新型コロナウイルスの感染拡大や海外情勢の緊迫化、円安による物価の上昇など、日本経済を取り巻く環境は大きく変化しています。こういった経済社会の変化に対応するべく、事業再構築に取り組む中小企業等を支援するために創設されたのが、事業再構築補助金です。多くの中小企業等が苦境に立たされている中、総予算1兆1,485億円という、大規模な補助金事業として注目を集めています。この記事では、事業転換を検討している方々に向けて、事業再構築補助金の概要や公募要件、採択されるためのポイントなどについて詳しく解説していきます。
目次
事業転換とは
事業転換とは何か
事業転換とは、企業が新たな製品を製造したり、新たな商品やサービスを提供したりすることによって主たる事業を変更することを指します。この主たる事業とは、行っている事業の中で最も売上構成比率が高い事業のことです。
また、混同されがちな言葉として業種転換がありますが、これは主たる事業のみならず、主たる業種まで変更した場合を指すという違いがあります。
事業転換に必要な3つの要件
① 製品などの新規性要件
新規性要件を満たすためには、次の3つの要件をクリアする必要があります。まず「過去に同じものを製造等したことがない」ことです。次に「製造等に使用する主要な設備を、新たなものに変更すること」が必要になります。最後に「性能や効能の違いが定量的に異なる」ということを示さなければなりません。
② 市場の新規性要件
市場の新規性要件とは、既存製品等の需要が、新製品等によって代替されないことを指します。新製品等を販売開始したとしても、既存製品等の売上が減少することなく、むしろ既存製品等との相乗効果が期待できるということを示す必要があります。
③ 売上高構成比要件
数年後に事業計画期間が終了した段階で、新規事業の売上構成比が最も高くなるような事業計画を策定する必要があります。
事業転換に活用できる!事業再構築補助金とは
事業再構築補助金とは、事業転換・業種転換・業態転換・新分野展開・事業再編といった、中小企業等の新たな挑戦を支援し、日本経済の構造転換を促すことを目的とした制度です。経済産業省によって実施されており、コロナ禍などの影響で既存事業の継続が困難となった、中小企業等の新規事業立ち上げを後押しする補助金のひとつとして注目されています。
事業転換の際に事業再構築補助金を申請するための要件
① 売上が減ってしまっている
原則として「2020年4月以降の連続する6か月間のうち、任意の3か月の合計売上高が、コロナ以前(2019年または2020年1月~3月)の同3か月の合計売上高と比較して、10%以上減少していること」という要件を満たす必要があります。なお、任意の3か月という部分に関しては、連続した期間である必要はありません。
② 事業転換のための再構築の目処が既にある
事業転換の目処がたっていなければ、当然のことながら事業再構築補助金の申請準備を進めることはできません。上述した事業転換に必要な3つの構成要件をクリアしているかチェックしながら、事業計画を策定していきましょう。
③ 認定経営革新等支援機関と策定した事業計画を用意している
認定経営革新等支援機関とは、中小企業等経営強化法に基づいて政府から認定された、一定の補助事業を受ける際に関与する必要がある機関のことを指します。具体的には、税理士・税理士法人・公認会計士・商工会・商工会議所・金融機関などが支援機関として認定されています。
なお、事業再構築補助金においては「補助金額が3,000万円を超える場合、金融機関も事業計画の策定に関与しなければならない」という要件が含まれているため、注意が必要です。
事業転換する際の事業再構築補助金の申請準備
① 電子申請の準備の仕方
事業再構築補助金の申請方法は電子申請のみとなっており、窓口や郵送での書面申請はできません。電子申請を行うための準備として、まず「GビズIDプライムアカウント」を取得する必要があります。このアカウント発行には1か月程度の期間を要する場合があるため、早めに申請しておきましょう。なお、期限までにアカウント発行が間に合わなかった場合には「暫定GビズIDプライムアカウント」によって対応する必要があります。
② 事業計画策定の準備の仕方
事業再構築補助金は予算が決められており、注目度も高いことから競合相手が多くいます。よって、ただ要件を満たしているだけでは補助金の交付を受けることは難しいでしょう。採択者にとってわかりやすく、かつ説得力のある事業計画を策定するよう心がける必要があります。
