個人事業主が生活する上で、収入証明書の提示を求められ、慌てた経験を持つ方もいるのではないでしょうか。収入証明書は、さまざまな場面で提示を求められる書類です。用意しておかないと、後で手続きに時間がかかってしまうこともあるため、事前に収入証明書の知識を含めて備えておく必要があります。この記事では、収入証明書とは具体的にはどのような書類であるか、提示を求められる場面などを紹介します。
目次
収入証明書とは複数の書類の総称
収入証明書(年収証明書)は、1年前の収入を証明するものであり、複数の書類の総称です。会社や企業から雇用されている場合は、職場から交付される源泉徴収票や給与明細書などが収入証明書として扱われます。
一方の個人事業主やフリーランスには源泉徴収票や給与明細書の交付がないため、自分自身で収入証明書を用意する必要があるのです。
ただし、収入証明書には複数の種類があるため、どの書類が必要であるかは、提出先ごとに異なります。事前に確認しましょう。
また、収入証明書の提出を求められた場合に備え、どのような種類の書類が収入証明書に該当するかという知識も必要です。
関連記事:【税理士監修】支払調書と源泉徴収票|その違いと使い方を徹底解説!
個人事業主が利用できる収入証明書の種類と取得方法
個人事業主が収入証明書として利用できる書類は複数あります。その具体的な種類と取得方法について、それぞれ説明していきます。
納税証明書・課税証明書・所得証明書
納税証明書と課税証明書と所得証明書は、名称が類似していますが、その内容と取得方法は異なります。
これから納める税額とすでに納めた税額、所得金額の記載されたものが納税証明書です。課税証明書には、1年分の住民税額と所得額、扶養状況などが記されています。
所得証明書は、所得額と所得内訳が記載された書類で、各自治体が住民税を算出する際に用いるものです。
納税証明書 | |
取得方法 | 所轄の税務署・県税事務所(都税事務所)・市区町村役場の窓口・郵送・コンビニ交付など |
有効期限 | 特に設けられていないが、前年の収入証明書の必要があるため実質的に1年間 |
課税証明書・所得証明書 | |
取得方法 | 市区町村役場の窓口・郵送・コンビニ交付など |
有効期限 | 有効期限:特に設けられていないが、前年の収入証明書の必要があるため実質的に1年間 |
課税証明書には住民税額だけでなく所得額も記載されていることから、課税証明書と所得証明書を同一のものとして扱っている自治体もあります。
また、このような経緯から、課税証明書や所得証明書の名称は、市区町村で呼び方が異なるケースもあるのです。
課税証明書と所得証明書を兼ねて、例えば市県民税課税・非課税証明書という呼び方であったり、市民税・県民税課税証明書や市民税・県民税証明書と言ったりと、さまざまなパターンがあります。
課税証明書や所得証明書という固定された名称でなかったとしても、課税証明や税証明といった呼び方であれば、収入証明書として利用できるでしょう。
一方、納税証明書は、国税・県税・都税・市税と、それぞれの納付を確認する証明書です。
そのため、仮に納税証明書の提出を求められた場合は、課税証明書や所得証明書を代わりにすることはできません。
納税証明書の取得は、国税であれば所轄の税務署、県税は県税事務所、都税は都税事務所、市税は市区町村役場と、窓口が異なる点にも注意が必要です。
関連記事:家賃収入があるサラリーマンは確定申告が義務?必要書類も解説
税額通知書
税額通知書は、各自治体が前年の所得から計算した住民税額を通知するものです。住民税決定通知書とも呼ばれますが、正確な名称は各自治体ごとに異なっています。
また、住民税の納付方法は個人事業主と会社員とで違いが見られ、名称も別です。
税額通知書 | |
取得方法 | 確定申告の情報をもとに通知書が送付される |
有効期限 | 特に設けられていないが、前年の収入証明書の必要があるため実質的に1年間 |
会社員の住民税は、会社が従業員の毎月の給与から税を天引きし、代わりに各自治体へと納付する特別徴収で行われています。
特別徴収の税額通知書は、「給与所得等に係る特別市民税・県民税 特別徴収税額の決定通知書」という名で、送付先は会社です。
