何かビジネスを始めるときには株式会社を設立する例が多いですが、株式会社も事業主体となる法人の一種で、他にもたくさんの種類があります。それぞれ特徴があり得られるメリットも違うため、株式会社を選べば最善とは限りません。今回は、法人の種類について紹介し、会社と法人の違いや種類別の性質について解説します。それぞれの特徴を理解していきましょう。
目次
法人は「公法人」と「私法人」の2種類
法人とは「法律によって人と同じ権利や義務を認められた組織」を指します。人が個人として社会での取引・売買や契約などの義務を負っているのと同様に、法人は団体・組織として同じ法的な義務を負うことを認められた存在です。
法人は大きく分けて「公法人」と「私法人」の2種類に分類されます。主に公益目的で設立され、憲法や行政法といった公法の規律に直接の影響を受けるものを「公法人」、それ以外の、私人により設立されるものを「私法人」としています。
公法人
公法人は、国や公共の事業を行うことを目的とする法人です。地方公共団体や独立行政法人、特殊法人などの国以外の公共団体が対象で、民間の法人とは異なり、公権力の行使が認められています。
地方公共団体とは、都道府県や市町村単位で行政活動を行う行政機関で、普通地方公共団体と特別地方公共団体に分けられます。
私法人
私法人とは「私的な社会活動を目的に、個人や人の集まりによって設立された私法上の法人」のことです。会社や公益社団法人、公益財団法人・協同組合などが当てはまります。国の監督下には置かれず、私人がそれぞれの目的で運営可能なのが特徴です。
私法人はさらに「営利法人」と「非営利法人」に分かれます。
- 営利法人:営利目的で運営される
- 非営利法人:職員や寄付者に利益分配を目的とせず、利益は事業活動や団体の目的達成にのみ使用される
営利法人はビジネスで得た利益を社員や株主などに分配することを目的とした法人です。非営利法人では利益が出ても分配はできませんが、雇用は可能です。非営利法人の活動収益から経費として、職員の給与を支払います。
非営利法人とありますが、利益をあげてはいけないのではなく、利益が出た場合は社会貢献や目的達成のために使用します。
営利法人の種類
まず利益を生むことを目的としている、営利法人の種類について解説します。
株式会社 | 合同会社 | 合資会社 | 合名会社 | |
資本金 | 1円以上〜 | 1円以上〜 | 規定なし | 規定なし |
出資者 | 1人以上 | 1人以上 | 2人以上 | 1人以上 |
責任範囲 | 有限責任 | 有限責任 | 有限責任 無限責任 | 無限責任 |
意思決定機関 | 株主総会 | 社員総会 | 社員総会 | 社員総会 |
設立費用 | 25万円~ | 10万円~ | 60,000円~ | 60,000円~ |
上場 | ◯ | ✕ | ✕ | ✕ |
株式会社
株式会社とは、株式を発行して資金を集め、そのお金を用いて経営を行う会社形態です。集めた資金を用いて、商品やサービスを生み出していきます。そもそも株式とは、資金を出してくれた人に対して発行する証券のことを指します。
設立に最低限必要な人数は1名で、資本金は1円以上、設立に必要な手続きは登記のみです。株式を発行し、多くの人々から集めたお金を使い事業を行います。複数人が共同で営利目的の事業を行う場合、多くのケースで株式会社という形態が選択されています。
関連記事:有限会社・合同会社・株式会社の違い|会社設立で知っておきたいことを解説
合同会社
合同会社とは、出資者と経営者が同一な会社形態です。「出資者 = 会社の経営者」であり、出資したすべての社員が会社の決定権をもち、経営にも携わります。なお、合同会社では出資者を社員と呼びます。
例えば、知人と会社設立費用を抑えてお互い対等な立場で起業する、少人数で比較的小規模に事業を行う場合に、合同会社が選ばれる傾向にあります。
設立費用は10万円程度と安価で、株式会社のように株式総会を開催する必要がないため、迅速な意思決定ができる点も特徴です。
関連記事:合同会社はやめとけ?デメリットになるケース徹底解説
合資会社
合資会社とは、無限責任社員と有限責任社員からなる会社形態です。事業を行う経営者(無限責任社員)と、資金提供するスポンサー(有限責任社員)に分かれています。基本的に有限責任社員は経営に参加せず、出資額の範囲内のみの責任になります。
会社を設立する場合は、最低無限責任社員と有限責任社員の2名以上の出資者が必要です。万が一会社の経営が破綻した場合、有限責任社員は出資額以上の負債を負う必要はありません。
一方、無限責任社員の場合は債権者に連帯して、出資額以上の負債を負うリスクがあります。
合名会社
合名会社とは、無限責任を負う社員のみで構成された会社形態です。合資会社と同様、人的つながりを重視しており、人的会社とも表現されます。合名会社を設立するには、無限責任社員1名以上が必要です。
新規設立の手続きが比較的容易で、設立にかかる費用が抑えられるメリットがありますが、会社の経営が破綻した場合はその負債総額を、個人の財産を用いてでも債権者に返済しなければなりません。最悪の場合は自己破産に追い込まれる可能性もあります。
非営利法人の種類
次に、営利を目的としない非営利法人の種類について解説します。
一般 社団法人 | 公益 社団法人 | 一般 財団法人 | 公益 財団法人 | NPO法人 | |||
目的 | 制限なし | 公益に関する 事業 | 制限なし | 公益に関する 事業 | 公益に関する 事業 | ||
認可 | 無し | 主務官庁の 許可 | 無し | 主務官庁の 許可 | 所轄庁の 認証 | ||
設立基金 | 0 円〜 | 0 円〜 | 300万円以上 | 300万円以上 | 0 円〜 | ||
人数 | 社員 2人以上 | 社員 2人以上 | 設立者 1人以上 | 設立者 1人以上 | 社員 10人以上 | ||
