職場つみたてNISAを導入すると節税効果が期待できます。本制度は従業員の福利厚生の1つです。従業員自ら老後や将来の生活資金の準備を進めてもらえるため、帰属意識を高めるなどの効果も期待できます。今回は、職場つみたてNISAで節税できる理由やiDeCo・NISAとの違い、メリットとデメリットを解説します。最後まで読めば、職場つみたてNISAの導入効果を理解できるでしょう。
目次
職場つみたてNISA導入で節税できる
職場つみたてNISAとは、福利厚生の一環として、NISA活用による従業員の資産形成のサポートが目的の制度です。本制度を活用する従業員に対しては、賃上げ促進税制の対象である奨励金を給付・控除できるため、企業にとっては節税効果が期待できます。
賃上げ促進税制とは、前年度よりも給与などをアップさせた場合、以下の通り法人税か所得税から税額控除できる制度のことです。
- 中小企業:最大45%
- 大企業:最大35%
賃上げ促進税制の対象者は以下に示します。
- 中小企業:青色申告する中小企業者か従業員数1,000人以下の個人事業主
- 中堅企業:青色申告する従業員数2,000人以下の企業か個人事業主
- 大企業:青色申告する全企業
賃上げ促進税制の対象となる給与などについて、会計上の処理方法は定められていません。奨励金を福利厚生費として処理している場合も、賃上げ促進税制の対象です。
職場つみたてNISAは福利厚生を目的とするものの、企業にとっても節税効果などの恩恵を受けられる制度だといえます。人材不足や物価上昇などが進む昨今において、積極的に導入を検討したいところです。
関連記事:賃上げ促進税制のメリットとは?中小企業が知るべき要件や注意点を解説
職場つみたてNISAと一般NISAとの違い
本制度と一般NISAとの違いは、非課税期間や枠、給与天引きや株式投資の可否などの点です。
一般NISA | 職場つみたてNISA | |
非課税期間 | 5年 | 20年 |
非課税枠 | 120万円 | 40万円 |
天引き | 不可 | 可能 |
株式投資 | 可能 | 不可能 |
令和5年度税制改正大綱での改正以前、NISA口座は1人につき1口座と限定されていました。2024年に新NISAに制度変更されたため、職場つみたてNISAは成長投資枠とつみたて投資枠を併用できます。
つみたて投資枠 | 成長投資枠 | |
非課税期間 | 無制限 | |
年間投資枠 | 120万円 | 240万円 |
非課税限度枠 | 1,800万円(成長枠はうち1,200万円) | |
対象 | 一定の投資信託など | 上場株式等 |
職場つみたてNISAの場合、従業員に対して資産形成の目的やリスク、金融商品の概要などの金融教育をすることが求められます。従業員の中には、今後の資産運用・形成について漠然とした不安を抱えている方もいるでしょう。
一方、自分でお金に関する情報を入手したりNISA口座を開設したりするのは時間や労力が必要で、最初のハードルは高く感じやすいといえます。職場で本制度を導入すると、従業員の資産形成のみでなく、金融リテラシーを高めるサポートもできるでしょう。
関連記事:新NISAの配当金に税金は課せられる?配当金と配分金の違いについても解説
職場つみたてNISAとiDeCoとの違い
iDeCoとは確定拠出年金といわれ、自分で掛け金を運用し、老後の資産を作る私的年金制度のことです。公的年金とは異なり、任意で申込をしたり、掛け金の拠出などを自分でしたりするのが特徴です。職場つみたてNISAとの違いは以下の表にまとめました。
職場つみたてNISA(つみたて投資枠) | iDeCo | |
所得控除 | なし | 小規模企業共済等掛金控除 |
限度額 | 年120万円 | 加入者の状況による
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運用益 | 非課税 | 非課税※受取時に課税 |
優遇措置 | 売却益の非課税 |
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対象 | 20歳以上の役職員 | 20歳以上65歳未満の公的年金加入者 |
引き出すタイミング | いつでも | 60歳以降 |
商品 |
|
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本制度とiDeCoの特に顕著な違いは、積立金を引き出せるタイミングです。iDeCoの場合、積立金を引き出せるのは原則として60歳以降です。
一方、本制度では好きなタイミングでお金を引き出せるため、いざというときも安心できるでしょう。
関連記事:iDeCoを活用した節税とは?いくら節税できる?効果的な運用方法・シミュレーション・注意点などをご紹介
企業で職場つみたてNISA導入のメリット
本制度の導入による従業員・企業のメリットについては、以下の表にまとめます。
【従業員】
途中で売却できる |
