自己資本比率は総資本のうち自己資本が占める割合です。企業の財務状態の安全性や健全性を示す指標であり、投資判断や融資審査などさまざまな場面で利用されます。「〇%以上あれば安全」と一概にはいえませんが、大まかな目安や業種の平均値を超えるのが理想です。今回は自己資本比率の計算方法や業種別の目安、自己資本比率を上げる方法などを解説します。
目次
自己資本比率とは
はじめに、自己資本比率の概要を解説します。
自己資本比率の定義と目的
自己資本比率とは総資本のうち自己資本が占める割合です。自己資本とは返済の必要がない資金のことで、貸借対照表に表示される項目のうち、以下が自己資本に該当します。
- 資本金
- 資本剰余金
- 利益剰余金
なお自己資本に対して、外部から調達した返済義務のある資金を他人資本(負債)といいます。他人資本の例は以下の通りです。
- 買掛金
- 借入金
- 支払手形
- 社債
自己資本と他人資本の合計、すなわち企業が保有する資産の合計を総資本といいます。
自己資本比率と似た用語として「自己資本利益率」が挙げられます。自己資本利益率については以下の記事をご覧ください。
関連記事:自己資本利益率(ROE)とは?概要や計算方法、目安について解説
自己資本比率でわかること
自己資本比率は企業の財務状態の安全性や健全性を図る指標として用いられます。
前述のように、自己資本比率は総資本のうち自己資本が占める割合です。自己資本比率が高ければ、以下のような判断ができます。
- 負債の返済に左右されず、財務状態の安定を保ちやすい
- 社会情勢の変化により一時的に収益性の悪化が起きても、状況が改善するまで自己資本で持ちこたえられる可能性がある
反対に自己資本比率が低い場合、他人資本の返済による影響を受けやすいです。したがって、経営の安定性や財務健全性は低いといえます。
自己資本比率の計算方法
自己資本比率の計算方法は以下の通りです。
自己資本比率(%)=自己資本 ÷ 総資本 × 100 |
例えば自己資本が600万円、総資本が1,500万円の場合、自己資本比率は600万円÷1,500万円×100=40%になります。
自己資本比率の目安と業種別比較
自己資本比率の平均は業種によって大きく異なります。以下では自己資本比率の目安と、業種別の自己資本比率について詳しく解説します。
自己資本比率の目安とは?
自己資本比率の理想は業種や企業の成長段階によりますが、一般的には30%がひとつの目安です。自己資本比率が30%以上あるのが理想、50%を超えると安全性が高い優良企業といわれています。
業種別にみる自己資本比率
自己資本比率の目安は30%と紹介しましたが、実際の平均値は業種によって大きく異なります。中小企業庁の「令和5年中小企業実態基本調査(令和4年度決算実績)」によると、業種別の自己資本比率の平均は以下の通りです。
業種
自己資本比率
建設業
47.34%
製造業
46.39%
情報通信業
54.87%
運輸業、郵便業
34.71%
卸売業
42.60%
小売業
35.06%
不動産業、物品賃貸業
36.27%
学術研究、専門・技術サービス業
52.29%
宿泊業、飲食サービス業
16.16%
生活関連サービス業、娯楽業
34.79%
サービス業(他に分類されないもの)
47.05%
全業種
41.71%
前述した30%をひとつの目安としつつ、営む業種の平均を目指すのが良いでしょう。
上記表の中から、特に全業種の平均である41.71%と比べて数値の差が大きいのが「情報通信業」「学術研究、専門・技術サービス業」「宿泊業、飲食サービス業」です。その理由について以下より詳しく解説をします。
情報通信業の自己資本比率
情報通信業の自己資本比率の平均は54.87%と、今回紹介した中で最も高い数値です。情報通信業の自己資本比率が高い理由としては以下の2つが考えられます。
- 設備投資の必要性が低いため高額の借入が不要
- 利益率が高い業種のため、自己資本の一種である利益剰余金(繰越利益剰余金)が多くなりやすい
学術研究、専門・技術サービス業の自己資本比率
学術研究、専門・技術サービス業の自己資本比率の平均は52.29%でした。情報通信業と同様に、設備投資の必要性が低く利益率が高い業種のため、自己資本比率が高くなりやすいと考えられます。
宿泊業、飲食サービス業の自己資本比率
宿泊業、飲食サービス業の自己資本比率の平均は16.16%です。全業種の平均である41.71%を大幅に下回っています。
宿泊業、飲食サービス業の自己資本比率が低い理由として以下の3つが考えられます。
- 初期投資が高い(開業時に融資を受けるケースが多い)
