社会福祉法人とは社会福祉法に基づいて設立された公益性の高い非営利法人であり、福祉サービスの提供など様々な活動をしています。また財務状況を把握するためには、財務分析が欠かせません。しかし、一般的な企業と社会福祉法人では財務分析の性質が大きく異なるため、分析にお悩みの方も多いのではないでしょうか。そこで、今回は社会福祉法人の財務分析方法や用いる指標、経営改善のポイントを解説します。
目次
社会福祉法人の経営の現状
2018年度の社会福祉法人決算の概要では人件費率や1人当たり人件費の増加、サービス活動増減差額比率の低下が見られました。
サービス活動増減差額比率とは、社会福祉法人の本業であるサービス活動における収益性と効率性を示す指標です。保育事業主体法人が最も高く、障害福祉サービス主体法人と介護保険事業主体法人が後に続いています。
以上の現状を踏まえ、社会福祉法人は労働者1人当たり人件費の地域水準との比較が求められます。また求職者にとって魅力的な地域公益活動や、休職者の復帰支援体制の整備も必要となるでしょう。
参考:第5回:社会福祉法人の経営分析について|独立行政法人福祉医療機構
これからの社会福祉法人の課題
これからの社会福祉法人の経営において人口構造の変化の把握こそが、事業継続のための重要なカギになると言われています。
将来の人口推計を基に、高齢者人口の増加と生産年齢人口の減少を考慮した事業計画をしなくてはいけません。特に団塊ジュニア世代の高齢化による影響を予測する必要があります。
さらに現役世代の減少に伴う人手不足を見据えて、中堅職員の育成と新規採用者の確保も必要です。社会福祉法人の経営は人材管理が根幹となり、将来の事業継続を左右するものとなるでしょう。
参考:第5回:社会福祉法人の経営分析について|独立行政法人福祉医療機構
資金収支決算書で読み解く健全な社会福祉法人の特徴
資金収支計算書は社会福祉法人会計において、1会計期間における資金の収入と支出を記録し、その増減を明らかにするための計算書類です。資金収支計算書は、主に以下の3つの区分で構成されます。
事業活動資金収支差額 | 本業である社会福祉事業の活動に伴う資金の収入と支出を示す |
施設整備等資金収支差額 | 施設整備や設備の購入など、固定資産に関する資金の収入と支出を示す |
その他の活動資金収支差額 | 上記2つに該当しない、投資活動や借入金の返済など、その他の資金の収入と支出を示す |
そして、資金収支決算書で分かる健全な社会福祉法人の特徴は以下の通りです。
- 事業活動資金収支差額が必ずプラスになる
- 事業活動資金収支差額、施設整備等資金収支差額、その他の活動資金収支差額のこの3つの資金収支差額の合計がプラスになる
社会福祉法人の経営状況チェックリスト
続いて、社会福祉法人の健全性を確認するために行う経営状況チェックリストを紹介します。
一次分析
全法人を対象に9つの財務指標を用いて、一般的な基準値や同規模・同事業法人等の平均値・中央値と比較します。この分析で経営状況の変化を認識し、概況を把握できるようになります。
一次分析で用いる9つの指標は以下の通りです。
確認事項 | 一次分析活用指標 |
収益性 | サービス活動増減差額率 |
経常増減差額率 | |
資金繰り | 借入金償還余裕率 |
債務償還年数 | |
現預金回転期間 | |
事業活動資金収支差額率 | |
当期活動増減差額 | |
短期安定性 | 流動比率 |
長期持続性 | 固定長期適合率 |
二次分析
一次分析で課題があった場合は二次分析活用指標について、同規模・同事業法人の平均値・中央値と比較します。具体的には、以下のような分析を行います。
- 財務指標の深堀り:一次分析で得られた財務指標をさらに詳細に分析し、その要因や背景を解明
- キャッシュフロー分析:資金繰りの状況を詳細に分析し、資金不足や過剰の原因を特定
- 事業別分析:複数の事業を運営している場合、事業ごとの収益性や効率性を分析し、事業ごとの課題や改善点を把握
- 将来予測:過去の財務状況や現状の課題を踏まえ、将来の財務状況を予測し、経営計画の策定に役立てる
定性的情報の整理
定性的情報の整理とは、一次・二次分析での数値情報だけでは分からない、法人の実態や将来性を把握するために行われる分析です。財務分析の結果を踏まえて、経理改善に向けたサポートが必要と思われる法人を検討します。
参考:社会福祉法人の経営指導強化等に関する調査研究 事業報告書
関連記事:流動比率は高い方がいい?目安や高すぎる場合の注意点
社会福祉法人の財務分析指標
以下では、社会福祉法人で用いられる特に重要な財務分析指標の解説をしていきます。
流動比率 | 企業や法人が短期的な支払いにどれだけ対応できるかを示すものであり、数値が高いほど安全性が高い |
純資産比率 | 企業や法人が借金などの負債に対して、どの程度安全な状態であるかを示すものであり、数値が高いほど、安定している |
固定長期適合率 | 固定資産の整備資金を返済の必要性が高い借入金に頼らず、自己資本でまかなえているかを示す指標 |
人件費・委託費比率 | 費用合理性を判断する指標であり、100%超えは赤字のリスクを高める |
労働分配率 | 人件費が適切に管理されているかを判断するための指標であり、数値が高すぎると経営が悪化する可能性がある |
経常増減差額率 | 法人が日常的な事業活動で安定して利益を出せているかを判断するためのものであり、マイナスの場合は経営改善が必要 |
サービス活動収益対運営資金借入金比率 | 事業活動で得られる収入に対して、運転資金の借入金返済がどの程度負担になるかを示すものであり、比率が高いほど資金繰りに注意が必要 |
