分社化が税金対策につながることをご存知でしょうか?複数の事業を行っている企業が事業の一部を分割し、新規で会社を立ち上げることは、多くの利点をもたらします。分社化を実行する理由は多岐にわたりますが、税金対策にも効果を発揮するからです。この記事では、分社化で期待できる税金対策を含めたメリット、デメリット、事業の一部を分割する際のポイントと注意点について詳しく紹介します。
目次
分社化の主な目的
分社化する主な目的は、経営の効率化と円滑な新規事業の立ち上げです。企業規模が大きくなったり、複数の事業を抱えていたりすると、部署や人員が増えて効率よく管理・経営するのは困難なものでしょう。
成長を遂げた企業を分割することにより、会社ごとの規模が縮小し、経営判断や意思の決定が円滑、迅速に実施できます。また、好調な業績をあげている事業を分けることで、経営効率向上によるさらなる業績アップが期待できます。
逆に、赤字が続いている事業を分けることで倒産リスクを減らすなど、分社化により業務の効率化や合理的な経営を実現可能です。
また、新規事業をスタートする際も、分社化によって事業運営をスムーズに進行できます。新たに部署を立ち上げるよりも手続きを進めやすいことや、既存の会社の制約を受けにくいことなど、事業を推進しやすい環境が整っているからです。
関連記事:中小企業のホールディングス化は正解?メリットとデメリットを解説
分社化と子会社化との違い
分社化と子会社化の大きな違いは、自社の事業であるか否かと親会社の出資比率です。分社化も子会社化も、親会社の傘下となる点は共通しています。
分社化は自社の事業の一部を分割して子会社にします。一方で子会社化は、事業の吸収や合併で他社全体、他社の事業の一部を新設した子会社へ移管します。
さらに、分社化においては親会社が新たな子会社に全額を出資しますが、子会社化では、その目的に応じて出資比率が異なることがあります。
そのため、子会社化するよりも分社化した方が、親会社の影響力がより強く及ぶケースが多いのです。
分社化の主な方法
分社化の主な方法について理解することは、分社化を検討した際に役立ちます。ここでは、分社化の主な3つの方法について詳しく紹介します。
新設分割
新設分割は、企業の一部の事業を分離して、新たに設立された子会社に移行する手法です。親会社は新設された会社の株式を全て保持するため、完全親会社としての立場を得ます。
事業部門の資産および負債を新会社に移転する際、対価として新会社の株式を取得します。このとき、譲渡される資産や負債の帳簿価格と時価の差額が発生した場合、分割元の会社はその差額を譲渡損益として計上する必要があります。
共同分割
共同分割は、2つの既存企業が、各自の事業の一部を分離し、新たに設立された会社へと移転させる手法です。新たに設立された企業の株式は、分割先の企業が、それぞれの資産を取得します。共同分割は、特にグループ企業間でよく利用されます。
譲渡される資産や負債の状況に応じて、新たに設立された企業の株式は、複数の分割元企業が親会社として取得します。新設された企業と分割企業の関係は、それぞれの持株比率に応じて親子会社、もしくは関連会社として分類されるのが一般的です。
吸収分割
吸収分割とは、企業が自社の一部事業を別の既存企業に移管する手法です。例えば、A社がB社に事業の一部を引き渡す場合、対価としてB社はA社に株式を提供します。株式の取得割合によっては、B社がA社の子会社となることがあります。
親会社と子会社の関係が成立する場合には、分社型吸収分割が一般的です。一方で、売り手と買い手が互いに関連会社のような位置づけを目指す場合は、分割型吸収分割が選択されることが多いです。
関連記事:分社化の方法は?会社を分割する際の手続きや流れ、メリット・デメリット
分社化で期待できるメリット
分社化することによって期待できるメリットがいくつかあります。ここでは、主なメリットについて詳しく紹介します。
税金対策につながる
分社化は、税気対策にも一役買ってくれます。自社の事業の一部を分割して新たな会社を立ち上げると、税務手続きも会社ごとに行います。
