超過累進税率は、所得税や相続税、贈与税に適用される課税方法です。公平な税負担を目的とし、課税対象額が増えるほど税率も高くなるため、高所得者や高額な相続財産、贈与財産により高い税率が適用される制度です。累進課税制度を正しく理解すれば、控除を活用した上で、課税額を適切に計算できるでしょう。本記事では超過累進課税の概要や所得税、相続税、贈与税の計算方法を具体例とともに解説します。
目次
超過累進税率とは?
超過累進税率とは、課税対象となる所得や財産が多くなるほど、段階的に高い税率が適用される税制度です。所得税や相続税、贈与税に適用されます。一定額までは低い税率が適用されますが、その額を超過すると税率が高くなる仕組みです。超過累進税率の仕組みを詳しく見ていきましょう。
累進課税が採用されている税金の種類
累進課税制度は、主に以下の3種類の税金に適用されます。
- 所得税
- 相続税
- 贈与税
所得税は給与や事業所得など、個人の所得を基準に課せられる税金で、所得が高いほど税率が段階的に引き上げられます。高所得者により大きな負担を求め、低所得者は軽い負担となるのが特徴です。
相続税は亡くなった方が遺した財産を受け継ぐ際に課される税金で、高額な財産を相続するほど高い税率が適用されます。相続税を通じて富の集中を抑え、財産の再分配を促進する仕組みです。
贈与税は生前に他者から財産を贈与された際に発生する税金で、贈与額が多いほど高い税率が適用されます。
関連記事:相続税と贈与税の違いとは?控除や節税のポイントも解説
超過累進税率が適用される理由
超過累進課税を採用する背景には、納税者の所得や資産に応じた税負担の調整による、経済格差の緩和実現があります。所得や財産が多い人と少ない人との間で税負担が変わらなければ不平等感が生じ、低所得者の生活が苦しくなる可能性が高いでしょう。
そこで、所得や財産の多い高所得者に高い税率を適用し、徴収した税金を社会保障や公共サービスへ充当すれば、社会全体の安定や持続可能な発展が期待できます。
所得税の計算方法を詳しく解説
所得税には超過累進税率が適用され、課税所得に応じた税率が段階的に設定されています。所得が増加するにつれて負担も増える、累進課税制度をもとにした所得税の計算方法を確認しましょう。
所得税の累進課税税率
所得税の税率は累進課税制度に基づき、所得の増加に応じて段階的に税率が高くなる仕組みが採用されています。所得金額に応じて適用される税率は、以下の速算表を参考にしてください。
課税される所得金額 | 税率 | 控除額 |
1,000円〜194万9,000円 | 5% | 0円 |
195万円〜329万9,000円 | 10% | 9万7,500円 |
330万円〜694万9,000円 | 20% | 42万7,500円 |
695万円〜899万9,000円 | 23% | 63万6,000円 |
900万円〜1,799万9,000円 | 33% | 153万6,000円 |
1,800万円〜3,999万9,000円 | 40% | 279万6,000円 |
4,000万円以上 | 45% | 479万6,000円 |
課税される所得金額が上がると、上記の表の通りに段階的に税率が上がります。累進課税制度により、公平な税収確保を目指しています。
所得税を計算する方法・流れ
所得税の計算式は以下の通りです。
所得税額=課税所得金額×税率-控除額
また、所得税を計算する流れは以下の通りです。
- 年間の所得を算出する(給与所得、事業所得など)
- 所得控除額を差し引く(基礎控除、扶養控除、医療費控除など)
- 2の金額に所得税の税率をかける
- 3の金額から税額控除額を差し引く(配当控除、寄附金控除、住宅借入金等特別控除など)
- 4に復興特別所得税として2.1%を加算する
例えば、課税所得が700万円の給与所得者で税額控除の寄附金控除が15万円、住宅借入金等特別控除が10万円の場合の所得税額は以下のように計算します。
前項で紹介した速算表の活用による、所得税額は以下の通りです。
所得税額=700万円×23%-63万6,000円=97万4,000円
ここから、税額控除を差し引きます。
97万4,000円-15万円(寄附金控除)-10万円(住宅借入金等特別控除)=72万4,000円
基準所得税額の72万4,000円をもとに、復興特別所得税を算出します。
72万4,000円×2.1%=15,204円
最終的な所得税額は復興特別所得税を加算した、以下の金額です。
72万4,000円+15,204円=73万9,204円
速算表を活用すれば、各税率区分における控除額を一目で把握でき、ミスのない所得税額の計算が可能です。