事業活動資金収支差額率 | 事業活動を通して得た収入が支出を上回っているかを示すものであり、プラスであることが健全な事業運営の証 |
借入金償還余裕率 | この指標は、法人が借入金の返済をどの程度負担に感じているかを示すものであり、数値が高いほど財務状況に注意が必要 |
債務償還年数 | 法人が現在の事業活動の収支状況で、借入金をどのくらいの期間で返済できるかを示すものであり、期間が短いほど財務状況が健全 |
事業費比率 | 福祉サービス提供に直接必要な費用を示すもので、その金額はサービスの性質によって変わる |
事務費比率 | 法人・施設の運営に必要な間接的な費用を示すものであり、その金額は運営方法や施設の状況によって変動する |
財務分析の指標を正しく理解することで、経営上の課題や改善点を明確に把握できるようになります。収益性や効率性を評価して無駄なコストを削減し、より効果的な事業運営が可能となるでしょう。
社会福祉法人の財務分析におけるポイント
ここからは、社会福祉法人で正しく財務分析をするためのポイントについて解説します。
資金(キャッシュ)をどのように活用していくかを計画する
安定したサービス提供と法人の持続的な成長には、健全な資金繰りが不可欠です。そのため日々の資金の動きを把握し、将来の資金不足や過剰を予測しなくてはいけません。
まずは資金繰り表を定期的に見直し、資金計画の精度を高めることがひとつの手段です。施設の改修や設備の更新、新規事業への投資など、将来の成長に向けた投資計画を具体的に立てましょう。投資の優先順位を明確にし、資金調達の方法も含めて検討しましょう。
もし一時的に余裕資金が生じた場合は、預金だけでなく債券や投資信託なども検討すれば収益性を高められるでしょう。
将来どのような財務状態にしたいかをイメージする
財務分析を行う上で将来の財務状態を具体的にイメージすることは、目標達成に向けた羅針盤となります。
そのための第一歩としてまず、長期的なビジョンと目標を設定しましょう。法人の理念やビジョンに基づき自己資本比率、流動比率などを設定することで、目標達成に向けた進捗状況を把握しやすくなります。
また将来の事業計画や投資計画に基づき貸借対照表、損益計算書、資金収支計算書をシミュレーションするのも有効です。複数のシナリオを作成してリスクとリターンを比較検討することで、より精度の高い財務計画を立てられるでしょう。
社内全体で長期的なビジョンを共有することで、組織全体が一丸となって目標達成に取り組めるようになります。
関連記事:フリーキャッシュフローとは?マイナスの要因や影響、分析方法まとめ
社会福祉法人の経営状況を改善するための対策
社会福祉法人の経営状況を改善するためにどのような点を見直すべきか、その対策について解説します。
経営改善に活用できる情報を充実化させる
社会福祉法人の経営改善を図るためには、経営改善に活用できる情報を充実化した上で利便性を向上させる必要があります。
そのためにはまず、法人主体の経営改善の推進が欠かせません。法人が自らの経営状況を深く理解し、主体的に改善に取り組むことが不可欠です。
法人側の視点に立った調査研究を行い、経営改善の成功事例を広く共有することが有効です。
また財務諸表等電子開示システムの活用を強化するように呼びかけるのも1つの手段でしょう。
システムを単なる情報公開ツールとしてだけでなく、経営状況の把握や法人と所轄庁の連携強化に活用します。具体的には分析用スコアカード機能の活用促進や、財務指標の自動フィードバック機能の追加などが考えられます。
両者が客観的な財務状況を共有することで、共に改善を検討する機会を増やせるでしょう。
支援体制を整備する
社会福祉法人の経営改善を効果的に進めるためには、以下の2つの支援体制を整備することが重要です。まずは当事者団体等による支援の充実化です。現状だと所轄庁だけでは十分な経営改善の知見を提供できません。
そのため社会福祉協議会などの当事者団体が、資金繰りのサポートや経営改善計画の策定支援を強化する必要があります。特に小規模法人への支援を重点的に行い、必要に応じて専門的な機関の設置も検討しなくてはいけません。
また所轄庁への支援強化も課題のひとつです。所轄庁の職員は財務分析の専門知識が不足しがちであるため、定期的な研修の実施が推奨されます。公認会計士や税理士などの外部専門家を活用できる環境を整備し、所轄庁の分析能力を高めていくと良いでしょう。
関連記事:NPO法人を設立するには?条件や手続きの流れ、注意点について解説!
社会福祉法人の財務分析に関するよくある質問
最後に社会福祉法人の財務分析に関するよくある質問をまとめたので、ぜひ参考にしてください。
社会福祉法人で利益が出たら?
もし利益を出した場合、その利益は地域の福祉増進に充てられます。社会福祉法人は非営利法人であるため、利益を株主や出資者に分配することはできません。
社会福祉法人の損益計算書とは?
社会福祉法人の損益計算書とは、一定期間の収益と費用を比較して利益を算出した書類です。社会福祉法人の事業活動の成果を明らかにするもので、事業活動計算書とも呼ばれます。
まとめ
社会福祉法人が今後福祉サービスを安定的・継続的に提供していくためには、社会福祉法人の経営基盤の強化が必要です。社会福祉法人の経営状況を正しく理解するためには、財務分析の分析力を高めていかなくてはいけません。
財務分析によって経営状況を正しく立て直すことができれば、持続可能な事業運営やリスク管理の強化、地域貢献の拡大などさまざまなメリットがあります。もし分析が正しくできているか不安がある場合はプロの税理士に相談するのもおすすめです。