合理的な事業計画を策定するためには、既存事業の強みや弱み、市場分析、新事業の優位性を確保するための課題と解決方法、資金計画などを検討していく必要があります。公募要項にも事業計画書に記載すべき内容が載っているため、要項に沿った形式で策定を進めていきましょう。
③ 認定経営革新等支援機関との相談の必要性
上述のとおり、事業再構築補助金の申請における事業計画策定の際は、必ず認定経営革新等支援機関が関与しなければなりません。事業計画の策定には多大な時間と労力を要するため、信頼のおける認定経営革新等支援機関に、早い段階から相談することをおすすめします。
注意点として、事業計画の策定を認定経営革新等支援機関にすべて委任するということはできません。あくまでも事業計画の策定や申請は本人が行い、認定経営革新等支援機関はそのサポートを行うという立場になっているからです。
なお、認定経営革新等支援機関は中小企業庁のホームページに掲載されており、身近な支援機関に心当たりがない場合は検索する必要があります。
事業再構築補助金の補助上限金額
事業再構築補助金は6つの枠に分類されており、それぞれ補助金額や補助率が異なっています。ここからは、具体的にどれくらいの補助を受けられるのかについて、類型ごとにご紹介していきます。
通常枠
通常枠とは、事業再構築補助金において最もスタンダードな枠であり、その他の枠に該当しないものを指します。通常枠の補助上限額は、下記のとおりです。
・従業員数20人以下 100万円 ~ 2,000万円
・従業員数21~50人 100万円 ~ 4,000万円
・従業員数51~100人 100万円 ~ 6,000万円
・従業員数101人以上 100万円 ~ 8,000万円
大規模賃金引上枠
大規模賃金引上枠とは、従業員が101人以上在籍する中小企業を対象に、補助上限が引き上げられるという特徴を持った枠です。多くの従業員を雇用しながら、継続的に賃上げを行う企業の挑戦を支援するという目的で新設されました。
・従業員数101人以上 8,000万円超 ~ 1億円
回復・再生応援枠
回復・再生応援枠とは、対象期間の売上高が30%以上減少、または付加価値額が45%以上減少しており、厳しい状況に置かれている企業を支援するために創設された枠です。補助金額は控え目となっていますが、代わりに採択率が高くなっているという特徴があります。
・従業員数5人以下 100万円 ~ 500万円
・従業員数6~20 人 100万円 ~ 1,000万円
・従業員数21人以上 100万円 ~ 1,500万円
最低賃金枠
最低賃金枠とは、2021年10月から最低賃金が28円を目安に引き上げられたことを受けて、経営に大きな影響が出たことから、事業再構築に取り組む企業を支援する枠となっています。
・従業員数5人以下 100万円 ~ 500万円
・従業員数6~20 人 100万円 ~ 1,000万円
・従業員数21人以上 100万円 ~ 1,500万円
グリーン成長枠
グリーン成長枠とは「グリーン成長戦略」を通して、事業再構築に取り組む企業を支援する目的で創設された新しい枠です。このグリーン成長戦略とは、2050年までに温室効果ガスの排出量を全体としてゼロにする「カーボンニュートラル」を達成することを目的とした政策のことを指します。グリーン成長枠では、グリーン成長戦略に沿って実行計画を策定することが求められています。
・中小企業者等 100万円 ~ 1億円
・中堅企業等 100万円 ~ 1.5億円
緊急対策枠
緊急対策枠とは、正式には「原油価格・物価高騰等緊急対策枠」という名称で、新たに設けられた枠です。ウクライナ情勢の緊迫化や、円安による原油・物価等の高騰により、経済社会の変化に対応するべく事業再構築に取り組む企業を支援するために創設されました。通常枠では補助対象外であったとしても、緊急対策枠では補助対象となる場合があるため、要件をしっかりと確認しておきましょう。
・従業員5人以下 100万円 ~ 1,000万円
・従業員6~20人 100万円 ~ 2,000万円
・従業員21~50人 100万円 ~ 3,000万円
事業再構築補助金の補助率
続いて、事業再構築補助金の補助率について、それぞれの枠ごとにご紹介していきます。
通常枠
・中小企業者等 2/3(6,000万円を超える部分は1/2)
・中堅企業等 1/2 (4,000万円を超える部分は1/3)
大規模賃金枠
・中小企業者等 2/3(6,000万円を超える部分は1/2)
・中堅企業等 1/2 (4,000万円を超える部分は1/3)
回復・再生応援枠
・中小企業者等 3/4
・中堅企業等 2/3
最低賃金枠
