中小企業経営強化税制という制度があるのをご存じでしょうか。本制度は設備投資を行った場合に税制上の優遇措置を受けられる制度で、中小企業にとっても多くのメリットがあります。今回この制度における改正が行われ、いくつかの変更点が加えられました。そこで本記事では、中小企業経営強化税制の概要や延長などの変更点、手続きの流れを解説します。中小企業経営強化税制の活用を検討している事業者の方は参考にしてください。
目次
改正前の中小企業投資促進税制とは
中小企業経営強化税制は、平成29年度税制改正において、中小企業投資促進税制を拡充するために設けられました。この改正では、中小企業投資促進税制自体も一部見直されています。
概要
青色申告を行う中小企業が指定期間内に特定の機械装置などを取得した場合、特別償却または税額控除の優遇を受けられる制度です。ただし所有権移転外リース取引の場合は、税額控除のみが適用されます。
対象者
本制度の対象となる中小企業は主に以下の通りです。
- 資本金または出資金が1億円以下の法人
- 資本または出資を有しない法人のうち、従業員数が1,000人以下の法人
- 農業協同組合や商店街振興組合など
対象物
控除の対象となるものは以下の通りです。
- 機械装置
- 測定工具・検査工具
- 一定のソフトウェア
- 車両および運搬具
- 船舶
参考:No.5433 中小企業投資促進税制(中小企業者等が機械等を取得した場合の特別償却又は税額控除)|国税庁
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令和7年税制改正大綱によって中小企業経営強化税制の内容に変更
まずは中小企業経営強化税制がどのような制度なのかについて、また令和7年税制改正大綱による改正の内容についてご紹介します。
中小企業経営強化税制の概要
中小企業が経営力向上計画の認定を受けてその計画に必要な設備を取得した場合、税制上の優遇措置が受けられる制度です。
中小企業経営強化税制は、法人税や所得税において、取得設備を全額「即時償却」できたり、10%もしくは7%を税額控除できたりします。税額控除の上限は、法人税額の20%相当額です。
条件
本制度の適用条件は以下の通りです。
- 青色申告書を提出している
- 資本金または出資金が1億円以下の法人、もしくは従業員数が1,000人以下の法人または個人
優遇
続いて中小企業経営強化税制で適用される優遇について解説します。
優遇の種類 | 概要 | 注意点 |
税額控除 | 設備取得費用の10%を法人税から控除できる制度 |
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即時償却 | 一定の条件を満たす設備費用を、取得年度に全額経費計上できる制度 |
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どちらの制度が有利になるかどうかは企業の状況や投資計画によって異なります。また設備の区分によって適用要件や手続きが異なるので、注意しましょう。
改正の内容
2025年度税制改正では中小企業経営強化税制の適用期限を2年延長し、制度内容を見直す予定です。具体的には、以下の点が変更されます。
対象設備の類型の見直し |
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売上高100億円超企業への支援強化 | 売上高100億円超の企業創出を促進するため、B類型を拡充 |
関連記事:中小企業の税制優遇とは?令和5年度の改正内容と活用方法のポイント
令和7年税制改正大綱改正のポイント
続いて、令和7年税制改正大綱改正において知っておきたい3つのポイントについて解説します。
国内投資の持続的拡大
中堅企業への成長ポテンシャルが高い企業創出を推進するため、中小企業経営強化税制が拡充・延長されます。
例えば、地域経済を牽引する企業の成長促進を目的とした地域未来投資促進税制も拡充・延長されました。スタートアップへの資金供給を促すエンジェル税制も拡充されます。
さらに赤字の企業でも投資を継続できるよう、賃上げを行う企業を対象に固定資産税の特例措置が延長、軽減率も引き上げられます。
中小企業の活性化
中小企業の賃上げを促進するための税制措置や、事業承継税制の拡充などが盛り込まれています。中小企業の活性化のための税制改正ポイントは以下の通りです。
- 事業承継税制の見直し
- 中小企業経営強化税制の拡充・延長
- 中小企業投資促進税制の延長
- 中小企業防災・減災投資促進税制の延長
- 固定資産税の特例措置の拡充・延長
これらの措置により、中小企業の持続的な成長と地域経済の活性化が期待されています。
国際課税制度への対応と環境整備
