企業経営者などの役員は、給与の代わりとして役員報酬を受け取ることが一般的です。この役員報酬は、上手に活用することで節税することができます。この記事では、役員報酬を上手に活用した節税テクニックについて解説します。役員報酬の概念やどのくらいの金額に設定すべきなのか、さらには注意点にも触れているので、ぜひ今後の参考にしてください。
目次
役員報酬とは
役員報酬とは、税務上「役員」という立場に該当する人に支払われる報酬のことです。役員は会社員とは異なり、経営陣として企業の経営に関する業務を行います。
役員については、会社法第423条で以下のように定めています。
- 取締役
- 会計参与
- 監査役
- 執行役または会計監査人
なお、主に団体で使用されることの多い理事や公益法人・協同組合等で監督という立場を指す監事も役員に含みます。
役員報酬は大きく分けて3つある
一口に役員報酬と言っても、大きく3つに分かれています。一つは、毎月の報酬を指す役員給与です。具体的な金額は、通常の株主総会で決まります。役員給与は下表のように3種類あり、それぞれで目的や取り扱いが異なります。
給与種類 | 概要 |
定期同額給与 | 1ヵ月以下の一定期間毎に支払われる給与 事業年度内は原則支給金額が毎月同額でなければならない 残業したとしても支給額を増やすことは原則認められていない |
事前確定届出給与 | 事前に支給金額と支給時期を税務署に届け出た給与 役員が受け取る賞与は経費と認められていないが、この届け出によって損金として計上できる |
業績連動給与 | 上場会社で多く導入される、企業利益や株価等に応じて支払われる給与 ただし同族会社では経費としての損金算入が認められていない |
一般的に役員報酬は、定期同額給与となるでしょう。
参考:No.5211 役員に対する給与(平成29年4月1日以後支給決議分)|国税庁
役員報酬と給与の違い
役員報酬は、株主総会で決議された後、経営陣に支払われる金銭のことです。一方、給与や賞与は従業員が取り組む労働の対価として受け取る賞与を指します。
役員報酬は原則として、事業年度開始から3ヶ月以内です。従業員の給与のように就業規則で決まることはありません。
役員報酬にかかる税金|源泉徴収の計算方法
役員報酬は税制上、給与所得と同じ扱いをします。そのため所得税や住民税が掛かります。
税金 | 概要 |
所得税 |
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住民税 |
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社会保険料 |
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社会保険料も給与所得同様、徴収をする必要があるので注意しましょう。
なお、源泉徴収は以下の計算式または方法を用いて計算後、天引きします。
税金 | 計算式 |
所得税 | 給与所得の源泉徴収税額表(月額表)を用いて計算 |
住民税 | 毎年5月に届く「特別徴収税額通知書」を確認し、記載金額に基づく金額を天引きする |
社会保険料 | 全国健康保険協会が公開す保険料額表を確認し、記載金額に基づく金額を天引きする |
社会保険料は各都道府県によって金額が異なるため、詳細は全国健康保険協会公式ホームページをご確認ください。
参考:全国健康保険協会|令和6年度保険料額表(令和6年3月分から)
役員報酬を節税する際のポイント
ここからは役員報酬を節税する際のポイントについて解説します。どのような方法があるのか押さえておきましょう。
法人税の800万円の壁を意識する
資本金1億円以下の法人の所得が800万円を超えた場合、適用される税率が変動します。
期末の資本金(または出資金) | 所得金額 | 法人税率 |
1億円超 | ー | 23.20% |
1億円以下 | 800万円超 | 23.20% |
800万円以下 | 800万円以下 | 15%※1 |
※1 事業開始年度が2019年4月1日以降で適用除外事業者に該当する法人の800万円以下の部分については19%です。
所得を800万円以内に抑えることで低い税率が適用されます。法人税の負担を減らしたいときは800万円を目安に調整すると良いでしょう。
関連記事:法人税の節税対策とは?税金を減らすには何をすればいい?注意点とは
役員報酬と社会保険のバランスを取る
役員報酬額は社会保険料にも影響を与えます。そのため、適度なバランスを意識することが大切です。一般的に、役員報酬が高いほど社会保険料も増加します。ここでは役員が社会保険に加入・未加入の場合におけるポイントを紹介するので、役員報酬を決める際の参考にしてください。
