所得と納税額を計算するため、帳簿に記帳ミスや記帳漏れがあると、正確な申告や納税が困難になるのです。
また、正確な帳簿は、経営の効率化や安定にも貢献します。正しい帳簿から財務や経営の状況を把握できるため、今後の財務や経営戦略を考えるときに役立つからです。
事業主が知るべき「帳簿」の種類は2つ
帳簿には、主要簿と補助簿があります。主要簿とは、日々のお金の流れや取引を記した帳簿のことで、補助簿とは、主要簿に記載できない取引の詳細を補うために作成する帳簿です。申告方法によって必要な帳簿が異なるため、帳簿の種類と、種類ごとの概要について把握しておきましょう。
主要簿
仕訳帳、総勘定元帳、日記帳の3つの帳簿が、主要簿に該当します。
原則、主要簿は複式簿記にて作成します。
仕訳帳
日々の取引を借方と貸方に分け、日付ごとに記帳します。借方には、資産の増加や費用の支払いが発生した取引を記帳し、負債や純資産の増加、収益が発生する取引のときは、貸方に記載します。正しい経理や会計業務を実現する基礎となる帳簿であることから、主要簿の中でも特に、適切な記帳が求められます。
総勘定元帳
仕訳帳に記載した取引を基に、売上、仕入れといった勘定科目ごとに取引を記録するのが総勘定元帳です。勘定科目ごとに取引の内容や金額をチェックできるため、財務や経営の戦略立案や見直しに役立ちます。
日記帳
お金の出入りが関連する取引について、日付ごとに記録したものです。主要簿に該当しますが、円滑な会計処理をサポートする書類であるため、作成義務はありません。
補助簿
主要簿だけでは詳細が分かりづらい情報を記載したものが補助簿で、補助元帳と補助記入帳に大別されます。
補助元帳
特定の勘定科目に対して、詳しい情報を記載します。補助元帳には以下の帳簿が該当します。
- 売掛金元帳
- 仕入先元帳
- 得意先元帳
補助元帳は、大きく3つが存在することを覚えておきましょう。
補助記入帳
取引の順序や日時ごとに詳細を記録したもので、以下の帳簿が該当します。
- 現金出納帳
- 預金出納帳
- 支払手形記入帳
- 受取手形記入帳
- 仕入帳
- 売上帳
補助簿については、業種や取引の内容に応じた作成が求められます。取引数が多いもの、特に把握しておきたい取引があるときは、補助簿を作成しておくと便利です。
帳簿の付け方の基本
帳簿を正しく付けるためには、記帳方法と帳簿を付けるタイミングを理解することが大切です。ここからは、基本的な帳簿のつけ方について解説します。
帳簿の記帳方法
帳簿を記帳するにあたり、「簡易簿記」と「複式簿記」の2つがあり、申告のやり方などを考慮して、適切な記帳方法を選びます。
簡易簿記は、現預金の増減を基準に、実際のお金の流れや取引を1つの帳簿で管理します。簡単に言うと、お小遣い帳や家計簿のようなやり方で、帳簿を付ける方法です。
一方で、複式簿記は、資産、負債、収益、費用などを複数の帳簿を併用しながら、記帳と管理を行います。複数の帳簿を作成する必要があり、簡易簿記よりも記帳が複雑ですが、青色申告には複式簿記が求められます。
また、複式簿記における借方と貸方は、必ず一致するため、帳簿をチェックすることで、間違いを即座に把握できることも利点の一つです。
さらに、複式簿記は、お金の流れだけでなく、法人や個人事業主の保有資産や負債までを明記するため、的確な財務諸表の作成に結びつきます。
上場企業は、利害関係者に対して経営や財務状況を財務諸表を通じて公表することが義務付けられています。そこで、多くの法人で複式簿記による記帳が行われているのです。
記帳のタイミングは取引が発生したとき
帳簿を付けるときは、支出や入金があったタイミングではなく、取引が発生したタイミングで記帳します。記帳のタイミングには、一般的には現金主義と発生主義があります。
現金主義は、現預金に動きがあったタイミングで記帳します。例えば、売上が発生し、売上代金を現金で受け取った時点で、取引を帳簿に付けるのです。
一方で、発生主義は、現預金に動きがなくても取引が発生した時点で帳簿に付けます。例えば、入金予定を2週間後とする売上が発生した段階で取引に関する記帳をし、後日、入金が確認できた時点で入金があったことを示す記帳をします。
原則、法人、個人事業主共に発生主義で帳簿を付けますが、特定の条件を満たす個人事業主は現金主義による記帳も可能です。
青色・白色から申告方法を選ぶ
確定申告には、青色申告と白色申告の2通りの方法があり、申告方法の選択が可能です。白色申告と青色申告では、主に4つの違いがあります。
まず1つ目が、帳簿の付け方が異なります。白色申告は単式簿記、青色申告は複式簿記での記帳が原則です。2つ目が、白色申告を選んだ場合、事前の届け出が不要であるのに対し、青色申告は事前の申請が必要です。
3つ目が、青色申告を選択すると最大で65万円の控除を受けられ(個人事業主のみ)、節税効果が高いことです。さらに、欠損金が発生した場合、最大で3年間の繰り越しが可能であること、欠損金を繰り戻して、前期分の売上と相殺することによる節税効果が期待できます。
4つ目は、提出書類の違いです。白色申告は簡易的な収支内訳書であるに対し、青色申告では、より詳細な経営や財務状況を示す青色申告決算書が求められます。
節税効果、経営や財務への活用を考慮し、個人事業主、法人共に青色申告を選択しているケースが多いです。
関連記事:個人事業主の青色申告とは?いくらから必要?メリット・デメリットや帳簿の書き方などについて解説!