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相続税の計算方法を詳しく解説
相続税の計算においては、受け取った遺産の総額に基づいて税額が決まります。相続税は、被相続人から相続人に贈られる財産に課せられ、各相続人の受取金額に応じて税額が異なります。
相続税には累進課税が適用され、遺産が多い場合には高い税率が適用されますが、相続財産が少なければ、控除により税額が0になるケースも珍しくありません。相続税の税率や計算方法を詳しく確認しましょう。
相続税の累進課税税率
相続税では、相続した財産の総額に応じて異なる税率が適用されます。総額が増加するにつれてより高い税率が適用される累進課税形式で、10%から55%までの範囲で課税されます。
相続税の速算表は、以下の通りです。
法定相続分に応ずる取得金額 | 税率 | 控除額 |
1,000万円以下 | 10% | ー |
1,000万円超から3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
3,000万円超から5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
5,000万円超から1億円以下 | 30% | 700万円 |
1億円超から2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
2億円超から3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
3億円超から6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
6億円超 | 55% | 7,200万円 |
続いて、具体的な計算方法を確認しましょう。
相続税を計算する方法・流れ
相続税の計算の流れは、以下の通りです。
- 遺産総額を算出する
- 基礎控除額を差し引いて、課税対象となる遺産総額を算出する
- 法定相続分に応じて取得したと仮定し、各人の相続税額を計算する
- 各人の相続税額を合算し、各人の課税価格に応じてで按分する
- 相続人に応じた税額控除を差し引いて、納税額を算出する
相続税の計算方法は、まず遺産総額の算出から始まり、現金や不動産、株式など、あらゆる財産を細かく査定して計算します。次に、遺産総額から基礎控除を差し引き、課税対象の遺産総額を把握します。
例として、被相続人の財産8,000万円を配偶者が6,000万円、子ども2人がそれぞれ1,000万円ずつ相続したケースを考えてみましょう。基礎控除額は以下の通りです。
基礎控除額=3,000万円+600万円×3人=4,800万円
その結果、課税対象となる遺産総額は以下の通りです。
課税対象となる遺産総額=8,000万円-4,800万円=3,200万円
3,200万円を法定相続で分け、各人の相続税額を算出します。
- 配偶者:相続税額=3,200万円×1/2×15%-50万円=190万円
- 子ども①:相続税額=3,200万円×1/4×10%=80万円
- 子ども②:相続税額=3,200万円×1/4×10%=80万円
- 相続税額の合計=190万円+80万円+80万円=350万円
続いて、実際の相続割合で相続税額を按分します。
- 配偶者:350万円×75%=262万5,000円
- 子ども①=350万円×12.5%=43万7,500円
- 子ども②=350万円×12.5%=43万7,500円
ただし、配偶者については相続税の配偶者控除を適用できるため、今回のケースでは相続税は課税されません。
相続税額の計算は、相続人の数や財産の種類、生前贈与の有無などにより、複雑になることもあります。初めて申告を行う際や計算が複雑になりそうであれば、専門家のアドバイスを受けるのがおすすめです。
税金の計算や申告にお困りの際は、ぜひ「小谷野税理士法人」までお気軽にお問い合わせください。
贈与税の計算方法を詳しく解説
贈与税は、個人が他の個人へ財産を譲渡する際に課される税金です。贈与を受けた人が受け取った資産の価値を基に計算し、年間110万円の基礎控除を超える部分に対して税率が適用されます。
基礎控除を超えた場合、贈与額に応じた累進課税制度により、贈与額が高額になるほど税負担も増加します。贈与税の税率や計算方法を確認しましょう。
贈与税の累進課税税率
贈与税には、贈与された財産の金額に応じて段階的に税率が上がる累進課税制度が適用されます。贈与税は贈与者と受贈者の関係によって、一般贈与税率と特例贈与税率の2種類に分けられます。一般贈与税率と特例贈与税率の違いを確認しましょう。