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給与天引きで積立できる |
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売却益や分配金などは非課税 |
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少額から始められる |
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【企業】
導入コストがかからない |
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従業員の金融リテラシーをあげられる | 説明会やeラーニングなどで、業者から情報を提供してもらえる |
従業員の帰属意識をあげられる |
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本制度の導入には、従業員のみでなく企業にとってもメリットがあると分かります。従業員満足度を高めると会社に貢献する意欲が高まり、より大きな成果を企業へもたらしてもらいやすくなるでしょう。
企業で職場つみたてNISA導入のデメリット
本制度を導入するとメリットを得られる一方、デメリットもあると知っておくのがポイントです。
本制度のデメリットは以下の表にまとめました。
【従業員】
運用による損失が出る可能性がある |
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商品が限られる |
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【企業】
想定する効果が出ない可能性がある |
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市場の動きなどに影響を受けるため、本制度の運用によって100%利益を得られるとはいい切れません。期待したような効果が出るのかについては、実際にやってみないと分からない部分があります。
職場つみたてNISAの導入企業例
本制度を導入した企業の事例として、大分県に事業所を構える清松総合鐵工株式会社があげられます。建物の駆体となる鉄骨の設計や加工・組み立てなどを事業にしています。
本制度を導入したきっかけは、大分県民の金融リテラシーの低さについて書かれてある新聞記事でした。「少なくとも自社の社員の金融リテラシーを向上できれば」と、社長の清末(以下、清末さん)さんが考えていたタイミングで、本制度の概要を知ります。
野村證券の担当の方に何度も勉強会を開催してもらい、希望者全員の登録に成功しました。
始めたばかりではあるものの、社員の帰属意識や金融リテラシーを高められたのではないと清末さんは話しています。
本制度の導入による投資を通し、目標金額を達成できると、従業員は新たな夢や目標を作る土台となることを清末さんは期待しています。
参考:「【大分銀行x野村證券】職場つみたてPLUS-Vol.1ー」清松総合鐵工株式会社
職場つみたてNISA導入の流れ
本制度を始めるまでの流れは、具体的に以下の通りです。
- 本制度の導入を検討後、取扱業者と契約を結ぶ
- 労使間の契約を見直す
- 説明会などに参加し、制度の概要を学ぶ
- 口座開設書類など、必要な書類を業者に提出する
- NISA口座が開設される
- 従業員に申込書を提出してもらい、業者に提出する
- 業者から契約内容などが書かれてある目論見書などが交付される
- 給与天引きか口座引き落としによって、業者に資金を送る
- 業者から投資信託などを買い付ける
本制度の導入にあたり、企業は業者と契約したり、従業員との間で利用規約を設けたりする必要があります。利用規約に記載したい項目は以下に示します。
- 参加資格
- 月の拠出金額
- 拠出方法
- 金融経済教育など
導入までの流れを知っておくと、スムーズに対処できるでしょう。
参考:「職場つみたてNISAのフロー図(例 天引き方式)」日本証券業協会
節税対策は税理士へ
職場つみたてNISAで節税できることや、一般NISA・iDeCoとの違い、導入のメリット・デメリットなどを解説しました。福利厚生として職場つみたてNISAを導入すると、従業員満足度や帰属意識を高め、業績の向上によい影響を与える可能性があります。
退職金制度を導入するかわりに、本制度の導入を検討するのも1つの方法です。市場の値動きなどによっては損失を被る可能性があるなど、デメリットを把握しておくと後悔を未然に防げます。
事業者の中には、資金繰りを改善するために、効果的な税金対策や節税サポートを受けたいと考えているケースもあるでしょう。正しい節税をするうえで、税理士へ依頼すると効果的です。
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