会社(法人)の設立時や経営中において、配偶者(妻もしくは夫)を役員にするか従業員にするかで悩むことがあるでしょう。役員と従業員とでは、それぞれ節税効果や責任範囲など、さまざまな点が異なります。この記事では、配偶者を役員にする場合と従業員にする場合のメリットとデメリットについて解説し、どっちが得かを解説します。経営や税務の観点を踏まえ、最適な選択をするために活用してみましょう。
目次
配偶者を役員にするメリット
法人として配偶者を役員や従業員にすることで、経費を増やし節税効果が期待できます。配偶者と従業員とでは期待できるメリットやデメリットに違いがあります。より良い選択をするためにも、両者のメリットとデメリットを比較することが大切です。ここでは、配偶者を役員にするメリットについて紹介します。
所得税と住民税の節税
法人の代表者に対して支払われる役員報酬を分散することにより、所得税や住民税の減税が期待できます。
例えば、法人の代表者一人に対して1,000万円の報酬を支払うよりも、1,000万円の報酬を配偶者と2人で分けた方が、夫婦それぞれの住民税と所得税の納税額が少ないのです。
所得税や住民税は、所得が上がることに高い税率が適用されるため、世帯一人当たりの所得を減らした方が、減税につながります。
相続税と贈与税対策
配偶者が報酬を受け取ることで配偶者自身の資産が増えて、相続税の減税効果も期待できます。
配偶者の収入が少ない場合、本人名義の預金であっても会社経営者の夫もしくは妻の財産とみなされて、相続税の課税対象となることがあります。配偶者に一定の収入があれば、自身の財産であると証明できるため、相続税の課税対象となるリスクを減らせるのです。
また、贈与税の節税にも効果的です。夫婦に子供や孫がいる場合、非課税範囲内で贈与をすることがあるでしょう。夫婦それぞれの名義で贈与を行えるため、非課税範囲を最大限活かした子や孫への贈与を実現できます。
関連記事:相続税と贈与税の違いとは?控除や節税のポイントも解説
社会保険への加入
配偶者が社会保険に加入できることは、配偶者を役員や従業員にするメリットの一つです。配偶者が社会保険に加入することで会社の経費が増えますが、法定福利費として損金にできます。
また、厚生年金に加入できるため、扶養に入るよりも配偶者自身が将来もらえる年金が増えます。
退職金による節税効果と資産形成
役員の退職金は、従業員よりも高額に設定できることが多いため、配偶者の資産形成、会社と配偶者双方の節税対策に効果的です。
役員への退職金は経費として計上でき、退職金を受け取る配偶者も、退職所得控除を受けられることで減税になるからです。
信頼できるビジネスパートナー
日頃から信頼している配偶者を役員にすることで、経営の安定に寄与してくれるはずです。会社の設立当初は、やるべきことも多く、赤字が続くこともあるため、心身共に負担が増えるでしょう。
信頼できるビジネスパートナーの存在が、苦しい時期を乗り超えるための力となってくれる可能性が高いです。
副業がやりやすい
副業として法人を設立する場合、配偶者を役員にすることで副業をしていることが勤務先にバレにくくなります。
近年は、社員に副業を認める企業が増えてきましたが、認めていない企業も存在します。自身に代わって配偶者を代表にすれば、設立した会社の収入や納税額などが、自身の勤務している会社に知られるリスクを低減できます。
関連記事:自営業の青色専従者給与と配偶者控除はどちらがお得?節税効果について解説
配偶者を役員にするデメリット
配偶者を役員にすることは、節税効果などのメリットが期待できますが、デメリットもあります。ここでは、配偶者を役員にするデメリットについて紹介します。
他の従業員のモチベーション低下
他にも従業員がいる場合、配偶者を役員にすることへの理解が得られず、従業員のモチベーションを低下させることがあります。
誰もが認める実績や理由があれば、配偶者を役員にすることに対して、他の従業員から不満は出ないでしょう。
しかし、節税対策などの目的で配偶者を役員に就任させた場合、多くの従業員が配偶者を優遇している、と受け取る可能性が高いです。
周囲が納得しない人事は、従業員のモチベーションや帰属意識の低下を招きます。配偶者を役員にするなら、配偶者が役員にふさわしいと納得できるだけの理由や説明が求められます。