- 一般贈与税率:直系尊属以外からの贈与や受贈者が18歳未満の場合に適用される
- 特例贈与税率:直系尊属から18歳以上の子や孫への贈与に適用される
一般贈与税率の速算表は以下の通りです。
基礎控除後の課税価格 | 税率 | 控除額 |
200万円以下 | 10% | ー |
300万円以下 | 15% | 10万円 |
400万円以下 | 20% | 25万円 |
600万円以下 | 30% | 65万円 |
1,000万円以下 | 40% | 125万円 |
1,500万円以下 | 45% | 175万円 |
3,000万円以下 | 50% | 250万円 |
3,000万円超 | 55% | 400万円 |
特例贈与税率の速算表は以下の通りです。
基礎控除後の課税価格 | 税率 | 控除額 |
200万円以下 | 10% | ー |
400万円以下 | 15% | 10万円 |
600万円以下 | 20% | 30万円 |
1,000万円以下 | 30% | 90万円 |
1,500万円以下 | 40% | 190万円 |
3,000万円以下 | 45% | 265万円 |
4,500万円以下 | 50% | 415万円 |
4,500万円超 | 55% | 640万円 |
参考:No.4408 贈与税の計算と税率(暦年課税)|国税庁
贈与税を計算する方法・流れ
贈与税は1年間に贈与を受けた財産の総額に基づいて計算します。贈与税の計算の流れは以下の通りです。
- 贈与財産の合計額を算出する
- 贈与財産から基礎控除の110万円を差し引く
- 課税対象額に一般贈与税率もしくは特例贈与税率をかけて控除額を差し引く
例えば、父親から25歳の息子へ500万円の贈与があった場合の贈与税は、以下の通りです。
- 課税対象額=500万円-110万円=390万円
- 贈与税額=390万円×15%-10万円=48万5,000円
上記では特例贈与税率が適用されますが、仮に祖父母から15歳の孫へ500万円の贈与があった場合には、受贈者が18歳未満であるため一般贈与税率が適用されます。贈与税額は以下の通りに計算します。
- 課税対象額=500万円-110万円=390万円
- 贈与税額=390万円×20%-25万円=53万円
贈与を受ける際は贈与財産の額だけでなく、贈与者と受贈者の関係にも考慮する点を覚えておきましょう。
関連記事:贈与税が非課税になるケースはある?税率と注意点も解説
よくある質問
最後によくある質問を回答とともに紹介します。税制の仕組みを正しく理解し、適切な方法で税負担を抑えながら、正確な申告に努めましょう。
累進課税制度が適用される理由とは?
累進課税制度を適用する理由は、所得や資産に応じた税負担の調整により、経済的な公平性を確保するためです。
高所得者ほど高い税率をかければ、社会全体の経済格差の緩和につながります。また、高所得者から徴収した税金を社会保障などへ使用することにより、富の再分配を図る目的もあります。
超過累進税率が個人に与える影響とは?
超過累進税率が個人に与える影響としては、税負担の増大が挙げられます。所得が一定額を超えるごとに所得税率が上昇するため、特に高所得者にとっては年収の割に手取りが少ないと感じる場合もあるかもしれません。
その場合は、収入に応じた節税対策を検討すると良いでしょう。
関連記事:年収1,000万円の手取り額・税金はいくら?1,000万円プレイヤーの税金対策を解説!
所得税の計算をする際の注意点とは?
所得税の計算をする際の注意点は2つあります。まず、課税所得の算出前に、正確な控除額を把握しておきましょう。所得控除や税額控除に漏れがあると、本来支払うべき税額よりも負担が増える可能性があります。
所得税には超過累進課税が適用され、所得が増えるほど税率が高くなる仕組みです。そのため、自分の収入がどの所得に該当するのかの把握が重要です。
次に、税率や控除額に関する最新情報を定期的に確認しましょう。速算表の活用により課税額の計算ミスは減らせますが、所得税にまつわる法律や税制は変更されることがあるため、最新情報を確認した上での計算が大切です。
上記に注意すれば、余計な負担を避け、適正な税額計算と納税ができるでしょう。
まとめ
超過累進税率が適用されるのは、所得税と相続税、贈与税です。累進課税制度は、納税者の負担を公平にし、経済格差を是正する上で重要な役割を果たしています。所得や財産が多い人に対してより高い税率を適用することで、富の公平な分配や経済の安定につながります。
ただし、超過累進税率が適用される税金計算は複雑で、個人で行うのは困難な場合も少なくありません。必要に応じて専門家へ相談し、アドバイスを受けながら適切な税務申告を行いましょう。