個人事業主の方が法人化を検討する際のメリットとして、経営者やその家族が法人の役員になることで、税負担を抑えられる点があります。このメリットを目的に、最近では、経営者の家族を非常勤役員と任命するケースが増加しているようです。この記事では、非常勤役員と常勤役員との違いを始め、メリットや役員報酬の決め方などについて解説します。個人事業から法人化へ、さらには家族を役員に任命することを検討している方は、ぜひ今後の参考資料としてお役立てください。
目次
非常勤役員とは?常勤役員との違い
非常勤役員とは、会社の定例会議や重要な意思決定の場に出席するものの、日常的な業務には携わらない役員のことです。一方、常勤役員は日々の業務運営に積極的に関与する役員を指します。
特に中小企業にとっては、非常勤役員に家族を任命することで、家庭内での所得分散を図り、節税効果を得ることが可能です。非常勤役員の報酬設定を適切に行えば、社会保険料の負担を抑えることにもつながります。
非常勤役員のメリット
非常勤役員を設置することには多くのメリットがあります。どのようなメリットがあるのかを押さえておきましょう。
法人税を軽減できる
非常勤役員のメリットとして、まず挙げられるのが法人税の負担を軽減できることです。
役員の退職金は損金処理が認められています。そのため、非常勤役員に退職金を支払うことで法人税の対象となる金額を下げ、法人税の軽減効果につなげることが可能です。
なお、退職金は役員報酬と併せて定款で定めを置いている場合を除き、株主総会決議を経なければなりません。役員報酬と退職金については同様の手続きが必要になる点に注意しましょう。
関連記事:役員退職金(役員退職慰労金)の損金算入時期は?計算方法や税金における注意点を解説
家族で所得を分ければ所得税を抑えられる
非常勤役員は、得ている所得を分散できる場合に限り、所得税を軽減できる点がメリットです。
日本の所得税は累進課税です。そのため、一人が代表取締役として所得を得るよりも、家族数人を取締役に任命して役員報酬を分配する方が所得税を抑えられます。
日本に限らずさまざまな企業では、自身の家族や親族を役員に任命しているケースが多いです。
関連記事:非常勤役員をおくメリットとデメリットは? 社会保険の加入条件についても解説
非常勤役員報酬の相場
非常勤役員の報酬を適切に設定するためには、業界標準や役員の職務内容、業績状況などを考慮する必要があります。ここでは、非常勤役員の報酬相場や家族を非常勤役員にする場合の給与設定等について解説します。
一般的な非常勤役員報酬の相場
非常勤役員報酬の相場は、実態があることと任命された人のスキルなどによって異なります。具体的な金額を出すと月5万円〜15万円ほどであれば税務署等に妥当と判断されることが多いようです。
なお、月に1回しか役員の稼動がないのに、ひと月数百万円もの報酬が支給されるようであれば、過大役員報酬とみなされることがあります。非常勤役員報酬は、実働と相当額であるかどうかを見極めた上で決めることが大切です。
家族を非常勤役員にする場合の給与設定
家族を非常勤役員に任命する場合は、報酬設定に特に注意しなければなりません。適切な金額を設定しないと、税務署や社員から指摘を受ける可能性があります。
家族の非常勤役員報酬は、他の役員と同じ基準で決め、かつその職務内容に見合った金額にするのが慣例です。例えば月5万円〜15万円程度の報酬であれば、一般的な非常勤役員の報酬と変わらず、また企業の経費の範囲内で収めることもでるでしょう。
家族を非常勤役員にする場合の非課税枠
非課税枠を活用することで、節税効果に期待できます。特に配偶者控除や扶養控除を利用すれば、所得税の節税につなげることが可能です。
具体的には、年間収入が103万円以下であれば所得税が非課税になり、配偶者控除が適用されます。社会保険の扶養範囲内に収めれば、社会保険料の負担も軽減することも可能です。
ただし、最近では103万円の壁について見直しが図られていることから、今後の動きに注目する必要があるでしょう。
関連記事:非課税とは?非課税となる取引の種類や注意点を詳しく解説
非常勤役員を置く場合の注意点
個人事業から法人化に変える場合、非常勤役員の配置も検討したい項目の一つです。しかし、その際にはいくつかの注意点について留意する必要があります。
税金・社会保険料の負担発生
経営者が夫でその妻が役員として報酬を支給する場合、妻についても役員報酬の金額に応じて税金や社会保険料が発生します。具体的には、健康保険や厚生年金などです。
もし非常勤役員となっていない場合には、夫の扶養に入ると良いでしょう。ただし、一定額以上の役員報酬を支給する場合は、金額によって扶養外になる可能性があります。この場合、妻名義で健康保険や厚生年金に加入する義務が生じるので注意してください。
勤務の実態がない場合は経費処理が否認される場合がある
家族を非常勤役員に任命する際、勤務実態があることが不可欠です。中には節税効果を目的に家族を非常勤役員等に任命し、書類上は役員であっても実際は何もしていないケースも多いです。
このような場合、節税効果を目的とした悪質な役員の選任とみなされ、税務署等から指摘を受けることがあります。特に、月100万円以上の役員報酬が支給されているときは、税務署から経費処理を否認される可能性があるので注意しましょう。
オーナー企業とみなされやすい
金融機関等に融資を依頼するときなど、新規の取引先と取引を始めるには会社の役員構成に関する情報を求められる場合があります。このとき、家族や非常勤役員だと、社長個人と会社が一体化した「オーナー企業」と判断されるかもしれません。
オーナー企業が悪い訳ではありませんが、会社規模が大きくなるほど事業と社長個人の資金管理は切り離すのが一般的です。金融機関の審査ではデメリットになる可能性があるので、この部分には留意が必要と言えるでしょう。
非常勤役員を置く場合はメリット・デメリットを理解しよう
非常勤役員を置くことには、所得の分配によって税負担を抑えられるなどのメリットが享受できます。しかしその一方で、勤務実態と不相当な報酬が支給されれば、税務署等からの指摘を受けることにつながるでしょう。
家族を非常勤役員に任命することを検討する際は、専門家のアドバイスを受けることをおすすめします。法人化や非常勤役員の報酬相場等について知りたい方は、ぜひ小谷野税理士法人へご相談ください。