企業が資産を取得する際、一定の基準を満たすと固定資産として計上する必要があります。では、固定資産はいくらから計上できるのでしょうか。また、固定資産を所有していると固定資産税が発生する場合がありますが、その基準はどのように決まるのでしょうか。本記事では、固定資産として計上できる基準や固定資産税の仕組みについて、基礎知識から具体的なポイントまで詳しく解説します。
目次
固定資産について
企業の会計や税務において「固定資産」とは、長期間にわたって使用される資産を指します。事業活動を支えるために保有され、すぐに現金化されることを目的としないのが特徴と言えるでしょう。
一方、「流動資産」とは、1年以内に現金化される資産を指し、企業の短期的な資金繰りに関わる資産で、以下のようなものが該当します。
- 現金及び預金:手元の現金や銀行預金
- 売掛金:取引先に対する未回収の売上代金
- 商品・製品(棚卸資産):販売目的で保有する在庫
固定資産は流動資産とは異なり、長期的な視点で管理され、資産の性質や会計処理が異なります。固定資産は、大きく以下の3つの種類に分類されます。
- 有形固定資産
- 無形固定資産
- 投資その他資産
有形固定資産
有形固定資産とは、物理的な形を持ち、長期間にわたって使用される資産を指します。企業が事業活動を行う上で欠かせない資産であり、以下のようなものが該当します。
- 建物・建物付属設備:オフィスビル、工場、倉庫など
- 機械装置:製造機械、設備機器など
- 車両運搬具:社用車、フォークリフトなど
- 工具・器具・備品:パソコン、机、椅子など
有形固定資産の多くは、使用に伴って価値が減少するため、「減価償却資産」として扱われ、耐用年数に応じた減価償却が必要となります。例えば、建物・機械装置・車両運搬具などは、法定耐用年数が定められており、毎年減価償却費として計上してください。
一方で、「非減価償却資産」とされるものもあります。例えば、「土地」は時間が経過しても価値が減少しないと考えられるため、減価償却の対象にはなりません。
同じ有形固定資産でも、資産の性質によって減価償却の要否が異なるため、会計処理の際には注意が必要です。適切な処理を行わないと、財務諸表に誤りが生じ、税務上のリスクも発生する可能性があるので注意しましょう。
無形固定資産
無形固定資産とは、物理的な形を持たないが、企業の経済活動において価値を持つ資産を指します。有形固定資産と異なり、視覚的に確認できるものではありませんが、企業の競争力や知的財産として重要な役割を果たします。主な無形固定資産には以下のものがあります。
- 特許権、商標権、著作権
- ソフトウェア:業務用ソフトウェア、ライセンス費用など
- 営業権:のれん
無形固定資産も減価償却の対象となる場合が多く、特にソフトウェアやのれんは耐用年数に応じた償却が必要です。一方、商標権や特許権などは、契約期間や法的保護期間に基づいて減価償却を行うことになります。
投資その他の資産
投資その他の資産とは、企業の事業運営に直接関与しないが、長期的な投資目的で保有される資産を指します。主に財務投資や企業の成長戦略の一環として活用されるもので、以下のようなものがあります。
- 投資有価証券(株式、社債など)
- 出資金(関係会社への出資など)
- 長期貸付金(関連会社への貸付など)
これらの資産は、短期間で現金化することを目的とせず、企業の資産価値を高めるために長期的に保有される点が特徴です。ただし、投資のリスクも伴うため、評価損の計上や減損処理などが必要になる場合があるので注意しましょう。
固定資産として計上できるのはいくらから?
固定資産の会計処理は、取得価額によって異なります。すべての資産が固定資産として計上されるわけではなく、取得価額の大小に応じて「消耗品費」や「一括償却資産」など、異なる処理が必要になるので留意しておいてください。
取得価額 | 会計処理の方法 |
10万円未満 | 消耗品費として一括計上可能 |
10万円以上~20万円未満 | 一括償却資産として計上可能 (3年間で均等償却できる) |
10万円以上 | 減価償却資産として計上 (法定耐用年数に従って毎期減価償却) |
一般的に、取得価額が10万円以上の資産は固定資産として計上し、減価償却の対象となります。一方、10万円未満の資産は消耗品費として一括費用計上が可能です。また、取得価額が10万円以上20万円未満の資産は、「一括償却資産」として3年間で均等償却できる特例が適用可能です。
ただし、企業の会計方針や税務ルールによって適用できる処理方法が異なるため、社内の経理ルールを確認し、適切な処理を行いましょう。
関連記事:減価償却とは?会計や税務の基礎知識と節税のポイントを徹底解説!
