SPC(特別目的会社)は、特定のプロジェクトや資金調達を目的に設立される法人形態です。主な目的は、プロジェクトのリスクを親会社から隔離するためです。この記事では具体的な設立目的やスキームのほか、国内企業による活用事例まで解説します。
目次
SPC(特別目的会社)とは

SPC(Special Purpose Company)とは、特定の事業やプロジェクトに焦点を当てて設立される法人のことです。
日本語に訳すと「特別目的会社」といった意味を持ち、リスク管理や資産の分離、効率的な資金調達が主な目的です。
例えば、不動産投資やプロジェクトファイナンスなどで用いられ、投資リスクを限定しながら効率的な運営ができます。一般的な法人形態と比べて、透明性や財務の健全性に期待でき、特定のニーズに応じた最適な手段です。
具体的な活用事例としては、海外進出時の現地法人設立や、大規模なインフラプロジェクトの資金調達などが挙げられます。
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SPCとSPV(特別目的事業体)との違い
SPCとSPVは企業や投資家の中でも混同されやすい項目です。しかし、SPCとSPVには明確な違いがあります。この章ではその違いについて解説します。
SPCとSPVの目的
SPCとは、特定のプロジェクトや取引を完了する目的で設立される法人のことです。不動産投資や証券化などの特定目的のために運用され、リスクの分散や税制上のメリットが期待できます。
一方、SPVは特定の投資プロジェクトを実行するために設立された事業体を指し、SPVのうち法人格を有するもののことをSPCと呼びます。
SPVは金融リスクを親会社から切り離して企業の財務健全性を維持し、資産の隔離やリスクの移転が目的です。
法人格を持つか否か
SPCとSPVの主な違いは法人格を持つか否かです。SPCは法人格を持つ特徴から法律上の責任を持ち、資産の管理や取引を行います。SPVは法人格を持たず契約ベースで資産の処理を行うので、特定の目的に応じ柔軟な運用が可能です。
SPCは法的構造が簡明であるため投資家にとっては安定した収益が期待でき、信頼性が高いといったメリットがあります。一方、SPVは柔軟性と迅速な資金調達が行えるので、複雑なプロジェクトにも対応できるのがメリットです。
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SPCとペーパーカンパニーとの違い

ビジネスや法律に関心のある方や投資家にとって、SPCと実体のない企業(ペーパーカンパニー)とを区別することは欠かせない部分です。
この章ではそれぞれの本質的な役割の違いについてご説明します。
設立目的とスキーム
SPCは特定のプロジェクトや資産管理を目的として設立される法人形態です。
一般的には、不動産投資や証券化スキームでの利用により、企業は投資家から資金を集めやすくなるとされています。
一方、ペーパーカンパニーは法的に実体のない企業を指し、業務活動を行わないといった特徴があります。存在自体に違法性はないものの、税制回避や不正行為を目的として設立される場合は会社法に違反する可能性があります。
具体的な活用事例
SPCの活用事例としては、不動産投資信託(REIT)や投資ファンドが一般的です。
一方、ペーパーカンパニーは、悪徳行為のための隠れ蓑といった目的で設立される場合があります。実際に、法令違反として摘発されるケースも少なくありません。企業の信用失墜につながる恐れがあることから、法人形態に対する適切な理解と活用が不可欠です。
SPC法とは
SPC法とは、1998年に施行された「特定目的会社による特定資産の流動化に関する法律」のことです。2001年には「資産の流動化に関する法律」と名称とともに内容が変化しました。不動産債権、指名金銭債権に加えて一般的な財産権にまで対象が広がりました。その結果、投資が始めやすくなるといったメリットが生まれました。
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SPCを設立する目的とメリット
企業がSPCを設立する目的は、特定の資産を切り分けてリスクヘッジを行うことと、投資家による投資の促進です。
活用事例は不動産による事例が多いものの、M&Aにもいくつかあります。この章ではM&Aと不動産投資それぞれの目的とメリットを紹介します。
M&Aの場合
M&A(企業の合併・買収)におけるSPCの活用方法はさまざまです。具体的には以下の通りです。
- リスク管理が可能
- 財務の透明性が向上する
- 税制上のメリットを得る
リスク管理が可能
譲受企業が切り分けた資産をSPCに出資すれば資産の分割が行えることです。資産を担保にSPCが資金調達を行えば、譲受企業がM&Aを目的とした資金調達のリスクを負わずに済みます。
財務の透明性が向上する
SPCは特定のプロジェクトや資産に限定して資金調達や経済活動を行うので、会計や財務報告における透明性が高まります。これにより投資家はプロジェクトの進捗やリスクを正確に把握できるというメリットがあります。
税制上のメリットを得る
特定地域や国では、SPCを通じた資金調達や利益分配が法人税やその他の税制上の優遇措置を受ける場合があります。そのことから、税制面において有利になることもメリットの一つです。
不動産投資の場合
不動産投資におけるSPCの設立は、企業関係者や投資家にとって大切な項目です。
不動産プロジェクトは大規模な投資とリスクを伴うため、SPCの活用によりリスク管理や資産運用が効果的に行われます。
不動産投資でみられるメリットは以下の通りです。
- 親会社への影響を抑える
- リスクを分散する
- 資金調達を効率化する
- 法規制や税制条件を満たしやすくなる
上記の通り、さまざまなメリットがあります。
親会社への影響を抑える
不動産開発プロジェクトを個別のSPCに分けると、各プロジェクトの資産や負債、キャッシュフローを明確に分離・管理できます。
これによりプロジェクトが頓挫しても、他のプロジェクトや親会社に与える影響を最小限に抑えることが可能です。
リスクを分散する
SPCはリスク分散の観点から、不動産市場の地価変動や法的リスクを各SPCに分散するための効果的な手段です。
万が一、プロジェクトが頓挫しても、他のプロジェクトや親会社の財務状況に及ぼす影響を小さくできます。
資金調達を効率化する
SPCによって各プロジェクトごとの資金調達が容易になります。これにより、銀行からの融資や投資家からの資金調達が効率的に進み、プロジェクトの進行がスムーズになる点もメリットです。
法規制や税制条件を満たしやすくする
法的メリットとして、SPCを活用することで地域の法規制や税制上の条件を満たすことが可能です。不動産開発を促進するための法的優遇措置を利用し、プロジェクトの経済効率を向上させることができます。
SPCの主なスキーム図

