事業を進める上で、従業員に関する税や保険の手続きや処理に、負担を感じることはありませんか?各手続き・処理に負担を感じるようになったら、税理士や社労士に業務を依頼するタイミングかもしれません。しかし、例えば給与計算は、税理士と社労士の両方に依頼可能な業務です。この場合、どちらに依頼をしたほうが、よりメリットがあるのでしょう。ここでは、税理士と社労士の業務の違いに目を向け、費用相場や選ぶ際の注意点とともに説明しています。
目次
業務内容で見る税理士と社労士の違い
税理士と社労士(社会保険労務士)は、その仕事にどのような違いがあり、どのように線引きされているのでしょうか。扱える業務内容について、具体的に説明します。
税理士と社労士の業務内容を比較
税理士と社労士では、処理できる業務内容が異なります。具体的な違いは、以下をご覧ください。
【税理士と社労士の業務内容の違い】
税理士 | ・税務の処理に関する専門家 ・個人や法人、国、自治体における税金の計算や申告を行う |
社労士 | ・社会保険や労務に関する専門家 ・企業における働く環境・条件を整備する |
主に税務を処理する専門家が税理士です。税務とは、個人や法人が国・地方自治体などに納付する税金を計算し、申告を行うことです。
一方の社労士は、正式名称を社会保険労務士と言い、その名称の通り、社会保険や労務に関する業務を扱っています。
労務とは、従業員の労働時間の管理や安全衛生対策、労働条件の遵守、福利厚生の提供といった働く環境や条件を整える業務のことです。
そもそも、税理士や社労士は、俗に言う士業に属しており、原則的にその職業にしか許されていない業務独占資格を持っています。
税理士だけができる業務範囲
税理士だけが処理可能な業務には、税務相談・税務代理、税務に関する書類の作成があります。税務の相談は、節税や所得税・相続税のアドバイスのほか、税務調査の立ち会いも含まれます。
特に、具体的な税額の計算方法については、税理士以外が相談に乗ると税理士法に抵触する可能性があります。
税務の代理は、税に関する手続きを会社や企業、個人事業主に代わって行うことを指します。例えば、確定申告とその納付、税務調査における主張や陳述も、税務代行です。
なお、税務書類の業務では、確定申告書や決算書、源泉徴収票といった多くの文書を税理士が作成します。また、税務書類の作成は、税金や会計への知識を求められるため、税理士の独占業務です。
特に、税金の計算や手続きは複雑で難解な場合が多く、税理士からのサポートを得ることで、よりスムーズに行えます。
さらには、税制が頻繁に変更されることもあり、最新情報に基づいた税務を実施するためには、税の知識は欠かせません。
社労士だけができる業務範囲
社労士だけが扱える業務は、1号業務と2号業務に分かれています。1号業務には、労働保険の書類の作成と届け出、健康保険や雇用保険の加入手続きなどが含まれています。
個人事業主・法人を問わず、従業員を雇うと、原則的に労働保険と雇用保険への加入義務が生じます。
しかし、従業員の人数が多い場合、手続きを行う人手が不足することもあるでしょう。その際には、社労士に依頼することで、必要な業務をサポートしてもらえます。
2号業務は、労働社会保険諸法令に基づく帳簿書類の作成です。従業員を持つ企業には、就業規則・労働者名簿・賃金台帳という、3つの帳簿の作成と保管が求められています。これらに社労士が備えている専門知識を活用することで、精度の高い帳簿付けができます。
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給与計算は税理士と社労士のどちらに依頼すべき?
