繰越欠損金は使い方次第で税金対策にもなり得るのをご存じでしょうか。この制度を正しく理解しておかないと、場合によっては数百万円単位の損が生じる恐れがあります。今回は、基礎的な知識と利用するための条件、期限や上限金額、仕訳方法などについて簡単に解説します。適切な節税を行うためにも、欠損金の繰り越しについて理解を深めましょう。
目次
繰越欠損金とは?
繰越欠損金とは、税務上の赤字を翌事業年度以降へ繰り越すことで黒字と相殺し、その事業年度の法人税等を抑えることです。正確には「欠損金の繰越控除」と言い、欠損金とは税務上の赤字を指しています。
この制度は、企業が事業を行う上でのリスクを軽減し、財務的な健全性を保つために重要です。特に、事業が不調に陥った際に生じる損失を将来の利益で相殺できるため、企業の経営戦略に大きな影響を与えます。
翌期も赤字で損金の額に算入できなかった場合は、第3期目、第4期目と繰り越されていきます。ただし、繰り越せる期間には上限があるため注意が必要です。
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繰越欠損金を利用するための条件
節税に役立つ制度ですが、誰でも利用できるわけではありません。利用する場合は、以下の条件を全て満たす必要があります。
- 欠損金が生じた事業年度において、青色申告で確定申告をしている
- その後の事業年度に関しても、連続して確定申告をしている
- 帳簿書類等を適切に保存している
そもそも繰越控除は、青色申告の法人にだけ認められています。したがって、制度を活用するには青色申告で確定申告しておく必要があります。
基本的に申請はどの法人でも認められており、これから事業を始める場合は会社設立後、あらかじめ申請しておきましょう。
繰越欠損金の繰越期限
現在の繰越期限は10年です。例えば1年目に100万円の赤字が出た場合、2年目から11年目まで繰り越して黒字になった年度に相殺可能です。この改正は、2018年4月1日以後に開始する事業年度において生じた欠損金額から適用されています。
適用事業年度 | ~2008年3月31日 | 2008年4月1日〜 2018年3月31日 | 2018年4月1日〜 |
繰越期限 | 7年 | 9年 | 10年 |
繰越期限については、今後も法改正により変更になる可能性があるため注意が必要です。
繰越欠損金の上限金額
控除できる額には限度があり、中小法人等とそれ以外の法人で異なります。上限金額は企業の資本金の金額によって決められており、資本金が1億円以下の中小企業においては上限金額はありません。
一方、資本金が1億円を超える大企業については、以下の図のとおり上限金額が定められています。
欠損金が生じた事業年度 | 資本金 1億円超の企業 | 資本金 1億円以下の企業 |
2012年4月1日~2015年3月31日 | 80% | 100% |
2015年4月1日~2016年3月31日 | 65% | |
2016年4月1日~2017年3月31日 | 60% | |
2017年4月1日~2018年3月31日 | 55% | |
2018年4月1日~ | 50% |
表を見ての通り、大企業の上限額は年々減少傾向にあり、相対的に中小企業の方が優遇されているといえます。今後の法改正でさらに変更される可能性があるため、実際に欠損金を利用する際には必ず国税庁のホームページを確認しましょう。
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欠損金の繰戻し還付制度とは?
繰戻し還付制度は、各事業年度において生じた欠損金額を、その事業年度開始の日前1年以内に開始した事業年度に繰戻すことにより、すでに納付した税金の還付を受ける制度です。青色申告している法人と災害損失欠損金のある法人が対象となります。
欠損金繰戻還付制度を受けるには、資本金が1億円以下の中小企業で以下のすべての要件が必須です。
- 還付所得事業年度から欠損事業年度の前事業年度までの各事業年度について連続して青色申告書である決算申告書を提出している
- 欠損事業年度の青色申告書である決算申告書をその提出期限までに提出している
- 決算申告書と同時に欠損金の繰戻しによる還付請求書を提出する
現在、欠損金の繰戻しによる還付は、基本的に中小企業者等にのみ適用されています。また、資本金1億円以下の法人であっても、資本金5億円以上の企業の100%子会社は条件をすべて満たしていても適用の範囲外です。
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繰越欠損金の税効果会計
税効果会計とは、企業会計と税務会計上のずれを調整して、適切に期間損益を求めるための手続きのことです。上場企業など、一部の企業に対して適用が義務付けられています。