SPCはビジネスおよび投資の多様なスキームで広く活用されています。
ここでは代表的なスキームであるGK-TK、TMK、REITについて紹介します。
GK-TK(合同会社/匿名組合)
GK-TKスキームは、合同会社(GK)と匿名組合(TK)の頭文字を組み合わせた法人スキームです。金融機関からの借入や投資家などの匿名組合出資者などから資金調達を行い、現物不動産や信託受益権を持つ合同会社を設立します。
スキームの内容が把握しやすい上に設立が容易であることから、一般的な仕組みとして広まっています。
TMK(特定目的会社)
TMKは特定目的会社のことで、SPC法に基づく法人を設立し活用し、資産の流動化や証券化を行います。
「資産流動化計画」に基づき、金融機関からの融資や投資家からの出資にて資金調達を行い、現物不動産等の取得が可能です。
TMKは税制優遇を受けることができますが、事業範囲が定められており限定的です。
REIT(不動産投資信託)
REITは投資法人(Real Estate Investment Trust)の略称です。不動産投資のための信託法人であり、投資家から集めた資金で不動産を購入・運用し、その収益を分配するといった特徴があります。
REITのメリットは、少額資金でも多様な不動産に投資できる点です。また、株式市場に上場されることが多いREITは流動性が高く、投資家は容易に取引を行い柔軟な資産運用が可能になります。
多様な投資によってリスク分散も実現できるので、企業関係者や投資家にとって魅力的な投資手段と言えるでしょう。
SPCの活用事例
SPCは特定の目的で設立される法人で、さまざまなビジネス活動で広く活用されています。この章では具体的な活用事例を紹介します。
ソフトバンクグループ
ソフトバンクグループは2021年9月に愛知県と基本協定を結び、事業主体となるSPCを設立しました。
ユニコーン企業や人材育成拠点としてSPCを活用しながら資金調達やベンチャー企業の成長につながる環境整備が主な目的です。
SPCの具体的な活用事例として、ビジネス・法律に関心のある企業や投資家が注目した事例の一つでもあります。
ホテルオークラ東京
ホテルオークラ東京は2016年6月、SPCを通じてオフィス賃貸事業の推進を発表しています。
SPCの設立によりプロジェクトの収益を明確に管理し、リスクを限定して事業を推進しているようです。また、専任のチームが複数の業務を集中的に担当し、高品質なプロジェクトマネジメントが実現しました。
吉本興業
エンターテインメント業界でもSPC(特定目的会社)の活用が進んでおり、吉本興業はその先駆者です。新規ビジネス開発や海外進出のため、民放キー局やソフトバンク、ヤフーなどが出資しSPCを設立しています。
このSPCを通じて、吉本興業は既存事業のリスクを軽減し、新市場への迅速な対応が可能となりました。また、外部からの投資を容易に受け入れるための仕組みを整備したことで資金調達の多様化も実現したとされています。SPCの導入により、明確な収益管理と経営の透明性が確保でき、ビジネス展開のスピードも加速しました。
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SPCはリスクの隔離や資金調達の効率化に優れた手段であり、導入すれば戦略的なビジネス運営ができます。SPCを効果的に活用することで、企業はリスク管理と資金調達の効率化を図り、戦略的なビジネス運営を実現可能です。
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