経営が軌道に乗らなかった際、事業再生を目的に利用される休眠ですが、具体的な内容をご存じでしょうか?法務省によると、2023年の日本における休眠会社数は27,887社にも及び、会社の多くが休眠を選択していることが分かります。この記事では、休眠会社の概要と目的をはじめ、法人住民税の均等割やメリット・デメリットについて解説します。事業再生等を目的に会社の休眠を検討中の方は、本記事をぜひ今後にお役立てください。
目次
休眠会社の概要・目的|みなし解散や廃業との違い
ここでは、休眠会社の概要と目的、みなし解散や廃業との違いについて解説します。それぞれの特徴について押さえ、自社にとってふさわしい選択をする参考にしてください。
休眠会社は事業を停止し放置状態にある会社のこと
休眠会社とは、あらゆる理由により事業を運営せず、放置状態の会社のことです。会社を解散・清算するためには、多くの費用が掛かります。
現在は事業がうまくいかなくても、将来的に事業を再開する予定がある場合、一度解散すると再度会社を設立しなければなりません。その際、改めて多くの費用が発生します。また、第三者との債権や債務が残っていないのにもかかわらず閉業し、清算手続きをすることにメリットを感じない人も少なくありません。
このように、事業における様々な理由から、正式に解散・精算の手続きを行わず放置させることが休眠会社の主な目的です。
みなし解散や廃業との違い
休眠会社と混同しやすいものとして「みなし解散」「廃業」があります。まずみなし解散とは、法務局からの通知書を受け取ったにもかかわらず、会社が必要な届けを出さない場合に対して行われる手続きのことです。
法務局では毎年、休眠会社等の整理が行われており、動きのない会社に対しては法務大臣からの官報公告が届きます。この公告から2ヵ月の間に必要な登記申請または事業を廃止していない旨の届出をしない場合、みなし解散の登記が行われる仕組みです。
つまり、休眠会社とする際、必要な手続きが行われなかった末に行われる手続きがみなし解散となります。
このように、どのような理由であっても、法務大臣からの官報公告が届いたときは何らかの届出をする必要があることを念頭に置きましょう。
次に廃業とは、事業の一切の活動を停止し、会社が消滅した状態のことです。一度消滅すると、休眠会社のように事業を再開することができません。
休眠会社 | 再開する予定・可能性がある事業に対して行われる方法 |
みなし解散 | 再開する予定・可能性・廃業について、必要な手続きをしていない会社に行われる手続き(措置)
|
廃業 | 再開する予定・可能性がなく、会社を消滅させたこと |
それぞれ、目的や特徴が大きく異なるのでこの機会に押さえておきましょう。
参考:法務省|令和6年度の休眠会社等の整理作業(みなし解散)について
関連記事:会社の解散と廃業の違いとは?倒産や清算との違いも解説
休眠による法人住民税の均等割はどうなる?
会社が休眠していても、原則、法人住民税の均等割は課税されます。一例として東京都の特別区の1千万円以下の法人に対する均等割額は下表の通りです。都内の市町村の均等割は含まれていません。
事業所等の所在 | 主たる事務所等が所在する特別区 (特別区分) | 均等割額 (円) | 従たる事務所等が所在する特別区 (特別区分) | 均等割額 (円) | 都道府県分 |
特別区内の従業者数 | 特別区内の従業者数 | ||||
都内の特別区にのみ事務所等を有する法人 | 50人以下 | 50,000 | 50人以下 | 50,000 | 20,000 |
50人超 | 120,000 | 50人超 | 120,000 | 20,000 | |
都内の特別区と都内の市町村に事務所等を有する法人 | 50人以下 | 50,000 | ー | ー | 20,000 |
50人超 | 120,000 | ー | ー | 20,000 | |
都内の市町村のみに事務所等を有する法人 | ー | 20,000 | ー | ー | 20,000 |
ただし、事業における活動や金銭の動きが一切ない休眠会社の場合や必要な手続きを済ませた場合、免除される可能性があります。
自治体によって手続き等や減免申請のひな形が異なるケースがあるので、申請を検討する際は事前に確認してください。
休眠会社のメリット
ここでは会社を休眠するメリットについて解説します。休眠によってどのようなメリットがあるのかをみていきましょう。
事業を再開しやすい
会社が休眠しても法人の存在は維持されているので、事業を再開しやすいといったメリットがあります。休眠を選択しても、必要な人材や取引先との関係性は維持され、銀行口座やクレジットラインの閉鎖もありません。
そのため、経済状況の改善や新たなビジネスチャンスが訪れた場合、即座に事業を再開できます。また、新たに会社を設立する手続きが不要なので、事業再生が順調に行われた際に迅速な行動ができるのもメリットと言えるでしょう。
許認可の再取得が不要
