消費税がない不課税の領収書をどのように作成すべきかお悩みの事業者も多いのではないでしょうか。また近年インボイス制度が導入されたことから、課税対象の領収書との書き分けに関して混乱してしまうこともあるかと思います。そこで今回は消費税がない不課税の領収書の書き方とインボイス対応の記載ポイントを解説します。インボイス制度導入後に領収書の書き方にお悩みの事業者は、ぜひ参考にしてください。
目次
不課税の領収書とは?
不課税の領収書とは、消費税法においてはじめから課税対象とみなされない取引を示す領収書です。不課税取引の具体例は以下の通りです。
- 給与・賃金:従業員への給与や賃金の支払い
- 寄付金・祝金・見舞金:寄付金、結婚祝い、お見舞い金など
- 株式の配当金:株式の配当金の支払い
- 保険金:保険金の支払い
- 損害賠償金:損害賠償金の支払い
- 国外取引:国外で行われた取引
非課税は消費税の課税対象となる取引ではあるが、政策的な理由などで課税されないものを意味します。不課税取引は「対象外」、非課税取引は「免除」と考えると分かりやすいでしょう。
関連記事:レシートと領収書の違いを徹底解明!税務上の扱いや経費精算のポイントまで
不課税の領収書は法律上問題ない
消費税法上、領収書に消費税を記載しなくても法律上は問題ありません。ただし領収書は取引の証拠となる重要な書類です。記載内容に不備があると、税務調査などで問題になる可能性はあります。
2023年10月に開始されたインボイス制度では消費税の仕入税額控除を受けるために、原則として適格請求書の保存が必須です。
ただし、消費税の課税対象とならない不課税取引は、インボイス制度の適用範囲外です。したがって不課税取引のみを記載した領収書であれば、インボイスの要件を満たす必要はありません。
しかし取引先が消費税の処理を行う上で、領収書に詳しい取引内容の記載を求める場合があります。そのため不課税取引であっても、取引内容を明確に記載した領収書を発行しておくのが望ましいです。
消費税がない場合の領収書の書き方
消費税がない不課税の領収書は、基本的な記載項目は通常の領収書と変わりません。しかし消費税に関する記載がない分、簡素化された形式となっています。消費税がない不課税の領収書で記載しなくてはいけない項目は以下の通りです。
- 給与・賃金:従業員への給与や賃金の支払い
- 寄付金・祝金・見舞金:寄付金、結婚祝い、お見舞い金など
- 株式の配当金:株式の配当金の支払い
- 保険金:保険金の支払い
- 損害賠償金:損害賠償金の支払い
- 国外取引:国外で行われた取引
税率や区分合計など消費税に関する詳細については記載せず、受け取った合計金額のみを記載します。また後日トラブルにならないよう、取引内容を具体的に記載しましょう。
インボイス制度が導入された背景
2019年10月の軽減税率導入により、8%と10%の複数税率が混在し、従来の方式では正確な税額把握が困難になりました。インボイス制度は税率ごとの消費税額を明確にし、適正な課税を確保するべく導入された制度です。
また消費税の仕組み上、免税事業者の「益税」が発生していたのも導入の理由のひとつです。この制度により課税事業者は仕入税額控除にインボイスが必要となり、免税事業者からの仕入れでは控除が受けられなくなりました。
よって、益税の発生が抑制できるようになり、消費税の適正な納税を促進するための足がかりとなったのです。
インボイス制度開始以降における領収書の変更点
インボイス制度開始以降、領収書の書き方がどのように変わったのかについて3つのポイントから解説します。
税率別の消費税額・適用税率の内訳・登録番号の追記が必須
インボイス制度に対応した領収書を発行する場合、従来の領収書に加えて以下の情報の記載が義務づけられました。
- 登録番号
- 適用税率
- 税率ごとに区分された消費税額(適格簡易請求書の場合は、税率ごとに区分された消費税額または適用税率)
これらは領収書の内訳と登録番号の項目に該当するため、改めて記載内容を確認する必要があります。
ただしインボイスを発行できるのは登録番号を持つ課税事業者に限られてしまいます。登録番号の記載がない領収書は、インボイスとして認められないため注意しましょう。
適格請求書1枚あたり、税率ごとに消費税の端数処理は1回に限定
インボイス制度導入以前は消費税の端数処理に関して明確なルールがなく、商品ごとの端数処理も可能でした。しかしインボイス制度導入後はインボイス1枚につき、税率ごとに1回に限定して端数処理を行うことが義務づけられました。
つまり、商品ごとの端数処理は認められなくなったのです。
これから複数税率の商品を扱う場合は、税率ごとに計算された金額の端数処理をしなくてはいけません。ただし端数処理の方法(切り上げ、切り捨て、四捨五入など)は、事業者が任意に選択できます。
3万円未満の場合も領収書が必要
インボイス制度前は取引金額が税込3万円未満の場合、領収書がなくても帳簿への記載・保存があれば仕入税額控除が認められていました。ただしインボイス制度導入後は、たとえ取引金額が3万円未満でも原則としてインボイスに対応した領収書が必須となったのです。
ただしインボイス制度開始後の6年間は、次の条件を満たす事業者に限り1万円未満の課税仕入はインボイスの保存が不要です。
- 基準期間の課税売上高が1億円以下
- 前年または前事業年度開始の日以後6か月間の課税売上高が5,000万円以下
消費税法における「基準期間」とは、消費税の納税義務の有無や、課税方法の判定基準となる期間のことです。個人事業者はその年の前々年、法人はその事業年度の前々事業年度を指します。
領収書をインボイスとして発行する際の書き方
続いて、インボイスとして領収書を発行する書き方について記載すべき項目を解説します。
- 適格請求書発行事業者の氏名または名称および登録番号
- 取引が行われた日付
- 取引内容
- 商品の合計金額(税率ごとに区分)
- 消費税額または適用税率のいずれか(税率ごとに区分)
インボイスの記載事項に不備があると受取側が仕入税額控除を受けられなくなる可能性があります。不安がある方は、国税庁のウェブサイトの確認や税理士など専門家への相談がおすすめです。
関連記事:【税理士監修】インボイスの領収書の書き方は?見本やテンプレート、登録番号なしの場合は?
