令和7年(2025年)1月より、税務署での収受日付印が廃止となりました。今後は確定申告書をはじめ、すべての文書の控えに収受日付印の押なつがなくなります。収受日付印の廃止により、企業は様々な影響を受ける可能性があります。
今回は収受日付印の廃止により影響を受ける場面や、トラブルを避けるための対処法について詳しく解説します。
目次
収受日付印の押なつ廃止の理由
収受日付印とは、税務署が文書を受け取った際に受領した証として控えに押す印です。受領の事実および受領日を証明するための手段として利用されていました。
しかし令和7年1月以降、収受日付印は廃止となりました。現在は各種文書を紙で提出しても、収受日付印を押なつした控えは受け取れません。以下では収受日付印の廃止の理由を解説します。
税務行政のDX化
収受日付印の廃止は税務行政のDX化の一環として行われた施策です。
国税庁は「あらゆる税務手続きが税務署に行かずにできる社会」を目指し、税務行政のDX化を進めています。国税庁公式サイトでは税務行政のDX化に向けた施策の具体例が提示されており、その1つに押印の見直しが挙げられています。
参考:国税庁「令和7年1月からの申告書等の控えへの収受日付印の押なつについて」
e-Tax利用率の向上および利用拡大の見込み
近年e-Tax利用率が向上しており、今後さらにe-Taxの利用拡大が見込まれることも、収受日付印が廃止された理由の1つです。
国税庁の発表によると、主要国税のオンライン利用率は以下のように推移しています。
令和元年度
令和2年度
令和3年度
令和4年度
令和5年度
法人税申告
80.6%
81.2%
83.0%
84.9%
86.2%
所得税申告
47.5%
55.2%
59.2%
65.7%
69.3%
消費税申告(法人)
77.0%
79.9%
83.0%
85.8%
88.7%
消費税申告(個人)
58.0%
67.8%
68.4%
69.9%
73.5%
このように、個人・法人ともにe-Tax利⽤率が年々上昇を続けている状態です。
また、UI/UXの改善やスマホ用電子証明書の活用など、e-Taxの利⽤拡⼤に向けた取り組みも進んでいます。以上の理由から、今後さらにe-Taxの利用率が上がると考えられます。
ただし、e-Tax利用率が上昇傾向とはいえ100%にすることは難しく、書面で提出する人も存在するのは事実です。特に所得税の書面提出は3割程と決して無視できない割合といえます。収受日付印の廃止により影響を受ける人は多く、注意しなければ大きなトラブルが起こる恐れもあるでしょう。
収受日付印の廃止による影響
収受日付印の廃止によって起こり得る影響の具体例を紹介します。
書面で提出した場合に提出日の確認ができない
収受日付印の廃止により、書面で提出した場合に提出日の確認ができなくなりました。提出日は自身での管理が原則となります。
提出日の確認ができないことで生じるリスクとしては、主に以下の2つが考えられます。
1つ目は提出したタイミングによって扱いが大きく変わる文書について、提出日に関して税務署とトラブルになるリスクです。
確定申告書は期日内に提出されているか否かによって、附帯税の発生有無や優遇税制の適用可否が変わります。また、青色申告承認申請書をはじめとした書類の中には、いつ提出したかによって扱いが変わるものが多く存在します。
収受日付印での確認ができなければ、納税者側と税務署側で認識にズレが起きた時の対処が難しくなるでしょう。
2つ目は納税者側が文書の提出について誤認しやすくなるリスクです。
収受日付印の廃止により、納税者側で「問題なく受理されているか」「確実に提出したか」等の把握が難しくなります。そのため提出し忘れても気づけない恐れや、何らかのミスで受理されていないときに把握が遅れる恐れが増大するでしょう。
融資や補助金申請時の対応が変わる
融資や補助金申請時の対応が変わる可能性もあります。
補助金等の申請時には、期限内に確定申告をしている旨を証明する書類が必要なケースが多いです。しかし、収受日付印が廃止されたため申告書等控えを証明書類として使う方法が難しくなりました。
申請時に追加書類が必要なケースはすでに起きています。たとえば東京都大田区では、融資あっせん申込書提出時の取り扱いについて以下のように案内しています。
- 確定申告書等の写しと税務署配布のリーフレットをあわせて提出する
※リーフレットについては後述します - 申告書等情報取得サービスまたは保有個人情報の開示請求で取得できる日付入りの申告書を使う
参考:大田区ホームページ:確定申告書等控えへの税務署収受日付印の押なつ廃止に伴う融資あっせん申込書提出時の取扱いについて
