「来日すると、住民税を払う必要があるの?」という疑問を抱える方も多いと思います。租税条約と住民税の関係は複雑で、申請方法や居住地のルールを知らないと免除されるはずの税金を支払ってしまう可能性もあります。本記事では、租税条約の基礎から、住民税が免除されるケース、そしてトラブルを避けるための具体的な対策まで解説します。住民税を免除してもらいたい方は必見の内容ですので、ぜひ最後までご覧ください。
目次
租税条約とは何か
まずは租税条約とは何か、その概要や知っておきたいポイントをおさらいしましょう。
概要
租税条約とは国と国の間で締結される、いわば「税に関する取り決め」です。同じ所得に対して両国で課税される(二重課税)のを防ぐために制定されました。
例えば、日本とアメリカの間で締結されている租税条約では、特定の条件を満たせばアメリカ人が日本で受け取る給与に対する日本側の課税が免除される場合があります。主に所得税に関する取り決めですが、条約の中には住民税に触れているものもあります。
租税条約の基礎となる「OECDモデル租税条約」
OECDモデル租税条約とは、経済協力開発機構(OECD)が作成した、二国間の租税条約を締結する際のモデルとなる条約です。このOECDモデル租税条約は、各国が二国間の租税条約を締結する際の「ひな形」のようなものです。
実際の租税条約はこのモデルを基礎としつつ、個別の二国間の事情に合わせて具体的に定められています。
租税条約で住民税が免除される代表的なケース
租税条約によって住民税が免除される代表的なケースとしては、主に以下のものが挙げられます。ただし、租税条約の内容は相手国によって大きく異なります。実際に免除が適用されるかどうかは、日本とその相手国との間の租税条約の規定を確認しましょう。
留学生・事業修習者
相手国から日本へ留学に来た学生や、事業の修習のために一時的に滞在する者が、一定の要件を満たす場合に該当します。その滞在中に受け取る一定の給付金や所得について住民税が免除される規定があります。要件の例は以下の通りです。
- 日本に専ら教育または修習を受ける目的で滞在している
- その給付金や所得が、国外からの送金や奨学金など、日本国内で得たものではない
自治体によっては滞在期間に制限がある場合もあります。
教授・教員
相手国の大学や教育機関から日本の大学や研究機関へ一時的に派遣され、教育や研究活動を行う教授や教員についても同様です。一定期間でその活動から得る報酬について住民税が免除される場合があります。要件の例は以下の通りです。
- 一定の期間(通常2年程度)を超えない一時的な滞在である
- 報酬が派遣元の機関から支払われるものである
外国政府職員・外交官等
外国政府の職員や外交官、そして領事館員などが、その職務遂行のために日本に滞在するケースも考えられます。租税条約や国際慣習に基づき、その給与所得などが住民税を含む日本の税金から免除される場合があります。
関連記事:外国人労働者にも税金はかかる?条件や免除されるケースを徹底解説!
租税条約の軽減税率を受けるための届出の流れ
続いて、租税条約の軽減税率を受けるための届出の流れについてご紹介します。
「租税条約に関する届出書」を提出
租税条約に基づく住民税の免除を受けるには、まず税務署に対して「租税条約に関する届出書」を提出する必要があります。届出書は所得税の免除を申請するためのものであり、住民税の免除もそれに連動して判断されるため、必ず事前に提出してください。
この手続きを怠ると、後から条約適用を主張しても認められない可能性が高く、住民税がそのまま課税されてしまいます。手続きは住民税を支払う前に完了させましょう。
「住民税非課税に関する確認書」の準備も検討
租税条約適用後、市区町村への確認書の提出が必要なケースもあるので要注意です。例えば市によっては税務署への届出書の写しや本人確認書類等の提出を求める自治体もあります。
さらに、給与支払報告書への条文記載も有効な場合があります。自治体により手続きが異なるため、必要書類や確認書の要否は事前に居住地の税務担当部署へ確認しましょう。
参考:No.2888 租税条約に関する届出書の提出(源泉徴収関係)|国税庁
関連記事:住民税非課税のメリットは?対象となる要件や注意すべきポイントを解説 | 会社設立の基礎知識
住民税の課税トラブルを避けるための事前対策
それでは、住民税の課税トラブルを避けるための事前対策をご紹介します。
住民票の登録・削除タイミングを見直す
日本の住民税は「1月1日時点で住民票があるか」で課税対象が決まります。そのため、帰国や転居のタイミングによって翌年に住民税が課される場合があります。
例えば前年に短期滞在し12月末に出国していても、住民票が1月1日に残っていれば課税対象となってしまうのです。したがって海外転出や帰国の予定がある場合は、住民票の削除や転出届を適切な時期に提出すれば不要な課税を防げます。
租税条約に関する届出書の提出期限を必ず守る
