飲食店を営む事業者にとって、経営指標を用いた経営状況の分析は欠かせません。しかし、経営指標の意味や使うべき指標が分からず、正しい分析ができないとお困りの方も多いのではないでしょうか。そこで今回は、飲食店で使うべき7つの経営指標を解説します。経営を成功させるポイントも解説するので、ぜひ参考にしてください。
目次
飲食店業界における経営の現状
まずは飲食店業界全体を取り巻く経営状況の現状について解説します。
円安の影響による原材料の高騰
円安の影響による原油や原材料の高騰により、多くの飲食店が深刻な影響を受けています。飲食店ドットコムの調査では、9割以上の飲食店経営者が原材料高騰を実感していることが判明しました。
また東京商工リサーチの資料によると、2023年には調味料を中心に約32,000品目が値上げされたようです。これらの状況から、飲食店は価格転嫁を余儀なくされていると考えられます。
深刻な人手不足
飲食業界は深刻な人手不足に直面している状況です。背景には労働人口の減少に加え、長時間労働や低賃金といった労働環境の問題があります。帝国データバンクのデータによると、非正社員の人手不足を感じている業種は「飲食店」(55.0%)がトップでした。
特に若年層の就業希望者が減少しており、人材の確保が困難になっています。店舗の営業時間の短縮や休業、サービスの質の低下を招き、経営を圧迫しているようです。
感染症対策に伴うコスト増加
飲食業界ではさらに感染症対策が経営を圧迫しています。消毒液やマスクなど衛生用品の購入、換気設備の導入、座席間隔の確保など、追加コストは多岐にわたります。
また従業員の健康管理やPCR検査費用も発生し、経営負担を増加させているのも現状です。これらのコスト増加は、価格転嫁が難しい中小規模の飲食店にとって大きな打撃となっているでしょう。
迷惑行為による風評被害
飲食業界では、迷惑行為による風評被害が深刻な経営課題となっています。SNSの普及により些細な迷惑行為でも瞬く間に拡散され、店舗のイメージを大きく損なう可能性があります。
例えば不衛生な行為や従業員へのハラスメントなどが動画で拡散されると、客足が激減して売上に大きな影響を与えます。また誤った情報や悪意のある口コミも、顧客の不安を煽り、風評被害を拡大させます。
参考:11月の飲食料品の値上げ公表は14社、795品目 円安が理由の値上げ 品目数の約7割まで上昇|東京商工リサーチ
参考:「原材料の価格高騰」に関するアンケート調査|飲食店ドットコム
飲食店経営におけるコスト構造
飲食店経営におけるコスト構造は、変動費と固定費に分けられます。
コスト | 内訳 | 補足 | 売上に占める適正な割合 |
変動費 | アルバイトやパートの変動費 | 人件費は勤務時間によって毎月変わるため | 30% |
水道光熱費 | 飲食店は調理などがあるためほかの業種に比べて水道光熱費が高い傾向にある | 5~10% | |
材料費 | 確定申告では年間の仕入れから未使用分を差し引いた金額が経費として計上可能 | 30% | |
消耗品費 | 文房具・キッチンで使う衛生用品、レジ袋などの原則1年以内に使い切る10万円未満以下のものを指す | 5% | |
固定費 | 家賃 | 住居併用型店舗の場合は、事業利用分のみを床面積等で按分して計上 | 10%以下 |
設備や器具のリース費 | 製パン機・製麺機なども含む | 10%以下 | |
通信費 | 定額ブロードバンド・モバイルインターネットの契約をしている場合 | 5% | |
その他 | 広告宣伝費 リサーチ目的の飲食費・交通費 取引先への接待費・会議費 | – |
飲食店における平均的な経費の割合は売上の60%から75%程度です。内訳の目安は以下の通りです。
飲食店経営においてコスト構造を把握することは、適切な売上目標の設定と経費削減に不可欠です。各項目の割合を明確にして効果的な経費削減を行い、利益の最大化を目指しましょう。
関連記事:飲食店の確定申告は必要?やり方や計上できる経費を詳しく解説
飲食店で重要な経営指標
それでは、飲食店で重要視される7つの経営指標をご紹介します。
FL比率
FL比率とは、飲食店の売上高に対する食材費(Food)と人件費(Labor)の割合を示す指標です。飲食店の主なコストである食材費と人件費のバランスを見ることで、経営の健全性を把握できます。一般的に、FL比率は55%以下が望ましいとされています。
売上高営業利益率
売上高営業利益率とは、売上高に対する営業利益の割合を示す指標です。営業利益は、売上総利益から人件費、家賃、広告宣伝費などの営業費用を差し引いたものです。この指標を見ることで、本業での収益性を把握できます。
損益分岐点比率
損益分岐点比率とは、売上高における損益分岐点(利益がゼロになる売上高)の割合を示す指標です。この指標を見ることでどれくらいの売上を確保すれば赤字にならないかを把握できます。一般的に、損益分岐点比率は90%以下が望ましいとされています。
客席回転率
客席回転率とは、客席が1日に何回利用されたかを示す指標です。この指標によって客席の利用効率を把握できます。回転率が高いほど、効率的な店舗運営ができていると言えるでしょう。
原価率
商品の売上に対する材料費の割合を示す指標で、商品ごとの利益率を把握できます。目玉メニューは原価率を高めに、ドリンクや前菜は原価率を抑えるなどメニュー全体で原価率の適正バランスをとる工夫が必要です。
廃棄率
廃棄率とは、仕入れた材料のうち廃棄した割合を示す指標で、この指標によって材料のロスを把握できます。
「有機無農薬野菜は丸ごと使えるが農薬栽培の野菜は皮を廃棄しなくてはいけない」など、使う食材ひとつで廃棄率が変わります。そのため、食材選びは廃棄率を考慮したトータルコストで考えることが大切です。