固定資産税について
固定資産を所有していると、毎年「固定資産税」を納める必要があります。固定資産を所有するすべての個人・法人に納税義務が発生し、市町村が課税・徴収を行います。
固定資産税は、各資産の評価額を基に算出され、自治体ごとに税率や課税基準が異なるため、所有する資産の所在地のルールを確認してください。なお、固定資産税は1月1日時点で資産を所有している人が納税義務者となり、その年度の税額が決定されます。
発生基準
固定資産税は、市町村が定める課税標準額が一定の基準を超えた場合に発生します。
- 土地・建物:固定資産評価額が一定額以上
- 償却資産(事業用の設備など):課税標準額の合計が150万円以上
固定資産評価額は、総務省の「固定資産評価基準」に基づいて市町村が算出しますが、自治体ごとに基準額や評価方法が異なることがあるため、管轄の自治体で詳細を確認しましょう。また、固定資産税が一定額以下の場合は課税されない特例もあるため、免税点も含めた税額の確認が重要になります。
対象となる資産
固定資産税は、有形固定資産のみが課税対象であり、無形固定資産や投資その他の資産は課税対象外です。
固定資産の種類 | 課税対象 | 内容 |
有形固定資産 | 〇 |
|
無形固定資産 | × | 固定資産として計上できるが固定資産税は発生しない |
投資その他の資産 | × | 事業運営に直接関与しない資産であるため固定資産税の課税対象外 |
有形固定資産のうち、土地や建物は、所有しているだけで毎年固定資産税が発生します。また、事業用設備などの償却資産は、所有者が市町村に申告する必要があり、申告漏れがあると追徴課税のリスクもあるため注意しましょう。
一方、個人所有の自動車は、自動車税が適用されるため、固定資産税の対象外となります。
納付期限
固定資産税の納付は、毎年4月~6月頃に送付される納付書に基づき行われます。納付方法は自治体によって異なりますが、一般的に年4回の分割払い(4月・7月・12月・翌年2月)または一括払いが可能です。
納付期限を過ぎると、延滞税が発生する可能性があるため、事前に納付スケジュールを確認しておきましょう。
また、一部の自治体では、口座振替や電子納税(クレジットカード・電子マネー決済)などの支払い方法も選択可能となっているので、適切な納付方法を選び、確実に期限内に支払いを済ませましょう。
固定資産の会計処理の例
企業が固定資産を取得・管理する際には、取得時・減価償却・売却・税金支払いのそれぞれの場面で適切な会計処理が必要です。以下に具体的な仕訳例を示します。
固定資産の取得時
固定資産を取得した際は、取得価額を固定資産勘定に計上し、支払い方法に応じた仕訳を行います。
例1)100万円の機械を現金で購入した場合
借方 | 借方金額 | 貸方 | 貸方金額 |
機械装置 | 100万円 | 現金 | 100万円 |
例2)150万円の設備を掛けで購入し、後日支払う場合
借方 | 借方金額 | 貸方 | 貸方金額 |
建物付属設備 | 150万円 | 未払金 | 150万円 |
後日機械の支払いを行った際の仕訳
借方 | 借方金額 | 貸方 | 貸方金額 |
未払金 | 100万円 | 普通預金 | 100万円 |
固定資産税の支払い時
固定資産税は、毎年1月1日時点の所有者に課税され、年4回の分割払いまたは一括払いが可能です。
例1)固定資産税20万円を4回に分けて支払う場合(1回50,000円)
※2回目以降も同様の仕訳を行い、4回で合計20万円を支払います
借方 | 借方金額 | 貸方 | 貸方金額 |
租税公課 | 50,000円 | 現金 | 50,000円 |
例2)30万円の固定資産税を一括で支払う場合
借方 | 借方金額 | 貸方 | 貸方金額 |
租税公課 | 30万円 | 普通預金 | 30万円 |
固定資産の減価償却処理
固定資産は取得時に全額を費用計上せず、法定耐用年数に基づいて減価償却を行います。
例1)取得価額1,000,000円の設備を耐用年数10年、定額法で償却する場合
年間の減価償却費 = 100万円 × 0.1 = 10万円
借方 | 借方金額 | 貸方 | 貸方金額 |
減価償却費 | 10万円 | 減価償却累計額 | 10万円 |
例2)取得価額200万円の機械を耐用年数5年、定率法(償却率40%)で償却する場合
1年目の減価償却費 = 200万円 × 40% = 80万円
借方 | 借方金額 | 貸方 | 貸方金額 |
減価償却費 | 80万円 | 減価償却累計額 | 80万円 |
