役員報酬について、経費計上する方法や、経費として認められる費用などがわからない方もいるでしょう。結論、役員報酬を経費計上するにはルールを守るのがポイントです。役員が立て替え払いした費用に関しても同様です。今回は、具体的な方法や判断基準、注意点などを解説します。最後まで読めば、役員の給与と経費の関係性を理解できるでしょう。
目次
ルールを守れば役員報酬は経費にできる
役員の給与を経費にするには、法律などのルールを守る必要があります。会計上と税法上において、以下の通り経費の扱い方が異なっているためです。
- 会計上:事業の関連支出は経費として認められる
- 税法上:事業に関連する支出でも、課税の公平性を保つために経費とみなされないケースがある
不当操作によって、法人税の金額を抑えるケースも考えられるため、経費計上のルールが設定されています。概要は以下の通りです。
役員報酬 |
|
なお、以下の通り役員が建て替え払いをした費用に関しても、経費として計上できるケースがあります。
- 交際費
- 海外渡航費
- 健康診断費
役員個人による支出ではなく、事業に関連するものであるのがポイントです。
関連記事:個人事業主はなんでも経費にできる?注意すべき5つのポイントも解説
役員報酬を経費にするための支払方法3つ
以下のいずれかの方法を選択するのが、経費計上でのポイントです。
- 定期同額給与
- 事前確定届出給与
- 業績連動給与
ここから、具体的に解説します。
定期同額給与
役員の給与を計上する具体的な方法として、定期同額給与があげられます。定期同額給与とは、1ヵ月以下の定期的なペースで支払われる給与を示すのが特徴です。
「一般社員への給与と同じでは」と考える方もしれませんが、あらかじめ株主総会などで決定しておく必要がある点で異なります。
役員の社宅を負担するなど、毎月一定の金額を会社が支払っている場合は、定期同額給与として扱われます。
事業年度開始より3ヵ月以内に限り、定期同額給与では金額を変更でき、原則として年に1度のみです。期の途中で変更する場合、以下の通り条件を満たすのがポイントです。
改定方法 | 概要 |
通常改定 | 事業年度開始から3ヵ月経過までに改定する場合 |
臨時改定 | 役員の地位や職務の変更などによる場合 |
業績悪化改定 | 経営状態の悪化や取引停止など、特別な事情がある場合 |
後述する事前確定届出給与と定期同額給与は、同時に適用できます。
関連記事:社長給与の決め方とは?中小企業の役員報酬の相場と節税のコツ
事前確定届出給与
事前確定届出給与とは、税務署への届出により、金額・時期が決定された給与を示します。
前述の定期同額給与とは異なり、以下の通り税務署に対して事前に「事前確定届出給与に関する届出書」の提出が必要です。
役員報酬を経費にする支払方法 | 概要 |
事前確定届出給与 |
株主総会などの決議から1ヵ月を経過する日までorその会計期間開始の日から4ヵ月以内 |
届出によって、報酬を支払うと決めた時期や金額を一度でも守れないと、該当年度の役員の事前確定届出給与を経費に計上できません。会社の収益に関係なく、特定の期間に同じ報酬を支払続ける必要がある点は、押さえておくとよいでしょう。
業績連動給与
業績連動給与を選ぶのが、役員の給与を経費として計上するための一つの方法です。一般的には上場企業のみ適用できる方法で、会社の業績に応じて決めた役員報酬を対象とします。
前述の方法とは異なり、報酬額を決定しなくてもよく、インセンティブによって優秀な人材を獲得しやすいのがメリットです。業績連動給与を適用するには、以下の通り算定指標を定め、有価証券報告書などで算定方法の公開が求められます。
- 利益の状況を示す指標
- 株式の市場価格の状況を示す指標
- 売上高の状況を示す指標※上記の指標を用いるときのみ利用可
業績連動給与を適用すると、国際的なビジネスを展開するうえで、高い競争力を獲得できる可能性があります。
役員報酬を経費にするための判断基準2つ
金額が大きすぎると税務署からの許可が下りないケースもあり、注意が必要です。役員の給与を経費にするうえでは、以下の2つの基準が用いられます。