役員が社会保険に加入している場合
役員が社会保険に加入している場合、保険料は標準報酬月額に応じて変動する点に注意しましょう。標準報酬月額が高いほど社会保険料も高くなるので、適切な額に設定することで節税につながります。
ただし、むやみに標準報酬月額を下げると、社会保険料は安くなる一方、将来受け取れる年金の額が減ります。また、役員のモチベーションの低下を招く恐れもあるので、適切な額を調べてから決めると良いでしょう。
役員が社会保険に未加入の場合
役員が社会保険に未加入の場合は、高い役員報酬を設定しても、保険料の負担がそこまで増えないので、手元に入るお金は増えます。しかし、別途、国民健康保険や国民年金に加入しなければなりません。
国民健康保険は収入や扶養などによって保険料が変わりますが、国民年金は収入にかかわらず一定の保険料です。そのため、社会保険に加入している役員と比べると、社会保険料による負担が減る可能性があります。ただし、社会保険料の負担が少なくなる代わりに、所得が増えることで所得税や住民税等の納税額が増える点に注意しなければなりません。
また、法人は社会保険への加入が義務づけられています。社会保険に未加入の場合、後で社会保険料を追徴される可能性があるので注意しましょう。
役員報酬を変更するときの注意点
役員報酬はむやみに変更することができません。役員報酬を変更する場合は、事業年度開始の日から3ヶ月以内に変更決議を行いましょう。
また、役員に賞与を支給する場合も、好きなタイミングで行えるわけではありません。これらの詳細については、こちらの記事で詳しくまとめているので、併せてご覧ください。
手取りを増やしたい人のための節税方法
役員報酬と節税について紹介しましたが、他にもいくつかの節税方法があります。ここからは一般的な節税方法について解説します。
自分の配偶者も役員にする
自分の他に配偶者も役員にすることで、一人で役員報酬を受け取るときに比べて税率が低くなります。結果として家庭全体の所得税の納税額が安くなるので、大きな節税効果に期待できるでしょう。
配偶者を役員に任命するときは、実際の業務を担わせる準備が必要です。形式的な参加だと従業員等や税務署からの指摘につながるので注意してください。
親族を役員にする
自分の他に子どもなどの親族を役員に任命しても節税効果を得ることができます。役員報酬が親族に支給されることで、一人ひとりの所得税率が低くなるためです。
配偶者を役員に任命するとき同様、役員報酬に見合う労働実態が必要になります。従業員等税務署からの指摘を避けるためにも、正当な業務内容を任せる点に注意しましょう。
通勤手当を活用する
通勤手当を活用することも、手取りを増やすための節税対策として有効です。電車やバス等で通勤する場合は、通勤費を役員報酬に含めず、別途、通勤手当として損金計上できます。
しかし、距離などによっては給与所得に該当する可能性があるため注意しましょう。
旅費規程を作成する
旅費規程を作成することで、出張にかかる費用を明確にし、経費として計上することが可能です。全社員を対象としているので、当然ながら役員も対象になります。
日当は非課税所得のほか社会保険も対象外のため、所得税や社会保険料を抑えたい場合に有効な手段と言えます。
役員の自宅を会社名義で登録する
役員の自宅を会社名義に登録することで、節税効果を得られます。自宅を事業所として利用している場合、関連経費を会社の経費として計上可能です。
ただし会社名義を利用する場合、実際に業務に関連していなければなりません。名義変更の際は税法に基づいた適切な手続きを行う必要があるので注意しましょう。
小規模企業共済に加入する
小規模企業共済は小規模企業の役員または個人事業主のための退職金制度で、全額所得控除が可能です。所得を減らすことができるので、大きな節税効果に期待できるでしょう。
ひと月1,000〜7,000円程の掛け金を積み立てし、65歳以上に達した場合などに一括または分割で受け取ることができます。
役員報酬の設定は税理士に相談しよう
役員報酬を適切に設定することで、法人税や個人の税負担を軽減できます。配偶者や親族を役員登用したり、通勤手当や旅費規程を活用したりするのも節税対策として効果的です。
役員報酬を決める際に専門家等のアドバイスを受けたいときは、ぜひ小谷野税理士法人へご相談ください。
特に中小企業においては経営資源が限られるので、この機会に専門家のサポートを受けながら適切な役員報酬を設定しましょう。