取引において発行される書類は、経理処理や税務対応の面で重要な役割を持ちます。しかし、状況によっては必要な書類が手に入らなかったり、異なる書類で代用しなければならないケースもあります。特に支払いの証明に関する書類の取り扱いについては、正しい知識が求められます。本記事では、取引における適切な書類管理のポイントや、ある書類が別の書類の代わりとして使えるのかといった実務的な観点から詳しく解説していきます。
目次
納品書は領収書の代わりになる?
納品書は、取引の証拠として発行される書類であり、商品やサービスの提供が完了したことを示します。しかし、これは納品が完了したことを証明するものであり、代金が支払われたことを証明するものではありません。
そのため、税務処理や経費計上においては、納品書単体では支払いの証拠として不十分とされるのが一般的です。
一方、領収書は代金を受領したことを証明する書類です。日本の税法上、領収書の発行義務は明確に定められていませんが、取引の証拠として求められることが多く、特に企業の経費計上や税務申告の際には、領収書の保管が推奨されます。
領収書がない場合でも、請求書や振込明細書などの代替書類を適切に管理することで、経費処理の証拠として認められるケースもあります。
納品書と領収書の違い
納品書と領収書はどちらも取引に関連する書類ですが、それぞれの役割や目的は異なります。以下の表に違いをまとめました。
項目 | 納品書 | 領収書 |
目的 | 商品やサービスの納品の証明 | 代金の受領を証明 |
法的義務 | 発行義務なし | 発行義務なし(要望があれば発行) |
記載内容 | 品目、数量、納品日 | 受領金額、発行者、受領者 |
会計処理 | 仕入・売上管理に使用 | 経費計上の証拠として使用 |
納品書は、商品やサービスの納品を証明するものであり、支払いの事実は含まれません。一方、領収書は代金の受領を証明する書類であり、経費計上の際に必要とされるケースが多いでしょう。
また、納品書の発行義務はなく、記載内容も品目や数量が中心ですが、領収書には受領金額や発行者情報が明記されます。経理処理においても、納品書は仕入・売上管理に使用されるのに対し、領収書は経費計上の証拠として扱われます。
領収書が発行されない場合の対処策
取引の際に領収書が発行されないことは珍しくありません。支払いを証明する書類が手に入らないと、経理処理や税務申告において不安を感じることもあるでしょう。
しかし、領収書がなくても適切な対応を取ることで、経費計上や証拠書類としての要件を満たすことが可能です。
関連記事:領収書なしでも経費計上は可能?代替書類と具体的な対処法を解説!
請求書と振込明細書を保存する
領収書が発行されない場合、請求書と振込明細書をセットで保管することで、経費処理の証拠として活用できます。
請求書には取引内容や金額が記載されており、振込明細書には実際の支払いが記録されているため、これらを組み合わせることで支払いの証拠として十分な信頼性があるでしょう。
税務調査や経費精算の際にも、これらの書類が整っていれば、支払いの事実を説明しやすくなります。特に、銀行振込を利用した取引では、振込明細書をしっかり保存することが重要です。
クレジットカードの利用明細を活用する
クレジットカードで支払いを行った場合、カード会社が発行する利用明細書が支払いの証拠になります。特にオンライン決済では、領収書が発行されないことも多いため、カード明細が経費計上の際に重要な役割を果たします。
法人カードを利用していれば、明細書を会計処理の証拠として保管することで、取引内容を明確に記録できますが、クレジットカードの明細には取引の詳細が不十分な場合もあるため、請求書や納品書と併せて管理しましょう。
納品書に「代金受領済み」の記載を依頼する
取引先に依頼し、納品書に「代金受領済み」や「振込確認済み」などの記載を加えてもらうことで、領収書の代わりとして利用できるケースがあります。
納品書自体は、通常、取引の納品が完了したことを証明する書類ですが、支払いが完了した旨が明記されていれば、経費計上の際にも活用可能です。
税務調査時にも、適切な記載がある納品書と振込明細をセットで提示することで、支払いの証拠として認められるケースが多いでしょう。ただし、取引先によっては対応してもらえない場合もあるため、事前に確認が必要です。
社内で支払証明書を作成する
小規模な取引や、領収書が発行されないケースでは、社内文書として「支払証明書」を作成し、経費の証拠として活用できる場合があります。
支払証明書には、取引先の名称、支払日、支払金額、支払方法などを記載し、社内の承認を得ることで正式な証憑として扱われます。
特に、個人事業主との取引や、簡易な契約に基づく支払いでは有効な手段となるでしょう。ただし、社内で作成した書類のみでは証拠能力が弱いため、可能な限り請求書や振込明細書などの補助資料と併せて保管することが望ましいです。
受領確認書を発行してもらう
取引先が領収書を発行しない場合、会計担当者に相談し、代替となる書類を発行してもらうことも有効な対策でしょう。「受領確認書」や「支払確認書」を発行してもらうことで、税務処理の証拠として活用できます。
これらの書類には、取引先の名称、受領金額、支払日、支払い方法などが記載され、正式な支払いの証拠となります。特に、継続的な取引がある場合は、後々のトラブルを防ぐためにも、事前に取引先と書類の取り扱いについて取り決めておきましょう。