- 実質基準
- 形式基準
それぞれ詳しく見ていきましょう。
実質基準
実質基準とは、役員の給与として相応しい金額であるのかを判断するために、以下の通り設けられている基準を示します。
- 職務の内容
- 会社の利益
- 使用人に対する給与の支払状況
- 同業で事業規模が類似する会社の役員報酬の状況
上記の「同業で事業規模が類似する会社」には、倍半基準が採用されるでしょう。倍半基準とは、以下の指標の0.5倍以上かつ2倍以下である会社と比較するものを示します。
- 売上高
- 利益額
- 利益率
- 総資産額など
国税庁が発表する「民間給与実態統計調査結果」を参照すると一つの目安にできます。
一方で、調べてみたもののよくわからないというケースもあるでしょう。同じ業種や同程度の規模の会社と比較し、金額が不適当であると判断されると、経費として認められない可能性があります。
実質基準の相談に関しては、税理士を頼るのが賢明でしょう。
形式基準
形式基準とは、定款の定めか株主総会での決定内容にもとづき、役員の給与を判断するものを示します。あらかじめ決定している金額よりも多くの役員報酬を支払う場合、経費として認められなくなるのが特徴です。
例えば、役員報酬が月額200万円のときに300万円支払うと、100万円分が経費として認められません。
定款や株主総会で役員報酬の限度額を決定していない会社の場合、形式基準の対象外で、実質基準のみが適用されます。
役員報酬を経費にするときの注意点4つ
役員報酬を経費にするときは、以下の点に注意が必要です。
- 適切な金額に設定する
- 時期や金額など届け出た通りに報酬を支払う
- 会社設立したあと3ヵ月以内に設定する
- 株主総会議事録の作成と保管を行う
それぞれに関して、詳しく解説します。
適切な金額に設定する
役員の給与の金額設定には気をつける必要があります。金額が高すぎる場合、税務調査において不適当だと判断される可能性があるためです。
役員報酬の金額に関しては、毎年国税庁が発表する「民間給与実態統計調査結果」を参考にするとよいでしょう。職制上の地位のみが与えられている「使用人」の方との報酬の差に関して、2.5倍から3倍程度の場合は許容される傾向にあります。
時期や金額など届け出た通りに報酬を支払う
定期同額給与や事前確定届出給与で定めた支給日や、金額を守ることもポイントの一つです。設定した通りに報酬を支払わない場合、経費として認められなくなるためです。報酬の金額に関して、多く支払うときのみではなく、少なく支払うときも同様に扱われます。
やむを得ない場合、報酬金額の変更が認められているものの、原則として変更できないと知っておくとよいでしょう。役員報酬を経費として計上できなくなると、その分納税金額が多くなる点に注意が必要です。
会社設立したあと3ヵ月以内に設定する
法人として会社を設立した場合、設立から3ヵ月以内に役員の給与額を決定する必要があります。設立から3ヵ月を過ぎたあとになると、差額分が経費として認められなくなる点は注意が必要です。金額を決定したあとは、原則として1年間は変更できません。
一方で、以下の通り会社が置かれている状況によっては報酬金額を変更できるケースもあります。
役員報酬を増額できるケース | 役員報酬を減額できるケース |
など |
|
金額を変更すると役員本人の納税額にも影響を及ぼすことから、慎重に判断するのがポイントです。
株主総会議事録の作成と保管を行う
注意点として、株主総会議事録の作成と管理が必要になる点を押さえておくとよいでしょう。株主総会議事録とは、株主総会で決まった内容や、自社株の情報などが書かれてある書類を示します。株主総会議事録の書き方は決まっており、正確な記入が求められます。
税務調査で株主総会議事録を提出するケースがあり、大切に保管しておくのがポイントです。
会社法によって、定款または株主総会の決議によって、役員報酬を決定すると定められています。株主総会の決議によって決定する場合、定款に明記する必要があります。
参考:会社法施行規則(平成十八年法務省令第十二号)|E-GOV 法令検索
役員が立て替えた費用は経費として精算できる?