帳簿を付ける流れ
日々発生する取引を正しく記帳する仕訳帳を中心に、帳簿を付ける流れについて詳しく紹介します。経理業務を行う基本となるため、しっかりと理解することが大切です。
お金の動きが関わる全ての取引を、借方と貸方に分け、取引ごとに適した勘定科目を使って記帳するのが仕訳です。
複式簿記では、取引が発生した「原因」と、取引による「結果」を適切に記録するために、仕訳を行います。
仕訳のやり方
帳簿を付けるときは、正しく仕訳を行うことを意識します。帳簿の内容が、経営や税務、財務に多大な影響を与えるからです。
例えば、業務で使うタブレット端末を10万円で購入したとき、取引が発生した原因は業務での必要性です。そして、タブレット端末を購入したことで、現預金が減少したことが取引による結果です。この取引を以下のように仕訳します。
日付 | 借方 | 貸方 | 摘要 | ||
10/1 | 器具備品 | 10万円 | 現金 | 10万円 | タブレット端末 |
金額は、領収書やレシートを基に一円単位まで正確に記し、取引の内容が明確となるように摘要に必要事項を記載します。
総勘定元帳への転記
仕訳帳の内容を基に、総勘定元帳に転記します。仕訳帳が、取引を日付ごとに記帳したものであるのに対し、総勘定元帳は勘定科目ごとに取引をまとめたものです。
仕訳帳を見ただけでは、勘定科目ごとの残高を把握できません。そこで、勘定科目ごとに取引をまとめることで、必要な情報を確認しやすくします。総勘定元帳は、仕訳帳の情報を基にしているため、仕訳が間違っていると、総勘定元帳にも誤りや漏れが生じます。
先ほど、タブレット端末を購入した取引を事例に、仕訳帳から現金の総勘定元帳に転記します。
日付 | 相手勘定科目 | 摘要 | 借方 | 貸方 | 残高 |
前月より繰越 | 20万円 | ||||
10/1 | 器具備品 | タブレット端末 | 10万円 | 10万円 |
このように、総勘定元帳を確認すれば、現金の出入り、残高をすぐに確認できるのです。
必要に応じて補助簿に記帳する
必要があれば、補助簿へ記帳しましょう。例えば、取引先の数が多く、取引先ごとに売掛金を管理したい場合は、「売掛金元帳」に記帳しておくと、取引状況をすぐに確認できます。
主要簿である仕訳帳と総勘定元帳は業種を関わず、記載しなくてはいけない帳簿です。しかし、補助簿については必須ではないため、必要な帳簿だけを記帳します。
帳簿の保存期間
帳簿は法律によって保存期間が定められています。具体的に、どの程度の期間の保存が必要であるのかを見ていきましょう。
法人の帳簿保存期間は7年もしくは10年
法人は、下記帳簿について法人税法では一般的には7年間、会社法では10年間の保管が必要です。
- 仕訳帳
- 総勘定元帳
- 売掛帳
- 買掛帳
- 現金出納帳
- 固定資産台帳など
また、決算書や財務諸表(貸借対照表や損益計算書)などの決算関係の書類も、帳簿の保存期間と同様です。請求書や見積書といった取引関連の書類については、法人税法で7年間の保存義務が定められていますが、会社法での保存義務はありません。
個人事業主の帳簿保存期間は7年
青色申告を選択している個人事業主も、帳簿を一定期間保存しなくてはいけません。帳簿や決算関係の書類については、法人と同様に7年間の保存が義務付けられています。
青色申告の場合、領収書や預金通帳など、現預金関係の書類は7年間、請求書や見積書などの取引書類は5年間の保存義務が設けられています。
適格請求書(インボイス)の保存期間は7年
2023年10月より導入された適格請求書ですが、仕入れ税額控除を適用するためにも、インボイスに対応した請求書を7年間保管しなくてはいけません。
個人事業主の場合、申告方法や収入金額によっては、5年間の保存義務が課されている帳簿でも、適格請求書に該当する場合は7年間の保存義務が生じます。
参考:国税庁 適格請求書等保存方式(インボイス制度)の手引き
赤字決算のときは帳簿の10年間保存
青色申告を選択している個人事業主、法人共に、赤字が発生した分を次の事業年度に繰り越せ、法人の場合は最大で10年間の繰り越しが可能です。
赤字のときは、領収書、決算書や総勘定元帳など10年間の保存が必要であることから、法律で定められている年数ではなく、10年間保管しておくと安心です。
関連記事:修正申告とは?税務調査で修正申告が発生するのはどんな時なのか詳しく解説
正しく帳簿を付けるために押さえておきたいポイント