事業に必要な許認可を再取得する手続きが不要な点もメリットです。特に飲食業や建設業など、特定の営業許可が必要な業種では、新たに許可を取得するために多くの時間と費用がかかります。
休眠会社の場合、新たに許可申請する必要が無いので、再開時の準備に対して大幅な短縮が可能です。同じ許認可を保持したまま再開できる特徴から、再開後の営業活動にも一貫性を持たせることもできます。
法人税・消費税の課税がない
会社が休眠している間、事業活動が行われず所得がないのであれば法人税や消費税は課税されないでしょう。しかし、市町村の課税する法人住民税については申告と納税の義務があるので注意しましょう。
関連記事:会社を休眠する際の手続きの流れや注意すべきポイントについて解説
休眠会社のデメリット
ここでは休眠会社にみられるデメリットについて解説します。メリットとデメリットを比較し、適切な選択につなげましょう。
毎年の税務申告義務がある
会社を休眠していても、税務申告は欠かさず行わなければなりません。
申告をせずにいると、青色申告が取り消されます。一度青色申告が取り消されると再度申請し直さなければなりません。事業再開の予定がある場合は、税務申告はきちんと行うよう留意しましょう。
休眠のままだとみなし解散の対象になる可能性がある
休眠から12年が経過すると、法務省よりみなし解散の手続きが行われる点に注意しましょう。
法務大臣からの官報公告が届いたときは、存続にまつわる申請を提出することで回避可能です。法務省に限らず会社に届いた書類については、漏れなく確認することをおすすめします。
役員変更登記の必要がある
会社が休眠状態にあっても、役員の変更登記は必ず行いましょう。役員の任期は最長10年のため、少なくとも10年に一回は変更登記が必要です。
任期は、休眠にかかわらず経過します。会社役員の中で任期を迎えた人がいる場合は、再度登記が必要になる点に留意しましょう。
不動産所有に対する固定資産税がかかる
会社が不動産を所有する場合、毎年、固定資産税が課税される点にも注意しましょう。固定資産税は法人住民税の均等割と違い、会社が休眠状態にあっても減免されることがありません。
会社名義の土地・家屋・設備等の償却資産があるときは、毎年納税する義務が生じている点に留意しましょう。
休眠会社に関する手続きと費用
ここでは休眠会社に関する手続きに関する費用について解説します。どこにどのような書類を提出するべきなのか、詳しくみていきましょう。
休眠するとき
会社を休眠・休業する場合は、適切な場所で必要な手続きを行わなければなりません。具体的には、税務署・都道府県税事務所・市町村役場です。
税務署に対しては、「異動届出書」と「給与支払事務所等の廃止届出書」を提出する必要があります。
異動事項には「その他、休眠」の旨を、「異動後」には休眠した年度日を記載し、「休業」の欄にはチェックを入れてください。最後に「参考事項」に「●年●月●日より休眠」と書いて提出しましょう。
都道府県税事務所や市町村役場への提出書類については、地域によって異なるため、管轄の税事務所と市町村役場に確認してください。
なお、手続きの際は念のため「均等割の課税は無くなる認識で間違いないか」について確認すると安心です。
休眠する際の費用
会社を休眠する際に費用は発生しません。ただし、上述した手続きを踏む必要があります。
会社を休眠する際の手続きや注意すべきポイントについては以下の記事でもまとめているので、ぜひ参考にしてください。
関連記事:会社を休眠する際の手続きの流れや注意すべきポイントについて解説
再開するとき
事業を再開するときも、管轄の税務署・都道府県税事務所・市町村役場で手続きを済ませる必要があります。
税務署には「異動届出書」と「青色申告の承認申請書」の2点を提出しましょう。「異動事項等」の欄に「再開」を、「異動年月日」の欄に「再開した日付」を記載してください。
都道府県税事務所・市区町村役場にも、「異動届出書」を提出してください。
自社にとって適切な選択をしよう
今回は休眠会社と廃業、みなし解散の違いをはじめ、法人住民税の均等割等について解説しました。
休眠会社は、事業活動が停止しているものの、会社自体は存続している状態を指します。会社としての事業活動を一切行わず、会社自体を消滅させた廃業とは大きく異なる点を押さえておきましょう。
みなし解散は、12年以上が経過した休眠会社に対して法務省が行う手続です。休眠状態が長く続き、事業再開の目処が立たないときは、みなし解散の対象となる点に注意しましょう。
休眠会社や廃業、みなし解散や均等割について解説しましたが、自社にとってふさわしい選択が分からないといった方もいるでしょう。
そのようなときは、会計士などの専門家に相談し、適切なアドバイスを受けることをおすすめします。
自社を存続する予定はないものの廃業を決めかねている、どうすれば良いか判断に迷っているといった方は、ぜひこの機会に小谷野税理士法人へご相談ください。適切なアドバイスやサポートを行いながら、貴社にとってふさわしい解決策を提案させていただきます。