・中小企業者等 3/4
・中堅企業等 2/3
グリーン成長枠
・中小企業者等 1/2
・中堅企業等 1/3
緊急対策枠
・中小企業者等 3/4
従業員数5人以下の場合 500万円を超える部分は2/3
従業員数6~20人の場合 1,000万円を超える部分は2/3
従業員数21人以上の場合 1,500万円を超える部分は2/3
・中堅企業等 2/3
従業員数5人以下の場合 500万円を超える部分は1/2
従業員数6~20人の場合 1,000万円を超える部分は1/2
従業員数21人以上の場合 1,500万円を超える部分は1/2
事業再構築補助金の補助対象となる経費の一覧
建物費
補助事業のために使用する事務所・販売施設・生産施設・倉庫など、事業計画を実行していくために必要不可欠な建物の建設・改修・撤去費用などが対象経費となります。よって、単に建物を購入・賃貸した費用などは対象外となります。
機械設置・システム構築費
補助事業のために使用する機械装置・工具・ソフトウェア・情報システムなどの、購入・構築費用などが対象経費に該当します。なお、原則として新品が対象となりますが、3社以上の業者から相見積もりを取得している場合、中古品も対象となる場合があります。
技術導入費
事業計画を実行するうえで必要な、知的財産権等の導入にかかる経費が補助対象となります。なお、知的財産権等の権利者から当該権利を取得する場合には、書面による契約が必須となるため注意しましょう。また、知的財産権等の取得にかかった専門家経費や外注経費については対象外となっています。
専門家経費
事業計画実行のために依頼した、専門家に支払う経費が補助対象となります。この経費には、専門家に依頼した場合に発生するコンサルティング費用や旅費などが含まれます。ただし、事業計画策定を支援した、認定経営革新等支援機関等に対する経費に関しては対象外となっています。
運搬費
運搬料や宅配、郵送料などに要した経費が対象となります。例えば、新事業に用いる試作品作成を外部に委託し、その委託先業者から自社までの運搬に要した費用などが該当します。注意点として、新規購入した機械装置などの運搬料は、上述した機械装置・システム費に含まれることになります。
外注費
事業遂行のために必要な加工やデザイン、検査などの一部を外注した際に発生した経費が補助対象となります。自社で製品の加工やデザインを行った場合にかかる人件費などは対象外となりますが、その一部を外注することで補助対象経費として計上することが可能です。
知的財産などの関連経費
新製品やサービスなどの開発にあたり、知的財産権取得の代行手続きにかかる弁理士費用や、外国特許出願にかかる翻訳費用などの関連経費が補助対象となります。対象事業の成果に関係しない権利はもちろん、補助事業の実施期間内に出願手続きを行わなければ、補助対象とならないため注意が必要です。
クラウドサービス利用費
補助事業のために利用する、クラウドサービスやプラットフォームの利用料が対象となります。また、クラウドサービスに付随する、ルーターやプロバイダ利用にかかる費用も補助対象に含まれます。ただし、補助事業以外の事業と共有している場合には対象となりません。
広告宣伝・販促推進費
補助事業で展開する製品やサービスにかかる、広告の作成や媒体への掲載・セミナー開催・市場調査・マーケティングツールの活用などに要する費用が補助対象です。補助対象経費には「一過性の支出と認められるような支出が補助経費の大半を占める場合、事業再構築補助金の支援対象とはならない」という規定があります。この「一過性の支出」に該当する可能性が高いものが広告宣伝・販促推進費であるため、十分に注意してください。
研修費
事業を遂行するうえで必要な、教育・訓練・セミナーの受講などに要する経費が補助対象となります。研修費の補助を希望する場合には、事業計画書において研修内容の詳細を記載する必要があります。また、教育訓練給付制度といった、他の補助制度と併用することはできません。
事業転換を考えるなら事業再構築補助金を有効活用!導入の仕方がわからない場合は専門家への相談も検討
厳しい経済状況が長期化している中、現状を打破すべく事業転換を検討する企業が増えています。新たなチャレンジをするのであれば、この事業再構築補助金を大いに活用してみてはいかがでしょうか。しかし、公募要領は非常に複雑で、採択されるには合理的で説得力のある事業計画を策定しなければなりません。新規事業を立ち上げ、事業再構築補助金の交付を希望する場合は、早めに専門家や認定経営革新等支援機関に相談することをおすすめします。