税理士と社労士で、どちらに依頼すべきか特に迷う業務が給与計算です。ここでは、給与計算の業務内容を確かめ、税理士と社労士のどちらがより適しているかを説明します。
そもそも給与計算とは
給与計算とは、従業員への支給額からさまざまな控除を差し引き、実際に支払う給与額、いわゆる手取り額にするまでの流れのことです。
単に給与計算と聞くと、複雑さはないような印象を受けますが、実際には複数の手順を踏んで手取り額を算出しなければなりません。
具体的には、まず勤怠情報を取りまとめ、支給額の計算を行い、さらにそこから社会保険料・住民税・源泉所得税など複数の控除を差し引き、手取り額を算出します。
そのため、従業員に正確な賃金を支払い、適切な税金を納めるためにも、給与計算には正しい知識が必要とされます。
なお、給与計算は独占業務には該当しないため、税理士・社労士を問わずに行えます。
給与計算の業務内容
給与計算は、支給額や控除の算出だけでなく、その計算のために必要な集計や管理も業務に含まれています。
給与計算を行う際には、主に次のような内容の業務が実施されます。
従業員情報の管理 | 従業員一人ひとりの給与の振込先、昇給・降給、深夜手当や通勤手当やなどの各種手当の管理など |
勤怠管理の集計 | 給与に関わる従業員の始業と就業の時間、遅刻や欠勤、早退、残業、休日出勤、有給などの管理と集計 |
控除の計算 | 所得税や社会保険料などの控除計算の実施 |
社会保険料・源泉徴収税などの納付 | 給与から天引きした社会保険料・源泉徴収税の納付 |
上記以外にも、給与明細書の作成と発行、賃金台帳の作成や賞与の計算なども給与計算の業務の一部です。
なお、賃金台帳とは、給与の支払い状況を記録した帳簿を指します。
従業員数が少ない場合は税理士が適している
給与計算は、従業員数が少ない場合は税理士への依頼がおすすめです。従業員数が少ないと、社会保険や雇用保険などの手続きも限られており、社内の担当者や個人で十分処理が可能でしょう。
しかし、中小企業や小規模事業者、個人事業主にとっては、給与計算における節税や確定申告などの税務に関するサポートが得られます。資金繰りが不安定な規模の小さい企業にとって、大きなメリットでしょう。
税理士であれば、税務についての相談にアドバイスを行いつつ、給与計算への対応が可能です。
従業員数が多い場合は社労士が適している
従業員数が多い会社や企業の給与計算は、社労士への依頼が適しています。従業員がもともと多い場合や、増加傾向にある場合は、入退社の手続きに加え、社会保険に関する業務の負担も増します。
また、常に10人以上の従業員を抱える会社や企業は、労働基準法に基づき、就業規則の作成と届出が義務付けられています。
就業規則とは、従業員の給与、労働時間と労働条件、その会社や企業の規律といった法人ごとのルールを記載した書類です。
給与計算にもさまざまな情報の集計や管理が必要であることから、社労士の専門的なサポートが有効です。
関連記事:税理士の態度で税理士変更はあり?いい税理士の見極めポイントや税理士への不満ランキング
税理士に依頼するメリット
給与計算を税理士に依頼すると、ほかにも主に税務に関するさまざま相談に応じてもらえます。その際の具体的なメリットは次の通りです。
税務へのアドバイスや書類作成を依頼できる
税の専門家である税理士に給与計算を依頼すると、合わせて税務へのアドバイスや書類作成に対応してもらえます。
特に、税務に関する書類は複雑なものが多く、税制が更新されるたびに見直しを行うなど、業務に長い時間を割かれてしまうでしょう。
しかし、ほかの業務を給与計算と一緒に税理士へと依頼することで、担当者の負担が軽減され、書類作成も正確に行われます。
年末調整や確定申告の代行を依頼できる
年末調整や確定申告の代行を税理士に依頼すると、記載ミスや申告漏れを防げる上に、適切な節税が可能です。
年末調整や確定申告の時期には特に、会社の経理や担当者の負担は増大します。年末調整や確定申告は業務の正確さが求められるものです。しかし、多忙になり経理や担当者に過剰な負担がかかると、記載ミスや申告漏れにつながる可能性が高まります。
税理士に業務の一部を依頼することで、経理や担当者の負担を軽減するとともに、不備を防ぐことができるでしょう。
また、年末調整や確定申告を正確に行えば、控除も適切に行われるため、結果的に節税へとつなげられます。
税の知識が必要な役員報酬について相談できる
役員報酬は役員にとっての給与に該当しますが、従業員の給与とは税法上の扱いが異なります。節税目的で役員報酬を不当に高くできないよう、その支給方法のみ、法人税法により定められているためです。
また、役員報酬は一旦決定すると、事業年度が終わるまでの1年間は原則として変更できません。簡単には変えられないことから、税の専門家である税理士に相談することで、役員報酬をより適切な金額に設定できます。
社労士に依頼するメリット
社労士は、税理士とはまた異なる分野の処理を得意としています。給与計算を始め、社労士に業務を依頼すると次のようなメリットを得られます。
煩雑な社会保険と労働保険の業務負担が軽減される
社労士に社会保険や労働保険の業務を依頼すると、労務に関する従業員の負担を軽減可能です。
社会保険と労働保険に関する業務は内容は煩雑であり、従業員数が増えるほど、担当者には重い負担がのしかかるでしょう。
労務については、労務部や労務課などの専門的な担当者を設置している会社や企業がある一方で、総務・人事・経理の担当者が兼任しているところも多く見られます。
そのような場合、社労士に業務を依頼することで、兼任している担当者は労務の業務から解放され、本来の仕事へと集中できます。
労務トラブルを防ぐコンプライアンスへの対応を相談できる
社労士のサポートにより労務コンプライアンスを強化し、従業員に関するトラブルを未然に防げます。
コンプライアンスとは、そもそも法令や倫理の重視を意味し、その中でも労務コンプライアンスは従業員の労働について対応したものです。
労務トラブルにはさまざまなケースがあり、残業時間の問題や、パワハラやセクハラといったハラスメントのトラブルなども挙げられます。
社労士はこうした労務トラブルの予防に、適切な労働条件通知書や雇用契約書の作成、就業規則の整備といった相談に応じてもらえます。
関連記事:税理士の探し方がわからない経営者必見!いい税理士の探し方と見極めポイント!
