中小企業が金融機関から融資を受ける際、多くの場合「経営者保証」が求められます。融資が受けやすくなるメリットがある一方で、経営者のリスクが大きくなるという課題も含んでいます。経営者保証のリスクと対策を正しく理解した上で利用するかどうかを決めましょう。本記事では、経営者保証の仕組みや背景、メリット・デメリットについて解説します。
目次
経営者保証とは?
経営者保証とは、企業が金融機関から融資を受ける際に、経営者個人が連帯保証人となる制度です。万が一企業が倒産した場合でも、金融機関は経営者から返済を受けられる仕組みです。
経営者保証の目的は、金融機関の貸し倒れリスクを減らし、経営者に責任を意識させることが挙げられます。
中小企業にとっては、資金調達の手段として広く知られていますが、経営者個人のリスクが大きいと言えます。メリット・デメリットを正しく理解する必要があるでしょう。
経営者保証が求められる理由
経営者保証が必要とされる背景には、中小企業における資金調達の難しさがあります。信用力が低い企業や十分な担保を持たない企業は、金融機関から融資を受ける際に保証を求められるのが一般的です。
特に、新規事業やスタートアップ企業において顕著であり、金融機関としては貸し倒れのリスクを避けるために、経営者保証を条件とするケースも多くあります。
しかし、この仕組みは経営者にとって大きな負担になることも事実です。企業が経営難に陥った際、経営者個人の財産を差し押さえられるリスクがあるため、意思決定には慎重さが求められます。
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経営者保証3つのデメリット・問題点
経営者保証には、経営者にとって大きなリスクを伴うという課題があります。特に中小企業の経営者にとっては、これらの問題が経営判断や将来の展望に大きな影響を与えることもあるので注意しなければなりません。ここでは、代表的な3つの問題点を解説します。
経営者が個人資産を失う恐れがある
経営者保証の最も大きなリスクは、会社の借入に対し経営者個人が責任を負うことです。もしも会社が倒産し、借入金を返済できなくなった場合、経営者は個人資産を使って返済する義務を持つのです。
特に、中小企業では、会社の資産と経営者個人の資産が明確に分かれていないケースが多く、万が一の際には個人の財産まで差し押さえられるリスクがあります。
その場合、金銭面だけでなく精神面での負担も大きくなり、経営判断にも影響を及ぼす可能性があるでしょう。
思い切った事業展開がしにくくなる
経営者保証があると、経営者はリスクを過度に意識するあまり、新規事業や投資に対して慎重になりすぎてしまうことがあります。
例えば、事業拡大のチャンスがあっても、大きな投資に踏み切れないといったケースが考えられるでしょう。「失敗したら個人の財産を失う」というプレッシャーにより決断が慎重になり、成長の機会を逃してしまうことにもつながります。
また、経営者保証の影響で、企業の保守的な経営方針が強まる可能性も。特に、変化の激しい市場ではスピード感のある意思決定が求められますが、保証リスクを気にして慎重になりすぎてしまう恐れがあるでしょう。
事業承継が難しくなる
経営者保証は、次の世代への事業承継を難しくする原因にもなり得ます。もし経営者が保証している借入金が残っている場合、後継者がその負担を引き継ぐことになるのです。そのため、次期経営者がリスクを恐れ、事業継承をためらうケースも発生するでしょう。
また、後継者が経営者保証を引き継ぐと、経営の自由度が低下し、思い切った改革や新しい戦略を打ち出しにくくなる可能性も考えられます。その結果、企業の成長や存続に悪影響を及ぼしかねません。
経営者保証は一見、企業の資金調達を助ける便利な仕組みです。しかし、長期的に見ると経営者個人のリスクが多いだけでなく、会社の成長や承継の障壁になる側面を持ち合わせていることを覚えておきましょう。
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経営者保証のメリット