利益が分散されて各会社の利益が少なくなると、法人税の納税額が低くなる可能性が高いのです。法人税の税率は一律23.2%ですが、下記条件を満たすと15%の軽減税率が適用されます。
- 資本金1億円以下の中小法人
- 課税所得800万円以下
さらに、分社化によって中小企業に変わった場合、交際費なども経費として算入できる(上限あり)ことで減税効果が期待できます。
新しく法人を設立すると、一時的かもしれませんが、初期投資や運転資金で経費が増えるため、税負担の軽減につながることがあります。
リスクマネジメントが期待できる
分社化は、企業のリスクマネジメントにも効果的です。例えば、ある部門で多大な損失が発生した場合でも、分社化で損失の影響を最小限に抑えられるため、倒産のリスクを軽減できます。
他にも、リスクの高い事業を別の会社に移転することで、親会社への悪影響を減らすだけでなく、世間的な信頼度の維持にも役立ちます。
信頼度の維持や向上によって、取引がしやすくなる、資金が調達しやすくなるといったメリットも期待できるでしょう。
また、分社化は倒産だけでなく、法的なリスク対策にも結び付きます。法令遵守が重要視される現況において、法的なトラブルが発生した際に企業が受けるダメージは想像以上に甚大です。
法的な問題が発生したときも、その影響をある程度の範囲に止められるため、信頼度を大きく損なう事態を避けられます。
核となる事業を強化できる
複数の事業を展開している場合、分社化で核となる企業を集中的に強化できます。より競争力の高い事業に集中することによって、長期的な成長や利益の拡大に結び付けることも可能です。
事業承継へ活用できる
分社化は、円滑かつ円満な事業承継の実現をサポートします。後継者候補が複数いるケースなど、事業承継で後継者争いなどの問題が発生する可能性が高い場合などに有効です。
分社化で候補者それぞれの適正に応じて新会社の経営を任せられることから、円滑な事業継承が期待できます。
また、後継者の経験やスキル不足が懸念される際も役立つ可能性があるでしょう。分社化で規模を縮小した企業の経営を任せることで、実践的な経営について学べるだけでなく、失敗したときのリスクを抑えられるからです。
経営効率の改善につながる
会社ごとの状況を把握しやすくなるため、経営の効率化と意思決定の迅速化に役立ちます。会社ごとに財務諸表を作成するため、財務や経営状況が分かりやすくなり、最適な経営判断を実現しやすいからです。
また、経営の効率化によって、好調な事業をさらに伸ばすことも可能となるため、全体的な収益アップも期待できます。
人材育成や専門性の強化が期待できる
分社化で、人材育成や専門性の強化が期待できます。新たに会社を立ち上げ、責任ある立場に就くことは、事業部に所属するよりも、高い専門性やリーダーシップを求められる機会が多いからです。
また、分社化で責任ある立場に次期後継者や幹部候補を置くことで、実践的に経営を学べます。次世代の経営を担う人材を育てることは、今後の会社の発展に貢献してくれるはずです。
関連記事:組織再編とは?実施する目的や注意点、成功事例をご紹介
分社化によるデメリット
税金対策になるなど、得られるメリットは大きいですが、分社化することによるデメリットもあります。デメリットもよく理解したうえで、分社化するかを検討しましょう。
税務調査で指摘を受けるリスクがある
税金対策として効果的な分社化ですが、正当な理由がない分社化は税務調査で指摘を受けるリスクが高いです。
妥当な目的のない分社化は租税回避として見なされる可能性が高いからです。税務調査官を納得させる目的を説明できない分社化は、やめておきましょう。
コストが増加する
新規で会社を立ち上げるとき、法的な手続き、備品の購入といったように一時的にコストが増大します。法務や経理など専門的な知識を必要とする人材が欠かせない場合、新たな雇用が発生して経費(給与)が増加することもあります。
また、分社後も経営維持のためにコストがかかり、企業全体のコストが増えることもあるでしょう。
分社化は、想定以上に費用の増大が起こり得ます。分社化によるコスト増で、会社の経営が厳しくならないように、事前にコストを検証することが大切です。
プロセスが煩雑で時間がかかる