役員が立て替えて費用を支払った場合、以下の項目は経費として精算できる可能性があります。
- 交際費
- 海外渡航費
- 健康診断費
それぞれ詳しく見ていきましょう。
交際費
取引先に対し、親交を深める目的で必要な費用は「交際費」といわれ、経費として認められています。ここから、役員が立て替え払いしたとき、交際費として計上できる費用に関して解説します。
同業者団体の会費や入会金
同業者団体に対して、役員が入会金や会費などを支払った場合、経費として計上できます。会員同士の懇親や政治献金などを目的とする費用の場合、支払うときは前払費用として扱われるのが特徴です。
会員のために行われる研修や業務運営のための会費に関しては、支払うときに経費として計上できます。入会金は資産として計上する一方で、会費は交際費や寄附金などとして計上するのがポイントです。
社交団体の会費や入会金
以下の通り、役員が社交団体の会費や入会金を立て替え払いした場合、交際費として計上できます。
- ロータリークラブ
- ライオンズクラブなど
法人向けの制度がないのを理由に個人名義で入会する場合も同様に、経費として計上できるでしょう。一般的に、入会金を資産、年会費を交際費として計上するのが特徴です。
一方で、法人会員ではなく個人会員として入会する場合、入会金や会費などは給与として扱われるのに注意が必要です。
ゴルフクラブの入会金や年会費
ゴルフクラブの入会金や年会費を役員が立て替え払いした場合、以下の通り状況によって扱い方が異なります。
- 法人会員として支払:経費扱い
- 個人会員として支払:給与扱い
法人枠がないのから個人会員として入会した場合、入会金などは経費として処理できます。プレー代金も同様に、業務に関連するものと認められる場合は、経費として扱えるのが特徴です。
参考:No.5381 ゴルフクラブの入会金と会費の取扱い|国税庁
海外渡航費
海外渡航に関する費用を役員が立て替え払いしたとき、業務上必要だと認められるものに限り、経費として計上できます。具体的には、以下の旅行に該当しない場合に経費として計上できるのが特徴です。
- 観光渡航の許可を得た旅行
- 旅行をあっせんする業者などが実施する団体旅行への応募による旅行
- 同業者団体その他これに準ずる団体が主催する団体旅行で、主として観光目的とする旅行
一方で、上記に該当する場合でも、業務上必要だと認められる部分に限り、経費として扱えます。旅行期間を按分し、経費にできる金額を算出するとよいでしょう。
参考:海外渡航費|国税庁
健康診断費
健康診断費を役員が立て替え払いした場合、以下の条件を満たすと経費として扱えます。
- 全スタッフが対象であるもの
- 検診先の医療機関に対し、会社が直接費用を支払うもの
- 健康診断に必要な費用が、健康管理をするうえで常識内の金額であるもの
条件を満たせない場合、給与として計上するのがポイントです。人間ドックに関しても同様で、以下の条件を満たすと経費として計上できます。
- 全スタッフを対象とする
- 会社が費用を負担する
人間ドックは費用が高額なケースが多いため、一定年齢より上のスタッフを対象とする条件下でも、経費として認められます。
役員報酬・立て替え費用についての相談は税理士へ
ここまで、役員報酬を経費として計上する方法や判断基準、注意点、役員が立て替え払いした費用の扱い方などを解説しました。
会計上と税法上では経費の扱い方が異なっており、役員報酬を経費にするにはルールを守るのがポイントです。役員が立て替え払いした費用に関しても同様で、交際費や海外渡航日、健康診断日に関しては経費として認められる可能性があります。
納税負担を増大させるリスクがあり、役員報酬の金額や支払時期の設定に関しては、特に慎重に判断する必要があります。リスクを未然に防ぐには、税理士を頼るのが賢明な判断です。