個人事業主にとって、経費は所得を減らし、結果的に税負担を軽減するための節税手段となります。しかし、「どこまでが経費なの?」「いくらまでなら認められる?」「適切な経費比率は?」など疑問が多く、頭を悩ますところでもあります。本記事では個人事業主の経費の範囲について詳しく解説します。
目次
個人事業主の経費比率について
経費は事業運営に必要な支出です。経費を正確に計上し、売上に対する経費の割合を把握することは、事業運営の面からも節税の面からも大切なことです。ここでは個人事業主の経費比率に目安があるかどうかを解説します。
そもそも経費とは?
経費とは、事業を行うために必要な費用のことを指します。具体的には人件費、外注費、業務に必要な物品の購入費用、サービスの利用にかかる料金、交通費や通信費、事務所の賃料などが該当します。これらは事業に必要な支出であるため、経費として計上することで、所得税の負担を軽減することができます。
ただし、すべての費用が経費として認められるわけではありません。認められるのは、事業に直接関係する費用のみです。さらに、個人の生活費と事業の費用が混在している場合には、それぞれの割合を適切に分配し、経費を算出しなければいけません。
経費比率の計算式
経費比率とは、事業における売上に対する経費の割合を示す指標です。経費比率の計算式は下記の通りです。
経費率 = 経費 ÷ 売上高 × 100(%) |
たとえば、売上高500万円、経費200万円の場合の経費比率は40%になります。
経費200万円 ÷ 売上高500万円× 100(%)=40% |
経費比率に目安はある?
個人事業主の経費比率は、業種や事業規模によって大きく差があるため、一律の「適切な比率」はありません。ただし、業界ごとの平均的な経費比率はあります。
業種 | 経費の比率 |
卸売業 | 90% |
小売業 | 80% |
製造業 | 70% |
飲食業 | 60% |
サービス業 | 50% |
この割合はあくまでも目安です。自身のビジネスの特性に合わせて柔軟に調整する必要があります。しかし経費比率が高すぎると、税務署から疑問視される可能性があるため、不自然な割合は避けなければいけません。併せて経費の内容や支出根拠を決算書や出納帳などに記載しておきましょう。税務調査の際にもスムーズに対応できます。
経費の割合については下記の記事でも解説しています。
関連記事:フリーランスの売上に占める経費の割合は?経費にできるものも解説!
個人事業主の経費が認められる基準と上限について
個人事業主が経費を計上する際には、税務署が定めた基準に基づいて判断します。経費として認められるのは、事業に直接関連する支出に限られます。ここでは、経費として認められる基準と上限について解説します。
経費はいくらまで認められる?
経費はいくらまで認められるのかという疑問をよく耳にします。基本的には事業に必要とされる出費であれば金額の上限はありません。ただし、売上や事業内容に見合わない不自然に高額な経費は、税務署から疑いを持たれる可能性があります。
たとえば、売上が100万円程度の事業主が、高額な接待交際費を頻繁に計上したとします。その場合、その経費が本当に業務に関連しているのかどうかが確認されることがあります。結果として税務調査を受ける可能性もあるため、日頃から適正な範囲内で経費を管理することが大切です。
ローンや高額支出は経費にできる?
ローンの支払いについては、元本部分は経費に含まれませんが、利息部分に関しては経費として計上することが可能です。ただし、ローンを利用して購入した資産や設備に関しては、それが事業に直接関連している必要があります。
高額支出についても同様に、今後の事業活動に不可欠なものであれば、経費として認められる可能性があります。仮に事業の運営に必要な高価な備品を購入した場合、その支出が妥当であるかがポイントになります。
支出が事業規模や収益に見合わないほど過大であったり、不自然だったりすれば、税務署から詳細な説明を求められる場合があります。したがって、ローンを利用した支出や高額な購入を行う際には、事業との関連性や費用の妥当性を慎重に検討することが大切です。
個人事業主が経費にできるもの・できないもの
経費計上のメリットは、所得税の負担を軽減でき、節税効果がある点にあります。そのため、支出をいかにして経費とするかは個人事業主にとって重要なテーマです。事業に関連する支出は経費として計上できる一方、プライベートな支出と受け取られかねない支出に関しては認められないため、正確な判断が求められます。ここでは、経費にできるものとできないものを解説します。
個人事業主が経費にできるもの
たとえば、自宅を事務所として使用している個人事業主の場合、家賃の一部や光熱費、通信費を按分して経費として計上できます。これを家事按分といいます。このようにプライベートと事業で経費を適切に処理することで、課税される所得を減らすことができる点が大きなメリットです。
