回転率とは、財務分析のひとつである「活動性分析」に用いる指標です。しかし「回転率」といっても複数種類が存在し、それぞれ意味合いが異なります。正しく分析を行うためにはこれらの意味と計算式を理解しておかなくてはいけません。そこで今回は活動性分析と8種類の回転率の概要について、回転率を向上させるための経営のコツを解説します。売上増加やコスト削減を目指し収益性を高めたい事業者の方はぜひ参考にしてください。
目次
回転率を用いる活動性分析とは?
活動性分析とは、企業の資産が効率的に活用されているかを評価する財務分析の手法です。売上高と総資産や売上債権などの特定の資産との比率を計算し、資産がどれくらいの頻度で売上を生み出すために活用します。
さらに具体的に掘り下げると、活動性分析には以下の3つの目的があります。
- 保有資産を最大限に活用し、売上向上を目指す
- 不要な資産を削減し、効率的な経営を行う
- 同業他社との比較を通じて自社の強みと弱みを把握し、改善につなげる
回転率を把握するメリット
企業が財務分析において回転率を把握しておく大きなメリットは以下の3つです。
顧客のニーズを把握できる
回転率を分析することで、どの商品やサービスが顧客に支持されているのか、逆にニーズが低いものは何かを把握できます。
例えば在庫回転率が高い商品は顧客からの需要が高く、低い商品は滞留在庫となる可能性を示唆します。これによって仕入れや在庫管理を最適化し、顧客のニーズに合った商品・サービスの提供が可能です。
サービスの提供体制を確立できる
回転率の分析はサービスの提供体制を最適化する上でも有効な手段です。例えば特定のサービスや商品の回転率が高い場合、それに対応するための人員配置や設備投資を強化する必要があります。
逆に回転率が低いサービスは見直しや改善を行うことで、リソースの有効活用を図れます。顧客満足度の向上と効率的なサービス提供体制を確立したい場合は、積極的に活用した方が良いでしょう。
無駄なコストを削減しやすい
回転率の把握によって過剰な在庫や不要なサービス提供を抑制し、無駄なコストを削減できます。
例えば在庫回転率が低い商品の仕入れを減らせば、保管コストや廃棄コストを削減できます。
また回転率の低いサービスを見直し、リソースを有効活用することで、人件費や運営コストの削減につながるでしょう。このように回転率の分析は、経営の効率化とコスト削減に大きく貢献する手法なのです。
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活動性分析で用いる8つの回転率
活動性分析で用いる8つの回転率とその計算方法について表でまとめました。
指標名 | 概要 | 計算方法 |
総資本回転率 | 企業がどれだけ効率的に売上を生み出しているか「企業の総合力」を示す | 売上高 ÷ 総資本 |
経営資本回転率 | 企業の中核事業に投じられた資本がどれだけ効率的に売上を生み出しているか ※遊休資産は除外 | 売上高 ÷ 経営資本(総資本 – 遊休資産・建設仮勘定) |
自己資本回転率 | 返済不要の自己資本がどれだけ効率的に売上を生み出しているか「自己再生力」を示す | 売上高 ÷ 自己資本 |
棚卸資産回転率 | 企業の棚卸資産がどれだけ効率的に売上を生み出しているかを示す | 売上原価 ÷ 棚卸資産 |
固定資産回転率 | 企業の固定資産がどれだけ効率的に売上を生み出しているかを示す | 売上高 ÷ 固定資産 |
売上債権回転率 | 企業の売上債権がどれだけ効率的に回収されているかを示す | 売上高 ÷ 売上債権 |
買入債務回転率 | 企業の買入債務がどれだけ効率的に支払われているかを示す | 売上原価 ÷ 買入債務 |
商品回転率 | 企業の商品がどれだけ効率的に売れているかを示す | 売上高 ÷ 商品 |
8つの回転率を用いて分析することで、経営悪化の原因特定や問題解決に役立ちます。さらに財務諸表と照らし合わせて各指標を個別に計算すれば、より正確な分析が可能です。
ただしこれらの指標は企業の業種や規模によって適切な水準が異なる場合があるので注意してましょう。
関連記事:流動比率は高い方がいい?目安や高すぎる場合の注意点
総資本回転率の目安は「1.0」
総資産回転率は企業の総資産がどれだけ効率的に売上を生み出しているかを示す指標であり、目安は「1.0」です。ただし小売業、卸売業、賃貸業など一部の業種では、この目安は適切ではありません。
一般的に「総資産回転率は1.0より高い方がいい」とされています。これは投資から回収までのサイクルを多く回して総資産を効率的に運用できている証拠です。
一方で総資産回転率が1.0を下回る場合は、総資産の運用効率が低い状態と言えます。ただし1.0に近い場合は、それほど大きな問題はありません。もし1.0を大きく下回る場合は、売上が少ないか総資産が多い原因が考えられます。
