生産性分析は企業や組織が投入した資源に対して、どれだけの成果を生み出したかを定量的に評価・分析するための指標です。分析結果を用いて生産性の向上を目指すには、指標の性質を理解して有効な施策を練る必要があります。そこで今回は生産性分析の概要や重要な6つの指標、生産性向上のための施策のポイントについて解説します。生産性分析を正しくできているか不安がある方は、ぜひ参考にしてください。
目次
生産性分析の概要
生産性分析とは、企業や組織が投入した資源に対して、どれだけの成果を生み出したかを定量的に評価・分析することです。この分析は組織の効率性や収益性を把握し、改善のための具体的な対策を講じるために用いられます。
目的
生産性分析は企業が人員や設備などの生産手段を効率的に活用し、より多くの利益を上げているかを判断するために用いられます。
付加価値を算出して企業の生産性を数値化することで、投資金や純利益への活用・分配状況を確認できるのです。また従業員1人あたりの付加価値を提示し、従業員の目標設定とモチベーション向上を促すために活用することもあります。
活用方法
生産性分析は月ごとや年度ごとの分析結果を比較すると、生産性向上のための戦略を立てられます。生産性向上のためには、以下の対策が有効です。
- 商品やサービスの付加価値を高める
- 適切な設備投資を行い、資産の利用効率を上げる
- アウトソーシングを活用し、従業員一人当たりの売上を増やす
これらの対策と生産性分析の結果を組み合わせれば、企業の生産性を効果的に向上させられます。
対象
生産性分析ではインプットを何と捉えるかによって分析対象が変わり「労働」「資本」「全要素」の3つの要素が用いられます。
労働 |
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資本 |
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全要素 |
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近年に生産性分析が重要視されている理由
日本は国際的に見て労働生産性が低い水準にあり、特にアメリカと比較すると大きな差があります。
労働生産性の国際比較2021によると、日本の時間あたりの労働生産性はOECD加盟38ヶ国中23位という結果になりました。この背景には、長時間労働が常態化している日本の雇用形態が影響していると考えられます。
少子高齢化による労働力不足が深刻化する中で、生産性向上は緊急性の高い課題となっています。そのため、生産性分析を通じて現状を把握し、改善策を実行することが重要視されています。
つまり、日本の労働生産性の低さと今後の労働力不足への懸念が、生産性分析の重要性を高めているということです。
生産性向上に成功した企業の事例
以下では、実際に生産性の向上に成功した企業の事例をいくつかご紹介します。
企業名 | 対策 | 成果 |
三井住友海上火災保険株式会社 |
| 約1,200時間/月(14.4万時間/年)の労働時間削減を実現 |
株式会社横井製作所 |
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株式会社KMユナイテッド |
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生産性向上にはITツールの活用、業務プロセスの見直し、RPAやAIの導入などさまざまなアプローチがあることが分かります。
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生産性分析で用いられる6つの指標
ここからは、生産性分析で用いられる6つの指標について解説します。
指標名 | 概要 | 計算式 |
労働生産性 | 労働者1人当たり、または労働時間当たりの生産量を測定する指標 | 労働生産性 = 産出量 ÷ 労働投入量(従業員数または労働時間) |
労働分配率 | 企業が生み出した付加価値のうち、労働者に分配された割合を示す指標 | 労働分配率 = 人件費 ÷ 付加価値 |
有形固定資産回転率 | 企業が保有する有形固定資産(設備や機械など)が、どれだけ効率的に売上を生み出しているかを示す指標 | 有形固定資産回転率 = 売上高 ÷ 有形固定資産 |
労働装備率 | 従業員1人当たりの設備投資額を示す指標 | 労働装備率 = 有形固定資産 ÷ 従業員数 |