一方の普通徴収では、確定申告により決定した住民税額の通知が、個人事業主のもとへと直接送付されます。
その際の税額通知書は、一般的に市民税・県民税 税額決定・納税通知書という名称であり、所得額も記載されているのです。
確定申告書(控え)
確定申告した際の確定申告書の控えは、収入証明書の1つです。確定申告すると、控えに税務署からの収受印が押されます。
ただし、この収受日付印は、手続きのオンライン化に伴い、令和7年(2025年)1月に廃止が決定しているものです。
確定申告書(控え) | |
取得方法 | 確定申告 |
有効期限 | 特になし |
以降は、収受印の押されていない確定申告書の控えが、場合によっては認められない可能性があるでしょう。
また、このような経緯から国税庁は、金融機関や行政機関に対し、収入証明書としての利用を含め、収受印の押された控えの提示要求を控えるよう説明する方針です。
参考:令和7年1月からの申告書等の控えへの収受日付印の押なつについて|国税庁
青色申告決算書(控え)
青色申告決算書は、個人事業主が青色申告する際に確定申告書とともに提出する書類で、帳簿の内容を決算したものです。
青色申告決算書も確定申告書と同様に、提出すると控えに税務署の収受印が押されます。
青色申告決算書(控え) | |
取得方法 | 青色申告 |
有効期限 | 特になし |
令和7年1月には税務署の収受日付印が廃止されるため、この青色申告決算書の控えにも判が押されません。
そのため青色申告決算書の控えも、今後は収入証明書として用いられなくなる可能性があります。
収受印の廃止について税務署は、周知や広報に努め、収受印の押された控えの提示を求めないよう金融機関や行政機関へと説明を行う構えです。
支払調書
支払調書は、個人事業主やフリーランスに業務を委託・発注した各会社が、1年間に支払った報酬や代金を記載した書類で、収入証明書としても有効です。
個人事業主やフリーランスが、支払調書に記載されている報酬金額をもとに確定申告する場面も多く見られます。
支払調書 | |
取得方法 | 法人や個人事業主などからの発行 |
有効期限 | 特に設けられていないが、前年の収入証明書の必要があるため実質的に1年間 |
ただし、支払調書は、法人にとって税務署に提出しなければならない書類の1つですが、支払先に対して発行する義務はありません。
現在、支払先に対する支払調書は、慣習として発注されているだけに過ぎないのです。そのため、法人によっては、支払調書を発行していないところもあります。
関連記事:収入より経費が多い!赤字でも確定申告した方がよい理由
収入証明書の提示が必要な場面
収入証明書の提示が必要なのはいつなのか、事前に把握しておくと実際に求められたとき慌てずに済みます。収入証明書の提示が求められる場面を確認しておきましょう。
賃貸物件を借りる場合
アパートやマンション、借家など、賃貸物件の入居には、収入証明書の提示が必要です。
賃貸物件のオーナーや不動産会社・保証会社は、入居者が家賃を滞りなく支払えるか否かを見極めるため、書類による審査を行います。
その際、職業や会社名の他、年収などの個人情報とともに、収入証明書の提示を求めることが一般的です。
ただし、収入証明書を提示したからと言って、必ず賃貸物件の審査に通るとは限りません。年収の金額次第では、審査に落ちることも考えられます。
審査に落ちた場合は、もっと収入に見合った賃貸物件を改めて探すか、貯蓄額を開示して家賃の支払い能力が十分あることを証明しましょう。
住宅や自動車のローンを組む場合
住宅や自動車など、高額な商品を購入するためローンを組む際にも、収入証明書の提示を求められる場合があります。
賃貸物件と同様に、ローンの返済能力があるか否かを金融機関が審査するためです。
特に住宅や自動車のローンの場合は、借入が高額になるため、賃貸契約よりも審査が厳しいと言われています。
その一方で、住宅や自動車の購入以外でローンを組む場合、借入額が低ければ収入証明書の提示を求められないこともあるでしょう。
クレジットカード(キャッシング付与)を申し込む場合
