ネイルサロンを開業後、経費として処理できるものは、営業や売上アップなど事業に関連するものに限られます。正しく処理しないと、いずれ余分に税金を納める事態になるケースがあり、注意が必要です。今回は、ネイルサロン開業後に経費として処理できるものとできないもの、確定申告で知っておきたいポイント、経費処理をミスするリスクなどを解説します。
目次
そもそも経費とは
経費とは、事業に関連するものや売上をあげるうえで発生した費用を示します。ネイルサロンの場合、ベースネイルやエタノール、家賃などを経費にできます。
同じベースネイルやエタノールなどであっても、プライベートで利用する分に関しては経費として処理できません。
経費が増えると、当期の利益が減り、所得税が減ることにつながります。「何でも経費にすれば節税になってよいのでは?」と考える方もいるかも知れませんが、税務調査で指摘されると余分に税金を納めるリスクが生じます。
ネイルサロン開業後に経費で落とせるもの
事業に関する費用が経費で、処理するときは帳簿に金額や勘定科目などを記録するのがポイントです。ネイル用品は材料消耗品費にしなくてはいけないなど、勘定科目の設定において決まりはありません。
一方で、金融機関など第三者がみても分かるものにしたり、一度設定したあとは継続して適用したりするのがポイントです。経費として処理できるものと勘定科目の例は、以下の通り表にまとめました。
【設備・機材・備品】
経費にできるもの | 適用する勘定科目の例 | 具体的な内容 |
ネイル用品代 | 商材費 |
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家具代 | 備品消耗品費 |
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機材代 | 備品消耗品費 |
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備品代 | 日用品費 |
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電気・ガス・水道代 | 水道光熱費 |
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電話・インターネット代 | 通信費 |
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家賃・駐車場代 | 地代家賃費 | テナントで借りている家賃や駐車場代など |
書籍代 | 図書費 | お客さんが待ち時間などに読むための本や雑誌 |
【マーケティング・人事】
経費にできるもの | 適用する勘定科目の例 | 具体的な内容 |
広告関連の費用 | 宣伝広告費 |
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DMの費用 | 通信費 |
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採用に関する費用 | 採用費 |
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毎月の給与 | 給与手当 |
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制服代 | 福利厚生費 |
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送別会の費用 | 福利厚生費 |
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【その他】
県外のセミナー参加にかかる費用 | 旅費交通費 | 移動に必要な公共交通機関やタクシー代など |
税金や公共料金 | 租税公課 |
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接待に関する費用 | 接待交通費 |
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事故や災害の保険代 | 損害保険料 |
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原則として、パソコンや机など10万円以上の固定資産を取得した場合は、法律で決められた年数で処理する「減価償却」が義務づけられています。資産によって年数が異なるため、国税庁の公式サイトでチェックするとよいでしょう。
関連記事:減価償却とは?会計や税務の基礎知識と節税のポイントを徹底解説!
ネイルサロン開業後に経費で落とせないもの
ネイルサロンで経費として処理できないものは、以下の表にまとめました。
生活費 |
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借入金の返済 | 事業に関係するものでも対象外である ※借入金の利息は「利子割引料」として経費にできる |
所得税・個人住民税 | ネイルサロンの運営に関係なく、納付する必要があるため |
国民健康保険・国民年金保険・生命保険料 | 事業者本人が個人的に納める保険料であるため |
医療費 |
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家賃や光熱費・通信費のプライベート部分 |
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関連記事:税金の控除とは?節税のために知っておきたい種類や目的を詳しく解説!
ネイルサロンの家賃や光熱費は家事按分で経費にできる
自宅でネイルサロンを経営する場合、家賃や光熱費、通信費など、事業で利用している分は経費として処理できます。家事按分といわれており、プライベートで利用する分と明確に分けるのがポイントです。
例として、以下のケースを紹介します。
- 自宅面積:90平米
- ネイルサロン面積:30平米(自宅に占める割合:3分の1)
- 家賃:21万円
- 水道代:9,000円
- 通信費(回線、プロバイダー代など):8,000円
- 営業時間:6時間
- 月間の営業日数:24日
家事按分の計算方法は、以下の表にまとめました。
家賃 |
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家賃 | 事業として利用する時間や面積をもとに算出
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水道代 | 営業時間をもとに算出
