ホテル経営における財務分析はホテルの収益性、安全性、成長性などを数値で把握するための重要な指標です。また経営状況を客観的に評価し、問題点や改善点を明確にできるのも大きなメリット。しかし、ホテル経営でどのような指標を用いて財務分析をすべきかお悩みの経営者の方も多いのではないでしょうか。そこで今回はホテル経営における財務分析方法や用いる経営指標、利益を上げるポイントについて解説します。
目次
ホテル経営の収益構造
ホテル経営における収益構造は、主に以下の5つの部門に分けられます。
部門名 | 概要 | 主な収益源 | 利益率の目安 | 収益向上のためのポイント |
宿泊部門 | 宿泊客へ客室を提供 | 宿泊料金 | 約60〜70% | 価格設定と稼働率のバランス |
飲食部門 | レストラン・カフェ・バー・ルームサービスなどの提供 | 飲食料金 | 約20% | メニューの魅力 |
宴会・イベント部門 | 結婚式・パーティー・会議などのスペース貸し出し | 会場利用料 | 約50% | 他社との差別化 |
企画部門 | ホテルサービスの営業 イベント企画、広報活動 | 営業成果 | – | ターゲットに合わせた営業戦略 |
管理部門 | ホテル全体の運営管理 | – | – | 効率的な人員配置 |
利益率はあくまで目安であり、ホテルの規模や形態によって変動します。各部門が連携して顧客満足度を高めることで、ホテル全体の収益向上につながるでしょう。
ホテル経営における財務分析の重要性
観光庁の調査によると、2023年の宿泊旅行者数は6億1,747万人と、前年から37.1%増加しました。
しかし、客室稼働率はビジネスホテルで69.2%、シティホテルで68.8%、リゾートホテルで51.9%にとどまる結果になりました。
全体で見ても7割に達したのは東京都の73.4%のみでした。新型コロナウイルス感染症の影響による需要低迷で、閉業を余儀なくされたホテルも少なくありません。
しかし、コロナ禍が落ち着き、インバウンド需要も回復傾向にある今、ホテル業界には明るい兆しが見えています。ただし宿泊施設の多様化による競争激化、人手不足、資材調達・管理コストの増加など、課題も山積みです。
この状況下でホテル経営を成功させるにはビジネスモデルの構造を深く理解し、自社に最適な戦略を策定しなくてはいけません。
関連記事:宿泊税の勘定科目は?仕訳例や宿泊費との違いについても解説
ホテル経営の財務分析で重要な経営指標
ホテル経営の財務分析において重要な経営指標について紹介します。
指標名 | 概要 | 計算式 | 活用シーン |
客単価 | お客様一人あたりの売上 | 売上 ÷ 客数 | ターゲット層の確認 売上向上のための価格戦略 |
宿泊客数 | 宿泊目的でホテルを利用した客数 | – | 宿泊メインのホテルの売上分析 閑散期の集客対策 |
客室稼働率(OCC) | 販売可能な客室のうち、利用された客室の割合 | (利用された客室数 ÷ 販売可能な客室数) × 100 | 繁忙期・閑散期の把握 価格設定やプランの最適化 |
客室平均単価(ADR) | 客室が平均していくらで売れたか | 全体の売上 ÷ 利用された客室数 | 客室タイプ別の収益性比較 価格戦略の検討 |
RevPAR | 販売可能な客室1部屋あたりの収益 | 客室稼働率(OCC) × 客室平均単価(ADR) | 客室稼働率と客室平均単価のバランスを考慮した収益最大化 |
定員稼働率 | 客室全体の定員に対する実際の宿泊人数の割合 | (宿泊客数 ÷ 客室総定員) × 100 | ファミリー層の利用が多いホテルや旅館の収益性分析 |
一人あたりの宿泊数 | 1人が何泊利用したか | 宿泊数 ÷ 宿泊利用者数 | 連泊促進のためのプラン検討 収益性向上 |
リピート率 | ホテル利用者がリピーターとなる割合 | (再来店者数 ÷ 総来店者数) × 100 | 顧客満足度向上 リピーター獲得戦略 |
顧客満足度 | サービスに対する満足度を数値化した指標 | アンケートやモニター調査など | サービス改善 顧客満足度向上 リピーター獲得 |
宿泊比率 | 施設利用者のうち宿泊客の割合 | (宿泊客数 ÷ 利用客数) × 100 | 施設利用者の傾向分析 サービス提供の最適化(温泉旅館など) |
バックオーダー数 | キャンセル待ちの件数 | – | 人気度の把握 空室リスクの軽減 |
原価率 | 料理の売上に対する材料費の割合 | 材料費 ÷ 料理の売上 × 100 | 直営レストランの経営分析 コスト管理 |
これらの指標によってホテルの収益性、稼働率、顧客満足度などを数値で把握し、経営状況を客観的に評価できます。
関連記事:民泊経営にかかる所得税って?注意点や確定申告の手順も解説
ホテル経営で効率的に利益を上げるためのポイント
