配偶者控除と配偶者特別控除は、配偶者を持つ人にとっての助けとなる税金の優遇制度です。しかし、配偶者控除と配偶者特別控除とでは、異なる条件や控除額が設定されています。この2つの控除を正しく理解し、自分の状況に合ったものを選ぶことで、税負担が軽減されるでしょう。この記事では、配偶者控除と配偶者特別控除の違いに焦点を当てて説明します。
目次
配偶者控除と配偶者特別控除の違い
配偶者控除と配偶者特別控除とでは、控除の金額と条件に違いが見られます。それぞれどのような点が異なるのかを解説します。
控除額の違い
配偶者控除の最小額が13万円であるのに対し、配偶者特別控除の最小額は1万円です。ただし、控除の最大額は同じ38万円と定められています。
配偶者控除と配偶者特別控除の金額に差が存在するのは、その決定方法が異なるためです。配偶者控除の金額は、税を納める人の1年の所得と配偶者の年齢で確定します。
配偶者特別控除は、税を納める人と配偶者それぞれの所得額で決定されているのです。
条件の違い
配偶者控除は配偶者の1年間の所得が48万円以下であることが適用要素であるのに対し、配偶者特別控除は所得が48万円超であっても受けられます。
こうしたことから、配偶者の1年間の所得が48万円超あり、配偶者控除を利用できない場合でも、配偶者特別控除であれば利用できる仕組みです。
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配偶者控除の条件と控除額
配偶者控除にはどのような目的や用途があるのを説明します。条件や控除額についても、さらに詳しく見てみましょう。
そもそも配偶者控除とは
配偶者控除は、配偶者を有する人に対する所得控除の制度です。妻、もしくは夫がいる場合に税金の負担が軽くなるため、税制的には優遇措置とされています。
配偶者控除を受けるためには控除の申請が必要ですが、手続きはシンプルで、年末調整か確定申告において申請可能です。
ただし、配偶者控除は、条件によって控除額が変動したり、制度が適用されなかったりする場合があります。そのため、制度について正しく理解しておくことが大切です。
配偶者控除の条件
配偶者控除を利用するためには、その年の12月31日において、配偶者が次の4つの条件にすべて該当している必要があります。
配偶者に求められる具体的な条件は、次の通りです。
- 法律によって配偶者であることが認められている
- 税を納める人と生計をともにしている
- 年間所得が48万円以下であること
- 青色申告をする人の事業専従者でその年に給与を一度も受け取っていないか、または白色申告をする人の事業専従者でないこと
事業専従者とは、税を納める人と生計をともにする人で、税を納める人の事業に6ヵ月超にわたって従事している配偶者と15歳以上の親族です。
配偶者控除は上記の要件に加え、税を納める人の所得が1,000万円以下の場合に適用されます。
配偶者控除の控除額
配偶者控除は、税を納める人の所得と配偶者の年齢が金額の基準です。配偶者のうち、その年の12月31日時点の年齢が70歳を超えている場合には、老人控除対象配偶者として控除額がさらに追加されます。
税を納める人の所得と控除金額の変動は次の通りです。
納税者の所得金額 | 控除額 | |
一般の控除対象配偶者 | 老人控除対象配偶者 | |
900万円以下 | 38万円 | 48万円 |
900万円超950万円以下 | 26万円 | 32万円 |
950万円超1,000万円以下 | 13万円 | 16万円 |
配偶者控除においては、年間所得が48万円以下という条件を満たしていなければなりません。
配偶者の所得金額が控除額に影響を与えることはなく、配偶者の年齢と税を納める人の所得の違いが配偶者控除の金額を左右します。
関連記事:自営業の青色専従者給与と配偶者控除はどちらがお得?節税効果について解説
配偶者特別控除の条件と控除額
配偶者控除に該当しない場合でも、配偶者特別控除であれば適用条件に合致する可能性があります。控除の金額と適用条件を紹介します。
そもそも配偶者特別控除とは