インボイスの領収書を発行する場合のポイント
インボイスの領収書を発行する際の3つのポイントをまとめました。
適格請求書発行事業者の申請をする
インボイスを発行するためには、税務署に適格請求書発行事業者の登録申請を行い、登録番号を取得する必要があります。e-Taxまたは郵送で登録申請が可能です。税務署から登録番号の通知を受けたら、領収書に登録番号を記載しましょう。
領収書の形式を変更する
インボイスとして領収書を発行するためには以前の区分記載請求書に加えて、フォーマットを変更する必要があります。
現在使用している領収書のフォーマットがインボイスの記載要件を満たしているか確認して必要に応じて修正しましょう。領収書発行システムを利用している場合は、システムがインボイス制度に対応しているか確認してください。
取引価格に関わらず領収書を発行する
インボイス制度では取引価格に関わらず、課税事業者である取引先から求められた場合は、インボイスを発行する必要があります。
課税事業者は仕入税額控除を受けるために、売手からインボイスを受け取り、保存しなくてはいけません。したがってたとえ少額の取引であっても、取引先がインボイスの発行を求めてきた場合は、発行する義務があります。
関連記事:税理士に領収書を丸投げしたら費用はいくら?おすすめなケースと業務範囲
インボイスの領収書を受け取る場合のポイント
インボイスの領収書を受け取った際に見ておきたい3つのポイントについて解説します。
適格請求書等の要件を満たすか確認
領収書を受け取ったら最初にすべきは、適格請求書等の要件を満たすかどうか確認することです。まず領収書に登録番号が記載されているかを確認しましょう。
もし登録番号がない場合は、以下の一定期間であれば経過措置の適用が受けられるため経過措置の適用対応を行ってください。
- 2023年10月1日~2026年9月30日までの3年間:仕入税額相当額の 80%
- 2026年10月1日~2029年9月30日までの3年間:仕入税額相当額の 50%
また受け取った領収書は、インボイスとは別の仕分けで保存しましょう。
適格簡易請求書に記載漏れや誤りがないか確認
インボイスは発行事業者が登録をしている事業者に限られます。そこで国税庁の適格請求書発行事業者公表サイト」でインボイスの発行事業者を検索する必要があります。検索では「氏名または名称」や「登録年月日」を照会しましょう。
また記載された取引内容や金額、税率などに誤りがないか確認します。特に、税率の区分や消費税額の計算に誤りがないか注意が必要です。そして記載内容に不備があれば、発行事業者に修正を依頼しましょう。
電子データと紙の領収書をそれぞれ適切な方法で処理・保存
インボイス制度では、電子データと紙の領収書の両方が発行される可能性があります。それぞれの領収書について、適切な処理・保存方法を理解しておきましょう。
電子データは電子帳簿保存法の要件に従って保存する必要があります。それに対して紙の領収書は、原則として7年間保存しなくてはいけません。保存方法としては紙のまま保存する方法と、スキャナで電子化して保存する方法があります。
紙の領収書は保存や処理に手間がかかるため、ペーパーレス化を検討しましょう。ただし全ての領収書を一度に電子化するのではなく、優先度をつけて段階的に進めるのが望ましいです。
関連記事:請求書の整理や管理で悩んでいるあなたへ!保管方法を徹底解説!
消費税がない不課税の領収書に関するよくある質問
最後に消費税がない不課税の領収書に関するよくある質問をまとめたので、参考にしてください。
レシートとの違いは?
領収書は宛名があり、支払いの証明として利用されるのが一般的です。それに対しレシートは購入内容の詳細が記載され、購入の証明として利用される傾向があります。
提出先が購入品の内訳が必要な場合はレシート、宛名・押印による信頼性が必要な場合もあります。また高額の場合は領収書を発行するなど、状況に応じて使い分けるとよいでしょう。
手書きの領収書で消費税記載なしだとどうなる?
手書きでも領収書に消費税額の記載は必須ではありません。しかしインボイス制度の要件を満たすためには、消費税額の記載が必要です。
記載がない場合、受取側が仕入税額控除を受けられなくなってしまいます。インボイスとして必要な記載事項を参考に、漏れなく記載しましょう。
課税と不課税が混在する場合はどうすればいい?
インボイス制度において課税取引と非課税取引が混在する請求書を作成する場合、両者を明確に区別して記載する必要があります。
非課税の項目には「※」などの記号を付記したり「非課税」という文言を記載したりするのがおすすめです。また課税取引と非課税取引を項目ごとに分け、それぞれの金額を明確に記載しましょう。
まとめ
不課税の領収書は記載すべき項目をしっかりと理解して作成する必要があります。しかし2023年10月から始まったインボイス制度によって不課税取引と課税取引のインボイスの書き分けは複雑になりました。
もし不課税取引の判断を誤ると、税務調査で指摘を受けて追徴課税されるリスクがあります。
もし領収書の書き方やインボイス制度について不明点があれば、税理士に相談するのがおすすめです。小谷野税理士法人では不課税やインボイス制度に対応した領収書の作成に特化した税理士が在籍しています。