インボイス登録中の個人事業主が法人成りする場合でも、インボイスの登録番号は引き継げません。よって、法人では新しくインボイス登録をする必要があります。しかし、中には免税事業者として法人成りした方が有利なケースもあるため、安易なインボイス登録は避けましょう。この記事では、法人成りに伴うインボイス登録のベストタイミングや、法人成りした際のインボイス登録手続きについて解説します。
目次
個人のインボイス番号は法人に引き継げない!新登録が必要
法人成りをしても、個人事業主時代の「適格請求書発行事業者の登録番号(インボイス登録番号)」は法人に引き継げません。登録番号は、事業者単位で発行されるからです。
個人と法人は別の事業者であるため、法人では新しく適格請求書発行事業者の登録(インボイス登録)をする必要があります。
また、個人とは別事業者になるからこそ「法人ではインボイスにしない」という選択も可能です。取引先との関係を考え、インボイス登録するかどうか慎重に判断しましょう。
参考:登録番号とは|国税庁
法人成りに伴うインボイス登録の事務手続きについては、記事後半で解説します。
法人成りに伴うインボイス登録のベストタイミングは?
法人成りでインボイス登録をする場合、「法人設立と同時」に登録するケースが多いでしょう。しかし、「消費税の免税期間を活かしてから」のタイミングで登録するのも選択肢の一つです。
個々の財政状況や取引先との関係によって、インボイス登録のベストタイミングは異なります。タイミングが分からない場合は、税理士に相談するのがおすすめです。
法人設立と同時にインボイス登録するメリット・デメリット
法人設立と同時にインボイス登録するメリット・デメリットは、以下の通りです。
メリット |
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デメリット | 法人成り後の免税期間(最大2年間)が適用されず、消費税の納税が必要 |
取引先が課税事業者の場合、自分がインボイス登録していないと取引先が消費税の仕入税額控除を受けられません。そのため、取引先から取引条件の変更や解約を申し入れられる可能性があります。逆に言えば、自分がインボイス登録していると取引先は安心します。
なお、取引先が免税事業者である場合、インボイス未登録でも取引に影響はありません。免税事業者は、そもそも消費税の仕入税額控除を受けないためです。また、取引先がインボイスの影響を受けない特定の課税事業者である場合も、取引の影響は少ないでしょう。
一方、設立時にインボイス登録すると、その時点で課税事業者となり消費税の納税義務が発生します。本来、資本金1,000万円未満であれば設立から2年間は基本的に消費税免税ですが、その免税期間がインボイス登録によって無くなります。
まとめると、法人設立と同時にインボイス登録するのがおすすめなケースは、以下の通りです。
- 取引先が「インボイスの影響を受ける課税事業者」である場合
- 免税期間のメリットよりも、取引先の信用を重視したい場合
事前に取引先へ確認し、インボイスが求められているか把握しましょう。
インボイス登録するメリットについては、下記の記事も併せてご確認ください。
関連記事:【税理士監修】インボイス制度はメリットないって本当?導入の目的を徹底解説!