また、業務に使用するために購入したパソコンや文房具なども経費として計上できます。さらに、交通費や取引先との打ち合わせにかかる飲食費なども業務と関連している場合には経費に含めることが可能です。
関連記事:個人事業主が確定申告で経費にできる勘定科目について
関連記事:家事按分とは?経費にできる割合や目安、計算方法を解説
個人事業主が経費にできないもの
経費にできないものは、プライベートな支出や事業に無関係な費用です。例えば、家族の旅行費用やプライベートでの飲食費用は経費として認められません。さらに生活を維持するための基本的な費用、例えば食費や被服費は経費には該当しません。
住居の家賃も基本的に経費として扱うことはできません。ただし前述の通り、住居の一部を事業で使用している場合は、プライベート空間との割合や使用時間を明示した上で、家賃や光熱費、通信費等を計上する必要があります。
接待交際費についても注意が必要です。過度に高額な飲食代や贈答品を計上すると、税務署からのペナルティを受ける可能性があるため注意が必要です。そのため、経費として申告する際には、決算書に使用目的と妥当性を明記しておくことが重要です。
個人事業主の節税については下記の記事も参考にしてください。
関連記事:個人事業主ができる所得税の負担を軽減する15の節税方法
経費管理を整えるポイント
経費の計上は計画的にする
計画的な経費の計上は、経営の効率を高めるための基本です。事前にどのような支出が必要かをリストアップし、月ごとの経費を明確にしておくと良いでしょう。そうすることで、月末や四半期ごとの振り返りが容易になり、経費の適正化を図ることができます。
また、予算と実際の支出と照らし合わせることで、計画から逸脱した場合の見直しがしやすくなり、結果として、無駄な経費を削減できます。
正確な帳簿を作成する
経費の管理を効率的に行うためには、正確に帳簿をつけ、一覧としてすぐに確認できる形式で整理することが重要です。帳簿は経費ごとに明確な項目に分け、日付や金額を正確に記録することで、後からの確認や修正が容易になります。
また、一覧形式で情報をまとめることで、必要なデータを簡単に見つけることができ、業務の効率化にもつながります。さらに、毎月定期的に帳簿を記入し、こまめな見直しを行うことで記録漏れやミスを防ぐことができます。これらの習慣を身につけることで、経費の正確な管理とスムーズな申告作業を実現しましょう。
関連記事:個人事業主の帳簿付けは義務?種類や付け方、効率化のコツを解説!
領収書を保管しておく
経費を計上する際は、領収書の保管が欠かせません。領収書は経費の証拠となるため必ず保存しておきましょう。どのような経費が発生したかを証明する大切な書類なので、見つけやすいよう整理しておくことが大切です。
領収書は日付や金額、支出の内容がわかるようにしておくと、帳簿との照合がスムーズに行えます。デジタル化も一つの手段として有効で、スキャンして保管することで物理的なスペースを取らず、いつでも確認できる状態が整います。
領収書については下記の記事で詳しく解説しています。
関連記事:レシートと領収書の違いを徹底解明!税務上の扱いや経費精算のポイントまで
必要に応じて税理士のアドバイスを受ける
経費管理に自信がない場合は、専門家の意見を聞くことも有効です。必要に応じて税理士のアドバイスを受けることで、さらに正確かつ適切な経費計上が行えるようになります。
税理士は最新の税法や経費の扱いについて豊富な知識を持っているため、支出の正当性やどの勘定科目にあたるかも判断してくれます。また、普段の経理業務をサポートしてもらうことも可能です。これにより経費計算にかかる時間を短縮でき、より本業の方に注力することができます。
まとめ
個人事業主にとって、経費管理は事業運営において欠かせない業務です。まずは経費として認められる範囲や経費比率の目安を知ることが重要です。そのうえで日々の支出をこまめに記帳することで、自身の売り上げに対しての経費が適正かを知ることができます。
もちろん記帳後も領収書やレシートはしっかり保管しましょう。保管期間は事業の規模や申告方法によって異なりますが、7年間は保管しておくことをおすすめします。
経費の計算は面倒かつ時間がかかります。特に3月を決算期にしている方は、期末処理に加え確定申告も行わなければいけません。忙しいと経費の計算ミスや計上忘れも起きやすくなるでしょう。計算ミスによる確定申告は、場合によってはペナルティとして過少申告加算税が課されてしまいます。そうなってしまったら、せっかくの経費計上による節税対策も意味がありません。
そんな状況になりそうなときは、思い切って税理士に相談しましょう。税理士であれば、確実に経費となる範囲を判断し、適切な振り分けや計算を行ってくれます。確定申告に必要な書類の作成を依頼することも可能です。また、顧問契約を結べば年間を通して経費管理を行ってくれるので、そのうえで最適な節税対策のアドバイスももらえるでしょう。
個人事業主・フリーランスの節税対策についての困りごとやご相談は、ぜひ「小谷野税理士法人」までお気軽にお問い合わせください。