分社化までのプロセスが煩雑で、実現までに時間を要することがあります。自社の一存で分社化を決定できず、株主総会での承認が必要だからです。
株主総会での承認を得るためには時間がかかるだけでなく、株主を説得できるだけの十分な説明を求められます。分社化を検討した際は、必要な手続きや分社化の実現までにかかる時間を事前に調べておきましょう。
認知度や信頼性の低下する
親企業のブランド力が高い場合、分社化によって信頼度や認知度が低下する恐れがあります。分社化することで、認知度や信頼度も分散されることがあるからです。分社化により認知度や信頼性が低下しないように、管理や対策が求められます。
分社化が適切な選択となるケース
全ての企業にとって分社化が最適な選択になるとは限りません。ここでは、分社化が適切となる可能性が高いケースについて紹介します。
事業の業績にバラつきがある
事業を複数展開している中で、業績が悪化している事業がある場合は、分社化でリスクの軽減が期待できます。不調が続いている事業を分割することで、倒産リスクに備えられるからです。
また、業績が好調な事業を分割して独立させることで、好調な事業のさらなる成長をサポートできます。
新規事業を始める
新規事業の円滑な開始を希望するなら、分社化が適しています。企業の事業目的に該当しない新規事業を展開するとき、株主総会の決議を必要とするなど、手続きに時間と手間がかかるからです。
また、分社化によって迅速な意思決定も可能となるため、新規事業をスピーディーに立ち上げられます。
専門性や生産性を向上したい
既存の事業の専門性や生産性の向上にも、分社化は効果的です。分社化で人材育成や採用といった専門性を高める対策を集中的に行えるようになるからです。おかげで、競合他社との差別化がしやすくなり、生産性の向上に結び付きます。
後継者を育成したい
次期経営者となる人材を育成するときも、分社化が適していることがあります。実際に企業経営を任せることで、経営の実務的な知識と経験を習得できるからです。
また、規模の小さい会社を後継者に任せることで、経営が悪化したときのリスクを抑えられます。
関連記事:資本提携とは?業務提携との違いやメリット・デメリットをわかりやすく解説
分社化に伴う注意点
税金対策や経営の効率化といったメリットが得られる分社化ですが、分社化を成功させるためにはいくつか注意しておきたい点があります。
目的に合わせた分社化を選択する
分社化の目的を明確にし、目的に合わせた方法を選ぶことで、納得いく成果を得られるはずです。分社化によるメリットは多数あり、分社化の方法もいくつかあります。
分社化の目的、分社化で期待できる効果を検証し、その目的や効果に見合の手法を選ぶことが、分社化を成功させるポイントです。
また、税金対策としての分社化は控えましょう。税金対策は分社化の正当な理由となり得ないからです。分社化には手間もコストもかかるため、分社化で減税できる額に見合うとは限りません。
タイミングを見極める
分社化は、適切なタイミングで実施することで期待する効果を得られます。自社の状況はもちろんですが、市場の動向や税制など、さまざまな要素を考慮した判断が求められます。
また、分社化の手続きには一定の時間がかかるため、手続きにかかる期間を踏まえて、分社化の準備を始めることです。
専門家のアドバイスを取り入れる
専門家のアドバイスを取り入れることで、分社化を成功に導けます。最適なタイミング、手続き、税金対策など、分社化の際に考慮すべきポイントが多々あります。
また、失敗によるリスクも高いことから、専門家のアドバイスが役立つ可能性が高いからです。
自社で判断することも大切ですが法律や税務の専門家からのアドバイスは、客観的な視点からの意思決定をサポートしてくれます。
まとめ | 妥当な理由の分社化は税金対策に効果的
分社化は効果的な税金対策の一つです。さらに、経営の効率化やリスク対策などさまざまなメリットも期待できます。ただし、税金対策目的の分社化は、租税回避とみなされるリスクが高いです。自社にとって妥当な理由の分社化は、さまざまなメリットが期待でき、節税にもつながるはずです。専門家の意見やアドバイスを参考にしながら、自社にとって分社化が最適であるかを検討しましょう。