税理士と社労士それぞれの給与計算の費用相場の違い
税理士と社労士の給与計算の業務は、従業員数によってかかる費用がそれぞれ異なります。
給与計算の費用を算出する式は、税理士も社労士も概ね、「月額基本料+一人あたりの料金×従業員数」という料金設定です。一人あたりの料金は、会社の規模で変動します。
【月額の費用相場】
従業員数 | 税理士 | 社労士 |
10名以下 | 10,000~20,000円 | 10,000~25,000円 |
11名~30名 | 20,000~35,000円 | 25,000~35,000円 |
30名~50名 | 35,000~55,000円 | 35,000~50,000円 |
30名~50名 | 55,000円~ | 50,000円~ |
【年額の費用相場】
従業員数 | 税理士 | 社労士 |
10名以下 | 120,000~200,000円 | 120,000~250,000円 |
11名~30名 | 200,000~500,000円 | 250,000~550,000円 |
30名~50名 | 500,000~750,000円 | 550,000~800,000円 |
30名~50名 | 750,000円~ | 800,000円~ |
一般的に、従業員数が少なければ、税理士のほうが一人あたりの料金は低い傾向にあります。
一方、従業員数が多いと、社労士の料金のほうがより安価な傾向です。
関連記事:【税理士監修】法人が税理士に依頼する費用の相場はいくら?依頼内容別の相場と費用を抑えるポイントをご紹介!
税理士や社労士に業務依頼する場合の注意点
税理士や社労士に業務を依頼する際は、事業内容や目的に合わせ、より適切なほうを選びましょう。
特に、次のような点に注意し、契約を交わすことをおすすめします。
各分野の専門性を把握したうえで依頼する
給与計算は税理士と社労士の両方に依頼できますが、ほかの業務については、それぞれの独占業務を理解した上で相談しましょう。
税務関係を担う税理士は、社労士と異なり労務管理は専門外です。
逆に、社会保険の手続きを数多く手掛けている社労士は、税務の処理には関われません。
個人・法人のどちらに対応しているかを確認する
税理士や社労士へと業務以来をする場合、個人と法人のどちらに対応しているかを確認しましょう。
特に、個人からの相談へと対応している社労士は、多くはありません。
また、税理士も、個人向けの税務を得意としている小規模な事務所もあれば、大企業の会計にも対応できる大手法人の税理士事務所も存在します。
業務範囲や得意な領域に則って依頼先を選ぶ
税理士と社労士は、それぞれ業務範囲や得意な領域が異なっています。
業務範囲とは、税理士であれば、確定申告の代行・決算書の作成・税務調査の立ち会いなど、社労士の場合は、社会保険・労働保険に関する手続きや労務監査などが挙げられます。
どの税理士や社労士も、これらの業務範囲にすべて対応しているとは限りません。
また、例えば税理士事務所にも、融資に強いところもあれば、相続に詳しいところもあります。
それぞれの業務範囲や得意な領域を事前に確認することも、依頼をする上では大切です。
実績・経験を見て信頼できる専門家を選ぶ
前もって実績や経験を確かめることで、信頼できる専門家に出会える可能性が高まります。
実績や経験は、税理士や社労士が自ら開設しているホームぺージや、税理士・社労士の紹介サイトなどで確認可能です。
給与計算を依頼するなら税の相談もできる税理士がおすすめ!
従業員が少人数の会社や個人事業の場合、給与計算は税理士に任せることがおすすめです。
従業員数が増えてきたところで、社労士によるサポートを追加・切り替えを判断するのもいいでしょう。
また、税理士の場合、顧問契約のほかにも契約方法がさまざまあるため、年末調整や確定申告のときだけスポット契約を交わすことも可能です。
私たち小谷野税理士法人でも、年末調整や確定申告、給与計算を始め、複数の業務へと誠実に対応しています。
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