ここからは、ホテル経営で効率的に利益を上げるために知っておきたい4つのポイントを解説します。
顧客ニーズを把握する
利益を上げるためには最新の旅行トレンドや顧客ニーズを把握し、サービスや施設に反映させることが重要です。
そのため、まずはどの顧客層をターゲットにするのかを明確にしましょう。方法としては宿泊履歴、アンケート、レビューなどを分析し、顧客の好みや不満な点を洗い出します。
またSNSやメールマガジンなどを活用するのもひとつの方法です。SNSを通じて顧客とのコミュニケーションを活発にすれば、ニーズの変化をいち早くキャッチできるでしょう。
定員数・ベッド数を増やす
シングルルーム、ツインルーム、スイートルームなど多様なタイプの客室を用意することで、幅広い顧客層に対応できます。
家族連れやグループ客向けに、複数の客室を繋げて利用できるコネクティングルームを導入するのも効果的です。
またエキストラベッドやソファベッドなどを導入すれば、定員数を調整しやすくなります。余裕があれば会議室や宴会場など、空きスペースを客室として活用することも検討しましょう。
稼働率を上げる
小売業と異なり、ホテルでは客室という商品を翌日に持ち越すことができません。そのため、日々の客室販売数が収益に直結し、稼働率が重要なポイントです。
稼働率向上のために客室料金を下げることは有効な手段ですが、過度な値下げは利益を圧迫します。料金調整だけでなく、サービスやイベントの充実など、多角的なアプローチで稼働率向上を目指しましょう。
DX化を推進させる
DX(デジタルトランスフォーメーション)化は、業務効率化と顧客満足度向上に貢献する手法です。
例えばホテル管理システムの導入によって予約管理、顧客管理、会計処理などを一元化し、業務効率化にも繋がります。またオンラインチェックイン・チェックアウトを活用すれば顧客の待ち時間を短縮し、利便性が向上するでしょう。
さらにデータ分析ツールで顧客や売上のデータを分析することで、経営戦略の改善に役立てられます。
ホテル経営に関して知っておきたいリスク
ホテル経営はうまくいけば大きな収益が上げられる分、経営で注意すべき点も多いです。ここからは、ホテル経営をする上で知っておきたい2つのリスクを解説します。
膨大な維持費がかかる
ホテル経営は、開業時の投資に加え、運営を続ける上で継続的な費用が発生します。主な内訳としては、人件費、食材費、光熱費、広告宣伝費、消耗品費、修繕費などです。
ホテル経営には数千万から数億円規模の開業資金が必要となるだけでなく、日々の運営にも多額のコストがかかります。さらに維持費の増加、キャッシュフローの悪化、集客の低迷などが重なると、経営は急速に悪化する可能性もあります。
人件費の削減や直接仕入れによる原材料費の抑制などの運営コストを効率化することが、ホテル経営の重要な鍵となるでしょう。
インバウンドの需要や景気に左右される傾向にある
ホテル経営は、社会情勢や経済状況に影響を受けやすい側面があります。特に近年は、インバウンド需要が業績を左右する重要な要素となっています。
コロナ禍では大きな打撃を受けたものの現在は回復基調にあり、円安の影響も追い風となってインバウンド客は再び増加傾向にあります。
そのため柔軟な価格戦略や効果的なオンライン集客など、安定した集客を目指した戦略的な取り組みを実践する必要があるでしょう。
関連記事:民泊事業における収入について|かかる税金や確定申告の必要性を解説
ホテル経営に関するよくある質問
最後にホテル経営に関するよくある質問に回答したので、ぜひ参考にしてください。
ホテル経営における原価率の平均は?
認定経営革新等支援機関の調査によると、ホテルの売上原価率は2023年の調査では平均20.6%という結果になりました。これは日旅協全国平均である22.6%を下回っています。
原価管理の徹底に加えて宿泊単価を高めに設定することで、相対的に原価率を抑制できていると考えられます。
高級ホテルの利益率はどのくらい?
ホテル業界の平均利益率は10%前後が標準水準と言われています。高級ホテルのヒルトンの場合は、2024年12月通期の営業利益率は21.2%でした。ただし高級ホテルの利益率は立地や規模などの要因によって異なるため、あくまで目安と捉えましょう。
参考:「2023年の営業状況と財務・損益状況調査」報告|認定経営革新等支援機関株式会社リョケン
まとめ
財務分析はホテル経営における価格設定や投資判断、コスト削減など、重要な経営判断を行うための重要な指標です。正しく分析ができれば、リスクを軽減しながら収益性の向上を目指せるでしょう。
ホテルの財務分析は財務諸表の分析や経営指標の算出など、専門的な手法を用いて財務分析を行うため煩雑なことが多いです。そのため、もし経営指標の読み方や財務分析に不安がある場合はプロの税理士に相談することをおすすめします。