1坪売上
坪売上とは、店舗の1坪あたりの売上を示す指標です。この指標を見ることで店舗の収益性を面積効率の面から把握できます。
店舗のレイアウトや客層とのマッチングを評価する際に活用することも可能です。例えば1人来店が多い店は1人掛け用のカウンターテーブルをメインにレイアウトすると1坪売上が上がるといった具合です。
飲食店の経営で用いる分析方法
続いて、飲食店の経営で用いる分析方法について解説します。
ABC分析
ABC分析とは商品を売上高や利益率などの貢献度に応じてA・B・Cの3つのグループに分類する分析方法です。
Aグループは売上や利益への貢献度が最も高く、Bグループは中程度の貢献度、Cグループは貢献度が低い商品群となります。この分析によってどの商品に注力すべきか、どの商品を改善・削減すべきかを判断できます。
RFM分析
顧客の購買行動を以下の3つの指標で評価し、顧客をグループ分けする分析方法です。
- Recency(最新購買日)
- Frequency(購買頻度)
- Monetary(購買金額)
この分析によって優良顧客、新規顧客、休眠顧客などを把握できるようになります。それぞれのグループに合わせたマーケティング施策を行えるため、顧客満足度と売上向上を図りやすくなります。
3C分析
Customer(顧客)、Competitor(競合)、Company(自社)の視点から市場環境を分析する方法です。顧客のニーズや競合の動向、自社の強み・弱みを把握することで、効果的な経営戦略を立案できます。
5P分析
5P分析は以下の5つの要素からマーケティング戦略を分析する方法です。
- Product(製品)
- Price(価格)
- Place(流通)
- Promotion(販促)
- People(人材)
これらの要素を総合的に分析することで、顧客ニーズに合った効果的なマーケティング戦略を立案できます。
バスケット分析
バスケット分析とは、顧客の購買データを分析し、商品間の関連性を明らかにする方法です。この分析によって「ビールを買う人は枝豆も買う」といった関連性を発見できます。商品の陳列やキャンペーンに活用できて、売上向上にも繋がります。
関連記事:飲食店の節税対策|経営者が知るべき税金の種類や注意点について
飲食店の経営を成功させるポイント
ここからは、飲食店の経営を成功させるために必要な6つのポイントについて解説します。
マーケティングに注力する
まずはマーケティングによって顧客のニーズに合ったメニュー開発や店舗デザイン、サービスを提供する必要があります。
SNSを活用した情報発信や、地域密着型のイベント開催など、多角的なマーケティング戦略を展開してみるのもひとつの手段です。多角的な戦略を実践して、集客力を高めてリピーターを増やしましょう。
従業員の教育を怠らない
そして顧客満足度を高めるためには、従業員への教育も怠ってはいけません。接客マナーや調理技術、店舗のコンセプトやメニューに関する知識、クレーム対応など、幅広い教育が必要です。
従業員のモチベーションも高められて、結果的に顧客満足度向上に繋げることができます。
コスト削減に取り組む
食材の仕入れコストや人件費、光熱費など、さまざまなコストを見直して無駄を省くことで、利益率を高めることができます。例えば食材のロスを減らすためのメニュー開発や、エネルギー効率の高い設備導入などを検討するのも有効です。
競合店舗の分析・比較をする
競合店舗の分析は自店舗の強み・弱みを把握し、差別化を図るための有効な手段です。まずは競合店舗のメニュー、価格、サービス、客層などをリサーチしてみましょう。こうすることで、自店舗の改善点や新たなビジネスチャンスを見つけられるかもしれません。
常に改善策を考える
飲食店の経営は、常に変化する市場や顧客ニーズに対応する必要があります。顧客の意見や市場の動向を常に把握してメニュー、サービス、店舗デザインなどを検討しましょう。
このようにさまざまな観点から改善策を検討することで、経営状況の改善の糸口が見つかる可能性があります。
時代のニーズを把握する
社会情勢やトレンドの変化に敏感に対応することも、飲食店経営を成功させる上で重要です。健康志向の高まりや、多様な食文化への関心など、時代のニーズを把握するのも飲食店経営に必要な施策です。
これらに応じたメニュー開発やサービス提供を行うことで、顧客の支持を得られるでしょう。
関連記事:飲食店向け補助金を上手に活用しよう!成功の鍵を握る申請のメリットやコツ・事例・注意点などを解説
飲食店の経営・経営指標に関するよくある質問
最後に飲食店の経営・経営指標に関するよくある質問についてまとめたので、ぜひ参考にしてみてください。
飲食店のオーナーの取り分はどう決める?
店長とオーナーが異なる場合、オーナーの取り分は一般的に売上の10%が適切とされています。これは、売上から経費を差し引いた最終的な金額であり、店舗の運営資金やオーナー自身の収入のバランスを考慮した結果です。
レストラン経営者の年収平均は?
日経レストランONLINEの発表によると、飲食店経営者の平均年収は627万円と言われています。これは、一般的な社会人と比較すると高い水準です。
まとめ
飲食店における経営指標に基づく分析は経営の健全性を保ち、収益性を向上させるための方法のひとつです。
経営指標の分析から目標を設定し定期的に進捗状況を確認することで、目標達成に向けた取り組みを促進できます。また問題点や改善すべき点が明確になり、具体的な対策を立てやすいでしょう。
しかし、経営指標の正しい読み方や分析方法は専門的な知識が必要なため、税理士などの専門家に相談するのがおすすめです。飲食店の経営についてのご相談は、ぜひ「小谷野税理士法人」までお気軽にお問い合わせください。