法人破産して法人格が消滅すれば、債務者自体がいなくなるため当該法人の有する債務も消滅します。法人に課された税金も免除対象であり、法人に滞納税金がある場合でも法人破産をすれば滞納税金の支払義務は原則として免除されます。ただし例外的に、法人格の消滅後にも滞納税金の支払義務が残るケースがあるため注意が必要です。
今回は法人破産における滞納税金の取り扱いについて詳しく解説します。
目次
【原則】法人破産後は滞納税金が免除される
原則として、法人破産が成立すれば法人の滞納税金は免除されます。当該法人の代表者や経営者が肩代わりする必要もありません。
法人破産の仕組み
そもそも法人破産とは、債務超過や支払不能等の状態に陥った会社を清算する行為です。
法人破産では、裁判所によって選任された破産管財人が、財産の換価および債権者への配当をすることで負債を返済していきます。換価した財産の配当が、完了後に破産終結の決定を行うと破産が成立し、法人格が消滅する仕組みです。
法人破産によって法人格が消えれば、債務者である会社がなくなるため当該債権の存在意義そのものがなくなります。したがって滞納税金をはじめ、社会保険料の未払い分やその他の法人が負う債務の支払義務も一緒に消えるのです。
法人破産の仕組みや流れは、以下の記事をご覧ください。
関連記事:法人破産とは?手続きの流れや破産による影響について解説
個人破産の場合は滞納税金の免除がされない
個人が行う自己破産では、滞納税金の免除はされません。個人にかかる税金は非免責債権、すなわち自己破産をしても支払義務が免除されない債権です。税金の支払義務は残り続けるため、自己破産の手続きを終えた後でも差し押さえを実行される恐れがあります。
自己破産と税金の関係については以下の記事で詳しく解説しているので、ぜひこちらもご覧ください。
関連記事:税金滞納分は自己破産してもなくならない!対処法を紹介
関連記事:自己破産の費用相場は?法テラスのメリットや支払えないときの対処法
法人破産後も滞納税金の支払い義務が残る例外
前述のように、法人破産後は原則として滞納税金の支払義務も消え、誰かが肩代わりする必要もありません。しかし、例外的に支払い義務が残ってしまうケースが存在するため注意が必要です。以下で具体的な条件を解説します。
納税保証書を提出している
納税保証書を提出している場合、法人破産後は保証人である代表者個人に滞納税金の支払義務が生じます。
納税保証書とは、本来の納税義務者による納税が滞った場合に保証人が代わりに納税することを保証する書類です。納税猶予や分納を申請するときに必要となります。納税保証書の提出が起こり得る具体例として、追徴課税の額が高額なために一括納付ができないケースが挙げられます。
代表者が納税保証書を提出すると、法人が納税できなくなった場合に税金の支払義務が保証人である代表者に移ります。厳密には保証義務が残り、保証義務に基づいて支払いの必要性が生じるようになります。
参考:国税庁「G-13 納税の猶予等に係る担保の提供手続(保証人)」
無限責任社員である
破産するのが合名会社が合資会社の場合、無限責任社員には滞納税金の支払義務が残ります。
無限責任とは、法人が破産・倒産した際に債権者に対して負債全額の返済をする責任を負うことです。会社の有する財産だけで債務の返済をしきれない場合、無限責任社員は個人の財産を処分してでも弁済する必要があります。
無限責任社員が在籍する会社は合名会社と合資会社の2種類です。合名会社は無限責任社員のみで構成、合資会社は無限責任社員と有限責任社員の両方で構成されます。それ以外の会社は有限責任社員のみによって構成されています。
法人格の種類、およびそれぞれの特徴の詳細は以下の記事をご覧ください。
第二次納税義務者に該当し、一定の要件を満たす
破産する法人の第二次納税義務に該当し一定の要件を満たす場合は、法人の滞納税金の支払義務が生じます。
第二次納税義務者とは、本来の納税義務者が税金を滞納し、滞納処分を執行しても徴収すべき額が不足する場合に納付義務を負う人のことです。前述した合名会社や合資会社の無限責任社員も第二次納税義務者に該当します。
第二次納税義務が発生するケース、および義務を負う対象者の例は以下の通りです。