レシートを活用する
店舗での購入時には、レシートを領収書の代わりに利用することができます。レシートには取引日時や金額が記載されており、税務上の証拠として認められることが多いです。
しかし、一般的に領収書よりも簡略化された情報しか含まれていないため、大口の取引や税務調査を想定した場合には補足資料が必要になる点に注意しましょう。
また、レシートによっては取引先の情報が不十分な場合もあるため、取引内容を明確にするために、店舗名や取引内容を確認し、必要に応じて請求書や振込明細と併せて管理しましょう。
関連記事:レシートと領収書の違いを徹底解明!税務上の扱いや経費精算のポイントまで
契約書を証拠として利用する
契約書には取引の詳細や支払い条件が明記されており、支払いが完了していることを示す記載がある場合には、領収書の代替として認められることがあります。特に継続的な契約や大規模な取引では、契約書を証拠書類として活用することが有効です。
契約書があることで、支払いの合意内容が明確になり、税務調査の際にも有力な証拠となるでしょう。ただし、契約書単体では支払いの証拠として不十分な場合もあるため、振込明細書や請求書などの補助資料とセットで管理することが望ましいです。
税務処理の際に押さえておくべき5つのポイント
税務処理を適切に行うためには、取引の証拠となる書類の管理や法令への対応が不可欠です。納品書を証拠書類とする際に注意すべき5つのポイントについて詳しく解説します。
- 納品書を証拠書類とする場合の勘定科目の選定
- 振込明細書との紐付け
- 税務調査時の対応
- インボイス制度への対応
- 電子帳簿保存法への対応
1. 納品書を証拠書類とする場合の勘定科目の選定
納品書を証拠書類として扱う場合、適切な勘定科目を設定することが重要です。取引の内容に応じて「仕入」「消耗品費」「外注費」などの勘定科目を選定しなければなりません。
例えば、商品を仕入れた場合は「仕入」、社内で消費する備品の購入であれば「消耗品費」となります。誤った勘定科目で処理すると、税務調査時に指摘を受ける可能性があるため、経理担当者は正確な分類を意識しましょう。
また、科目の選定基準を社内で明確にし、統一することも大切です。
2. 振込明細書との紐付け
納品書を領収書の代わりにする場合、振込明細書とセットで管理することで証拠書類としての信頼性が高まります。
納品書には取引の内容が記載されますが、実際に支払いが完了した事実を示すものではありません。そのため、振込明細書を保管し、納品書と照合できる状態にしておくことが望ましいです。
特に、法人取引では税務調査の際に支払履歴の証明が求められることがあるため、リスクを軽減するためにも振込明細書の管理は徹底しましょう。
3. 税務調査時の対応
税務調査では、経費処理の妥当性が厳しくチェックされるため、納品書を領収書の代替として使用する場合は十分な準備が必要です。税務署は、実際の取引が適正に行われたかを確認するため、納品書のほかに支払証明書や取引履歴を求めることがあります。
そのため、納品書単体ではなく、振込明細書や契約書とセットで保管し、取引の正当性を証明できるようにしておきましょう。特に、大きな取引や反復する取引では、詳細な記録を残しておくことで、スムーズに税務調査に対応できます。
関連記事:税務調査とは?どこまで・何を調べる?流れや個人・法人の対応方法などについて詳しく解説
4. インボイス制度への対応
2023年から導入されたインボイス制度により、原則として適格請求書(インボイス)がないと仕入税額控除が受けられなくなりました。
これにより、納品書単体では税務上の問題が生じる可能性があり、仕入税額控除の対象とするためには、適格請求書発行事業者から発行されたインボイスの保管が求められます。
インボイスの記載要件を満たしているか確認し、不備がある場合は取引先に修正を依頼しましょう。また、電子インボイスの導入も進んでおり、会計処理の効率化を図るために適切な対応が求められます。
関連記事:【税理士監修】インボイス制度について「よくある質問」を図解でわかりやすく解説!
5. 電子帳簿保存法への対応
2022年から施行された電子帳簿保存法により、領収書や請求書を電子データとして保存する場合のルールが厳格化されています。
特に、紙の書類をスキャンして電子保存する場合には、改ざん防止措置が求められるため、適切なクラウドシステムや会計ソフトの活用が推奨されます。
また、電子データでの保存が認められる要件を満たしていないと、税務処理の際に認められない可能性があるため注意してください。企業のデジタル化が進む中で、電子帳簿保存法への対応を怠らないようにしましょう。
関連記事:電子帳簿保存法とは?
納品書や領収書の会計処理にお悩みの方は専門家に相談
納品書や領収書の管理は、企業の会計処理や税務申告において欠かせない要素です。不適切な処理を行うと、税務調査で指摘を受けたり、仕入税額控除が認められなかったりするリスクがあります。
また、インボイス制度や電子帳簿保存法の導入により、書類の保存や活用方法も変化しています。
小谷野税理士法人では、こうした制度に対応した適切な会計処理をサポートし、企業の税務リスクを最小限に抑えるお手伝いをしています。納品書や領収書の取り扱いでお悩みの方は、ぜひご相談ください。