現代の会社では、特に中小企業において後継者不足が深刻化しています。スムーズに事業承継を行えるか否かは、会社の存続にも関わる重要な課題です。そのためにも、社長交代の準備は早めに進めておかなくてなりません。この記事では、社長交代のために必要な準備や手続き方法と、それに伴う費用、注意点を取り上げます。
目次
社長交代に必要な手続き6つ
代表取締役の交代は、先代社長本人の意向だけでは実行できません。まずは社長交代に必要な手続きをしっかりと把握し、順序立てて行いましょう。
取締役会・株主総会での決議
社長交代するためには、まず取締役会や株主総会での決議を取るなどして、新社長を選定する必要があります。ただし、後継者の選定方法は、取締役会設置会社か取締役会非設置会社では異なっています。
株式会社の場合、会社法により取締役は必ず必要です。取締役会設置会社とは、複数の取締役で構成される取締役会が設置されている会社を指します。取締役会は、経営方針や業務執行に関わる重要な意思決定を行う場です。
しかし、仮に小さな株式会社であれば、取締役会を設置していないケースもあります。これが、取締役会非設置会社です。
社長交代のためには、取締役会設置会社の場合、取締役会による代表取締役選定決議を実施しなくてはなりません。なお、取締役会非設置会社の場合は、以下のいずれかの方法で決議が行われます。
- 株主総会
- 定款で社長を指名する
- 互選によって選定する取締役全員を社長にする
社長交代における必須のステップであるため、きちんと覚えておきましょう。
法務局での登記変更と登記簿発行
新社長の選定が終わったら、法務局にて登記の変更と登記簿の発行手続きをします。
登記変更と登記簿発行は、新たな社長を選定したあと2週間以内に申請しなければなりません。また、登記簿を発行しないと、その後の手続きを進められなくなるため、なるべく早く申請しましょう。
なお、登記簿はその場ですぐに入手できるわけではなく、手続きを行ってから1~2週間後に発行されます。
登記変更と登記簿発行には、主に次のような書類を用意します。
- 議事録
- 変更登記申請書
- 辞任届
- 就任承諾書
- 印鑑届書
- 印鑑証明書
上記の議事録は、新社長を選定した際の取締役会や株主総会の内容を記載したものです。
また、社長変更に伴い、代表印を変更するケースがあるため、印鑑届書を用意しましょう。代表印は会社の実印として扱われる印鑑です。
必要書類を用意したうえで、新社長の選定後に法務局にて登記の変更と登記簿の発行手続きを行いましょう。
税務署と自治体税事務所での変更手続き
税務署や県税事務所、市区町村で、社長名の変更手続きを行います。
変更手続きは、国税を納める所轄の税務署と、都道府県民税を納める都道府県民税事務所、そして市町村税を納める市町村役場にて、それぞれ個別に行いましょう。その際には、発行した登記簿が必要です。
なお、特別区の東京23区の場合は、社長名の変更は届出不要です。
金融機関での変更手続き
銀行の法人口座に、会社名だけでなく社長名も入っている場合は、変更手続きが必要です。
金融機関の法人口座は、会社名だけの場合と、会社名と社長名の両方が記載されている場合があります。
複数の金融機関に法人口座を開設している際は、変更手続きに漏れのないよう気をつけましょう。
また、添付書類として登記簿の写しを求められるケースがあるため、事前に準備しておくと変更手続きをスムーズに進められます。
社会保険に関する手続き
社長変更があった場合、健康保険や厚生年金保険などの社会保険は、5日以内の届出が必要です。
健保組合(健康保険組合)に加入している場合は、その健康保険組合と年金事務所の双方で変更手続きを行います。
一方、協会けんぽに加入する事業所の場合は、年金事務所で手続きすれば、協会けんぽへの届出はいりません。
また、雇用保険や労災保険などの労働保険については、社長変更に伴う手続きそのものが不要です。
その他の手続き・対応
社長変更に伴う手続きは公的機関だけでなく、さまざまな場で行われます。漏れのないよう、事前にリストアップしておきましょう。
会社ごとに必要な手続き・対応には多少の違いがありますが、一般的には、特に次のような手続きや変更が必要です。
- 社内通知
- 関係者への挨拶
- ホームページの代表取締役名の変更
- 請求書の代表取締役名の変更
- 新社長の名刺作成
これらの手続きの中でも、気をつけたいのが関係者への挨拶です。
重要な取引先であれば、社長交代の挨拶は直接訪問しましょう。それ以外の取引先においては、手紙での挨拶が一般的です。
ただし、メールやチャットを用いた挨拶は、相手にマナー違反と受けとめられる恐れがあるため、おすすめできません。