国際課税制度は経済のデジタル化やグローバル化に伴い、大きく変化しています。令和7年度税制改正大綱では、こうした国際的な課税制度の変動に対応し、企業のグローバルな活動を支援するための環境整備が重点的に行われます。
例えば、日本では同制度や関連する既存の類似措置における事務負担を軽減するために、課税制度手続きの簡素化が検討されました。
エネルギーサプライチェーンの強化
国際的な税制動向を踏まえ、デジタル課税や炭素税などの新たな税制が検討されます。また企業の国際競争力を強化すべく研究開発税制やイノベーションボックス税制など企業の投資を促進する税制措置も講じられます。
エネルギーサプライチェーンの強化のために検討されている施策をご紹介します。
- 減耗控除制度の延長など
- 電気供給業・ガス供給業に係る課税方式の検討
- 車体課税の見直し
- 次世代半導体税制の新設
参考:経済産業関係 令和7年度(2025年度)税制改正のポイント|経済産業省
中小企業経営強化税制の手続きの流れ
中小企業経営強化税制は4種類の設備によって手続きの方法が変わってきます。ここからはそれぞれの設備の手続きについて簡単に解説します。
A類型 |
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B類型 |
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C類型 |
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D類型 |
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C類型は令和7年4月1日で廃止予定です。
関連記事:中小企業の事業継承|種類や活用できる支援施策まとめ
税額控除と即時償却のメリット・デメリット
税額控除と即時償却のそれぞれのメリット・デメリットについてまとめたので、以下を参考にしてどちらを選ぶか検討しましょう。
メリット | デメリット | |
税額控除 | 即時償却よりも納税額が低くなる可能性がある | 利益が少ない場合は節税効果がほとんどない |
即時償却 | その年の法人税の課税対象となる所得が抑えられる | 長期的に見ると、節税効果は限定的 |
税額控除は控除額が法人税額(所得税額)の20%が上限のため、設備投資額が多額であっても全額控除できるとは限りません。また即時償却は初期のキャッシュフローを改善できますが、将来の減価償却費が減少し、税負担が増加する可能性があります。
どちらの制度が有利かについては企業の状況や投資計画によって異なるため、税理士などの専門家に相談することをおすすめします。
中小企業経営強化税制に関するよくある質問
最後に中小企業経営強化税制に関するよくある質問をまとめたので、認定を受ける際の参考にしてください。
申告時に必要な書類は何がある?
中小企業経営強化税制の申告時には、以下の書類の写しを添付する必要があります。
- 中小企業経営強化法の認定書
- 中小企業経営強化法の認定の申請書
- A類型の場合:工業会証明書
- B、C、D類型の場合:経済産業局の確認書
業種問わずに利用できる?
中小企業投資促進税制で認められている指定事業が対象となります。指定事業の一例は以下の通りです。
- 製造業
- 建設業
- 農業
- 林業
- 漁業
- 水産養殖業
- 鉱業
- 採石業
- 卸売業
- 運送業
- 倉庫業
- 小売業
- 飲食店業
より詳細な指定事業については、国税庁のホームページをご確認ください。
設備の修繕をした場合は対象になる?
設備の修繕は対象となりません。また、中古品は対象外となるので注意しましょう。
税額控除限度超過額の繰り越しはできる?
繰り越し期間は1年間となっています。
他の税制との重複適用はできる?
同じ減価償却資産で2つ以上の特別償却・税額控除は適用できません。
参考:No.5433 中小企業投資促進税制(中小企業者等が機械等を取得した場合の特別償却又は税額控除)|国税庁
中小企業経営強化税制 Q&A集(ABCD類型共通)|中小企業庁
まとめ
中小企業経営強化税制は中小企業が経営力向上計画に基づき一定の設備投資を行うと、税制上の優遇措置を受けられる制度です。この制度によって中小企業は設備投資にかかる税負担を軽減し、生産性向上や経営力強化を図れるようになります。
しかしこれらの控除を受けるためには、一定の要件を満たす設備投資である必要があります。また必要な書類や手続きも多く、申請に時間と手間がかかることが多いです。書類の作成方法や申請のやり方について不安がある場合は、税理士のサポートを受けてみましょう。
中小企業経営強化税制の申請について不安なことがあれば、どんな小さなお悩みでも「小谷野税理士法人」までお気軽にお問い合わせください。