【業種別】平均回転率
以下では、令和4年度における業種別の平均総資本回転率についてまとめました。
サービス業 | 1.19 |
生活関連サービス・娯楽業 | 0.90 |
宿泊・飲食サービス業 | 0.96 |
学術研究、専門・技術サービス業 | 0.66 |
不動産、物品賃貸業 | 0.28 |
小売業 | 1.68 |
卸売業 | 1.70 |
運輸、郵便業 | 1.09 |
情報通信業 | 1.03 |
製造業 | 0.96 |
建設業 | 1.09 |
総資産回転率は業種によって大きく異なり、小売業や卸売業は仕入れと販売の頻度が高いため高い数値を示します。
一方で不動産業は高額な資産を保有するため低い数値になりがちです。また中小企業の平均値を用いた分析では、多くの業種が目安の「1.0」を上回っています。
参考: 令和5年調査の概況|e-Stat 政府統計の総合窓口
回転率が低い原因
回転率を低下させる2つの原因について解説します。
売上が下がっている
売上高が低下すると総資産回転率も比例して低下します。これは回転率の計算式において、売上は分子に位置するためです。
売上低下の要因は多岐にわたり、市場ニーズの変化、競合の激化、販売戦略の不備などが挙げられます。そのため販路拡大、商品改善、営業戦略の見直しなど、包括的なアプローチが必要です。
売上につながらない資産を有している
回転率の計算式では、売上に直接貢献しない資産は考慮されません。そのため、遊休資産、過剰在庫、投資目的の資産など、売上に繋がらない資産を多く抱えていると、回転率が低下する可能性があります。
これらの資産は保有しているだけで管理コストや維持費がかかる場合があり、経営の効率性を損なう要因となります。特に総資産規模が大きい企業は、これらの資産の見直しが必要です。
関連記事:期末在庫を増やすと税金が減る?計算方法や消費税の扱いも解説!
回転率を向上させるための対策
ここからは回転率を向上させて企業の財務体質強化、経営の安定化につなげるための対策についてご紹介します。
現状の見直しをする
回転率低下の主な原因は、売上高の減少または売上に貢献しない資産の存在です。売上高の減少に対しては、市場調査、競合分析、顧客ニーズの再評価を行い、売上向上のための戦略を練り直す必要があります。
また社内の業務フローだけでなく、外部環境の変化にも目を向け、多角的な視点から原因を特定しましょう。
無駄な資産を売却する
売上に貢献しない遊休資産は、回転率を低下させる要因となります。特に価値が時間と共に減少する資産は、早期の売却を検討しましょう。
過剰な在庫も同様に、値下げ販売などを検討し、資産の有効活用を図ります。また売掛金の回収は、資産の圧縮と資金繰りの改善にもつながります。未回収の売掛金がないか定期的に確認し、回収を徹底しましょう。
売掛金を回収する
売掛金の回収は、あらゆる業種において回転率改善の鍵となります。売掛金は、売上として計上されていても、回収が遅れると資金繰りを圧迫し、回転率を低下させます。
取引先との契約条件を確認し、期日通りの回収を徹底するとともに、必要に応じて回収方法の見直しや取引条件の改善を行いましょう。
関連記事:【税理士監修】「売掛金の節税対策」徹底ガイド:経営者に役立つ基本知識と対策
財務分析における回転率の注意点
続いて、回転率を用いて財務分析をする際の注意点について解説します。
自社の実績と比較する
資本回転率の分析では同業他社との比較だけでなく、自社の過去実績との比較が不可欠です。回転率が悪化している場合は、その傾向が一時的なものか継続的なものかを把握できれば、適切な対策を講じやすいです。
そのため定期的な分析を行い、状況を継続的に把握できるように体制を整えておきましょう。
よく検討してから総資本を手放す
総資本の処分は、事業に直接的な影響を与える可能性があるため、慎重な検討が必要です。特に固定資産の処分においては売却と廃棄で会計処理が異なるため、処分後の影響も考慮する必要があります。
処分後の事業計画も踏まえて、総合的な判断を下しましょう。
まとめ
財務分析における回転率はユーザーニーズの把握や行動パターンを可視化し、サービス改善やコンテンツの最適の施策につながる重要な指標のひとつ。複数の回転率の指標を用いれば、より精度の高い分析結果を得られます。
ただしこれらの分析は専門的な知識が必要のため、税理士などのプロの専門家に相談するのがおすすめです。税理士は活動性分析の結果に基づいて売上向上、コスト削減、資産効率の改善など、具体的な経営改善策を提案してくれます。
小谷野税理士法人では財務分析に強みのある税理士が複数在籍しており、客観的な視点から経営状況を評価・アドバイスできます。