また、その挨拶状は、社長を交代した当日の日付で送付します。挨拶が遅れると、取引先からの印象を落としてしまう可能性があるため注意しましょう。
社長交代の手続きに必要な期間とタイミング
社長交代は長い期間を要するため、計画性が大切です。具体的な必要期間と準備を開始する時期を説明します。
必要期間は5年~10年
社長交代に必要とされる期間は、一般的に5年から10年と言われています。
長期間かかる理由は、後継者の育成にあります。後継者の育成だけでも、選定から5年、長い場合に10年はかかります。
また、その後継者の選定も、すぐに決まるとは限りません。そのため、社長交代の手続きを行う際には、5年から10年の長いスパンで考える必要があります。
先代社長が60歳頃が準備の目安
新たな社長を迎えるためには、先代社長が60歳頃から準備を始めましょう。
前述したように、社長交代の手続きは、後継者の育成期間を含めて5年から10年程を必要とします。
社長が60歳の頃に準備を始めれば、70歳頃には新たな社長へとスムーズに交代できるでしょう。
ただし、もしも先代社長が、70歳よりも前に引退を考えていたり、健康に問題を抱えているようであれば、さらに早い時期からの準備をおすすめします。
関連記事:会社の変更登記は自分でできる?手続き方法や費用を解説
社長交代のために必要な準備
社長を代わる際には、その手続きだけではなく、交代のための引継ぎ準備もしておかなくてはなりません。
ここでは、特に会社にとって重要な経営と株式の引継ぎについて説明します。
経営の引継ぎ
経営の引継ぎは、先代社長と後継者との間で、情報やビジョンを共有しておくことが大切です。
そのためには、事業承継計画書の作成が有効とされています。事業承継計画書とは、後継者の選定方法とその人物、準備の手順、さらには今後の売上目標や、将来の経営ビジョンなどを記載したものです。
先代社長の情報・経営理念・財務状況なども、事業承継計画書にはまとめて記しておくと良いでしょう。
株式の引継ぎ
実際に社長を交代する前に、自社株を後継者へと継承する準備をしましょう。その際には、自社株を後継者に引き継ぐ割合を決めます。
また、自社株を譲渡(売却)するのか、相続や贈与をするのか、その方法と時期も選ばなければなりません。
さらに、準備には先代社長の財産や遺産を巡る相続トラブルにつながらないよう配慮が必要です。
こうしたことから、株式の引継ぎについては、相続税や贈与税に詳しい税理士に相談することをおすすめします。
関連記事:事業継承に活用したい!事業承継・引継ぎ補助金の全容について徹底解説
社長交代の手続きに必要な費用
社長交代の手続きは、書類作成を含め、司法書士に代行してもらうことも可能ですが、その際には報酬が発生します。
また、報酬とは別に、次のような手続き費用も必要です。
登録免許税(取締役または代表取締役もしくは監査役等に関する事項の変更の登記) | 1件30,000円 (資本金1億円以下の場合は、1件10,000円) |
印鑑証明書 発行手数料 | 書面請求450円 オンライン請求・送付410円 オンライン請求・窓口交付390円 |
代表者印 作成費用 | 平均価格20,000円 |
印鑑証明書は、法人と個人とでは、請求・取得先が異なるために注意しましょう。
法人の場合、印鑑証明書は法務局にて請求・取得を行います。
一方、個人の場合は、印鑑登録証明書と呼ばれ、市区町村など各自治体の役所・役場が発行しています。
社長交代の手続きをする際の注意点とリスク
社長を交代した際は、その2週間以内に法務局で登記の変更を行わなければなりません。
会社法で定められており、登録変更を放置すると、登記懈怠(とうきけたい)に該当してしまいます。懈怠とは義務を怠るという意味です。
登記懈怠が発覚すると、代表者個人に100万円以下の過料が課せられるため注意しましょう。
さらに、過料は罰則の意味を含むため、登記懈怠を周囲に知られると、会社の信用が失墜しかねません。
会社を経営しながら社長交代の準備や手続きを行うのが負担である場合は、適切に進めるためにも専門家に相談しましょう。
関連記事:社長給与の決め方とは?中小企業の役員報酬の相場と節税のコツ
税理士に相談すれば社長交代の手続きもスムーズ!
社長交代は会社の歴史上において、頻繁に起こることではありません。そのため、どのように手続きを進めれば良いのか、迷う場面もあるのではないでしょうか。
そのようなときは、相続税や贈与税に強い税理士や、登記に精通している司法書士など、専門家に相談をしてみてください。
私ども小谷野税理士法人では、司法書士・行政書士・社会保険労務士、そして弁護士などと幅広い専門家ネットワークを構築しているため、あらゆる角度から社長交代を支えます。
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