報酬額の変更が不可能
役員に支払う報酬については、一定の要件を満たす必要があるため、基本的には事業年度中に報酬額を変更できません。
そのため、資金繰りの悪化や経営難が生じた際でも、定めた報酬を支払わなくてはいけないのです。報酬額の支払いと赤字経営が続くと、経営の存続困難といった事態を招く恐れがあります。
また、役員報酬は損金扱いですが、損金として認めてもらうためには下記の要件を満たさなくてはいけません。
- 定期同額給与
- 利益連動給与
- 事前確定届出給与
配偶者を役員にするときは、法務局への届け出も必要であることから、事前の準備や報酬額の適切な設定などが求められます。
参考:国税庁 No.5211 役員に対する給与(平成29年4月1日以後支給決議分)
配偶者の名前が公開される
配偶者を代表取締役にした場合、配偶者の自宅や住所が登記簿に記載されることでデメリットが生じることがあります。
役員になると、その経営責任も重大であるため、会社に不祥事が起こった際には責任を被るでしょう。
また、配偶者が他の会社に勤務しており、副業をしていた場合は、副業をしていることが配偶者の勤務先に知られる可能性がることも心得ておく必要があります。
もし、配偶者の勤務先で副業が禁止されている場合、規定違反となるからです。会社員である配偶者を役員や代表にする場合は、必ず勤務先の規定などを確認しておくことが大切です。
関連記事:役員の人数は何人が適正?必要人数や中小企業や株式会社における取締役を選び方
配偶者を従業員にするメリット
配偶者を役員ではなく、従業員にすることで得られるメリットについて紹介します。配偶者を従業員にすべきか否かに迷ったときには参考にしてみてください。
経営の効率化
家族を従業員とすることで、経営に集中できる環境をつくれます。特に、会社を設立した当初は、やるべきことも多く、人手を必要とする場面が多々出てきます。
とはいえ、採用活動には時間やコストがかかります。しかも、創業当初は利益を上げることも難しく、しばらくは赤字が続くことが多いです。
そこで、信頼できる家族を従業員とすることで、採用にかける時間とコストを低減し、やるべき業務に集中できる環境を作れます。
節税効果
家族を従業員にすることにより、節税効果が期待できます。まず、家族を役員にするのと同様に、所得を分散できるため、所得税や住民税の減税につながります。
また、給与を受け取っている家族も、給与所得控除を受けられるため、課税所得を減らせるのです。
労働保険の手続きが不要
家族を従業員として雇う場合、労災保険や雇用保険に加入する必要がありません。労働保険に加入する際には、前年度と今年度の保険料の概算など、何かと手間のかかる作業が生じます。
労働保険に加入不要な家族を従業員とすれば、労働保険に加入する手続きにかかる負担を軽減できます。もし、家族を労働保険に加入させたいときは、以下の条件を満たさなくてはいけません。
- 個人事業主の指揮下にある
- 他の従業員と同じ勤務条件
- 他の従業員と同じ賃金形態
- 役員ではない
家族が労働保険に加入する義務がなくても、場合によっては加入する必要が出てくるかもしれません。労働保険の加入有無について、事前に家族とよく話し合いをしておきましょう。
給与や賞与額の変更が可能
従業員の場合、年度の途中で給与や賞与の額を変更できます。経営や資金繰りの状況に応じて給与や賞与額を変えることで、経営や資金繰りの悪化を防げます。
ただし、従業員として雇用していても、経営に関与しているとみなされた場合、税法上の「みなし役員」と扱われることがあるため注意が必要です。
また、会社は経営や資金繰りの状態に応じて給与や賞与を変更できますが、頻繁に変更するのは避けましょう。会社の一方的な都合で給与や賞与額を変更できず、従業員から理解を得なくてはいけないからです。
他の従業員からの理解を得やすい
配偶者を役員とするよりも、従業員として働いてもらった方が他の従業員からの理解を得やすいです。配偶者を従業員ではなく役員にした場合、他の従業員から不満が出る可能性が高いでしょう。
他の従業員に納得してもらえる形で配偶者を会社に迎えることで、円満かつ円滑に会社を経営しやすくなるはずです。