免税期間を活かしてからインボイス登録するメリット・デメリット
前提として、前々事業年度の課税売上高が1,000万円を超えると消費税の納税義務が発生します。つまり、新設法人は「前々事業年度」がない2年間は基本的に消費税が免税となります(資本金1,000万円未満の場合)。
参考:消費税のしくみ|国税庁
免税期間を活かしてからインボイス登録するメリット・デメリットは、以下の通りです。
メリット | 免税期間中は消費税を納税しなくていいため資金繰りに有利 |
デメリット | 「インボイス未登録の法人」との取引を敬遠する取引先もいる |
法人設立直後で資金繰りが苦しい場合、免税期間中に設備投資や広告費などを充実させ、事業拡大を図る方法もあります。取引先がインボイスを求めていないなら、免税期間を活用した方がメリットが大きいでしょう。
まとめると、免税期間を活かしてからインボイス登録するのがおすすめなケースは、以下の通りです。
- 取引先が免税事業者か、インボイスの影響を受けない特定の課税事業者である場合
- 取引先の減少よりも、免税期間のメリットが大きい場合
- 法人成りしても数年は課税売上高が1,000万円を超えなそうな場合
必要になった時点でインボイス登録することも可能ですので、取引状況や資金繰りを確認しながら戦略を考えましょう。
法人成りによる消費税免除について、詳しくは下記の記事をご確認ください。
関連記事:法人成りで消費税を最長2年間免除に!免除の条件とインボイス制度による影響を徹底解説
法人成りでインボイス登録する場合の手続き
インボイス登録している事業を個人から法人へ切り替える際は、以下2つの手続きを行う必要があります。
個人事業主として「事業廃止届出書」を提出する
法人成りに伴い個人事業を廃止する場合は、「事業廃止届出書」を税務署に提出しましょう。これにより、個人のインボイス登録も自動的に取り消されます。
事業廃止届出書を提出しないと、個人名義のインボイス登録が残ってしまいます。すると、税務署から「個人事業は継続しているのか」と確認の連絡が来る場合も。不要な対応や手間を避けるために、個人事業廃止後は速やかに「廃止届」を提出しましょう。
税務署への提出書類として、併せて「個人事業の開業・廃業等届出書(いわゆる廃業届)」も必要です。青色申告者は「所得税の青色申告の取りやめ届出書」も提出しましょう。
事業の一部を個人事業主として継続するなど、インボイス登録を取り消さない場合は「事業廃止届出書」の提出は不要です。
参考:事業廃止届出手続|国税庁
参考:インボイス発行事業者の登録を取り消す場合などに提出すべき書類|国税庁
個人事業主の廃業手続きについて、詳しくは下記をご確認ください。
法人として「適格請求書発行事業者の登録申請書」を提出する
法人のインボイス登録をする際は、設立日以降に「適格請求書発行事業者の登録申請書」を税務署に提出しましょう。個人事業主時代の登録番号は法人に引き継げないからです。また、設立前には申請できません。
設立初日からインボイス発行事業者として登録したい場合は、設立年度の末日までに税務署に申請しましょう。例えば12月決算なら、12月31日までに申請する必要があります。
この際、登録申請書に「事業開始日から登録を希望する」との旨を記載しましょう。これにより、設立初日からインボイス登録されたことになります。
とはいえ、インボイス登録番号の通知が来る前に発行した請求書には、登録番号が記載できません。番号がないと取引先が控除を受けられないため、必要に応じて訂正請求書などを発行しましょう。
参考:適格請求書発行事業者の登録申請手続(国内事業者用)|国税庁
参考:新設法人における登録の通知を受けるまでの間の適格簡易請求書の交付方法|国税庁
参考:開業後、インボイスではない請求書を交付していましたが|国税庁
なお、本来インボイス登録する際は「消費税課税事業者選択届出書」の提出が必要です。しかし令和11年9月30日までの日が含まれる事業年度中に登録すれば、この届出書の提出は不要です。経過措置であるため、令和11年以降は制度変更にご注意ください。
参考:免税事業者が令和11年9月30日までの日の属する課税期間中に登録を受ける場合|国税庁
法人成りとインボイス登録のタイミングは戦略が重要
この記事では、法人成りに伴うインボイス登録のベストタイミングや、法人成りのインボイス登録手続きについてお伝えしました。
法人成りとインボイス登録のタイミングは、税負担や取引先への影響などを考えてから判断しましょう。免税事業者である方が有利なケースもあるため、安易にインボイス登録をすると損をする場合があります。
法人成りとインボイス登録の最適なタイミングが分からない方は、ぜひ税理士にご相談ください。税理士と共に税負担などをシミュレーションをし、最適なタイミングを探りましょう。
また、税理士は新たなインボイス登録の手続きもサポートできるため、ミスや修正のリスクを防げます。