法人税 | 営利型:全所得 非営利型:収益事業のみ | 収益事業のみ | 営利型:全所得 非営利型:収益事業のみ | 収益事業のみ | 収益事業のみ | ||
一般社団法人
一般社団法人とは「一般社団法人及び一般財団法人に関する法律」に基づき設立された法人を指します。非営利の活動をメインとして行う点や、社員と役員で構成される点が特徴です。法律に定められた要件を満たせば、法務局への登記のみで設立できます。
非営利法人ではありますが、公益性を求められてはいないため、基本的には公序良俗に反しない限りどのような事業でも行えます。もちろん株式会社のように、収益事業のみを目的とした設立も可能です。
公益社団法人
公益社団法人とは、法律で定められた「公益性」の基準を満たす法人が、行政庁の指定を受けた社団法人です。事業運営としては適法であれば制限はありませんが、全費用のうち50%以上の比率で公益目的事業を実施しなければなりません。
行政庁より公益認定を受けると「公益社団法人」という名称を独占的に使用でき、公益社団法人に対する税制上の優遇措置が受けられます。広く社会一般の利益になる活動を行うため、様々な面で優遇されています。
一般財団法人
一般社団法人とは「一般社団法人及び一般財団法人に関する法律」に基づいて設立された法人です。一般社団法人が人の集まりに法人格が与えられるのに対し、一般財団法人は人ではなく「財産」に対して法人格が与えられます。
一般財団法人を設立するためには、少なくとも300万円以上の財産が必要とされています。また、2期連続で法人の純資産が300万円を下回った場合には、原則として解散しなければなりません
公益財団法人
公益財団法人とは「公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律」に基づき設立された法人です。法人の利益の追求だけでなく、学術や芸術、技術、慈善活動など広く社会一般の利益になる活動をする団体です。
公益財団法人の設立には、一般財団法人を設立後に公益性の審査を経て、内閣府または都道府県の行政庁から認定されると、税制上の優遇措置や社会的信頼の面で多くの恩恵を受けられるのです。
NPO法人
NPO法人とは「営利を目的とせず社会貢献をする団体」を指し、正式名称は「特定非営利活動法人」といいます。市民を主体として市民の発意により活動する市民活動団体の総称として、環境保全やいじめ・教育問題など、さまざまな団体が事業を通した社会問題の解決を目標としています。
NPO法人の活動内容は自由で様々なものがありますが、設立するには、法令で定められた条件を満たした上で、県や市の所轄庁に設立の認証を受ける必要があります。
法人の種類についてよくある質問
法人について、よくある質問を回答と共に紹介します。
法人と個人事業主の違いは?
法人は、法律によって人と同じ権利や義務を認められた組織を指し、個人事業主は、法人を設立せずに個人で反復・継続して事業を行う人を指しています。
開業届の提出のみで事業を開始できる個人事業主とは異なり、法人は法人登記や設立準備など個人事業主よりも手間とコストがかかります。その分社会的信用度が上がるなどのメリットを享受できるのです。
法人と会社の違いは?
法人は私法人と公法人の2つに大きく分けられ、私法人の中のひとつである営利法人に含まれるのが会社です。会社は営利法人として経済活動を行う組織であり、特定の目的を達成するために、資金、労働力、知識、技術などを結集してビジネスを行い、利益を追求します。
法人の種類はあとから変更できる?
できる法人形態とできない法人形態があります。株式会社は合同会社・合資会社・合名会社への変更が可能です。非営利法人の場合は、設立後の種類変更はできません。NPO法人の場合、NPO法人同士の合併のみが認められています。
法人化せずに会社を名乗れる?
個人事業主やフリーランスが法人化せず会社を名乗ってはいけません。会社法に「会社でない者は、その名称又は商号中に、会社であると誤認されるおそれのある文字を用いてはならない」と規定されています。
したがって、個人事業主なのに法人化したと装い信用を得ようとする行為は禁止されています。
有限会社はもうない?
有限会社とは、有限会社法によって設立が認められていた会社形態です。2006年の会社法改正後に有限会社は廃止され、株式会社の扱いになりました。
現在は有限会社を新しく設立できませんが、現時点で有限会社の場合はそのまま存続するか、所定の手続きにより株式会社か合同会社へ変更するかを選択できます。
税制優遇される法人はある?
株式会社などの営利法人では、会員からもらった会費も会社の所得として課税の対象ですが、NPO法人などの非営利法人は、収益事業で得た利益にのみ課税されます。
つまり、会員から得た会費には税金がかかりません。会費を運営資金とする事業を行う場合には、非営利法人を選択したほうが納税額を少なくでき、運営がやりやすくなるケースがあります。
会社形態を理解してから会社設立を検討しよう
今回は、法人の種類や形態について紹介しました。法人には目的や性質別にさまざまな種類のものがありますが、それぞれの法人ごとに設立方法、法人が行える業務、出資者の権限や責任などが異なります。
設立数は株式会社が圧倒的ですが、設立の際は事業目的や規模によって適切な会社形態を選ぶことが重要です。
非営利法人については後から法人形態を変更できないため、設立の前にしっかりと選ぶ必要があります。それぞれのメリット・デメリットをよく理解し、自分に最適な法人を選びましょう。
「どの法人として設立すべきかわからない」「どうやって設立するのか知りたい」という方は、税理士などの会社設立に強い専門家への相談がおすすめです。ぜひ一度「小谷野税理士法人」までお気軽にご相談ください。