条件 | 第二次納税義務者となる人 |
清算人が滞納税金を納付せずに残余財産の分配を行なった | 清算人、残余財産の分配を受けた者 |
破産する法人の事業が第三者に引き継がれ、譲渡を受けた者が同じ場所で同じ事業を営む | 事業譲渡を受けた事業者 |
破産対象の法人が同族会社であり、以下2つの要件を満たす
| 同族会社の判定のもととなった株主等 |
滞納分の法定納期限の1年以内に、破産対象の法人から重要な財産の無償または低額による譲渡を受けている | 財産の譲渡を受けた者 (財産の譲渡が原因で税金の支払ができなかったとみなされると第二次納税義務が生じます) |
なお、実際のところ、破産手続き開始直前に譲渡した財産は破産財団とみなされるのが一般的です。
破産財団とは、破産管財人が管理・処分の権利を専有する財産を指す言葉で、基本的には会社の財産すべてが該当します。破産管財人は破産財団の換価によって現金をつくり、債権の弁済や配当に充てる仕組みとなっています。
譲渡を行なったのが破産手続きの開始直前である場合、すでに第三者に所有権が移った財産でも破産財団とみなされます。そもそも当該財産の譲渡がなかったとして扱われるケースが多いため、譲渡を受けたという理由で第二次納税義務を負う可能性は低いでしょう。
法人破産における滞納税金等の債権の取り扱いとは
税金や社会保険料は最も請求権の強い債権です。取引先への買掛金や金融機関からの借入金よりも優先して弁済・配当が行われます。
また、税金や社会保険料といった同じ枠の中でも、以下の要件を満たすものが最優先となります。
- 破産手続きの開始よりも前の原因に基づいて生じた
- 納期限が未到、または納期限から1年を経過していない
弁済・配当をしても返済しきれなかった債権の請求権は、法人格の消滅とあわせて消える仕組みです。前章で紹介した例外に当てはまるケースを除き、滞納税金の支払義務は免除となります。
法人破産の前に差し押さえを受けるとどうなる?
税金には自力執行権があるため、差し押さえにあたって裁判所を通す必要がありません。そのため税金の滞納状態が続くと突然税務署から財産の差し押さえを受けるという事態が起こり得ます。
差し押さえを受けると会社の財産を自由に使えなくなります。したがって仮に破産を検討していても、破産申立てをするための費用を用意できなくなる可能性が高いです。差し押さえにより破産ができなくなり、状況を改善するための別の対処もできないまま悪化の一途を辿る恐れがあります。また、差し押さえ後に破産手続きが開始しても、差し押さえの取り消しは行われません。
破産手続きが開始すれば、税金の滞納分があっても新たに差し押さえを受けることはなくなります。財産は破産管財人が管理・処分するため自由に扱えなくなりますが、少なくとも破産手続きすらできない事態は避けられるでしょう。
以上の理由から、法人破産の前に差し押さえを受けるのは絶対に回避するべきです。税金の滞納があり支払える見込みもない場合、法人破産も視野に入れて対処法を検討するべきといえるでしょう。
以下の記事で、税金の滞納を防ぐために出来ることについて解説しているので、ぜひこちらもご覧ください。
関連記事:【税理士監修】法人税の滞納は危険?滞納のリスクや支払いが難しい場合の対処法を解説
滞納税金の放置は厳禁!法人破産も視野に入れた早めの対策が必須
法人破産の手続きが成立し法人格が消滅すれば、会社が負う債務の支払義務も一緒に消滅します。
個人の場合は、破産手続きをしても税金は免除されませんが、法人の場合は原則として税金を含むすべての負債の支払義務がなくなります。ただし、法人破産後も例外的に滞納税金の支払義務が残るケースがあるため、自社の状況について確認が必要です。
最も回避するべき事態が、税務署からの差し押さえを受けることです。税務署からの差し押さえを受けてしまうと破産申立ての費用を用意できず、破産手続きができないという事態になってしまいます。そうなると出来る対策がほとんどなくなってしまうため、事態の悪化を止められない可能性が高くなります。
滞納税金の解消見込みがない場合でも、その状態を放置するのは絶対に避けましょう。法人破産も視野に入れて対処法を検討し、なるべく早く対策をとることが大切です。