売上高付加価値率 | 売上高に占める付加価値の割合を示す指標 | 売上高付加価値率 = 付加価値 ÷ 売上高 |
総資本回転率 | 企業が保有する総資本(自己資本と他人資本)が、どれだけ効率的に売上を生み出しているかを示す指標 | 総資本回転率 = 売上高 ÷ 総資本 |
これらの指標を総合的に分析することで企業の生産性や収益性の現状を把握し、改善のための具体的な対策を講じられるでしょう。
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生産性分析で大切な3要素
生産性分析をするにあたって、以下の3要素を踏まえて分析を進める必要があります。
要素 | 概要 | 例 |
インプット(投入量) | 利益を上げるために投入した経営資源の量。ヒト・モノ・カネ・情報の総量 | 工場、設備、原材料、部品、従業員、技術、資金など |
アウトプット(産出量) | インプットによって創出された成果物の量 | 完成した製品、サービス、売上など |
付加価値 | 生産活動を通じて追加された新たな価値。企業などが固有の努力や工夫によって生み出した価値 | 独自の技術、ノウハウ、仕入れルート、ブランド力など |
生産性分析では、インプットとアウトプットの比率を分析することで、効率性を評価します。また付加価値は、インプットからアウトプットを生み出す過程で生み出され、企業の競争力や収益性を左右する重要な要素です。
これらの要素を総合的に分析すれば、企業の生産性向上に向けた具体的な改善策を検討しやすくなるでしょう。
自社の生産性を向上させるポイント
以下では、自社の生産性を向上させるためのポイントについて解説します。
業務の流れやコストの可視化
業務の流れやコストを可視化すると、無駄な工程やコストが発生している箇所を特定できます。また意思決定の迅速化や正確性や従業員の意識改革やモチベーション向上も目指せるでしょう。
まずは業務フロー図を作成し、各工程にかかる時間やコストを洗い出すことから始めます。そして、タイムスタディやコスト分析を行い、客観的なデータを収集しましょう。またITツールを活用すれば、リアルタイムで業務の進捗状況やコストを把握できます。
業務のルール・マニュアル化
業務のルールやマニュアルを整備することで業務の標準化を図り、品質の安定化や効率化を実現できます。特に属人化しやすい業務については、マニュアル化は必須対策と言えるでしょう。
ルール・マニュアル化をすることで業務の品質や効率を安定化させ、担当者によるバラつきをなくせます。さらに新人教育の時間を短縮し、即戦力化の促進にも効果的です。
マニュアル化のポイントは誰でも理解しやすいように、図やイラストを多用することです。また定期的に見直しを行い、最新の情報に更新したり、従業員からのフィードバックを積極的に取り入れたりしましょう。
業務の効率化・自動化
RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)やAIなどのITツールを導入するのもひとつの手段です。
自動化によって定型業務や単純作業を自動化し、業務効率を大幅に向上させられます。また、人為的なミスを削減し、業務の正確性を向上させる役割もあります。
ITツールの導入については、まず自社の業務内容や課題に合ったITツールを選定しましょう。そして導入前に十分なテストを行い、効果を検証してください。また従業員への教育やサポート体制を整備することも忘れずに実施しましょう。
アウトソーシングの活用
自社のコア業務に集中するためにノンコア業務を外部に委託すると、リソースを有効活用できます。専門性の高い業務を外部の専門家に任せれば品質向上やコスト削減、さらには柔軟な人員配置やコスト調整も可能です。
アウトソーシングを活用する場合は委託先の選定は慎重に行い、実績や信頼性を確認してください。委託範囲や責任範囲を明確化し、定期的に委託先とのコミュニケーションを取り、品質や進捗状況を管理しましょう。
まとめ
生産性分析は将来の見通しを立てたり、事業の拡大や利益の向上につなげたりすることができる重要な指標です。また分析結果に基づき、経営戦略や業務プロセスを改善することで、市場競争力を強化できるでしょう。
ただし、これらの分析は揃えるべき書類やステップが多く煩雑なため、やり方に不安がある場合は税理士に相談するのもおすすめです。税理士に相談することで、財務諸表の読み解き方や各種指標の計算方法などもサポートしてもらえます。