配偶者を従業員にするデメリット
配偶者を役員にするデメリットとしては、毎月の報酬や退職金の金額が役員よりも少額となることです。
報酬や退職金は費用として計上できるため、節税対策に効果的です。配偶者の資産形成や節税対策の観点では、従業員よりも役員の方がお得だと言えます。
家族を役員や従業員にするときの注意点
家族を役員や従業員にするとき、いくつか注意しておきたいポイントがあります。思わぬトラブルや損を避けるためにも、確認しておきましょう。
勤務実態や業績に見合う報酬(給与)にする
配偶者を役員、従業員にする場合、配偶者の勤務実態や業績に見合う報酬を設定することが大切です。勤務実態に合わない報酬を支給していると、税務署から指摘を受けるリスクが高いだけでなく、他の従業員のモチベーション低下を招くことにつながるからです。
実際に、所得分散や節税対策のために、勤務実態がほとんどない配偶者を役員にしているケースがあります。また、勤務実態があっても、仕事内容や実績に見合わない高い報酬を得ている事例もあります。
自身や家族の利益を追求しすぎると、税務調査で指摘を受けるだけでなく、従業員のやる気を失わせ、経営の悪化を招くことがあるのです。配偶者だからこそ、他の従業員との公平性を保つことが大切です。
連帯保証を求められることがある
金融機関からの借り入れの際に連帯保証を求められることがあります。また、副業での開業時など、副業の事実を勤務先に知られないように、妻(夫)を代表とすることもあるでしょう。
実際の経営権は夫(妻)にある場合は、夫婦での連帯保証を求められることがあります。連帯保証人は必ずしも求められるわけではありませんが、会社設立時は必要となる可能性が高いです。
みなし役員に注意
配偶者を従業員としていた場合でも、下記の条件を満たすことで税法上のみなし役員と判断されることがあります。
- 経営に従事している
- 事実上の意思決定に関わっている
- 株式所有割合が一定数以上
みなし役員と判断された場合、従業員として雇用していても、その報酬は給与ではなく役員報酬扱いです。みなし役員と判断された場合、追徴課税の対象となり得るため注意が必要です。
配偶者は役員?従業員?どっちが得かの判断基準
配偶者を役員にするべきか、従業員にするべきかで迷う方は多いものです。どっちが得なのかといった判断で迷ったときは、以下のポイントで判断してみてください。
利益の額で判断する
利益が出ている法人は配偶者を役員に、利益が出ていない法人は配偶者を従業員にした方がお得になる可能性が高いです。
利益が出ている会社については、役員報酬や退職金などの支払いによる高い節税効果が期待できるからです。一方で、利益が出ていない法人で配偶者を役員にした場合、経営難や資金繰りの悪化に陥ったとき、報酬額を変更できず、会社経営に悪影響を及ぼす恐れがあります。
税務面でどっちが得なのかを適切に判断するためにも、税金の知識が豊富な税理士に相談してみましょう。
配偶者を役員にするか従業員にするかでお悩みなら、「小谷野税理士法人」にお気軽にお問い合わせください。
他の従業員からの理解があるかで判断する
他の従業員がいる法人は、従業員の帰属意識やモチベーションを低下させないためにも、従業員の理解が得られる形で配偶者を雇用しましょう。
他の従業員が、配偶者を特別扱いしていると判断するような雇用形態、賃金形態の場合、従業員のやる気を失わせて経営にも悪影響が出るからです。
配偶者を雇用する場合は、他の従業員を納得させる根拠や丁寧な説明、透明性の高い賃金形態、適切な勤務実態が求められるでしょう。
関連記事:社長給与の決め方とは?中小企業の役員報酬の相場と節税のコツ
まとめ | 配偶者を役員にするか従業員にするかはどっちが得かで決めよう
会社設立時などに配偶者を雇い入れる場合、役員にするか従業員にするかは、会社の状況などで判断するのが望ましいです。配偶者を役員にするのと、従業員にするのと、どちらも節税効果が期待でき、それぞれメリットやデメリットがあります。
どっちが得になるのかは、会社の経営状況や他の従業員との関係性で決めることが大切です。自社にとって適切な形態で配偶者を雇用し、経営の安定化や節税対策の実現を目指しましょう。