企業会計とは、企業の年度内収益と費用を算出する会計業務を指します。一方で税務会計とは、企業が年度内に得た所得にかかる税金額を算出する会計業務のことです。
欠損金の繰り越しは、発生した時点では会計上の項目に含まれませんが、将来の税額を増減させる要素となるため、税効果会計の対象に含まれています。そのため、制度を利用する際には税効果会計の方法も正しく理解しておく必要があるでしょう。
繰越欠損金を計上する仕訳
欠損金を繰り越す場合、借方に繰延税金資産を計上し、貸方に法人税等調整額を計上します。また、欠損金をそのまま記載せずに法定実効税率をかけて事業年度の法人税額を出してから計上しなければなりません。
仮に繰越欠損金が500万円で、法定実効税率を30%とした場合、仕訳は以下の通りになります。
繰越欠損金 500万円× 法定実効税率 30%=150万円
借方 | 借方金額 | 貸方 | 貸方金額 |
繰延税金資産 | 150万円 | 法人税等調整額 | 150万円 |
繰越欠損金は、将来の課税所得と相殺し税負担を軽減できるため、貸借対照表の借方に「繰延税金資産」として計上されます。
このとき全額ではなく、法廷実効税率を乗じた金額であることに注意しましょう。なんらかの理由により、法人1期目で計上した繰延税金資産が回収できないと判断されたときは、計上したときとは逆の仕訳を行い取り消します。
回収可能性とは
繰越欠損金は税効果会計の対象になるため、制度を利用する場合「回収可能性」を考慮しなければなりません。回収可能性とは、繰延税金資産を回収できるかどうかです。回収可能と見込まれる場合にのみ、繰延税金資産の計上が認められています。
欠損金を繰り越す場合は、将来的に決算が黒字にならなければ所得額を軽減できません。もし経営が不安定で、過去実績から見ても将来的に黒字化する見込みが少ない場合、税金負担額を軽減する効果が薄いと考えられます。
欠損金の繰越を行う際は、回収可能性を判断しながら会計のルールに従って処理するようにしましょう。なお、回収可能性の見積りは事業年度ごとに行われます。
個人事業主の繰越欠損金はある?
個人事業主に繰越欠損金はありませんが、青色申告をしている個人事業主は、その年に生じた赤字を翌年以後3年間繰り越せる「純損失の繰越控除」があります。制度を利用するためには、以下の要件を必ず満たしましょう。
- 損失(赤字)が発生した年度において、期限内に青色申告している
- 損失が発生した年度の翌年以降、連続して申告している
白色申告をしている個人事業主の場合、変動所得(著作権使用料などの毎年の収入に大きく変動がある所得)の損失、および被災した事業用資産の損失のみを青色申告している個人事業主と同様の3年間繰り越せます。
繰越欠損金の注意点
欠損金の注意すべき点について、簡単に解説します。
繰越欠損金は最も古い年度から利用する
最も古い年度に発生したものから順次利用する必要があります。つまり、期限が早く切れるものから使うということです。注意は必要ですが、法人税の申告書を正しく作成すれば発生年度ごとに管理できるようになっています。
欠損金は会計上の赤字と異なる
税法上の赤字である欠損金は、会計上の赤字とは一見似ていますが別のものです。会計と税務では収益(益金)と費用(損金)の計上に関するルールが若干異なるため、欠損金と会計上の赤字が一致しないケースは多々あるので注意してください。
繰越欠損金と欠損金繰戻還付制度の併用はできない
法人税には、欠損金を前事業年度の所得に繰戻し、還付を受ける欠損金繰戻還付制度がありますが、欠損金繰越控除との併用はできません。欠損金の繰戻しにより還付を受けた場合、その計算の基礎となった欠損金額は欠損金繰越控除の対象から除かれます。
計上のタイミングに注意
繰越欠損金の期限は10年間となっており、これを過ぎてしまうと節税効果が全く得られません。繰越欠損金の期限も意識しながら、できる限り有効なタイミングで計上するとよいでしょう。
翌年以後に黒字が発生していないと節税効果が得られない
翌年以後の黒字から欠損金を差し引く制度であるため、黒字が発生していないと控除できず、節税効果が得られません。
適用条件や期間を確認して会計処理しよう
繰越欠損金は、創業直後で業績がまだ安定していない企業や、一時的に赤字に陥った企業のための利用しやすい制度です。
欠損金を繰り越すと、ある事業年度で赤字が出た際に翌年度以降の黒字と赤字を相殺して、課税所得を減額できます。ただし利用するには条件があるため、まずは自社が対象であるか確認が必要です。上手に活用しながら赤字を将来の黒字で相殺し、安定した経営を目指しましょう。
欠損金の処理は難しそうに思えるかもしれませんが、税負担を均一化することで経営の安定にもつながります。必要に応じて専門家にも相談しながら、効果的に活用するようにしましょう。
当法人では、税金に関する税務相談を承っております。欠損金についてお困りの際はぜひ一度「小谷野税理士法人」までお気軽にご相談ください。