2年目の減価償却費 = (200万円 – 80万円) × 40% = 48万円
借方 | 借方金額 | 貸方 | 貸方金額 |
減価償却費 | 48万円 | 減価償却累計額 | 48万円 |
関連記事:一括償却資産の科目と仕訳方法は?少額減価償却資産との違いも知っておこう
固定資産の売却時
固定資産を売却した際は、売却額が帳簿価額を上回るか下回るかで「固定資産売却益」または「固定資産売却損」を計上します。
例1)帳簿価額50万円の設備を60万円で売却し、現金を受け取った場合(売却益発生)
借方 | 借方金額 | 貸方 | 貸方金額 |
現金 | 60万円 | 固定資産 | 50万円 |
固定資産売却益 | 10万円 |
例2)帳簿価額80万円の車両を50万円で売却した場合(売却損発生)
借方 | 借方金額 | 貸方 | 貸方金額 |
現金 | 50万円 | 固定資産 | 80万円 |
固定資産売却損 | 10万円 |
固定資産の税務処理における3つのポイント
固定資産を適切に会計処理し、税務上のリスクを回避するために、以下の点に注意する必要があります。
- 少額減価償却資産の特例の活用
- 減価償却の適切な計上
- 固定資産売却時の会計処理
1. 少額減価償却資産の特例の活用
中小企業者等を対象とした「少額減価償却資産の特例」を活用すると、取得価額30万円未満の資産を即時償却できるメリットがあります。通常の減価償却では法定耐用年数に応じて償却を行いますが、この特例を適用すれば、取得した年度に全額を費用計上することが可能です。
この制度を活用することで、経費計上のタイミングを前倒しにでき、資金繰りの改善や税負担の軽減に役立つため、多くの中小企業にとってメリットがあると言えるでしょう。
ただし、適用には以下のようないくつかの要件を満たす必要があります。事前に自社の経理方針を確認し、適用条件を満たしているかチェックしましょう。
- 年間の適用限度額は300万円まで(超えた固定資産は通常の減価償却処理)
- 法人税申告時に適用を受けるための明細書の添付が必要
- 青色申告法人
より詳細な適用条件については、以下の関連記事をご確認ください。
関連記事:少額減価償却資産とは?一括償却資産との違いやメリット、注意点も解説
2. 減価償却の適切な計上
固定資産は、取得年度に全額を費用計上することはできず、耐用年数に応じて減価償却を行う必要があります。減価償却の方法には、「定額法」と「定率法」の2種類があり、それぞれの計算方法と特徴が異なります。
- 定額法:取得価額を耐用年数で均等に割り、毎年一定額を減価償却費として計上する方法
- 定率法:取得価額の残存価額に一定の償却率を掛け、初年度の償却費が大きくなる方法
例えば、早期に費用計上したい場合は定率法が有利ですが、長期間にわたり安定した償却費を計上したい場合は定額法が適しています。どちらの方法を選択するかは、資産の種類や企業の財務戦略に応じて決定しましょう。
税務調査の際に、誤った計算方法を適用していた場合は修正申告が求められる可能性があるため、会計基準に基づいた適切な償却処理を行う必要があります。
3. 固定資産売却時の会計処理
固定資産を売却した際は、売却価額と帳簿価額(取得価額から減価償却累計額を控除した金額)の差額によって、「固定資産売却益」または「固定資産売却損」を計上する必要があります。
- 売却価額 > 帳簿価額 → 「固定資産売却益」(利益として計上)
- 売却価額 < 帳簿価額 → 「固定資産売却損」(損失として計上)
特に注意が必要なのは、売却のタイミングによって決算処理に影響が出る点です。年度末に売却すると、売却益が計上されて法人税の負担が増加する可能性があるため、事前に計画的な処理を行いましょう。
また、売却ではなく「除却」(資産の使用を停止して廃棄処分すること)を行う場合も、帳簿価額の残存額を損失として計上しなければなりません。不要な資産の処理をする際には、適切な税務処理を行い、無駄な税負担を避けるようにしましょう。
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固定資産の税務処理は、会計基準や税法上のルールが複雑で、適切な処理を行わないと税務リスクが生じる可能性があります。「どの資産を固定資産として計上すべきか」「減価償却の適用方法は?」「固定資産税の申告方法は?」といった疑問がある場合は、専門家に相談するのが安心でしょう。
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