配偶者特別控除は、配偶者の1年間の所得が48万円超であっても、条件に合えば税を納める人が所得控除を受けられる制度です。
そのため、配偶者控除の利用不可である場合でも、配偶者特別控除であれば適用され、税を納める人は負担を軽減できる可能性があります。ただし、配偶者特別控除は夫と妻の間でお互いに控除し合うことは許されていません。
夫婦両者がお互い配偶者特別控除の要件を満たしていたとしても、どちらか一方の税を納める人だけが控除を利用できます。これは配偶者控除でも同じです。
配偶者特別控除の条件
配偶者特別控除を利用するための条件には、税を納める人の所得だけでなく、配偶者の所得も関わっています。
以下より税を納める人の所得・配偶者の所得と配偶者の条件に分けて説明します。
【所得】
- 税を納める人の1年間の所得額が1,000万円以下であること
- 配偶者の1年間の合計所得額が48万円以上133万円以下であること
【配偶者の条件】
- 法律の上の配偶者であると認められていること
- 税を納める人と一緒の生活費で暮らしていること
- 配偶者が税を納める人の事業専従者ではないこと
配偶者特別控除には、該当した場合に適用不可とみなされる条件も存在します。
もしも配偶者が両親を始めとした親族の扶養を受けており、控除の対象となっている場合は、配偶者特別控除を利用できません。
配偶者特別控除の控除額
配偶者特別控除では、税を納める人と配偶者の1年間の所得で控除額が変わります。
特に配偶者の所得金額は細かく分類されているため、節税を考えるならば事前にしっかりとした確認が必要です。
配偶者の所得金額 | 控除を受ける納税者の所得金額 | ||
900万円以下 | 900万円超 | 950万円超 | |
48万円超 95万円以下 | 38万円 | 26万円 | 13万円 |
95万円超 100万円以下 | 36万円 | 24万円 | 12万円 |
100万円超 105万円以下 | 31万円 | 21万円 | 11万円 |
105万円超 110万円以下 | 26万円 | 18万円 | 9万円 |
110万円超 115万円以下 | 21万円 | 14万円 | 7万円 |
115万円超 120万円以下 | 16万円 | 11万円 | 6万円 |
120万円超 125万円以下 | 11万円 | 8万円 | 4万円 |
125万円超 130万円以下 | 6万円 | 4万円 | 2万円 |
130万円超 133万円以下 | 3万円 | 2万円 | 1万円 |
非居住者である配偶者が配偶者特別控除を受ける場合は書類の提出が求められています。
戸籍の附票の写しや旅券の写しなど、配偶者であることを確認できる書類とクレジットカードの利用明細や送金依頼書など、生活費の支払いを確認できる書類が必要です。
関連記事:源泉控除対象配偶者とは?年末調整で知っておきたいポイントを徹底解説!
配偶者控除・配偶者特別控除における配偶者の年収の壁
配偶者の年収が一定の金額を上回ると、税を納める人の控除額が減ったり社会保険料が増加したりします。こうした変動が起こる基準が年収の壁です。
配偶者控除と配偶者特別控除に関わる年収の壁について説明します。
年収103万円の壁
年収103万円の壁とは、配偶者控除の適用を受けられなくなる基準を指します。
市区町村によっては、年収が100万円前後になると住民税が課税される場合もあることから注意しましょう。年収が103万円以上になりそうであれば収入の調整が必要です。
収入を調整は、個人事業主やフリーランスならば自分でスケジュールを組んで仕事を行えるためスムーズに対応できるでしょう。
パートやアルバイト、副業も、収入を調整しやすい仕事です。
ただし、会社員が年収を調整するためには、配偶者控除の基準に合わせた給与の仕事に転職する必要があります。
年収150万円の壁
年収150万円の壁は、配偶者特別控除の上限38万円を受けられるかどうかの基準です。
配偶者特別控除の上限38万円を受けるためには、配偶者の所得が48万円以上95万円以下でなくてはなりません。
95万円に給与所得控除55万円を足すと150万円となるため年収の壁と呼ばれています。