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通信費 | 営業時間をもとに算出
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ネイルサロンの水道代として、お客様用のタオルの洗濯代やお手洗いの利用で発生する費用などがあげられます。
一方で、営業日数や時間などによっては、経費として処理がふさわしくないと税務調査で指摘される可能性もあります。判断に迷う場合は、税理士へ相談すると安心できるでしょう。
確定申告の前にチェックしておきたいポイント
自宅の一角やレンタルサロンなどを活用し開業するときは、確定申告が義務づけられています。確定申告によって所得税額が決定するため、正しく申告するのがポイントです。
確定申告をするにあたり、知っておきたいポイントは以下の通りです。
- 確定申告の流れを知る
- 領収書やレシートを保管する
- 棚卸する
それぞれ詳しくみていきましょう。
確定申告の流れを知る
確定申告の大まかな流れは以下の通りです。
- 青色申告か白色申告のどちらかを選択する:青色申告するには対象年の3月15日までに申告書の提出が必要※最大で65万円控除を受けられるため、青色申告がおすすめ
- 必要な書類を用意する:領収書や各種控除の明細書、マイナンバーカードなどを用意する
- 確定申告書を作成する:国税庁のサイトor確定申告ソフトor手書きor税理士への依頼のいずれかで作成する
- 税務署に提出する:電子申告or税務署へ直接持参or郵送のいずれかから選択
- 所得税を納付or還付を受ける:e-Taxによる電子申告を選択すると、還付金の振込までの期間が短縮される
基本的に、確定申告は2月16日から3月15日までに終える必要があります。
税務署への事前の連絡なしで期限に遅れたり、確定申告をしなかったりすると、ペナルティを課されるケースがあります。申告の期限に遅れそうなど、なにかしらのトラブル発生時は、管轄する税務署へ相談しましょう。
関連記事:【税理士監修】確定申告のやり方ガイド!いつからいつまでの収入?郵送のケースや必要書類・マイナンバーカードについて
領収書やレシートを保管する
確定申告で領収書やレシートは添付する必要はありません。
一方で、個人事業主になると領収書やレシートなどは保管が義務づけられているため、適切に管理する必要があります。領収書とレシートは記載される項目が異なっているものの、いずれも支出を証明する書類として認められています。
飲食店での割り勘や冠婚葬祭の祝儀・香典など、領収書などを受け取るのが難しいケースでは、以下の通り自分で出金伝票を作成するのがポイントです。
- 「日付」欄:支払いが発生した日
- 「支払い先」欄:支払った相手先の個人・企業名
- 「適用」:支払った場所や状況などの内訳
以下の通り、領収書などの保管期間は事業者によって異なります。
青色申告 |
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白色申告 | 5年 ※インボイスに該当すると7年 |
月別にファイリングするなど、領収書の管理方法を工夫すると、処理にかかる時間や労力などを削減できるでしょう。
関連記事:確定申告でレシートない場合はどうする?対処法や保管方法を解説!
棚卸する
ジェルやパーツなど、売上に必要な商品など保有している在庫を数え、状態をチェックすることを棚卸といいます。一般的には、期末に実施されるものの、事業者によっては毎月実施するケースもあります。
棚遅資産の単価は、以下の通り選択する評価方法によって決まるのが特徴で、事前に税務署に「棚卸資産の評価方法の届出」を提出する必要があります。届出を提出しない場合、最終仕入原価法となります。
- 原価法:個々の取得価額による「個別法」や平均商品単価を期末在庫数に乗じる「総平均法」など、6つの評価方法がある
- 低価法:原価法のうちいずれか1つの方法で算出された額と、期末時の時価を比較し、資産を評価する方法
棚卸資産が増加すると、「売上−原価」で求められる利益の額が減り、結果として所得納税額が減ります。事業者にとって意図的に操作しやすく、カンタンに納税額を抑えやすいため、税務調査では特に重点的にチェックされます。
適切な在庫数量の把握や状態のチェック、利益計算など、棚卸には複数のメリットがあり、正しく実施するのがポイントです。税務調査に関して不安がある場合、税理士を頼りにするのが1つの方法です。
経費の処理を間違えるとどうなる?
開業後に経費の処理を間違えると、以下の通り追徴課税を課されるリスクがあると知っておくとよいでしょう。
- 過少申告加算税
- 重加算税
過少申告加算税とは、計算や処理のミスなどによって、本来納付すべき額よりも少ないと発生する税金のことです。以下の通り、増差税額(本来納める税額と当初申告額の差額)に一定比率を掛けた金額を追加で納付する必要があります。
- 増差税額の10%が基本
- 増差税額が50万円or当初申告税額のいずれか高い方を超える:納税額の15%
税務調査が入る前に修正申告した場合は、対象外として認められます。
一方、重加算税とは意図的に金額を偽ったりするなど、悪質だと捉えられると課される税金を示します。
- 確定申告提出している場合:原則として35%
- 確定申告書を未提出の場合:原則として40%
何度も隠ぺいや仮装を続けると、上記の割合に加えさらに10%が加算されるケースがあります。
日々の業務で忙しいと、正確な税務処理や確定申告の手続きなどは難しいケースもあります。状況によっては、税理士などの専門家に相談するのが望ましいです。
関連記事:追徴課税とは?加算税の種類や計算方法、対象期間について解説
経費処理や確定申告に関する相談は税理士へ
ネイルサロンを開業後に、経費として処理できるものとできないもの、家事按分の方法、確定申告のチェックポイントなどを解説しました。
開業後は「とにかく経費で落とせるものを増やすほどいい」というイメージがあるかも知れませんが、適切に処理するのが基本です。運営や売上アップに関するものに限られると知っておき、正確に対応すると結果として自分の身を守ることにつながります。
追徴課税などのリスクを避けられると、安心して経営に専念できます。
一方で、開業後間もない事業者の中には、1秒でも多く事業のために時間を費やしたいと考えているケースもあるでしょう。経費などの数字に苦手意識を持っている場合も同様に、税理士へ依頼するのが賢明です。
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