帳簿を正しく付けることは、正しい納税、節税対策、経営戦略への活用といったさまざまな効果が期待できます。ここでは、正しく帳簿を付けるために押さえておきたいポイントについて、紹介します。
正確な記帳を徹底する
帳簿を付けるときは、正確に付けることを意識してください。記帳の基になる領収書や請求書などを確認し、金額や取引の内容などに間違いがないように注意して記帳することです。
記帳を誤ってしまうと、後日現預金の金額が合わなくなってしまうなど、帳簿上の額と実際の額にズレが生じてしまいます。帳簿の誤りを見つけるのに手間がかかり、税務や会計手続きにも支障が出ます。
また、記帳の誤りに悪意がなかったとしても、税務調査が入ったときなどに、不正経理を疑われることもあるのです。
簿記や経理の知識が不足していると、借方と貸方を間違えるなど、初歩的なミスを起こしがちです。仕訳のことで困ったときは、税金や経理のプロである税理士に相談してみましょう。
関連記事:税理士の相談料について知っておくべきこととは?料金相場と選び方のポイント
発生した時点で仕訳をする
取引が発生した時点で、仕訳をすることを徹底してください。取引内容に応じた適切な勘定科目や仕訳が分からず、誤って仕訳をしたり、仕訳を後回しにしたりすることも出てくるでしょう。
記帳を後回しにすると、漏れやミスが発生しやすくなるため、発生した時点で仕訳することです。
インターネットで検索すると、仕訳や勘定科目に関する情報を容易に入手できます。しかし、取引の内容が同じでも、法人や個人事業主によっては適した勘定科目が異なることもあり得ます。
仕訳時の勘定科目で悩んだときは、税理士のアドバイスが効果的です。
効率良く帳簿を付ける
帳簿を付ける主な方法として、手書き、Excel、会計ソフトがありますが、効率良く帳簿付けできる方法を選びましょう。
効率性や正確性を重視するなら、会計ソフトでの帳簿作成が効果的です。手書きやExcelでの帳簿付けは、簿記の知識を習得できるというメリットがあります。しかし、仕訳帳だけでなく、総勘定元帳や補助簿を別で作成しなくてはならず、作業効率が低下するからです。
仕訳帳に記帳すると、自動的に総勘定元帳は各種補助簿を作成してくれる会計ソフトが多いため、入力や仕訳の手間を大幅に軽減できます。
また、新たに仕訳帳を基に帳簿を作成する必要がないことから、転記ミスや漏れも減らせます。会計ソフトは、簿記の知識がなくても、作業できるものが多く、貸借対照表や損益計算書といった決算書の作成も容易です。
無料で利用できる会計ソフトもありますが、使い勝手などを理由に有料ソフトを検討するかもしれません。会計ソフトの種類もたくさんあるため、個々のニーズに合ったソフトを選ぶことが大切です。
帳票書類の適切な保管
帳簿を付ける基になる領収書、レシートといった帳票書類は、後ですぐに確認できるように、整理、保管しておくことです。
例えば、仕訳帳の順に帳票書類を保管したり、仕訳伝票ごとに帳票をまとめたりといったように、帳簿の内容と結び付けて保管しておくと、必要な帳票類を見つけやすくなるはずです。
また、2024年1月より、電子帳簿保存法の施行による帳票書類の電子保存が可能となりました。レシートなどは、時間の経過と共にインクが薄れて、内容を確認できなくなることもあり得ます。
紙だけでなく、PDFなどでデータ保存することで、帳票書類を探しやすくなるだけでなく、スペースを有効活用できるでしょう。
帳簿を付けないことによるリスク
法人、個人事業主問わず、帳簿の作成は義務です。帳簿を付けないことは、正しい税額を計算できないだけでなく、追徴課税のリスクが高まります。
正しく帳簿を付けていないと、納税額のミスが生じやすいです。誤って税金を多く納め過ぎていても、払い過ぎた分は、自動的に還付されません。また、本来納めるべき税金が不足していると、追徴課税されます。
税務調査が入ったときに、帳簿の付け方が適切ではない、法定で定められた帳簿や書類が不足、保管されていないと、ペナルティを受ける可能性が高まります。正しい納税と節税対策を両立させるためにも、適切な帳簿作成を目指しましょう。
関連記事:税務調査はどこまで調べるのか?知っておきたい対象範囲や注意点・手続きなどを詳しく解説
まとめ | 帳簿の付け方を理解し経営や財務に活かそう
法人、個人事業主共に帳簿の作成は義務で、正しい帳簿の付け方を習得することは、適切な税務や会計につながります。また、帳簿を基に経営や財務戦略の立案や改正を行うことから、正しい帳簿の付け方は、経営にも役立つと言えます。帳簿の付け方に不安があるとき、税務手続きが心配なときは、税理士のサポートやアドバイスを受けましょう。