多様な働き方のひとつとして注目されているフリーランス。フリーランスの権利を保証し、取引の健全化を図る目的で2024年11月にフリーランス新法が施行されました。この記事ではフリーランス新法の概要、適用対象や下請法との違いなどを解説します。新しく施行されたフリーランス新法について理解を深め、しっかりとルールを守りましょう。
目次
フリーランス新法とは
フリーランス新法はフリーランス保護新法とも呼ばれ「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」の通称です。フリーランス新法では、フリーランスを「特定受託事業者」と呼びます。フリーランスと発注者間の取引の適正化、就業環境の整備を目的とした法律です。
これまでフリーランスには、会社員に適用される「労働基準法」のような法律はありませんでした。そのため、弱い立場にあるフリーランスは不当な取り扱いを受けたり、企業との間でトラブルになったりするケースも珍しくありません。
こうした背景を改善すべく、政府は新しくフリーランスを保護するための法律を制定しました。法律の施行により、今後個人で働く人が安心して業務に取り組める環境の改善が期待されています。
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フリーランス新法で義務化されている内容
フリーランス新法で規定されている内容は、大きく分けて7項目です。この法律によって、発注事業者が個人事業主などに業務を委託する際に以下の義務を守る必要があります。
- 契約条件の明示
- 報酬は60日以内に支払う義務
- 募集情報の適切な表示
- 妊娠、出産若しくは育児や介護に対する配慮
- ハラスメント防止体制の整備
- 中途解約時の事前予告と理由の明示
- 禁止事項の遵守
それぞれ詳しく解説していきます。
①契約条件の明示
企業や発注事業者が個人事業主に業務委託を行う場合には、必ず依頼した業務内容、報酬額、支払期日などの契約内容を、書面又はメールなどの記録に残る方法によって明示する必要があります。
今まで口頭で発注していた案件も、今後引き続きフリーランスに発注する際は契約書や発注書などを交わさなければなりません。取引条件の明示により取引の透明性が高まり、トラブルの予防につながると期待されています。
②報酬は60日以内に支払う義務
事業者は、成果物を受け取った日から60日以内のできるだけ早い日に報酬の支払い期日を設定し、その期日内に報酬を支払わなければなりません。これによって、支払いのトラブルを改善し、フリーランスの安定した収入が確保されると期待されています。
万が一報酬が支払われないなどのトラブルに発展した場合は、フリーランス側は法律違反として法的手段を利用可能です。
③募集情報の正確な表示
広告などを使ってフリーランスを募集する際には、虚偽の表示や誤解を与える表示をしてはなりません。また、募集内容は正確かつ常に最新のものに保つ必要があります。募集内容と実際の業務が違うなどのトラブルが多発しているため、フリーランス新法で規制対象となりました。
募集を多く集めるために実際よりも報酬額を高く表示する、募集を終了した求人をいつまでも掲載し続けるなどは違反にあたります。
④妊娠、出産若しくは育児や介護に対する配慮
6ヵ月以上の期間業務委託を行う個人事業主などから申出があった場合、事業者は育児や介護などと両立できるための配慮を個別にしなければなりません。例えば妊婦健診の受診や体調不良で通院できるように、打ち合わせ時間の調整やリモートでの業務の許可、就業時間の短縮などが求められます。
申し出の内容等にはプライバシーに関する情報も含まれるので、情報の共有範囲は必要最低限にするなどプライバシー保護の観点にも気を付ける必要があります。
⑤ハラスメント防止体制の整備
セクハラ・マタハラ・パワハラなどのハラスメントの禁止はもちろん、ハラスメントを受けることがないよう、相談対応のための体制整備などの必要な対策を講じる必要があります。また、ハラスメントに関する相談を行ったことなどを理由として、契約解除などの不利益な扱いをしてはなりません。
体制整備などの必要な措置としては、従業員に対してハラスメント防止のための研修を行う、ハラスメントに関する相談の担当者や窓口を設けるなどが挙げられます。
⑥中途解約時の事前予告と理由の明示
業務委託に関する契約を解除する場合や更新しない場合、事業者は解除日または契約満了日から30日前までに、書面又はメールなどの記録に残る方法によって事前に予告する必要があります。
契約解除を伝えた日から契約満了日までの間に、フリーランスから解除の理由を聞かれた場合は、その理由を明示しなければなりません。