年収201万円の壁
年収201万円の壁は、配偶者特別控除を受けられなくなる可能性のある基準です。
配偶者特別控除の条件は配偶者の年間所得金額が48万円以上133万円以下であることです。
しかし、配偶者に年収201万円の収入があった場合、所得額は1,325,600円になると考えられます。
こうしたことから、年収が201万円を超過すると配偶者特別控除の条件である所得133万円を超えてしまう可能性が高まるのです。
関連記事:【扶養内でフリーランスとして働く】知っておきたい基礎知識を徹底解説
配偶者控除・配偶者特別控除を申告して適用を受ける方法
配偶者控除や配偶者特別控除の適用を受けるためには、年末調整か確定申告による手続きが必要です。どのような方法であるか、具体的に説明します。
年末調整による方法
配偶者控除や配偶者特別控除は、会社員の場合、年末調整のタイミングで必要書類を提出すれば申請が完了します。
使用する書類は「給与所得者の基礎控除申告書 兼 給与所得者の配偶者控除等申告書 兼所得金額調整控除申告書」です。
項目ごとに分かれているため、必要事項は給与所得者の配偶者控除等申告書と給与所得者の配偶者控除等申告書に記入しましょう。
確定申告による方法
個人事業主の場合は、確定申告の際に配偶者控除や配偶者特別控除の申請を行います。
青色申告・白色申告のどちらのどちらであっても、配偶者控除や配偶者特別控除においては同じ書き方です。
まず、確定申告書第一表の「所得から差し引かれる金額」欄の配偶者(特別)控除に控除額を記入します。
配偶者控除の場合は区分1を空欄のままに、配偶者特別控除であれば区分1には1と記入しましょう。
次に「その他」欄の配偶者の合計所得金額を書き入れます。
確定申告書第二表の配偶者や親族に関する事項に、氏名・個人番号(マイナンバー)・生年月日などの必要事項を記入して提出しましょう。
関連記事:個人事業主に適用される所得控除はいくつある?控除の種類や注意点を解説
配偶者控除・配偶者特別控除の適用範囲
配偶者控除・配偶者特別控除はどのような範囲まで適用が認められているのでしょう。以下よりさまざまなケースから適用範囲について紹介します。
配偶者が産休中・育休中でも適用される
配偶者が産休や育休で仕事を休んでいても、条件さえ満たしていれば配偶者控除も配偶者特別控除も適用されます。
申告する際、配偶者が仕事をしているかどうかについては問われません。その年の途中から産休や育休に入った場合でも、配偶者が条件を満たしていれば控除の対象です。
納税者・配偶者が亡くなっても適用される
配偶者控除と配偶者特別控除は税を納める人、もしくは配偶者が亡くなっても条件に該当していれば適用を受けられます。
税を納める人が亡くなった場合の配偶者控除や配偶者特別控除は、配偶者の所得金額に応じて算出されます。控除はその年の1月1日から12月31日までの所得金額が対象です。
配偶者が亡くなったときは、その年の死亡日までの配偶者の所得により控除額が決まります。
老齢年金も所得として組み込める
老齢年金を始め、公的年金から公的年金等控除額を差し引いたあとの金額は、配偶者控除や配偶者特別控除を受ける配偶者の所得へと組み込めます。その場合の区分は雑所得です。
公的年金等控除額の適用は年金の金額によります。
60歳未満の場合は、公的年金の金額が60万円超130万円未満で60万円の控除です。65歳以上の場合、公的年金の金額が110万円超330万円未満で110万円が控除されます。
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配偶者控除・配偶者特別控除は、配偶者を持つ税を納める人にとっては税負担の軽減につながる制度であるため、しっかりと活用したいところです。
しかし、両者は条件により控除額が変わることもあり、適用されるかどうか分かりにくい場合もあります。
適切に配偶者控除・配偶者特別控除を利用するためにも、活用方法を税理士に相談してみてはいかがでしょうか。
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