日本の所得税等には、累進課税制度が導入されています。累進課税制度とは所得が高い人に高い税率を課せる制度のことです。累進課税には「単純累進課税」と「超過累進課税」の2つあり、ぞれぞれの違いについてきちんと理解している人は少ない印象です。この記事では、単純累進課税と超過累進課税の仕組みと違い、所得税の計算方法等について解説します。個人事業主や中小企業等を経営する方は、ぜひ今後の参考にしてください。
目次
単純累進課税と超過累進課税の仕組み
違いについて把握する前に、累進課税の基本について押さえておきましょう。ここでは単純累進課税と超過累進課税の仕組みについて解説します。
単純累進課税とは
単純累進課税とは、課税標準区分を超過した際に全額に対して税率が課される制度のことです。
例えば、300万円の区分を30万超えた330万円になったときに、330万円全てに税率が課されるイメージです。
所得区分の境目に在する納税者負担が一気に増えてしまうため、日本では導入されていません。
超過累進課税とは
超過累進課税とは、所得が一定額を超えた際、超えた金額に対して一定の税率で課税される制度のことです。
例えば、300万円の課税区分から30万円を超えた330万円が所得だった場合、超えた30万円のみに次の区分の税率が課されるイメージです。
単純累進課税とは違い、納税者の税負担が一気に増えないよう配慮されていることが窺えます。なお日本では超過累進課税が導入されています。
種類 | 概要 | 違い |
単純累進課税 | 一定の区分から所得が超えた際、全額に対して次の区分の税率が課される | 税負担が一気に増えてしまう |
超過累進課税 | 一定の区分から所得が超えた際、超えた金額に対して次の税率が課される | 税負担が緩和されている |
そもそも所得税とは?
所得税とは、1月1日から12月31日までの1年間の所得に対して生じる税金のことです。年収(収入)から必要経費を差し引き残った所得から、基礎控除などの所得控除を引いた金額を基に計算します。
例えば、Webライター業で個人事業主として活動しているとします。1月1日から12月31日までの間に、Webライター業のために購入・支払った費用・税金等の経費を、収入から差し引いた分が所得です。
仮に従業員を雇っている場合であれば、従業員に支払った給与など、総収入から必要経費を支払った分が所得といったイメージです。
ちなみに、所得税と混同しやすい税目の一つに源泉徴収税と呼ばれるものがあります。源泉徴収税とは税金の納め方です。例えば会社員の場合、支払う給与から所得税を算出し、その分を差し引いて会社が代理で国に納税することを源泉徴収制度と呼びます。
源泉徴収では毎月給与から所得税を天引きする流れですが、この時点では1年間の収入・控除額が不明確です。このままだと税金の過不足が発生しうる可能性があることから、年末調整で税額の過不足を調整します。
所得税の計算方法
単純累進課税と超過累進課税について理解を深めるにあたり、所得税の計算方法を押さえておく必要があります。今回は国税庁にて公開されている計算方法・計算式を参考に具体例を紹介します。
なお、国税庁で公開されている平成27年度分以後の課税される所得金額および税率・控除額は下表の通りです。
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上記をもとに、例を用いて解説します。
具体例でみる超過累進課税の計算方法
上表を参考に具体例を用いて超過累進課税を計算していきましょう。
例えば、総所得が600万円の場合、超過累進課税の具体的な計算方法は以下の通りです。
1. 195万円に対して5%を適用する 195万円 × 0.05 = 9万7,500円 2. 次に195万円から330万円までの135万円に対して10%を適用する 135万円 × 0.10 = 13万5,000円 3. さらに330万円から600万円までの270万円に対して20%を適用する 270万円 × 0.20 = 54万円 4.これらを合算した場合の総税額 9万7,500円 + 13万5,000円 +54万円 = 77万2,500円 |
超過累進課税では所得の各部分に別々の税率が適用されます。そのため、最終的な税額が所得全体に対して高額になることがあるので注意しましょう。
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累進課税制度が導入された理由
日本で累進課税制度が導入された時期は、今から約140年前の1887年、明治20年に所得税を導入した時期にまでさかのぼります。このとき、プロイセンの階級税の影響を受けた明治政府は、近代的な税制確立を目指すために外国の多種多様な税制を参考にしていました。
単に国が所得税によって収入を増やそうと個人の所得に一律の高い税率を課すと、低所得者の生活が成立しません。低所得者にも配慮するために、所得に応じて税率が変わる累進課税制度を導入し、経済的な公平性を確保しました。
累進課税の対象となる税金の種類
現在の日本で累進課税の対象となっている税目は以下の3つです。
- 所得税:個人の所得に課せられる税金
- 相続税:逝去された人から受け継いだ財産に課せられる税金
- 贈与税:生きている個人から受け継いだ財産に課せられる税金
上記以外の税金は、累進課税の対象ではありません。また、所得税は基本、累進課税となりますが、一部の所得については累進課税の対象外です。
さらに、課税方法が総合課税に該当する所得は累進課税が適用されますが、申告分離課税または源泉分離課税に該当する所得は適用外です。
それぞれの概要は下表の通りです。
名称 | 概要 | 該当する所得 |
申告分離課税 | 特定の理由によって生じた所得を、他の所得と合わせず単独の税額を分離して計算、対象となる税金を納める課税方式 |
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源泉分離課税 | ほかの所得と分離させ、一定の税率で税金が源泉徴収され、納税が完結する課税方式 |
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申告分離税や源泉分離課税に該当するものは、課税対象外であるため押さえておきましょう。
累進課税のメリット・デメリット
単純累進課税や超過累進課税などの基板となる累進課税ですが、この制度にはメリットやデメリットが存在します。
メリットは所得の不平等がなくなる点です。高所得者から多くの税収が可能になるので、公共サービスの充実や社会保障の財源として活用できます。また低所得者層への支援が強化されるなど所得格差の縮小にも期待できます。
一方デメリットには、高い税率によって「多く稼ぐのはやめよう」と、大きく稼ぐ意欲を低下させる可能性が潜んでいます。また所得や資産が多い人ほど税制の仕組みに対して不公平さを抱き、税率の低い海外への移住を検討する人も増えるでしょう。
税率に対し不公平さを感じる人が増えると、やがて自国による税収減や人口減が生じ、社会の衰退を招くことも考えられます。
単純累進課税と超過累進課税について押さえよう
この記事では単純累進課税と超過累進課税、所得税や累進課税の基本概念について解説しました。
単純累進課税と超過累進課税は、いずれも高所得者から多くの税を徴収することを目的とする制度ですが、そのアプローチには大きな違いがあります。
企業を経営している方の中で「税金について把握しきれていない」といった方は、この機会に最寄りの会計事務所を訪ねてみてはいかがでしょうか。
なお、税務の相談については小谷野税理士法人にて受け付けています。気になることや悩みなど、どのような問題にも対応していますので、ぜひお気軽にご相談ください。