- 事業を長く続ける中で設備投資が必要になる場面が起こりやすい(追加融資を受けるケースが多い)
- 仕入れ、家賃、人件費等のランニングコストも高く、利益率が低い
自己資本比率が高い場合のメリット・デメリット
自己資本比率はある程度高いのが理想です。しかし、高ければ高いほど良いとは限りません。以下では自己資本比率が高い場合のメリット・デメリットをそれぞれ解説します。
メリット
自己資本比率が高いメリットとして以下の2つが挙げられます。
- 一時的な収益性の悪化が起きても持ちこたえらえるか可能性が高い
- 財務状態の安全性や健全性が高いと判断され、融資審査に通りやすくなる
経営が安定するだけでなく、金融機関からの好印象を獲得しやすくなる点も大きなメリットです。
デメリット
結論として、高すぎる自己資本比率はかえってマイナスに働く恐れもあります。正確には自己資本比率が高い状態そのものではなく、借入が少ない・借入をしていない状態にデメリットが存在します。
融資はまとまった資金を効率良く調達するのに最適な手段です。融資により高額の資金調達をすることで、店舗数を増やす・新たな事業を始める・新商品を開発する等の行動をとりやすくなります。
融資以外にまとまった資金を調達する方法は限られています。融資を受けなければ資金が足りず前述のような投資ができないため、大きな成長は見込めないといえるでしょう。自己資金が新たな分野に投資されることもなく、自社内に留保されたままになってしまいます。
以上の理由から、自己資本比率が高い場合、経営の安定性を優先して成長や収益最大化の活動をしていないと判断される恐れがあります。
自己資本比率が低い状態のリスク
自己資本比率が低い状態では、他人資本の返済による影響を受けやすいです。
自己資本比率が高ければ他人資本に左右されにくく、一時的に収益性が悪化しても自己資本で耐えられる可能性が高くなります。
反対に、自己資本比率が低く他人資本の割合が大きい場合、返済や利息の影響が強くなりやすいです。収益性の悪化に陥った場合に、収益や自己資本が少ない中でこれまで通りの返済義務を果たすのは大きな負担になってしまいます。結果として債務超過や支払い不能状態になり、事業を続けられなくなる恐れがあります。
なお、自己資本比率が低いと経営の安定性や財務健全性は低いと判断されやすいです。そのため融資を受けにくくなる恐れや、外部関係者からの信用を得にくい恐れもあります。
自己資本比率を高める方法
自己資本比率を高める方法は以下の3つに大別されます。
- 自己資本を増やす
- 他人資本を減らす
- 自己資本比率の分母である総資本を減らす
以下よりそれぞれ詳しく解説します。
自己資本を増やす
自己資本を増やせば自己資本比率の計算式における分子が大きくなるため、自己資本比率が上がります。
自己資本を増やす方法の具体例は以下の通りです。
- 無駄な支出を減らして利益率を上げ、利益剰余金を増やす
- 増資をする
- 節税のための利益圧縮を控える
他人資本を減らす
他人資本を減らせば、総資本のうち自己資本の占める割合が大きくなります。
他人資本を減らす方法として以下の例が挙げられます。
- 借入金の繰り上げ返済をする
- 買掛金の支払期間を短くする
ただし、他人資本を減らす方法は資金の提供元となる相手の承諾が必要なケースが多いです。特に借入金の繰り上げ返済は、契約によって禁止されている可能性もあるためご注意ください。
総資本を減らす
総資本を減らすには、自己資本比率の分母を減らすのが有効です。総資本を減らす具体的な手法としては、主に以下の方法があります。
- 不良債権や不良在庫を処分する
- 遊休資産を処分する
いずれも不要な資産を処分する方法です。なお、これらの対策により利益の見込がない資産がなくなるため、財務諸表の見栄えが良くなる・実態を表す内容になる等のメリットがあります。
自己資本比率のまとめ
自己資本比率は総資本のうち自己資本が占める割合です。経営の安定性や財務状態の健全性を測る指標として用いられます。自己資本比率は「自己資本 ÷ 総資本 × 100」で求められます。
自己資本比率の目安は30%です。ただし、自己資本比率の平均は業種によって異なるため一概にはいえません。30%はあくまで基準の1つとし、業種ごとの平均を超えることを目指すのが良いでしょう。
自己資本比率を高める方法として複数の選択肢が存在しますが、どの方法が適しているかはケースによって異なります。自社に合わない方法を選んでしまうと、かえって財務状態が悪化してしまう恐れがあるためご注意ください。自社に合う方法で自己資本比率の改善を実現するためには、専門家のアドバイスやサポートを受けるのが安心です。