会社員や公務員といった給与所得者は、通常は確定申告をする必要はありません。しかし、還付申告という制度によって、払いすぎた税金が返ってくる可能性があります。ですが「具体的な条件や申請方法を知らない」という方もいるのではないでしょうか。今回は、払いすぎた税金がどのような場合に返ってくるのか、手続きのやり方、注意点などについて解説します。
目次
払いすぎた税金は還付申告で返金してもらえる
払いすぎた税金は、還付申告を行うことで返金してもらえます。還付申告とは、納めすぎた所得税を還付してもらう制度です。申告期限は、その年の翌年1月1日から5年間です。
払い戻される超過分の金額を還付金と言い、申告の手続きを行うと納めすぎた税金が還付金として払い戻されます。
会社員なら年末調整で、それ以外の自営業者等は確定申告によって納めるべき税金が決定しますが、その際実際に納めた税金が上回っていた場合に受け取れる仕組みです。
関連記事:還付申告のやり方は?書類や期間・対象者・確定申告との違いを解説!
還付申告の対象になるケース
対象は、基本的に会社員などの給与所得者です。給与所得者は、年末調整で所得税額の過不足を調整しますが、医療費などの控除に関しては処理できません。そのため、給与所得者が控除を受けたい場合は自身で確定申告しましょう。
「源泉徴収額」と「控除」を確認すれば、税金が戻ってくるかどうかを確認可能です。還付申告ができる控除について、以下で具体的なケースについて詳しく解説します。
医療費控除を受ける
医療費控除とは、自分自身や生計を一にしている家族のために支払った医療費の負担額が1年間で10万円(総所得金額等が200万円未満の人は総所得金額等の5%)を超えた金額を所得金額から控除できるという制度です。
基本的に、治療目的の医療行為に対して支払った費用が対象です。病気の予防や美容など、治療を目的としないものは対象にはならないためご注意ください。
関連記事:【税理士監修】医療費控除とは?申請・計算方法や他の制度との違いを解説
雑損控除を受ける
台風・地震といった突発的な災害や、横領・盗難などによって損害を受けた場合は、所定の金額を所得から差し引きできます。対象者は「納税者」または「納税者と家計を一にする配偶者や親族で、総所得金額が48万円以下の方」です。
生活に通常必要とされない書画や骨董品、貴金属、別荘などで、1個又は1組の価額が30万円超となるものは対象となる資産とはみなされません。
関連記事:【税理士監修】雑損控除は確定申告でいくら戻る?計算例や必要書類を解説
寄付金控除(ふるさと納税)を受ける
国や地方公共団体、特定公益増進法人などに特定寄付金として支払いを行った際に、所得控除を受けられます。学校の入学の際に行う寄付や、寄付をした相手に特別の利益が及ぶと認められるもの、政治資金規正法に違反するものは特定寄付金として認められていません。
地方自治体に寄付を行うふるさと納税も対象で、寄付した金額は特定寄付金の一部とみなされます。他の寄付金と併用しても利用できますが、控除額はその年の総所得金額の40%が上限です。
関連記事:寄付金が税金対策になる?寄付金控除の仕組みや対象について解説
特定支出控除を受ける
業務にかかる支払いが多い場合に控除できる制度です。一定の計算で求めた特定支出控除の金額を、所得金額から差し引くことができます。65万円まで特定支出控除にできますが、それを超える部分は認められません。
対象となる費用は通勤費や転居費、研修費など業務に直接必要な支出が対象です。また、資格取得のためにかかる費用も特定支出の対象で、会社から補助金が出る場合もありますが、自費で負担した場合は申請できると覚えておきましょう。
住宅ローン控除(住宅借入金特別控除)を受ける
年末の住宅ローン残高をもとに一定額が所得税や住民税から控除される制度です。新築住宅だけでなく、既存住宅(買取再販・中古住宅)や建物の増改築も、適用条件を満たしていれば対象となります。
住宅ローン控除を初めて受ける際には、確定申告が必須です。初年度は年末調整で控除を受けられないので注意しましょう。2年目以降は年末調整にて控除を適用できます。
予定納税をした個人事業主
予定納税をした個人事業主も、確定申告を行うことで還付金を受け取れる可能性があります。
予定納税はあくまで前年度の所得金額や税額などを基準として前払いする制度のため、実際の所得税納税額が予定納税額より少なくなれば、申請により還付されるケースもあるのです。
予定納税の対象者は、予定納税額の3分の1を7月と11月にそれぞれ納付します。前年に比べて所得が大幅に減少し、納めた分が実際の納税額を超えた場合は、還付申告をすると差額が還付されます。
会社で年末調整を受けていない給与所得者
年の途中で退職したまま再就職しない場合には年末調整を受けられず、本来の税額よりも多く源泉徴収されている可能性があります。
税金を納めすぎていた場合は、中途退職した年の翌年になってから申告すれば還付を受けられるため、対象の方は申請しておいて損はないでしょう。
原稿料やデザイン料などで源泉徴収されている個人事業主
ライターやWebデザイナー、プログラマー、弁護士や税理士などのBtoBで仕事をしている個人事業主の多くは、原稿料や講演料、報酬などから所得税が天引きされています。
還付申告の対象外になるケース