租税条約の適用を受けるには、原則として「支払前」に税務署へ届出書を提出する必要があります。たとえ租税条約で免除規定があっても、申請が遅れると適用が認められず、通常の課税が行われます。
また住民税の免除を希望する場合は所得税の免除が前提とされるため、まずは届出書の提出を忘れないようにしてください。企業担当者や税理士とスケジュールを共有し、遅れないように準備しましょう。
自治体との事前相談で住民税課税の可否を確認する
住民税の免除可否は、最終的には居住地の市区町村が判断します。租税条約に住民税の免除規定があっても、自治体がその規定をどのように解釈し、実務に反映しているかはバラバラです。
実際に住民税の通知を受けてから「免除のはずだった」と主張しても、認められない場合があります。こうしたトラブルを避けるには、事前に自治体へ相談し、必要であれば文書で免除の可否を確認しておくと安心でしょう。
給与支払者との情報共有を徹底する
租税条約の適用には、給与支払者(雇用主)の協力が欠かせません。租税条約に基づく届出書の提出は本人単独ではできず、雇用主が支払前に手続きを行う必要があるためです。
住民税が課税される場合には、特別徴収で給与から天引きされるシステムとなっています。そのため、給与支払者が制度を正しく理解していないと誤って課税・徴収される可能性もあります。手続きの流れを共有し、申請漏れや誤課税を防ぎましょう。
租税条約の条件を照らし合わせる
租税条約による免除の適用は自動的に認められるものではなく、条約に定められた具体的な条件を満たしていることが必要です。例えば「滞在期間が183日以内であること」など、免除の要件は条約によって細かく規定されています。
「免除されると信じていたが、実は条件を満たしておらず課税された」というケースも少なくありません。そのためお住まいの地域の租税条約に関しては、事前に確認を徹底しましょう。
関連記事:非居住者等への支払について
租税条約に関する注意点
以下では、租税条約で住民税を免除してもらう際に知っておきたい注意点についてまとめました。
地方自治体での対応が分かれることがある
住民税の免除については、国税(所得税)とは異なり、地方自治体ごとの運用ルールがあります。そのため、同じ租税条約でも扱いが異なることを覚えておきましょう。
ある自治体では住民税も免除されると判断される一方で、別の自治体では「住民税は課税される」とされる場合もあります。まずは居住する市区町村の税務課に早めに相談し、文書での確認を取ってトラブル回避につなげましょう。
すべての租税条約で住民税が免除されるわけではない
租税条約の内容は国ごとに異なり、すべての租税条約で住民税が免除されるわけではありません。中には所得税にしか触れておらず、住民税に関する規定がない国との条約も多く存在します。
また住民税に関しては「免除する」と明記されていない限り、課税が継続されるのが通例です。そのため、「自国との租税条約には住民税の記載があるか?」を確認しておきましょう。
「非居住者」でも住民税がかかるケースがある
非居住者であっても、前年に日本で所得を得ており、その所得に基づいて翌年度に課税される住民税が発生する場合があります。これは住民税の課税が「前年の所得に基づいて」行われるという制度の特性によるものです。
そのためすでに帰国した外国人や国外転出済みの日本人でも、翌年に住民税の通知が届く場合があります。住民票の削除タイミングに気を付けるなどの注意が必要でしょう。
租税条約で住民税を免除してもらう際に専門家に相談すべきケース
租税条約は手続きやルールが自治体によって異なるため、専門家に相談すべきケースが多いです。以下では特に、専門家の指示を仰ぐべき2つのケースについて解説します。
条約の解釈が複雑な国との取引
租税条約の条文は国によって表現や条件が異なり、特に途上国や制度が複雑な国との条約では専門的な判断が必要です。「免除される」と思っていた条件が、日本の解釈では対象外になるケースもあり得ます。
たとえば「報酬支払者の定義」や「滞在日数の計算方法」などは専門的な知識が必要です。条約の適用可否に不安がある場合は、税理士に相談して個別の状況を確認してもらうと安心でしょう。
住民税の課税が誤って行われた場合
租税条約の手続きが済んでいても、自治体や給与支払者が誤って住民税を課税してしまう場合があります。こうした場合には自分で交渉するのではなく、専門家を通じて修正申告や課税取消の対応を行う方がスムーズです。
税理士であれば適切な根拠資料を提示しながら自治体と交渉できるため、誤課税のリスクを最小限に抑えられます。
まとめ
租税条約による住民税の免除は、条文の解釈や実務的な手続き、自治体ごとの判断によって大きく取り扱いが変わります。「所得税は免除なのに、なぜ住民税が?」というケースも多く、十分に理解していないと不要な税負担が発生する場合もあります。
こうした税務判断に迷った場合は、税理士などの専門家に相談するのがおすすめです。小谷野税理士法人では租税条約関連の知識や経験が豊富な税理士が在籍しています。「どのように租税条約の手続きを進めるべき?」とお悩みの方は、一度小谷野税理士法人にご相談ください。