収受日付印が利用できないとはいえ、期日までに確定申告をしている旨の証明が必要な場面はなくなりません。今後は別の手段が必要になるでしょう。
収受日付印の廃止に関するトラブルを防ぐ方法
収受日付印の廃止によるトラブルを防ぐための方法を5つ紹介します。
税務署への書類提出をe-Taxで行う
最も確実なのが、書類提出をe-Taxで行うことです。
e-Taxを利用すると、メッセージボックスにデータの受信通知が届きます。こちらの受信通知を提出日の証明書類として利用できます。また、当該受信通知から電子申請等証明書の交付請求も可能です。
リーフレットの交付を受ける
書類の提出にリーフレットの交付を受ける方法もあります。
国税庁は希望者に対して、押なつ廃止に関する案内のリーフレットに、収受日付や税務署名を記載したものを交付すると公表しています。こちらのリーフレットは書類の提出を証明する書類として利用可能です。
税務署から提出未済の問い合わせがあった場合でも、リーフレットを確認できれば原則として当該日付に提出されたと扱われます。
郵送の場合も、切手を貼付した返信用封筒を同封すれば交付を受けられます。
ただし、リーフレットの交付はあくまで当面の暫定措置です。どこかのタイミングで別の方法に切り替える必要がある旨にご注意ください。
参考:国税庁「申告書等の控えへの収受日付印の押なつの見直しに関するQ&A」
郵送の場合は記録が残る方法を用いる
郵送で提出する場合は、書留郵便や特定記録郵便などの記録が残る方法を選びましょう。
確定申告書や各種申請書の多くは引受消印日が提出日とされます。記録が残る方法を選べば、少なくとも郵便局での引受消印日は証明が可能です。提出忘れを防ぐという意味でも、提出した事実の記録を残せる方法を選ぶのが良いでしょう。
ただし、書留等では書類の内容までは証明されません。発送の際に差出票に郵送物の内容を記載しても、当該書類を提出したかの確証を取るには複雑な手続きが必要です。
また、税務手続きに関する書類の中には、届いた日を受付日とする到達主義を採用しているものもあります。到達主義を採用している書類では、郵便局の引受消印日を証明するだけでは不十分な恐れがあるためご注意ください。
参考:国税庁「税務手続に関する主な書類の提出時期の一覧」
提出した事実や提出日を確認するためのサービスを利用する
申告書類の提出日の確認が必要な場合は、提出した事実や提出日を確認するためのサービスを利用しましょう。主な方法として以下の3つが挙げられます。
特徴 | メリット | デメリット | |
申告書等情報取得サービス | 所得税の確定申告書等を紙で提出した場合も、e-TaxでPDFファイルを取得できる |
| ダウンロードできるようになるまで時間がかかる |
申告書等閲覧サービス | 税務署の窓口で過去に提出した書類を確認できる |
|
※希望すれば写真撮影は可能 |
保有個人情報の開示請求 | 税務署が保有する個人情報の開示請求をし、提出した書類の内容を確認する | 申請すれば写しの交付を受けられる |
|
それぞれ異なるメリット・デメリットがあるため、活用できる場面が異なります。自身のケースや必要な理由にあわせて最適な方法を選びましょう。
関連記事:【税理士監修】納税証明書はどこでもらえる?交付請求書や委任状
税理士に代行依頼をする
税務関連の対応については税理士に代行依頼をする方法も効果的です。
税理士に依頼する主なメリットとして以下の3つが挙げられます。
- 税務の専門知識および最新情報に基づいた確実な対応を受けられる
- 税務調査や問い合わせの対応も任せられる
- 税務に関する疑問や不安等をすぐに相談できる
トラブルが起こるリスクの低減だけでなく、税務に関する手間を抑える効果も期待できます。依頼するか迷っている場合、まずは無料相談を利用するのもおすすめです。
確定申告や納税など税務関連のお悩みは、ぜひ小谷野税理士法人にご相談ください。
収受日付印の廃止による影響の有無や対処法の確認が必須!
収受日付印の廃止により、申告書等を紙で提出している人は多大な影響を受ける恐れがあります。提出日を確認できないことによるさまざまなトラブルや、補助金等の申請時に行う手続きの増大等が考えられます。
リスクを最小限に抑えるためには、事前に対処法の確認が必要です。税務手続きは「知らなかった」では済まない場面が多いため、制度についての理解および適切な対応が必須となります。
ただし、税務関連は複雑なルールが多い上に改正の頻度も高いため、正確に把握するのは容易ではありません。そのためすべてを自身で対応するのではなく、必要に応じて専門家である税理士のサポートを受けるのが安心です。