経営者保証は中小企業が金融機関から融資を受ける際に必要な仕組みです。信用が低い企業でも資金調達のハードルが下がるメリットがあります。
経営者保証のメリット
経営者保証を利用すると融資を受けやすくなるなどのメリットがあります。詳しく見ていきましょう。
融資を受けやすくなる
経営者保証があると、金融機関はリスクを軽減できるため、企業が融資を受けやすくなるのが大きなメリットです。特に創業間もない企業や、信用力が十分でない中小企業にとっては、資金調達をスムーズに進めるための大きな手助けとなるでしょう。
融資条件が有利になる可能性もある
経営者保証があることで金融機関からの信用が増し、金利が低く設定される、返済期間が延長されるなどの優遇を受けられるケースもあります。その結果、企業は資金調達コストを抑えながら、安定した事業運営をしやすくなるのです。
資金繰りの安定化につながる
資金調達がスムーズに行えると、企業の運転資金や成長投資の確保が容易になり、事業の安定性が高まるメリットもあります。
経営者保証なしで融資を受ける方法
経営者保証なしで金融機関から融資を受けるには、適切な対策を講じる必要があります。主な方法として「経営者保証に関するガイドライン」の活用が挙げられます。ガイドラインに沿って、企業が適切な条件を満たせれば、経営者保証なしでの融資が可能になるのです。
経営者保証に関するガイドラインを活用する
「経営者保証に関するガイドライン」は、企業の実態に応じた融資条件を示すものです。一定の経営状況であれば、中小企業の経営者は経営者保証なしで融資を受けられます。
このガイドラインを利用するには、ガイドラインの基準を正しく理解し、企業の実態を金融機関に明示することが求められます。これらの条件を満たせれば、金融機関が経営者保証なしの融資を検討しやすくなるのです。
参考:経営者保証|中小企業庁
経営者保証ガイドラインにおける3要件とは
経営者保証ガイドラインでは、経営者保証なしで融資を受けるために3つの要件を満たすことが求められています。
- 主たる債務者が中小企業である
- 証人が経営者である
- 証人と企業が誠実に財務状況を開示している
このガイドラインの目的は、金融機関と経営者双方の透明性を確保し、安全な融資環境をつくることにあります。
企業が上記の要件を満たせられれば、金融機関はリスクを適切に管理しながら融資を実行できるのです。一方、経営者は保証なしで資金調達ができるため、金銭的なリスクも精神的な負担も少なくて済みます。
関連記事:会社の借金はいくらまで?平均額と融資を通りやすくするポイント
会社の経営状況を改善する
経営者保証なしで融資を受けるには、企業の経営状況を改善することも欠かせません。財務指標を見直し、収益性やキャッシュフローを安定させられると、金融機関からの信頼を得られます。具体的には、以下の取り組みが有効です。
- 経営改善計画の策定と実行
- 利益率の向上とコスト削減
- 安定したキャッシュフローの確保
こうした経営努力が評価されれば、経営者保証なしでの融資が実現しやすくなるでしょう。
保証料率を上乗せする
もう1つの選択肢として、保証料率を上乗せする方法があります。通常、経営者保証なしで融資する際に、金融機関がリスクを補うために行われる手段です。
この方法は、特に短期的な資金調達を考えている場合におすすめです。利息負担は増えるものの、経営者保証なしで融資が受けられるため、企業の財務リスクを軽減できます。
関連記事:連帯保証なしで融資は可能!受けられる融資の種類や経営者保証が求められるケース
まとめ
資金調達をスムーズに行うためには、経営者保証に関する正しい知識を身につけることが大切です。経営者保証はメリットがある一方、個人の資産や精神面に対するリスクも伴います。
経営者保証なしで融資を受ける方法には、経営者保証ガイドラインの活用や財務状況の改善、保証料率の上乗せなどが挙げられます。創業間もない経営者でも、個人資産を守りながら、事業の成長を目指せるでしょう。
今後の事業展開を見据え、適切な判断を心がけることが重要です。