現金を借りられるサービスのキャッシングが付与されているクレジットカードを申し込む際は、収入証明書の提示が求められます。
賃貸物件や住宅ローン・自動車ローンと同様に、借入の返済能力を判断する目的で、金融機関が年収を調査するために収入証明書が必要です。
そのため、キャッシング付与のクレジットカードの審査は厳しい傾向が見られます。
クレジットカードは買い物だけできれば十分という場合、審査が厳しくならないようにキャッシングを付与しないという方法もあります。
健康保険の扶養に入る場合
個人事業主が配偶者の健康保険の扶養に入る場合には、年収が一定額以下でなければならないため、その証明に収入の確認が必要です。
会社や企業に雇用され、給与を支給されている配偶者の健康保険へと加入することで、扶養となる個人事業主は、費用を負担することなく保険の給付を受けられます。
また、扶養になるための雇用形態には定めがないことから、青色申告をしている個人事業主であっても配偶者の健康保険に加入可能です。
ただし、前述したように、個人事業主が配偶者の扶養となるためには、年収を含めていくつかの要件があります。
年収を始めとしたその要件も、配偶者が加入している健康保険ごとに異なるため、扶養に入る際には必ず事前に確認しましょう。
子どもが保育園に入園する場合
収入証明書は、個人事業主の子どもが保育園に入園する際にも提示を求められることがあります。
親が働いており、保育園に子どもを預ける必要があることを証明するためです。
特に、児童福祉法の基準に沿って設置されている認可保育園の場合は、自治体が本当に入園が必要か否かを、収入証明書も含めて総合的に判断しています。
認可保育園は、各自治体や家庭ごとの所得で保育料が変動するものの、認可外保育園と比べると低料金であることも人気の理由です。
ちなみに、親が個人事業主ではなく、会社や企業に雇用されている場合は、収入証明書ではなく就労証明書の提示を求められます。
関連記事:【税理士監修】確定申告してない人が多い?その割合や無申告のペナルティを紹介!
収入証明書についてのよくある質問
実際に収入証明書を用意しなければならないときには、気になる点もあるでしょう。収入証明書に関する質問にお答えします。
収入証明書を自分で作ることはできる?
自分で作成した収入証明書は、有効ではありません。
収入証明書には複数の書類がありますが、いずれも第三者が作成・交付したものです。
自分で収入証明書を作成すると、第三者からの証明ではないため、その収入が本当に正確であるのか、疑いを持たれるでしょう。
また、実際に収入証明書を自分で作成すると、偽造と見なされるリスクもあります。
例えば、偽造した収入証明書を使って融資を受けた場合には、詐欺罪の対象となる可能性もあるため、自分で作成することは絶対にやめましょう。
収入証明書を紛失した場合は?
収入証明書を紛失した場合、種類によっては再発行されるものがあります。
手数料はかかるものの、納税証明書は税務署の窓口や郵送などで、課税証明書と所得証明書は市区町村役場の窓口やオンラインで再発行の申請が可能です。
確定申告書と青色申告決算書の控えも、手数料は発生しますが、開示請求することで税務署の窓口や郵送で受け取れます。
ただし、開示請求の場合、控えの再発行までに1ヵ月と長い期間を要する可能性があるため注意が必要です。
なお、税額通知書の再発行は行われていません。
関連記事:支払調書って確定申告に必要?どこに入力する?書き方も解説
個人事業主が収入証明書を必要とする場面へと税理士がアドバイス!
個人事業主が収入証明書の提示を求められるのは、賃貸物件を借りる場面であったり、ローンを組む場面であったりと、その多くは経済状況の審査が目的です。
そのため、収入証明書を用意しても、なかなか審査を通過しない場合もあるでしょう。
審査を通過するかどうか心配な際には、家賃の支払い計画やローンの返済計画について税理士に相談するという方法があります。
必要な収入証明書の種類を含め、書類の作成方法や所得の管理方法など、さまざまな点へのアドバイスを受けられるでしょう。
私たち小谷野税理士法人でも、会計・税務に関する個人向けのサービスを行っています。
収入証明書についても、いつでもご相談ください。