⑦禁止事項の遵守
6ヵ月以上の継続的な期間業務委託を行うフリーランスに対して、以下の7つの行為が禁止されています。
- 注文した物品または成果物の受領を拒む(受領拒否の禁止)
- あらかじめ定めた報酬を減額する(報酬の減額の禁止)
- 物品を受領後に返品する(返品の禁止)
- 市価など通常よりも著しく低い報酬の額を不当に定める(買いたたきの禁止)
- 正当な理由がある場合を除き、発注者が指定するものを強制して購入、またはサービスを強制して利用させる(購入・利用強制の禁止)
- 金銭、労務の提供等をさせる(不当な経済上の利益の提供要請の禁止)
- 費用を負担せずに注文内容を変更し、または受領後にやり直しをさせる(不当な給付内容の変更・やり直し)
これらの禁止事項によって、個人事業主などが不当な扱いを受けるリスクが軽減されます。事業者に違法性の意識がなくても、今後行えば法律違反になるので注意が必要です。
フリーランス新法の適用対象
フリーランス新法の対象となる受注者は、事業者から業務委託されているフリーランスや個人事業主です。ただし全員が対象となるわけではなく、以下の条件を満たす人が該当します。
- 従業員を雇っていない個人事業主
- 法人で代表者以外に他の役員がいない、かつ従業員を雇っていない
従業員とは、1週間の労働時間が20時間以上かつ31日以上の雇用が見込まれる労働者のことです。短期間の一時的な雇用であれば従業員には該当しません。
発注者が個人消費者で、個人的に仕事を依頼されたBtoC取引の場合や、フリーランス同士の取引の場合はフリーランス新法は適用されません。あくまでも事業者と個人事業主との取引に関する法律であることにご注意ください。
フリーランス新法と下請法との違い
フリーランス新法ができるまでは、多くのフリーランスは「下請法」によって守られていました。フリーランス新法と下請法との大きな違いは、規制対象・保護対象の範囲です。
規制対象 | 保護対象 | |
フリーランス新法 | すべての事業者 | 業務委託を受けるフリーランス |
下請法 | 資本金1,000万円超の事業者 | 資本金1,000万円以下の下請け業者 |
下請法は発注元の事業者が下請業者に対して不適切な取引を規制するものであり、資本金が1,000万円以下の企業は規制の対象から除外されていました。
フリーランス新法では資本金などの条件はなく、全ての事業者が規制対象です。保護対象も、業務委託を受けた特定受託事業者であれば適用されます。下請法で守り切れなかったフリーランスを保護するために、新たにフリーランス新法が制定されたのです。
よくある質問
ここでは、フリーランス新法についてよくある質問を紹介します。
事業者とトラブルが起きた場合どうしたらいい?
発注事業主と個人事業主の間でトラブルが起きた場合、フリーランス新法に関する相談窓口として「フリーランス・トラブル110番」が設置されています。契約や仕事でトラブルを抱えたフリーランスが、弁護士に無料で相談できる窓口です。
匿名でも利用できるので、悩んだら気軽に相談しましょう。フリーランス自身が発注側の際に生じたトラブルの相談は対象外です。
法律に違反するとどうなる?
発注事業者がフリーランス新法に違反した場合、フリーランスは所轄の官庁に申し出ることができます。担当省庁は申し出の内容に応じて報告徴収や立ち入り調査などを行い、申し出の内容が事実である場合は指導・助言・勧告が行われます。それでも勧告に従わない場合は50万円以下の罰金や、事業所名が公表される場合もあるためご注意ください。
申請にはオンラインや郵送で対応しています。
参考:フリーランス・事業者間取引適正化等法の違反被疑事実についての申出窓口 | 公正取引委員会
新しい法律に対応できる体制を整えよう
フリーランス新法とは、下請法では守れなかったフリーランスや個人事業主を守るための法律です。これによって今後はあいまいな契約などによるトラブルが減少し、フリーランスの労働環境の改善が期待されています。
フリーランス新法のルールに違反した場合には、罰則などが科される可能性もあります。法律によってどのようなルールに変わるのかを確認し、事業者側も個人事業主側もしっかり確認・注意しておきましょう。
新しく施行される法律のため、今後制度の改正が起こる可能性もあり、どのように変化するかは予測できません。常に新しい情報に目を配りつつ、実務に対応する必要があります。より安定した経営基盤を築きたい方は、税理士などの専門家に相談するのもおすすめです。
税理士のサポートが必要なフリーランスの方や、安定した経営を目指したい方は私たち「小谷野税理士法人」が全力でサポートしますので、ぜひお気軽にご相談ください。