対象外の所得として、具体的には次のようなものが挙げられます。
- 預貯金や一般公社債の利子
- 抵当証券などの金融類似商品の利息
- 一定の割引債の償還差益
- 保険期間が5年以下などの一時払いの養老保険や損害保険の差益
これらは「源泉分離課税」に該当する、還付申告の対象外となる所得です。源泉分離課税とは、予め収入から源泉徴収することで、課税手続きが完結する制度です。そのため、対象にはなりません。
還付申告の必要書類・やり方
還付申告には専用の書類があるわけではなく、確定申告書に必要事項を記載して、必要書類を添付したものを提出します。書類は税務署で入手できますが、HPからもダウンロード可能です。
- 確定申告書
- 源泉徴収票
- 控除の証明書類
- 還付金の振込口座
- 本人確認書類
証明書類は申請に必要な書類です。例えば、医療費控除を受けたい場合、医療費の領収書や明細書などが必要になります。還付金を受け取る場合には別途準備しましょう。
手続きの方法は基本的に確定申告と同じです。基本的には以下の流れで行います。
- 確定申告書を用意する
- 還付申告に必要な書類を集める
- 確定申告書に所得額・所得控除額を記入する
- 税額の計算を行う
- 必要に応じて税額控除を記入する
- 還付先を記入し、提出する
申請はパソコンやスマートフォンからも可能です。国税庁のHPから書類を作成し、e-TAXでデータを送信します。
また、ご自宅のプリンターやコンビニのコピー機で印刷し必要書類を添付して税務署へ郵送して提出もできます。窓口に行く時間がない会社員などの方はご活用ください。
還付先に指定できるのは、申告者本人名義の口座に限られます。また、インターネット銀行は振り込み不可の場合もあるため、注意が必要です。申請のやり方については、以下の記事でも詳しく解説しています。
関連記事:還付申告のやり方は?書類や期間・対象者・確定申告との違いを解説!
還付申告に関する注意点
払いすぎた税金に関しての注意点を解説します。
確定申告をしないと還付金は受け取れない
多くの給与所得者は年末調整で所得税額を確定させて還付金を受け取るため、確定申告は不要です。しかし、正しく申請していない場合は還付金を受け取れません。年末調整の書類提出を忘れていた、項目に漏れがあった場合には申告を行いましょう。
追加で納税が発生する場合もある
還付金は納税額の過不足を調整するためのものであるため、確実に発生し受け取れるわけではありません。仮に、源泉徴収額よりも所得税額の方が大きければ、追加徴税という形で追加の税金が発生する可能性もあるためご注意ください。
青色申告の場合は期限に注意
青色申告の要件は「翌年3月15日までに申告すること」が条件です。そのため3月16日以降に申請すると、適用される特別控除額は65万円や55万円ではなく10万円になってしまいます。
課税所得額が増えるため、還付額が減るだけでなく納税になる可能性もあるためご注意ください。
よくある質問
払いすぎた税金に関してのよくある質問を、回答とともに紹介します。
払いすぎた税金はいつ返金される?
払いすぎた税金は、申告してから1ヵ月〜1ヵ月半後に振込まれるのが一般的です。確定申告は、毎年2月中旬から3月中旬までと期間が定められていますが、還付申告をする場合は時期を待たずに申請可能です。
e-Taxで行った場合は、2〜3週間程度で口座に振り込まれます。
還付金が多すぎる場合はどうなる?
納付すべき税金を少なく申告し、還付される金額が多くなった場合は、修正申告を行います。 税務署の調査を受けた後の修正申告の場合、過少申告加算税や重加算税がかかる場合があるためご注意ください。
還付申告の期限はある?
申告期限は、対象となる年の翌年1月1日から5年間です。期限をすぎると申告内容が正しくても、還付金を受け取れなくなるため注意しましょう。
申請は年間を通じていつでもできます。もし書類の記載内容などに誤りがあった場合は、「更正の請求」が必要です。原則として法定申告期限から5年以内であれば受け付けています。
更正の請求とは?
所得税の確定申告が終了して期限(原則として3月15日)がすぎた後、本来支払うべき税金よりも多い金額を納めたり、還付金の金額を少なく申告したりした場合に行う手続きです。
税務署へ「所得税及び復興特別所得税の更正の請求書」を提出すると、納めすぎた税金が返ってくる可能性があります。
確定申告などのお悩みは税理士に相談も
今回は、税金を払いすぎた場合の対処法について解説しました。一般の会社員の場合は年末調整の適用を受けているため還付金に気づかないケースがありますが、過去の分も含めて5年間が対象のため、意外と多額になる可能性もあります。
年末調整の処理に間に合わなかった場合や申請を忘れていた場合でも、確定申告をすれば控除を適用でき、払いすぎた税金の還付を受けることができます。
確定申告をしなければ還付もありません。手続きには手間がかかりますが、還付金を受け取れる場合は、申告できる制度を最大限活用して申請を行いましょう。まずは種類を確認して、自分に当てはまるものはないかチェックしてみてはいかがでしょうか。
「仕組みや手続きの仕方がよくわからない」という方もいらっしゃるでしょう。還付金の対象は幅広いため、不明点や疑問点については専門家である税理士に相談するのもおすすめです。ぜひ一度「小谷野税理士法人」までお気軽にご相談ください。